余命宣告 終焉症候群 Day1 昼〜夜
職員室に行くと、先生が足を組みながら手でこちらに来い。と言いたそうなジェスチャーをしていた。
たくさんの先生がいる中で怒られるのは色々とむず痒いものがあるのだが、こうやって叱責することでもう2度と逆らわないようにさせようと言う考えがあるのだろうと考えれば、真っ当な理由の中叱られているのだと感じることができて、心身ともに楽になるものだ。そんなことを思いながら、私が近くの席に座ろうとすると
「座るな。立ちながら聞いた方が脳に残るだろ?」
と、先生は言った。これは周りの先生へのアピールもあるのかもしれない。つまり、「俺の発言力には価値がある」とまわりに知らしめたいがために、私を立たせたまま叱責をするのだろう。
周りの先生たちは私が立たされて説教されている光景を見ても止めることはできないだろう。どんなことをしようと、手が出なければ先生たちの中にある価値観の中ではセーフなのだから。昔までは殴る、蹴るは法律に違反するものではなかったから、彼らにとっては優しい方なのだろう
それでも、今の時代は暴力のない治安のいい社会にするために、体罰を禁止し、生徒の質を高めようとしているのだろうけど、こう言う先生が1人いる限りは曖昧なラインが生まれ、確実に体罰は消えないと思うのは私だけだろうか?
昔の価値観が法律を歪めていると感じるのは私だけなのだろうか?
それでも、私は一般の人よりも体力がなく、体が弱い方なので、私は一度強面先生に対し、譲歩を申し出ることにした。
「すみません、先生。私、体が弱いので座らせてもらいたいのですが…」
「ダメだ。甘えるな。昔の俺たちはな…真夏の中、裸足でアスファルトの上を走らせられながら反省させられていたんだぞ?今の子たちは甘すぎる」
と、自慢げな顔で先生は言ったのだが、まさしく時代遅れの価値観と言われるやつなのだろう。お手本のような人だ。昔の人々の価値観が今の価値観と同じだと思っているのだろうか?まあ…基準となる価値観は存在しないのだけれど、それでも私は今を生きる人として過去の価値観を押し付けてくる人が嫌いなので反抗することにした。
「私がここで倒れた先生が責任を取ってくれるのですか?でしたら構いません。」
「お前、今どう言う立場にあるのか分かっていないのか?」
「口答えしてすみません」
と、結局は威圧感のある顔を見せられ、私が引き下がることになってしまった。それにしても、先生の言う立場とは教科書を忘れたことによる反省の態度が欲しいと言うことなのだろうけどそれは本当に私のためになるのだろうか?言い換えるなら、無理をしてでも反省をしろという価値観を押し付けようとしているだけなんじゃないのか?
いや、それは無粋な質問だった。先生というのは職業だった。生きるためにやってる人が大半なのだろう。だから、本当に生徒のためにと思っている人の方が少ないのかもしれない。
それとも、昔の価値観を絶対に正しいことだと思い込み、現代の価値観を持つ人たちに善意な気持ちで、昔の価値観が正しいのだと教えているのだろうか?もしもそうだとしたら、これからを生きる私たちにとっての足枷になるのではないかと思うのは、私だけなのだろう。
それらは辛い時こそ休むべき、と言う私の価値観を濁している。だからこそ、この先生が私の親だったらと思うと恐ろしい。ずっと一緒にいれば苦痛をも感じれなくなる体にされそうだ。
と、そんなことを思いながら昼休みになって30分が立っただろうか?私は無表情のまま、先生の説教を聞いていたのだが…
「あぁ?反省するつもりはあるのか!」
なんて説教を受け続けている。私はもうどうでも良くなってきていた。ずっと立ち続けてるせいか、視界が歪み始めてきた。それに、心臓が痛い。さて、この状況で倒れれば私はこいつの人生を狂わせられるのかもしれないが、どうしようか。
「はい」
「じゃあ次からどうする?」
「忘れないように努力します」
「努力で何とかなるものなのか?どうすれば忘れなくなると思う?」
適当な返事をする私に対して先生は対策案を講じさせようとしている。人間は不完全な生き物なので確実に防げる方法なんてないのだけれど、答えを出し、宣言するまできっと終わらない。
確実に忘れ物をなくす方法…努力次第では、9割方忘れ物をなくすことが可能だと思うのだが、先生は確実に忘れ物をしない方法を望んでいる。だから、私は
「置き勉をすればいいのでしょうか?」
「お前さ、人生舐めてるのか?ここじゃ、そんなこと言ってられるけどな、社会に出ればそんな態度じゃ生きていけないぞ」
と、確実とも取れる案を提案をしたのだが、逆に怒らせてしまった。この国は少子高齢化が進んだ国だ。きっと、社会は昔の価値観で溢れているのだろう。つまり、目の前にいる先生が、まだ優しい方だとしたら、私たち少数派である若者には生き辛い環境にあるということを示しているのだろう。
それにしても嫌いな先生が2人に見え始めたのは悪夢だろうか。体のあらゆる器官がもう限界だと告げている気がするのだが、本当にどうしよう。
「はぁ…はぁ…」
これはダメだ。というか、体が強い、弱いに関わらず、40〜50分の説教を立ったままさせるのは異常だけれど、こうなった原因はあれもこれも神崎のせいだ。と責任転換をすることにした。あの時、私を止めなければこんなことにはならなかったはずだ。
私は目の前の机に頭をぶつけながら倒れ伏した。不思議と痛みは感じなかったが、二重に見える視界が赤く染まっていくのが見える。手足は動かない。音が反響して聞こえてきていて、とても気持ち悪い。それでも、これで説教から抜けられると思うと頭の傷は安いものだろう。
そんなことを思いながら、私の記憶はプツンと途切れた。
***
目を覚ますと知らない天井、知らないベッド、知らない服、白いカーテンに囲まれた部屋に、腕に刺さった点滴。私の体の上にしがみつくように制服姿で寝ている神崎。
全く状況が掴めないのだが、私は何をしていたのだろうか?それに、何だろうか、この寒さは。例えるなら全裸でスキー場に来ているように寒い。布団を被っているのにも関わらず、この寒さは異常と言っていいのではないだろうか?それよりも、
「何してるの?」
と、布団にしがみつく神崎に話しかけたのだが中々起きなかったので、手で頭を叩こうとしたのだけれど私はふと自分の手に視線が行ってしまった。
「手が…黒い…」
叩こうとした手が黒いシミで覆われていた。私は慌ててもう片方の手を確認したのだが、特に色には異常がなく、綺麗な手だった。しかし、感触がない。
ちゃんと体は動くし,痛みはないのだけれど、何かを触っても感触がなかった。例えるなら麻酔をかけられたかのような感覚だ。私は、何が起こっているのか分からず、呆然としていると
「やっと起きたのか!今誰か呼んで来るから待ってろ!」
と、神崎が水を得た魚のように飛び上がり、私に状況を説明することもなく勢いよく扉を開けて、どこかに走り去ったのだけれど、彼は何なんだろうか?
それにしても、私の体には何が起きているのだろうか?この黒い腕に鈍い感覚。自分の体なのに、見ていて気持ち悪い。手を擦ってみても、色が移ることはなさそうだった。つまり、皮膚の中に、タトゥーのように染み付いているということなのだろう
1人でいるのも暇だったので、立ちあがろうとしていると扉が慌ただしく開いた。
「やめろって!取り敢えず寝とけよ!」
っと、神崎が現れ、私をベッドに戻るように促した。彼は本当に何なのだろうか?まあ、それでも私を心配してくれての発言なのだろうから私は大人しく従うことにした。すると、扉から医者のような格好をした人が開いた扉から入ってきた。
「おはようございます。あ、神崎さんは外でお待ちください。少しだけ確認したいことがありますので」
っと、神崎にでていくように促した。彼は少し抵抗するのかと思ったのだが、大人しく部屋の外に出てくれた。そうして、2人きりになったのだが、医師は淡々と質問をしてきた。
「質問をしたいのですが、ご自身のお名前は分かりますか?」
「篠崎美空です」
「はい、大丈夫です。家族の名前などは分かりますか?」
「はい、あ〜…えっと……………えっと………あれ?」
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
と、私は質問に応え続けていたのだけれど、医者が家族の名前について聞いてきた瞬間、私は答えを出せなくなってしまった。
「すみません、思い出せません」
「そうですか…では質問を変えます。強い寒さをを感じたり、激しい倦怠感を感じたりしませんか?」
「はい、この部屋が寒く感じます。あと、インフルエンザにかかった時みたいな倦怠感も感じます」
「分かりました。その…、篠原さん、今日は症状について少し重要なお話をさせていただきます」
そういうと、医者は暗い表情をしながら語り出した。
「これまでの検査や治療の経過から判断して、現在の病気は進行が進んでおり、今の医療では完治が難しい状況です。具体的な期間についてもお伝えする必要があるのですが…、お話を進めてもよろしいでしょうか?」
真剣そうな表情でそんなことを言われたら断れるはずもないだろうに。意地悪な医者だ。
「大丈夫です。」
と、私は返事を返したのだけれど、医者が下を向いたまま中々返事をくれなかった。だから
「終焉症候群なのでしょうか?」
と、聞くことにした。私はこの病気を知っている。毎日のようにニュースで流れているのだから。
発症からちょうど30日で必ず死亡する。個人差の存在しない病気だ。別名命のカウントダウンとも呼ばれている。死の病気。
〜症状〜
発症からは倦怠感、強い寒気、指先や、足先にかけて黒い斑点が浮かび上がる。
病気の進行と共に記憶が曖昧になり、感情が薄れていく。
死亡に近づくにつれ、過去に体験した後悔の記憶が幻覚のように繰り返される。
徐々に全身の臓器が機能低下し、最終的には心肺停止を迎える。
と言ったものだろう。助かる見込みのない、何が原因なのかも分からない病気だ。感染病ではなく、遺伝的なものだとされているが、実際はどうなのかわからない。
「そうです…」
と、悲しそうに医者は言った。
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