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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第二章

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48/50

44――すとりーむらいぶ・あーてぃすと?

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


「ごめんなさいね、東京までわざわざ来てもらって……」


 反省会配信からしばらく経って、雑談配信やらゲーム配信をお試しでやりつつVtuberとしてのスタートを切った僕に、マネさんから事務所に来て欲しいと呼び出しが掛かった。平日の日中だったから当然おさななじみーずは一緒に来れず、共働きの両親も同行は不可能。


 中学生だと思われているので『でも、ひとりで来させるのはちょっと心配……』と渋っていたマネさんに、『行けます、大丈夫です!』と胸を張って答えたのは一昨日の話。

 まぁ見た目は中学生だけど中身は男子高校生だからね、電車での移動なんてお手のものですよ。前に一回来てるし、当然ながら何の問題もなく到着できた。


 以前来たときと同じように受付の電話で呼び出すと、パタパタと駆け足でマネさんが出てきてくれて、僕の姿を見て『ハァ~ッ』と長くて深いため息を吐いた。どうやら過度に心配させてしまっていたようで、申し訳ないやら若干呆れるやらで僕としては苦笑を浮かべるしかなかったよね。

 その後まるで全身を撫で回すように触られたのは、多分怪我とかしていないかというチェックをしていたんだろうけど、さすがに心配しすぎだと思った。


 前回来たときも使った小会議室に入って椅子に座ると、僕の対面にマネさんが座る。スーツ姿のキレイなお姉さんなのに、なんでこの人が『腕力マネ』なんてかわいくないあだ名で呼ばれているのかが不思議で仕方がない。

 この細腕で成人女性を担げるという話だから、もしかしたら服の下は筋骨隆々なのかもしれない。


 Vtuberとしてスタートを切っての感想を聞かれたので、『まだよくわからないです』と正直な感想を答えた。配信中に観てくれている人数を同接と呼ぶんだけど、初配信から減り続けているのを見ると残念ながらあまり面白い配信はできていないのだろう。


 それら思っていることを話すと、マネさんはクスクスと笑い出した。僕の同接は大体ひとつの配信で1000人前後なんだけど、新人でそれは大健闘だと逆に褒められてしまった。


「最後のお歌の部分では1500人を超えることもあるし、ゆうひちゃんの得意な歌がリスナーのお兄さんとお姉さんに求められているという証拠でもあるわね」


 僕にとって一番大事な歌がみんなに受け入れられているのは、本当に嬉しいことだ。マネさんの褒め言葉に、思わず笑みを浮かべてしまう。そんな僕にマネさんは『でもね』と釘を刺すように続けた。


「このままだと埋もれちゃうのは目に見えているから、ゆうひちゃんの知名度をもっと上げていかないといけない。箱の知名度は十分あるから、まずは先輩たちとたくさん絡みましょう。先輩たちにはたくさんのファンがいるから彼らにゆうひちゃんの存在を知ってもらって、先輩Vの妹みたいな感じでかわいがってもらうのが一番いい戦略かなぁと思ってるの」


「なんか、先輩たちを利用しているようで気が引けるんですが……」


「いいのよ、先輩たちも最初は同じようにやってたんだから。大事なのは助け合いで、ゆうひちゃんが人気者になってある程度の視聴数を安定して維持できるようになったら、今度はあなたが先輩たちのお手伝いをすればいいんだよ」


 マネさんの言葉に『確かにそうかもしれない』と納得して、僕はこくんと頷いた。ただ僕が出る配信で先輩のお手伝いをできるぐらいの人たちが集まるかどうかは、かなり懐疑的ではある。それを正直にマネさんに言うと、別に集客だけがお手伝いではないことを教えてくれた。


 例えば凸待ちという企画がある。配信中に他のVtuberが連絡をしてお話をするというもので、あまり絡みがない人との珍しい会話が聞けたりして人気なのだ。

 当然みんなそれぞれの予定があったりして、その時間にフリーであるという保証はない。突然予定が入ることもあるだろうし、体調が悪くなることもあるだろう。

 そう言ったことがないようにあらかじめ箱のメンバーで共有しているメッセージアプリなんかで予定の擦り合わせを行うんだけど、集まりが悪いときも当然ある。


「そんな場合に率先して『私が参加してもいいですか?』って手を挙げることもお手伝いになるよ」


「そうなんですね……」


 Vtuberにとって配信であらかじめ告知している企画が、スムーズに進行できないという事態はできれば避けたい。ハプニングを喜んでくれる視聴者が大半だろうけど、それを揶揄したり批判したりするアンチ視聴者も少なからずいるからだ。

 そこからマイナスイメージがついたりして、チャンネル登録者が減ったりしたら目も当てられない。


「さっきは率先してって言ったけど、あんまり連続して先輩の企画に参加するのもその先輩のファンからの反感を買う可能性もあるから、頻度は考えないといけないんだけどね」


「なるほど、難しいんですね」


「ゆうひちゃんの場合は実年齢がまだ幼いし、箱の末っ子ポジションでそこまでヘイトはこないだろうけど頭の片隅に置いておいて」


 肉体年齢は中学生なんだから嘘はついていないんだけど、本当は高校生であるという自認がある僕としてはちょっとだけ騙しているようで後ろめたい。でも先輩たちの詳細な年齢は知らないけど全員が僕より年上らしいので、一番年下の末っ子ポジションだというのは嘘ではない。


 『マネさんの指示に従いながら、無理せずに頑張りましょう』ということでこの話は終わったのだが、どうやら本題ではなかったらしい。

 マネさんが別の資料を取り出しながら『さて、それじゃあ今日来てもらった本来の目的だけど』と話しだしたので、僕も気持ちを切り換えて背筋を伸ばして聞くことにする。


「さて……我がすとりーむらいぶではこの度、アーティスト部門を設立することになりました」


「アーティスト部門、ですか?」


 私がオウム返しに問うと、マネさんはにっこりと笑いながら資料を私の前に優しく置いてくれた。


「そう、アーティスト部門。別に他のメンバーにはまったく歌わせないというわけではなくて、これまでみたいに楽曲の配信や3Dライブは続けていくんだけどね」


 マネさんはそう前置きして詳細な話を聞かせてくれたけど、アーティスト部門に所属したVtuberさんは他の人よりも歌を歌う機会が増えるということらしい。


「プロデュースしてくれる作曲家さんや、印象的な歌詞を書いてくれる作詞家さんもすでに契約済だから曲が無くて歌えないなんて心配もいらないわ」


「……そんなことがあるんですか?」


「あったのよ、随分昔にね。あれは確かアイドル事務所だったけど、見切り発車で進めて準備不足に陥った挙げ句に、アイドル以外はまったく手配してなかったいうね」


 昔っていうことは、まだ趣味で曲作りをしたりそれをネットにアップしたりする人があんまりいなかった時代の話なのかな?

 多分マネさんもリアルタイムでその出来事を知ったわけではないんだろうし、芸能業界で語り継がれている話なんだろうね。


「まぁそれは横に置いておいて、ウチは準備万端でやってるから安心してねっていうことよ。それで、アーティストに所属する最初のVtuberにあなたと先輩のひとりが選ばれたというわけ」


 その先輩というのが、すとりーむらいぶの歌姫とも呼ばれている『大宇宙おおぞらきらめき』さんだったりする。ちなみにいくつかのアニメでオープニングやエンディングテーマの担当に大抜擢されていたので、アニメにそんなに詳しくない私でもその存在は性別が変わる前から知っていた。


 大宇宙さんのすごいところは歌だけではなくて、Vtuberらしく配信も上手なところだ。私もデビューのための勉強で配信をたくさん拝見したけど、雑談・ゲーム・コラボとなんでも上手にこなすオールマイティなタレントさんだったりする。


 おそらくアーティスト部門は、きらめき先輩のために設立された部署なんだろう。そこにたまたま歌を歌うのが好きな僕が入ってきたから、歌を歌う機会も多いだろうし所属させておこうみたいなオマケ的な感じなのだと思う。

 まだボイトレもはじめたばっかりだし、歌の実力で言えばきらめき先輩の足元にも及ばない僕だ。これからしっかりと頑張って、ファンの人に少しでも『あいつなんでアーティスト部門にいるんだ?』みたいに思われないようにしないとね。


 ボイトレについては、今通っているスクールでそのままレッスンを受けて大丈夫とのことだった。先生とすとりーむらいぶ側で連絡を取り合って指導スケジュールを作製、その中で齟齬が出るようだったら事務所のレッスンに参加するんだって。

 東京まで来るとその度に交通費が掛かるし、できれば地元で通えるとありがたいなぁ。ダンスのレッスンもあるらしいからどちらにしろ事務所に来ることにはなるんだけど、まだ収入がほとんどない状態なんだからなるべく節約しないと。


 きらめき先輩との顔合わせは、マネさんがまた機会を見てセッティングしてくれるんだって。その代わりじゃないんだけど、今日はスタジオの方で他の先輩方がお仕事をしているそうで、そこに行って挨拶してきなさいと半ば強引に指示されてしまった。

 まぁこれからお世話になるんだし、挨拶は大事だよね。と思っていたら、どうやらマネさんは急いで済まさなきゃいけない用事があるらしく、僕ひとりで行かなきゃいけないらしい。うぅ、初めて会う人に挨拶するのって、結構緊張するよね。


 優しく背中をポンと押すように叩かれて、小会議室からエレベーターホールの方に押し出された僕は、緊張しながら教えられた先輩たちの控室に向かってトボトボと歩き出したのだった。


カクヨムで開催中のカクヨムコン11に参加しています。

よろしくお願いします。

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