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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第二章

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42/50

40――初配信 前編

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


「……えっと、聞こえてますか?」


 トイレに行って飲み物も用意して、いつでも配信が開始できる状態になったところでいよいよ開始時間がやってきた。


 僕が遠慮がちにマイクに話しかけると、モニタ上のゆうひちゃんも僕と同じようにほんの少し身を乗り出すような前傾姿勢を取っていた。アバターなんだけどなんとなくひとりじゃなくて心強い仲間がいる感じがして、緊張して握っていた右手をゆっくりと開く。


 画面に表示されているコメント欄が勝手にすごい勢いでスライドしていて、とてもじゃないけど目で追いきれそうになかった。事務所の社員さんが『初配信は多分コメントがとんでもない量投稿されるので、自分のペースを崩さないように』とアドバイスしてくれていたのを思い出す。そうだ、こんな風にまごついている場合じゃない。僕がちゃんと進めないと、何もせずにグダグダで終わってしまう。


「た、たくさんのコメントをありがとうございます。ごめんなさい、今日がはじめての配信なので時々こんな風に固まっちゃうこともあるかもしれませんが、頑張りますのでどうぞ最後までよろしくお願いします!」


 正直な気持ちを言ってペコリと頭を下げると、画面内のゆうひちゃんが目を『><(こんな風)』にして一緒にお辞儀をしていた。


「あらためまして、はじめまして! 歌音ゆうひと申します、本日デビューしました」


 ハチ公:はじめましての気がしない


 ミラージュ:わー、パチパチ!


 ササミ:可愛いだろ、自慢の娘なんだぜ


「わ、ササミママ! 見に来てくださってありがとうございます」


 コメント欄に一瞬ササミさんの名前が見えたので、確認してからお礼を言った。いきなり身内のコメントから触れるのも内輪感が出るからどうかとも思ったけど、でも歌音ゆうひの産みの親を雑に扱うのもイメージ悪いもんね。ササミさんは『早くスパチャ投げられるぐらいに人気者になってね』と応援のコメントを返してくれたので、『頑張ります』と両手を握って決意表明した。


 ちなみに同名の別ユーザーさんの可能性もあったけど、今回のササミさんはユーザー名のところにスパナのマークが付いていたから間違いなく本物だった。あんまりよくないコメントやユーザーをブロックできる権限を持っている人にスパナマークが付いていて、基本的には関係者しかその権限を渡してないからね。


 紅蓮丸:どこかで見たような気がしてたけど、そっかササミがママか。そりゃあかわいいわ


 めーぷるうさぎ:前にソレイユの動画に同じキャラのガワで出てたよね、声が一緒だし同一人物?


 鋭い指摘をするコメントが目に入って、ちょうどいいので自己紹介に移ることにした。すぅ、と息を吸ってから意を決して声を出した。


「えっと、まずは自己紹介を。改めまして、歌音ゆうひです。歌音は読みの通り漢字で歌と音って書きます、ゆうひはひらがなです」


 早口にならないように、意識的に少しゆっくり目に話す。緊張からなんだかたどたどしい喋り方になっちゃったけど、噛まずに言えたから多分リスナーさんたちにはちゃんと聞こえたと思う。


 ミラージュ:なんか母性本能がくすぐられそうになってる


 しーな:でもお前男じゃん


 でっかいどう:心は自由だ、男であり女でもある


 mika:どういうことなの……?


 コメント欄の掛け合いに、小さく笑みがこぼれた。おかげでちょっと緊張がほぐれたような気がする。


「Vtuberとして活動するのは初めてなのですが、こうしてすとりーむらいぶに採用される前は個人で歌ってみた動画を投稿していました。とは言っても、本当に短い間でしたけど」


 ちなみにこうして前の活動について話すことは、事務所にも許可をもらっている。そもそも話した方がいいとアドバイスをしてくれたのは、事務所の社員さんだった。活動期間が超短期だったことに加えて、ソレイユさんに見つけてもらうきっかけがこの歌い手活動だったので『歌音ゆうひのはじまり』には欠かせない要素だと判断されたようだ。


 ダークネス:前世の暴露キター!


 ソースカツ:前世持ちかよ、ブラバしよ


 みみかき:前世持ちって言ってもマジで短期間だぞ、動画数本しか投稿されてなかったからな


 前に別の活動をしていたと話すとマイナスな反応をしてくる人もいるだろうと社員さんが言っていたけど、まさか本当にいるなんて想像もしていなかった。しかも反応速度がすごく早かったよね。


 でもすぐに経緯を知ってそうな人がフォローを入れてくれたので、批判的なコメントはとりあえず一旦収まって続きを聞く空気が漂っていた。


「今は同じ事務所の先輩ですが、僕がVtuberになるきっかけをくれたのはソレイユさんでした。みなさんご存知だと思いますので説明ははぶきますが、すごく人気者で優しい先輩です。彼女が僕のことを見つけてくれたから、こうして皆さんの前でお話できたと言っても過言ではないと思います」


 僕がそう言い終わると、コメント欄にソレイユさんがピースマークをひとつだけ投稿したのが見えた。それが僕にはエールに思えて、『ソレイユさんに見守ってもらっているんだ』と心強く感じながらも言葉を続ける。


「YOUという歌い手はもういませんが、応援してくださった皆さんの温かいコメントは忘れません。今後は歌音ゆうひとして引き続き歌っていきますので、よろしくお願いします」


 ペコリと軽く頭を下げると、画面上のゆうひちゃんも一緒の動作をしていた。その姿に『かわいい』『頑張れ』という肯定的なコメントが大多数だけど、『またすぐ辞めるんだろ』みたいな悪口とかからかいみたいなものもポツポツと投稿される。そう思われても仕方がないし、いくら口で続けるって言ったところで説得力はないだろう。私の活動で信頼を作っていかないと。


 紅蓮丸:ということは、基本的に歌を歌う配信をやっていく感じ?


「ちょうどいい質問をいただきました。配信では最後に歌を歌わせてもらう感じで、ゲームをプレイする配信とかアニメの同時視聴とか色々なことをやっていくつもりです。アニメの同時視聴は色々な方がされていますが、同じように視聴されるみなさんの録画したりにっこり動画みたいな公式が認めた配信サイトとかで観ていただく形になります」


 ししまる:さすが企業勢、著作権対策も万全だな


 くるみ:著作権といえば歌の方はどうなの?


「個人で活動していた時も気をつけていましたけど、ちゃんと権利を持っている人に許可をもらってから歌わせてもらう予定です。そこは事務所がお手伝いしてくださるそうです」


 みみかき:ちゃんと著作権に配慮しててえらい


 僕が説明すると、すぐにコメントで褒めてもらえた。達也もずっと同じこと言ってくれていたけど、やっぱりルールを守るのって大事なんだなぁ。こうして他の人を反応を改めて見ると、そんな気持ちが湧き上がってきた。これからもちゃんとやっていかなくちゃ。


 好感と非難のコメントが8対2ぐらいだった自己紹介が終わって、あとはSNSや配信内でファンの人をどう呼ぶかの話し合いだ。募集した結果、ファン全体を保護者と呼ぶことになった。『保護者のみなさん』とかPTAみたいだけど、投票で決まったのだから仕方がない。そして男性ファンを『おにいちゃん』、女性ファンを『おねえちゃん』とそれぞれ呼ぶことに。自分が男性か女性かをこちらに知らせるために、ユーザー名の後ろに男性なら◯で女性なら◎を付けることになった。僕はほとんど発言できなかったんだけど、会議とか慣れてるのかな? ファンの人が仕切ってくれて、サクサクと決まっていったのは見ててありがたかった。


リスナーの反応をコテハンで書いてみましたが、もしかしたら違う方法にするかもです。

ひとつずつ考えるのが大変すぎる(汗)

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