38――秋葉原へ
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「あーきはーばらー!」
本当に久々に降り立った秋葉原の駅前で両手を広げながらそう言うと、スマホを構えながら僕の周りを回っていた小太りな男子が満足そうな表情で親指を立てた。
「素晴らしいですぞ、優希ちゃん。まるであのアニメのヒロインがこの場にいるかのようでござった」
「そ、そう……?」
テンション高く言う彼に、僕はちょっと顔を引きつりながらもなんとか返事をした。彼が言うにはとあるアニメのヒロインがアニメとかゲームが好きなキャラで、お兄ちゃんといっしょに秋葉原に来た時に言うセリフなんだって。本当は僕と真奈と達也の3人で秋葉原に来る予定だったんだけど、達也が突然前日に彼を連れてきたいと僕らに言ってきたんだよね。
「俺たちはアニメやゲームの知識は親父のおかげでそれなりに持ってるけど、Vtuberについてはそこまでは知らないだろ? 学校の友達に俺たちよりは詳しいやつがいるから、連れて行って意見を聞こうと思うんだがどうだろう?」
知らない人と一緒に出かけるのは緊張するけど、その人は特に乱暴な振る舞いをしたりしない人らしいし。初対面でも誰とでも距離を詰められる真奈は全然悩まずに快諾してるし、これが僕とその人の一対一なら断っていたけどふたりも一緒にいてくれるなら大丈夫かなと思ってOKしたんだ。
当日会ってみたら喋り方はちょっと変だけど、普通に話せるし嫌なことも言わない人だったのでちょっとホッとした。次郎丸久志、ほんのちょっと小太りな感じだけど物怖じせず話しかけてくるオタクな人というのが第一印象だった。
「じろさん、さっきも言ったけどその動画は誰かに見せびらかしたりしないでね。ネットにアップするとか絶対にしたらダメだよ」
「も、もちろんでござるよ。こんなお宝映像、子々孫々家宝にして保存すべきもの。あ、ただ拙者の親友にだけは見せるだけはしてもよかろうか?」
両手の手のひらを合わせて懇願してくるじろさんに、僕は『変なことに使わないなら』とその人にだけは見せてもいいと許可を出した。ちなみにじろさんとは彼のあだ名で、学校でも『じろ』とか『まる』とかそういう風に呼ばれているらしい。真奈は『じろくん』と呼ぶことにしたみたいだけど、僕の設定年齢は中学生なのでさん付けにしてみたのだ。最初は敬語で話していたんだけど、タメ口で話して欲しいとお願いされたので遠慮なくそうしている。
「……そろそろいいか、周囲からの視線もいい加減うっとうしいし移動するぞ」
「了解でござる、達也どの」
ため息をつきながら言う達也に、じろさんはビシッと敬礼しながら返事をした。なんだろう、達也って学校では怖がられているのかな? 全然優しいし、いいヤツなのに。
「まぁ変なことして目立っちゃったし、移動しようよ」
すぐそばに立っていた真奈に僕がそう言うと、真奈は意味深に笑って『目立ったのは優ちゃんがかわいいっていうのもあると思うけどね』と小さく僕の耳元で囁いた。何を言っているんだろう、もしも容姿で注目されていたとしたら、絶対に真奈のせいだと思うけどね。あと考えられるのは、今日は真奈の提案で双子コーデみたいな感じで、スカートタイプのサロペットを色違いで真奈といっしょに着ているからそういうのも見られる理由にはなっているような気がする。
はぐれないように真奈と手を繋いで、たくさんの人たちの中を泳ぐように移動する。最初のお店はBTOパソコンのお店で、先に地図で場所を確認させてもらったから僕たちが先でも迷うことはなさそう。目的地が決まってるんだし、もし達也たちとはぐれても後で合流できるだろうし気は楽だ。
「それにしても達也どのも人が悪い、こんな美少女ふたりに囲まれて育ったとは」
「…………」
後ろからそんなことを呟くように言うじろさんの声が聞こえたけど、達也は特に何も返事をしなかった。僕としては女子になったのは最近なので達也を擁護してあげたかったけど、さすがにそれは絶対に言えないからね。まぁでも真奈は間違いなく美少女だし、彼女と幼なじみなだけで他の男子に羨ましがられるのはある意味当然だし理不尽に妬まれるのも仕方がないのかも。あんまり言うと僕にもブーメランになるだろうから、まったく聞こえてない顔をしてお口チャックしておこう。
「言っておくが学校でうっかりこのことを漏らしたりしたら、お前も嫉妬される側になるんだからな」
「それは承知のうえ、安心めされよ。まだ少し会話しただけで言うのも憚られるのだが、優希ちゃんは拙者の最推しになるのは間違いなし。拙者のようなオタクにも優しくかわいい、リアルアイドルでもいけそうな容姿でござるからな」
「……優希のおじさんが心配して、ようやくVtuberになるって話でまとまったんだ。今さらかき回したりはするなよ」
「御意」
背後の男子ふたりの会話は、僕に聞こえているということは当然ながら真奈にも聞こえている。じろさんが『御意』と言った途端に、真奈が小さく吹き出した。
「変な会話してるね、後ろ」
「じろさんの口調が変わってるから、余計に不思議な会話に聞こえるよね」
真奈の言葉にそう返事をすると、彼女はまるで母親のような母性に満ちた表情で微笑んだ。なにか変なことを言ったかなと思いつつ小首をかしげる。
「優ちゃんはそのまま優しい気持ちを大事にしながら、大きく育ってね」
「意味がわからないし、そもそも僕たち同い年でしょ」
達也たちよりお互いの距離が近く小声で話しているので、ほぼ間違いなく僕たちの会話は後ろのふたりには聞こえていないはずだ。ほんの少しぶっちゃけた言葉を言うと、真奈は何やら疲れたような表情で重たいため息をついた。
「私とかいおりんたちは言わないけど、じろくんみたいな話し方は一般的な同い年の女子だと『キモい』で一刀両断なんだよね。そこでバッサリいっちゃうと相手のことを知る前に切り捨てることになるから本当はイヤなんだけど、空気を読んで合わせないといかない時もあるし」
「……真奈も苦労してるんだね」
「他人ごとみたいに言ってるけど、優ちゃんも学校に通いはじめて友達ができたら多かれ少なかれ同じような経験するんだからね。でもそういう時も優ちゃんは今みたいな対応ができる素敵な女の子であってほしいなっていう、私の勝手なわがままだから気にしないで」
真奈の言葉を聞いていると、生粋の女子である真奈だと逆らえない場の空気みたいなものがあるのかもしれない。最近女子になった僕だからこそ、空気読めない振る舞いができる場合もあるだろうしね。どこまで彼女の期待に応えられるかはわからないけど、いつだって僕らしくいられるように心がけたいものだ。
ショップをいくつもハシゴして、途中でフラフラになりながらも色々なアイテムを買い集めた。さすがに量が多くて重たいのでお店で配送を頼めるものはお願いして、細かいものは宅配便の営業所で段ボールや梱包材を買って送ってもらうことにした。途中でお茶して休憩したりお昼ごはんも食べたけど、全員が疲労困憊だったのでカラオケ屋さんで休憩することになった。
「……歌うっま」
歌を歌える機会は絶対に逃さない僕がテンションをあげて歌を歌い出すと、奇妙な口調を忘れたかのようにじろさんがポツリと呟いた。ふふふ、ボイトレをはじめて少し上手になった僕の歌を食らうがよい。聞き慣れているはずの達也と真奈も僕の上達ぶりに驚いてくれて、褒めてくれたのがかなり嬉しかった。これからも頑張って練習しようっと。




