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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第二章

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37――大切な幼なじみ

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


「……あの、ササミさん?」


 少し半身になって後ろを見上げると、特に表情を変えずにササミさんが僕の頭を優しく撫でていた。本当になんでこうなったのかはよくわからないけど、軽く手招きされたから何気なく近づいたら膝の上に載せられて、それからずっと頭を撫でられたり背中をぽんぽんと叩かれたりしている。


 そろそろ10分が過ぎようとしているので、助けを求めても大丈夫だろう。あんまり彼女の機嫌を損ねるのもよくないかなと思ってじっとしていたんだけど、さすがにこの状況は謎すぎる。これ男女逆だったら事案だよね。特にセクハラされてるとかではないけど、僕の居心地が悪すぎる。


「ん……なに?」


 僕の問いかけに気だるげな感じに返事をしたササミさんだけど、特に表情に変化はない。どういう意図での行動なのかわからずに首をかしげていると、僕たちの様子を見ていた鳳さんがクスクスと笑った。


「YOUさんのこと、気に入ってくれてよかったわ。これでアバターの使用は問題ないわね」


「……うん、礼儀正しいし他人を思いやることもできる。YOUはいい子」


 叔母と姪で通じ合っている様子は見ていて微笑ましいけど、なんで認めてもらえたのかは正直よくわからない。だって僕、ただササミさんの膝に座って話をしていただけだからね。


「優ちゃんって、小学校4年生ぐらいまではこんな感じで人の懐に入り込むの上手だったよね」


「ああ、確かにそうだったよな。中学に入るぐらいまでは男女関係なく人気者だった」


 何やら感慨深げに真奈と達也が呟いていたけど、僕には全然そんな記憶はない。遊ぶのは真奈と達也のふたりが主で、そこに時々他の子が加わっていたような印象はあるけど。もしも僕が人気者だったとしたら、あんな風にポツンな中学時代は送ってないと思うんだけどね。ふたりの記憶は絶対に改変されてると思う。


 まぁ過去のことなんて今さらどうしようもないので、現在のこの状況をなんとかしないと。緊張しているからか、ササミさんのふとももと僕のふとももの裏が密着している部分がしっとりと汗ばんできた気がする。


 びっしょり濡れることはないだろうけど、ササミさんの服を汚しちゃったら申し訳ないもんね。そう思って僕が彼女の膝の上から立ち上がると、どこか寂しそうな表情でササミさんが僕のことを見ていた。うーん、膝の上に座り込んだネコがいなくなった時の寂しさみたいなものなのかな。間違いなく僕はネコより体重があるんだから、ササミさんの足が痺れる前に移動できて個人的にはよかったと思う。だけどそういう風な表情をされると、ちょっとだけ罪悪感を覚えてしまうというか……まぁ、全部僕の勘違いの可能性が高いんだけどね。


「新衣装を作るときは、遠慮なく言ってくれたらいい。最優先でデザインするから」


 厚意からかササミさんがそんな風な申し出をしてくれたんだけど、まだVtuberとしてスタートラインにすら立ってない僕には遠い未来の話にしか聞こえない。でもせっかく言ってくれたんだし、にっこり笑って『ありがとうございます』とお礼を言っておいた。どうやらその行動は正解だったみたいで、基本的に無表情な彼女の口元が僕のお礼でちょっとだけほころんだ気がした。


 理由はよくわからないけど、信頼してもらったならそれを裏切らないようにしっかりと頑張らないとね。ササミさんとの対面の後で受けた初期研修を受けたんだけど、僕自身は全然誰かを傷つけたりするつもりはないのに他の人がそう受け取らないことってままあるらしいから。


 ちなみにその初期研修は鳳さんにお願いして、達也と真奈も一緒に受けてもらった。今回は外部の人じゃなくてすとりーむらいぶの社員さんが先生役だったから全然ウェルカムだったけど、外部の先生が講師の時は所属タレントだけで受けてほしいとお願いされてしまった。それはそうだよね、社員さん以外の人に授業をしてもらうなら講師料が人数分必要になるだろうし。言い方は悪いけど僕の幼なじみっていうだけで部外者なふたりを参加させるというのは、会社としてはちょっと難しいんだろうね。


 そう僕が納得しかけた時、真奈が社員さんに向かって『はい!』と元気よく手を挙げた。突然どうしたんだろうと僕が驚いていると、真奈がにっこりと僕の顔を見てから口を開いた。


「例えばなんですけど、私たちが正式にYOUちゃんの配信をお手伝いするスタッフになった場合ってどうなるんですか? 今後の研修って受けさせてもらえるんでしょうか」


「……基本はタレントのみなんだけど、どうなのかな。YOUさんが希望するなら、受け入れる余地はあると思うけど」


 真奈の質問は社員さんも意外だったようで、何かを考えるみたいに空中に視線を彷徨わせながらそう答えた。配信スタッフと一言で言ってもボランティアなのか、それとも金銭が発生するのかどうかとか色々と細かい条件も関わってくるみたいだ。僕としてはお手伝いしてもらう気満々だったけど、確かにふたりの時間を僕のために使わせてしまうのだから報酬は必要になるよね。


「まずは収益化を目指さないとね、YOUさんだって収入がなければふたりにお給料も支払えないし」


 そう言ってから講師役の社員さんが、資料を持ってくるのを忘れたとのことで席を外した。思いがけず部屋の中に僕たち3人だけのタイミングができたので、ふたりに深々と頭を下げた。


「ゴメン、ここまでの付き添いとか色々してもらったのに全然お礼とかしてなかった。でも別にふたりを軽く見てるわけじゃなくて……」


 どれだけ言い訳を重ねたところで、僕がふたりを軽く扱ったことは覆せない。僕なんかの配信を見てどれだけの人にファンになってくれるのかはわからないけど、配信で収入がもらえるようになったらちゃんとお礼をするって約束しておこう。ふたりのリアクションが予想できなくてうつむきつつぎゅっと目をつむっていると、頭の上から重たくて長いため息が聞こえてきた。ふたりは大事な幼なじみなのに怒らせちゃったのかな、と悲しくなって反射的に目の奥が熱くなり、じわりと涙で瞳が潤む。


「優希さぁ……お前カラオケ行きたい時とかこっちの都合も考えずに呼び出すぐらい横暴なヤツなのに、いつの間にそんな風に気を遣う人間になったんだ?」


「たっちゃん。優ちゃんは基本的に歌のことに関してはわがまま放題だったけど、それ以外のことでは以前まえから過剰なぐらい周りに気を配る子だったよ」


 普段のテンションと変わらないふたりの声におそるおそる顔を上げると、苦笑する達也といつも通りの温かい笑顔を浮かべている真奈が僕を見ていた。怒ってはいなさそうだけど、何故そんな困った子を見るような視線を僕に向けるんだろうと少しだけ不思議に思って小首をかしげる。


 目尻に浮かんだ涙を真奈が親指で拭ってくれて、歪んでいた視界が元に戻った。


「ねぇ優ちゃん? 中学の時に私が変な人に学校からの帰宅時間にずっと付きまとわれてた間、解決するまで毎日一緒に下校して家まで送ってくれたよね」


 突然の思い出話にちょっとだけ面食らいながらも、こくりと頷いた。犯人がわかるまでの数ヵ月だったけど、確かに真奈と毎日いっしょに帰っていた。達也は部活で忙しかったから、基本的に僕とふたりだけでの下校だった。何故か登校時には姿を見せなかったストーカーのことを不思議に思っていたんだけど、朝早く起きられなかったのと家が遠かったからという単純な理由だったんだよね。


 犯人は僕たちより一学年上の先輩で真奈に好意を寄せて付き纏っていたらしいんだけど、気持ち悪く思わせた時点で作戦としては台無しだよね。偶然を装って話しかけるとか真っ当なやり方をすればいいのに、ただ単に後をつけてくるだけで何もアクションを起こさないんだからそりゃあ不審に思われるよ。本人に言わせると一緒にいる僕が邪魔だったらしいんだけど、僕がいなかったとしてもあの先輩の性格だと正攻法は無理だったんじゃないかな。


「ああして寄り添ってくれたこと、すごく心強かったし感謝してる。でも私、クッキーをあげたぐらいで優ちゃんにお礼してないよね?」


「あれは僕がやりたいことを勝手にやっただけだから、お礼なんていらないよ。手作りしてくれたクッキーも美味しかったし、それで十分」


「私たちもおんなじだよ。前にも言ったけど優ちゃんに付き添ったりお手伝いしたりしてるのは、私たちがやりたいからやってるだけだからお礼なんて考えなくていいの。もしも配信をはじめて優ちゃんの収入がたくさん増えたとして、例えばご飯をいっしょに食べに行くとかそういうので私たちは十分嬉しいんだよ」


 長い付き合いだから真奈が本音で言ってくれているのが感覚でわかる、それだけでまたジワッと目の奥が熱くなって涙が溢れてきた。そんな僕の様子を見て、達也が後頭部を軽く掻きながら口を開いた。


「これから買う新しい機材を触らせてもらえれば、俺にはそれで十分お礼になるぞ。なんならレビュー動画とか撮る時に手伝ってもらえるともっとありがたい。金のやり取りのせいで長い付き合いがあっても関係がおかしくなった話なんていくらでも聞いたことがあるし、そんな風になるぐらいなら労働力で返してもらった方がありがたい」


 達也は冗談めかしてそう言ったけど、お金を介した関係って本当に難しいよね。ふたりの話を聞いてもっと慎重に考えるべきだし、お金のせいでこの大事な幼なじみたちを失ってしまったら目も当てられない。せっかくだから今はふたりの気遣いに甘えて、僕にできることを積極的にお手伝いして返していくことで話がついた。今後お金を渡してもおかしくない場面、例えば結婚式のご祝儀とかそういうのを多めに渡すとかで考えよう。


 話が一段落してしばらくすると講師の社員さんが戻ってきて、研修が再開された。よかった、泣いてるところを見られなくて、軽くメイクを直して目の周りが赤くなったのを隠してくれた真奈に感謝だね。


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