前編
短期連載予定です。
読んでくださると嬉しいです。
今から話す出来事は、私の妄想かもしれないし、真実かもしれない。それほどに不可思議で、幻想的な出来事だったのです。それは、私が体験した、ひと夏の物語。
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それは、私の故郷で、東北にある海辺の片田舎の町で起きました。私が中学3年生だったころのことです。その町のはずれには、大正時代からあるという洋館があったのですが、あまりに古く、不気味だったので、そこには誰も近寄りませんでした。
けれど、私が中学三年の7月の初め、その洋館に引っ越してきた人がいると噂になったのです。なんでも、だれも寄り付かない洋館に明かりが灯っているのを、何人もの町の人が目撃していたのです。けれど、私は、あまり興味を持っていませんでした。ただ酔狂な人間が越してきただけだろうと思ったでけでした。小学生ならまでしも、中学生3年の受験を控える夏の時期に、そんな噂を気にかけている場合ではなかったからです。
けれど、否応にも、その洋館の住人が誰なのか、数日のうちに知ることとなりました。
その日、1学年に2クラスしかない、過疎な私の中学校に転校生が二人もやってくるということで、学校中がその話題で持ち切りでした。私は、クラスの委員長をしていましたから、転校生二人のうち、私のクラスに入る一人を学校案内する役目を負っていたので、みんなよりも先に、職員室にいるという転校生に会うこととなったんです。
「失礼します。1組学級委員の周防です。転校生を迎えにきました。」
職員室に入ってすぐ、私は転校生二人を見つけました。なぜかと言えば、ふたりは、男女でしたが、揃ってとても美しい容姿をしていたからです。テレビでみる俳優とは、比べ物にならないような、まるで人外な美とでもいえる、完璧な美貌を備えていたのです。
「おぉ周防か。こっちは、転校生の緑宮 麗さんと涼くんだ。二人は双子でね、東京のほうから越してきたんだそうだよ。それで、周防が案内するのは、弟の緑宮君のほうだよ。」
担任がそう紹介すると、二人も挨拶をしてくれました。
「こんにちは。緑宮麗よ。」
そう言った、姉の緑宮さんのほうは、金に近い茶色の艶やかな腰までの髪を二つに結び、まるでビスクドールのように西洋的に整っている顔で、にっこりと笑いました。職員室にいる先生がたは、皆ぼぅとした顔になって彼女をみつめましたが、私は、あまりな美しさと、不思議な色合いの瞳に、なぜか恐怖を覚えました。
「緑宮涼です。よろしくお願いします。」
今度は弟の緑宮君が、にっこりと挨拶してくれました。姉と同じ瞳に、短く切りそろえられた金茶の髪、顔は姉に似ているのに、女性的にはみえず、どこかの貴公子といわれても、違和感のない容貌でした。けれど、姉の麗さんとは、違い恐怖は感じませんでした。そのかわり、笑いかけられて顔が熱くなるのを感じました。
しばらくして、クラスの違う麗さんとは職員室で別れ、私は緑宮君のほうを学校案内することになりました。彼は、近寄りがたい外見とは似合わず、気さくで話しかけやすい人でした。いつのまにか、私は下の名前の、鈴音と呼ばれるようになっていました。
「鈴音ちゃんも、僕のことは、涼でいいよ。クラスメートになるんだしさ。それにしても、この学校からは、うちの洋館や海が良く見えるんだね。」
「あの洋館に住んでいるの・・・?」
「うん。もともとは伯父の物なんだけど、しばらく使わせてもらうことになったんだ。」
私は、その発言を聞いて驚きました。噂の的であった、洋館の主は私と同じ中学生だったのですから。しかも、両親は居ないらしく、二人だけで暮らしているというのを聞いて、さらに驚きました。
それから、学校案内を終えて、教室に着くころには、だいぶ打ち解けて、冗談も言い合える仲にまでなっていました。
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それから数日で、美貌の姉弟は学校一、もっといえば、町一番の有名人になりました。私は涼君のほうとは、よくしゃべるようになり、皆から羨ましがられました。というのも、姉である麗さんは、ほとんど誰ともしゃべらず、弟の涼君は、最初の印象とは違い、私以外とは事務的な会話しかしなかったのです。
なぜ、私が気に入られたのかは、未だに分かりません。けれど、初日に案内しているとき、以前に拾った黒猫の話をしたところ、猫好きだったらしく、目の色を変えて積極的に話しかけてくれるようになったのです。
そうこうしているうちに、夏休みが近づいてきました。
私の故郷の町では、盛大な夏祭りが7月の終わりに開催されます。涼君は、その祭りに興味をもったらしく、私も一緒に行こうと言ってくれました。私は、姉弟で行くなら邪魔をしないようにしようと思っていましたが、あんまりにも誘ってくれるので、3人で一緒に行くことになったのです。
私は、その祭りで、最初の不思議な体験をすることになります。
祭り当日。待ち合わせ時間になっても、待ち合わせ場所の祭り会場の入口に、二人は現れませんでした。そのころは、まだ携帯電話なんてない時代でしたから、私は会場周辺を二人を捜しに行くことにすました。すると、以前拾って助けた黒猫が、急にどこからともなく現れて、私を導くように、会場のはずれに連れて行きます。私は、不思議に思いましたが、その猫に付いていくことにしました。
会場のはずれでは、なにやら争っている声が聞こえました。数人の男で少女を囲んでいるようなのです。その少女は、涼君の姉である麗さんでした。黒の浴衣を着ていて、いつもの美貌がより一層際立って見えました。その姿に見とれているうちに、男たちの一人が麗さんに襲いかかろうとしていました。私は咄嗟に麗さんと男の前に出ていったのです。
しかし、私に男の手が当たろうとしたとき、時が止まったように、男が動きを止めたのです。これには私も驚きました。麗さんは、私が割り込んできたことに驚いているようでしたが。
麗さんは、はっとして、そばにいる黒猫を見ました。なんだか怒っているようでした。男たちが動きを止めている間に、私たちは、急いでその場から逃げ去りました。いつのまにか、黒猫は居なくなっていました。
祭会場の近くまで戻ってくると、祭囃子の音や夜店の明かりが見えました。だいぶ夜が近づいたせいか、会場入口のある、神社参道は人で溢れかえっていました。そんな入口で、殊更注目の的となっていたのは、私たちを待っているような涼君でした。半袖のシャツにジーパンという出で立ちでしたが、私には、とても輝いてみえたのを覚えています。
涼君を見つけると、麗さんは、すぐさま彼に駆け寄り、なにか深刻そうな顔で二人は話していました。内容は分かりませんでしたが、こちらをしきりに見て話すので、居心地が悪い思いをしました。数分話したあと、何事もなかったように二人は私の元にやってきて、私達はようやく祭りに参加できたのです。
三人で歩いていたはずが、いつのまにやら涼君と二人で歩くことになっていました。
「麗さんが居なくなっているけれど、大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ。・・・麗に頼んで君と二人にしてもらったんだから。」
「・・・え?」
「あのね、僕は、君が好きなんだ。・・・夏の間だけでいいから、付き合ってくれないか。」
突然の告白に私は戸惑うばかりでした。自分の心臓がドキドキしすぎて、どうにかなりそうなぐらいで、真っ赤になった涼君をみると、それは嘘で言っているのではないこともすぐにわかりました。
「・・・私でよければ、喜んで。」
ちょうどその時、祭りのクライマックスである打ち上げ花火が、打ち上がり、その花火を見ながら、私たちは笑いあい、自然と手を繋ぎました。まるで、祝福をうけているかにようでした。
私は、確かに覚えています。涼君と隣り合ってみた綺麗な花火も、つないだ手のぬくもりも。
夏は始まったばかりでした。