命運三-B
「じゃあ、行こうか」
ひと息ついて、氷川が声をかけると、カヤも軽くうなずいた。ふたりで荷物をまとめ、彼女が進んでいた方向に向かって歩き出そうとした、その時だった。
突如、クソダイスのフレームが淡く発光を始める。
「……また出たか」
腰の袋から取り出すと、コアは赤く染まっていた。氷川は小さく息を呑む。前にも一度だけ見た色だ。だが、その時は振る間もなく自動で発動した──今回もそうなるとは限らない。時間制限はあるが、すぐに振る必要はない。
六つのルートがフレームに浮かび上がる。
① 視界が24時間モノクロになる
② 歩いていると、反対方向に引っ張られるような感覚を受ける
③ 10km走を終えた直後と同等の疲労を得る
④ 自分の発言の語尾がすべて疑問調に聞こえる
⑤ 手に持った石が、1つだけ菱形に変形する
⑥ 他人の咳払いの回数が脳内でカウントされる
カヤはその発光に反応し、氷川の手元を覗き込んできた。
「また、何か出たの?」
「ああ……今回はこれ」
氷川は、簡潔にルートの内容を読み上げる。それぞれ妙なものばかりだが、致命的とまではいかない。
「うーん……わたし、また見たい。……なにかが、起こるところ」
カヤの目は期待にきらめいている。氷川は少しだけ迷ったが、やがて苦笑しながらサイコロを構えた。
「じゃあ……いくよ」
サイコロが手の中で転がり、やがて弾かれるように地面に落ちた。
――③
「うっ……!」
直後、氷川は思わず膝に手をつく。突き上げるような疲労感が、全身を包み込んだ。額から一気に汗が噴き出し、息が荒くなる。足は鉛のように重く、まるで本当に10km走った後のようだ。
「ヒカワ!? ……だ、大丈夫?」
驚いたようにカヤが駆け寄ってくる。だが氷川は、肩で息をしながらも笑みを返した。
「……大丈夫。ちょっと、きたね……今のは」
「……ほんとに、起きるんだね。ダイスの、ルート」
カヤは小さく感嘆の声を漏らす。目の前で、氷川に異変が起きる──その不思議さと興奮が入り混じったような表情だった。
「すごい……でも、ちょっと、面白い」
「言ってくれるなよ……こっちは死ぬかと思ったんだから」
肩で息をしながら、氷川はその場に座り込んだ。カヤは楽しそうに笑いながら、そばに腰を下ろす。
「少し……休ませて」
「うん。待つよ」
そうして、しばらくの間、ふたりは草の上で風に吹かれながら休憩をとった。太陽は少しずつ傾き、木々の影が長く伸びていく。
だが、安息は長く続かなかった。
今度はクソダイスが白く光り始める。氷川はハッと目を開き、再びサイコロを取り出した。
「また……来た」
表示されたルートを読み上げる。
① 背中がかゆくなるが絶対に届かない
② 強い吐き気を感じるが嘔吐はできない
③ 自然治癒力が飛躍的に高まる
④ しばらく視界がぼやける
⑤ 周囲の小石が地面に整列する
⑥ 空腹感が軽減する
「今度は……いいやつも混ざってるな」
カヤがまた、興味津々と氷川を見つめる。
「……また、振ってみようよ」
氷川は軽く笑って頷いた。
「そうだな……せっかくだし」
再びクソダイスを振る。
――③
目の前が一瞬だけ、淡く光に包まれたように見えた。すると、先ほどまでの重だるさが、嘘のように抜けていく。息は整い、筋肉の痛みもすうっと消えていく。
「うわ……」
氷川は思わず身体を動かしてみた。腕も足も、軽い。冗談みたいに、力がみなぎっていた。
「これ……すごいな……」
カヤは不思議そうに、そして嬉しそうに氷川を見ていた。




