序章 妻の遺産①
1ヶ月前、妻が死んだ
一年の闘病生活の末の死で、年齢はまだ33歳だった。
だが、年齢に見合わずその功績は凄まじいもので、
20代で企業したゲーム会社を、今では業界屈指の業績を叩き出すまでに成長させた程だ。
先週、葬式が終わり、後は妻が遺してくれたものを整理するだけになった。
葬式には2週間後に超大作のVRゲームのリリースを控えているはずなのに、妻の会社の部下達はこぞって参列してくれた。
その時ふと、生前妻がそのVRゲームをしきりに進めてきた事を思い出す。
「体が良くなったら一緒にこのゲームで遊ぼうね!」
俺がお見舞いに行くたびに、そう約束してくれた。
妻が約束を破ったのはこの一回だけだった...。
一昨日、遂に決心して遺書を開けた。
いや、遺書と呼ぶには奇抜すぎるか...?
まるでクリスマスプレゼントのような大きさと包装の箱を見つめる。
「あいつらしいな」
そう言いながら箱を開けると、そこにあったのは...
「VRヘッドセット...かな?」
正直、手紙とかが入っているものだと思っていただけに、その時はかなり拍子抜けした。
見た所、最新式の多機能VRヘッドセットらしいが...
「とりあえず中を確認してみるか...」
VRヘッドセットを着けると、妻が既に一度着けたのだと分かった。何故かと言えば...
初めて着けた時に出るはずの演出が無いこと、
それと、“あるゲーム”が入っていたためだ。
「LIVE」そう銘打たれたこのゲームは、妻の会社...つまり"エンカウント社”が開発したゲームのことだ。
ファンの間では演歌と称されて親しまれているその会社が、5年もの歳月をかけて作った超大作VRMMORPGでもある。
妻は自らを広告塔としており、「LIVEは私の人生を、会社をかけた最高傑作に仕上げる!」と配信サイトで語っていたのを覚えている。
そのおかげか、LIVEはβ版の応募者が500万人に、さらにβ版の当選者から映像やゲームの世界観が伝えられたことで、現在LIVEのリリース待ちは約1000万人に上った。
そして遂に、2日後の8月1日...俺たち夫婦の結婚記念日にリリース開始されるはずなのだが
「俺、入れちゃうんだけど...」
既にゲーム開始出来てしまうのを確認して、俺は一旦ヘッドセットを外した。
「どうしようかなぁ..これ」