いつもの朝の何気ない会話
彼が食卓につくと、真名が眠たげにリビングにやってきた。今年、高校二年生になる真名は、賢い聞き分けの良い子だった。
「おはよう、お父さん。今日は少し早いのね」
「年を取ると段々早起きになるってのは嘘じゃないかもな」
彼の自嘲気味な物言いに、真名は少しだけ顔をひきつらせて笑った。コーヒーが食卓に置かれた。清子が毎朝淹れてくれるコーヒーは、彼の分はアイスコーヒー、真名はホットコーヒーと決まっていた。二人は黙ってコーヒーを飲んだ。彼の頭が一気に冴える。真名も息を少し吐いて、リラックスした様子だ。
10分ほど経つと、食卓にハムエッグとパン、コンソメスープが運ばれてきた。清子もテーブルに落ち着いて腰を降ろした。三人で「いただきます」と合唱したあと、朝の食事が始まった。
「友達とは上手くいってるのか?」
「うん、上手くっていうか、そんな意識的なことはしてないけど、自然と仲良くなってる感じね」
「なるほど。お父さんは会社でそんなにうまく人間関係を築けてないかもな。どうしても社交的というか、大人の関係になるからな」
「そんなもんなの?」
「そんなもんさ」
「お父さんは汚れちゃってるのよ。真名みたいに、もう純粋じゃないってことかしらね」
「おいおい、人を怪物みたいに言うんじゃないよ」
三人の会話は何気ない雰囲気のなかで交わされた。いつもと変わらない、気取らない親子・夫婦同士の会話だ。彼は幸せに不安がよぎることがあっても、決してそれを実現させはしまいと心に誓った。愛すべき家族は、日常を彩り彼の疲れを癒やしてくれる場所だった。




