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史上最弱の勇者と呼ばれた俺が、RTA走法で異世界記録を塗り替える話

作者: 桜木ひより

「え、マジで死んだの?俺」


なぜか気づいたら、真っ白な部屋にいた。

目の前には、RPGに出てきそうな女神様。


ああ、これ異世界転生ってやつだ。

配信のネタになるかもと思ったけど、現実に戻れないなら意味ないな。

これが夢だといいんだが。


「勇者として、魔王を討伐してほしいのです」

女神様は申し訳なさそうに、でも瞳を輝かせたキラキラした笑顔で言った。


俺は鏡崎颯。元RTA配信者。

チャンネル登録者30万人で、アクションRPGなら何でも最速クリアしてきた。

異世界転生か。まあ、新しいゲームだと思えば——


「あ、でも一つ問題がありまして」


…嫌な予感しかしない。


「手違いで、あなたたちには『成長停止の呪い』がかかってしまいました」


「……は?」


「レベルが上がりません。ステータスも固定です。経験値も入りません」


あなたたちと言われ、ふと周りを見渡すと、他にも転生者らしき人間が何人かいる。

全員、絶望した顔をしている。


「人生終わった……」

「レベル上がらないとか、詰みじゃん……」


そんな中、俺は——


「レベル上げ禁止RTA?」


思わず口に出た。


「え?」

女神様がきょとんとする。


「いや、むしろ燃えるわ。この世界、どんな仕様になってます?

モンスターの行動パターンは?アイテムの仕様は?ダメージ計算式は?」


「仕様……?」


俺の目が輝く。レベル1縛りなんて、今まででも散々やってきた。

ありとあらゆるジャンルのゲームを最低レベルやアイテム禁止でクリアしてきた俺にとって、これは最高の縛りプレイだ。


「最短ルート、構築します」


女神様、完全に困惑してる。いいリアクションだ。



王都に召喚されて、まずステータス確認。


鏡崎颯 Lv.1

HP: 50

MP: 30

攻撃: 5

防御: 3



ゴミだ。完全にゴミ。

この世界のスライムがHP100らしいから、俺、スライムの半分じゃん。

スライム以下かよ。


王様が立派な玉座から言う。


「まずは郊外でレベル上げを——」


「その必要はありません」


「え?」


「最短ルートで魔王城に向かいます。レベル上げは時間の無駄なので」


王様と大臣たち、ポカーンとしてる。そこに、パーティメンバーが紹介された。


エルフの魔法使い、リリア。

レベルは18。真面目そうな優等生タイプ。


「よ、よろしく。でも、あなた……レベル1?大丈夫なの?」


「問題ないです」


次に、でかい戦士のガルド。

レベル20。脳筋っぽい。


「レベル1とか、足手まといじゃねーか」


「すぐ追い抜きますよ」


最後に、小柄な盗賊のミオ。レベル15。

好奇心旺盛そうな目をしてる。


「レベル上げないで冒険とか、なんか面白そう、よろしくね!」


お、この子はいいリアクションだ。

このパーティーで最速クリアを目指す。


最初のダンジョンは「ゴブリンの洞窟」。


ガルドが張り切って言う。

「よし、まずは雑魚敵でレベル——」


「ボスのところに直行します」


「は?」

リリアが慌てて早歩きで歩く俺を止めに来る。


「無茶よ!ゴブリンキングはレベル30の強敵なのよ!?」


「大丈夫です。ついてきてください」


ダンジョンに入った瞬間、マップを脳内で暗記して最短ルートを構築する。

入り口から左、三つ目の分かれ道を右、トラップを二つ避けて、壁沿いに進めば——


「最短ルートはこっちです」


走る。


トラップのスイッチが見える。

発動タイミングは2秒間隔。フレーム単位で計算して——


スッと避ける。


「え!?なんで避けられるの!?」

リリアが驚く。


「パターンを観察すれば簡単です」


次は敵。ゴブリンが三体、巡回してる。

動きを見る。3秒で右、2秒で左、1秒停止。


タイミングを合わせて走り抜ける。


「戦わないの!?」

ガルドが叫ぶ。


「時間の無駄なんで」


5分でボス部屋到着。通常では30分以上かかるらしい。

タイムロスなし。完璧だ。


ボス部屋に入ると、でかいゴブリンが鎮座してる。

オーガキング。レベルは30。


ガルドが武器を構える。


「レベル差29だぞ!?勝てるわけ——」


「攻撃パターン、三種類ですね」


オーガキングが咆哮して、棍棒を振り下ろす。


横にステップ。


「一回目の攻撃は縦振り。フレーム数48。避けるの余裕です」


次は横薙ぎ。

バックステップ。


「二回目は横振り。フレーム数36。この後に——」


オーガキングが大きく息を吸う。


「0.8秒の硬直。ここです」


踏み込んで、剣で脚を切る。

ダメージ5。少ない。でも——


「弱点は脚の関節。ここに30回攻撃すれば、ダウンします」


「30回!?」リリアが叫ぶ。


「パターンを読めば余裕です。皆さんは補助お願いします」


そこから、完璧な立ち回り。


攻撃を全部避けて、カウンターを確実に入れる。

まるでダンスみたいに。


いつもやってたRTAと同じだ。

あの時も、レベル4縛りでクリアした。


30回目の攻撃。

オーガキングがダウンする。


「今です!総攻撃!」


リリアの魔法、ガルドの斬撃、ミオの短剣が叩き込まれる。


オーガキング、消滅。

ノーダメージでクリア。


「……嘘でしょ?」

リリアが呆然としてる。


「こういうのはパターンゲーなんで」


そして、宝箱を開ける。

中には回復薬と装備。


「あ、この宝箱、もしかしてバグが使えるタイプか?」


ミオが首を傾げる。

「どういうこと?」


「こうやって…開ける、閉じる、開けるの順番で繰り返すと、中身が二倍になります」


実演する。

宝箱から回復薬と装備が四つ出てくる。


「それバグじゃん!」


「仕様です」


次のダンジョンは「魔の森」。

本来なら迷いやすい複雑な構造らしい。


でも、俺には関係ない。


「この崖、飛び降ります」


リリアが目を剥く。


「100メートルあるのよ!?死ぬわよ!?」


「この世界、実は落下ダメージ計算バグってます」


「バグ?」


「1メートルでも100メートルでも、ダメージ49で固定。HP50の俺なら、HPが1残ります」


「そんなバカな——」


飛び降りる。

風を切る感覚。地面が迫る。


ドスン。


HP 50→1。


「ほら、生きてます」


リリアが崖の上から叫ぶ。


「あなた正気!?」


「移動時間30分短縮です。降りてきてください」


仕方なく、リリアが魔法で全員を降ろす。

確かにそっちの方が安全だった。まあいいや。


次は「三つの鍵」のギミック。

本来なら、森の奥で三つの鍵を集めて、扉を開ける。


でも——


「この扉、判定ガバガバです。頑張ったら抜けれます」


扉の横、微妙な隙間に体を押し込む。

スルッと抜ける。


「侵入成功。皆さんもこっちです」


ガルドが頭を抱える。


「順番無視かよ……」


「3時間の短縮になります」


そして、中ボスのドラゴン。レベル50。

普通なら歴戦のパーティーでも全滅するレベルらしい。


「このドラゴン、炎を吐く時に無敵判定が0.2秒切れます。

そこにクリティカルを入れれば——」


ドラゴンが炎を吐く瞬間、踏み込む。

首の付け根に剣を突き立てる。


クリティカル発生。


ドラゴン、即死。


「——一撃です」


ガルドが地面に座り込む。


「レベル1が……ドラゴンを……一撃……?」


「ダメージとかレベルよりタイミングだけなんで」


転生から三日目。


いよいよ魔王城に到着した。

王様から伝令の魔法が来る。


『え!?もう着いたの!?普通一年かかるんだけど!?』


「最短ルート通ったので」


『最短ルートって、山を越えて、海を渡って、迷宮を抜けて——』


「あ、全部ショートカットしました」


『ショートカット!?』



「とりあえず魔王を倒してくるので。それでは」


さっさと通信を切る。

話してる時間がもったいない。


魔王城の門を開ける。中から魔物の群れ。


「皆さん、壁沿いに走ってください。その辺の雑魚敵は無視でお願いします」


リリアが杖を構える。


「でも——」


「このあたりの魔物は倒しても経験値入らないんで、時間の無駄です」


走る。


敵の攻撃を最小限の動きで避ける。今までの様々なゲームのRTAで培った技術。まるで踊るみたいに、攻撃の合間を縫って進む。


ガルドが走りながら俺に叫ぶ。


「お前、本当に人間か!?」


「ただの陰キャゲーマーです」


そして、玉座の間。


魔王、ダークロード登場。

黒いマントを翻して、威厳たっぷりに言う。


「よくぞここまで来た、勇者よ。我は魔王ダークロード。この世界の——」


セリフの途中で攻撃開始。


「ちょっと待って!演説がまだ!」


「時間の無駄なので」


魔王の攻撃パターンを観察する。


横薙ぎ→縦斬り→闇魔法→硬直。


シンプルだ。

全部避ける。


「なぜだ!?なぜ避けられる!?」


「パターンを読めば簡単ですよ」


魔王の背中に、小さな結晶が見える。

あれが弱点だな。見え見えだ。


ミオに指示。


「ミオ、あの背中の結晶を狙って」


「了解!」


ミオの短剣が結晶に突き刺さる。

魔王が膝をつく。


「バカな……レベル1の勇者に……」


「レベルとか関係ないんで」


最後の一撃。

剣を振り下ろす。


魔王、消滅。


クリアタイムは三日と五時間。


王都に帰還すると、大騒ぎだった。


「史上最速の魔王討伐!」

「勇者万歳!」


王様が感動してる。


「まさか三日でクリアするとは……」


リリアが俺を見る。

「あなた、一体何者なの?」


「ただのゲーマーです」


ガルドが肩を叩く。

「お前、化け物だよ」


ミオが目をキラキラさせる。


「全部教えて!あの技術!」


そこに、女神様からメッセージが届く。


『記録更新されました』

『異世界クリアタイム:三日五時間』

『次の勇者の目標タイムとなります』


ああ、やっぱりこの世界、RTA仕様だったんだ。


「次走者、頑張ってください」


そして、俺は考える。


まだタイムロスがあった。

魔の森で5分、魔王城で10分。


装備の最適化をすれば、もっと縮められる。

理論値は——


「二日切れるな」


リリアが絶句する。

「まだ縮める気!?もう魔王は倒したでしょ!?」


「理論値、追求したいんで」

ガルドが頭を抱える。


「やめてくれ……」


でも、ミオが笑う。


「面白そう!もう一周行く?」


「ミオは分かってる」


リリアが叫ぶ。


「やめろ!もう十分でしょ!?」


「いや、でも——」


ガルドが俺の肩を掴む。


「休め。な?」


まあ、確かに少し疲れたかも。

そういえば、異世界の飯ってどんな味なんだろう。ラーメンより美味いのかな。


「じゃあ、とりあえず飯にします」


全員、安堵の息を吐く。


でも、心の中で思う。

次はアイテム100%回収RTA、やってみようかな。

それとも、ダメージレスRTA?いや、いっそ目隠しRTA——


「お前、絶対また何か企んでるだろ」

ガルドが呆れた顔をする。


「企んでないです」


「嘘つけ」


こうして、史上最速の勇者は、次の冒険を探し始めた。


レベル1のまま。


~完~

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