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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第一章

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33/50

31――収録開始

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


 モニターに映る女性は、大学生か働き始めたばかりの新社会人ぐらいの年齢に見える。自己紹介の時はキリッとしていたのに、現在はまた僕を見ながら表情を笑み崩しているので少しだけ幼気な雰囲気があった。


 僕も自己紹介して自分が『YOU』であることを告げると、それを聞いたソレイユさんがうんうんと満足そうに頷いた。


「やっぱりサイズ的にも雰囲気的にも、メイド服が正解だったね。今度YOUちゃんのサイズに合ったディアンドル衣装もプレゼントするから、ぜひ着た姿を私にも見せてね」


「き、機会があれば……」


 今回このメイド服を着たのは、ソレイユさんのお誘いを受けた以上は僕もちゃんと指示されたことはやらなきゃと思ったからだ。確かに普段は着ない服を着たりちゃんとしたメイクをしてもらったことはちょっとだけ楽しかったけど、わざわざプライベートで別の衣装を着て見せびらかす気にはなれない。


 でもこれから1対1でお話しないといけない人だし、録画された映像を見たソレイユさんのファンの人たちが僕のことを『なんだよこいつ』とか『生意気なガキだな』とか思われて低評価されたら迷惑をかけてしまう。ソレイユさんには僕の歌ってみた動画を広めてもらった恩もあるしきっぱり断るのは気が引けたので、こういうはっきりとしない返事で有耶無耶にすることにした。


 そんな僕の気持ちをわかってくれたのか、ソレイユさんはそれ以上この話題を深追いすることはなかった。それにホッとしていると、僕の前に鳳さんがホッチキスで止められた数枚の資料を置いてまた後ろに下がる。


「今日どんなことをするか、一応資料にしておいたんだ。セリフとかも特に決めてないから、自由にしゃべってもらって大丈夫だよ」


 こういう配信に不慣れな僕のために余裕を持たせてくれたんだと思うんだけど、僕はあんまりアドリブって得意じゃないような気がする。ただ『こういう質問をするかも』という項目を作ってくれてるから、心の準備はできそうだ。あとは注意事項にも書いているようにテレビで禁止されている『放送禁止用語』とか、誰かを傷つけるような言葉を言わないように気をつければなんとかなりそう。


「生の配信だとそういう言葉を使っちゃうと取り返しがつかないけど、今日は録画だからね。もしYOUちゃんが間違えてそういう言葉を言っちゃっても、編集でどうにでもなるから。リラックスして、私と楽しくおしゃべりしようね」


「……はい、よろしくお願いします」


 僕を気遣って殊更楽しそうに言うソレイユさんに、僕はペコリと頭を下げた。簡単な流れとしては『オープニング→自己紹介→質問コーナー→ゲームコーナー→歌のコーナー→エンディング』と続くらしく、歌のコーナーを作ってくれているのが個人的には嬉しい。ソレイユさんのチャンネルは登録しているファンの人がたくさんいるので、より多くの人に自分の歌を聞いてもらえるのはすごくワクワクする。


「権利の問題もあるし、私の持ち歌でもいいかな? 途中で休憩を挟むから、その時に聞いてある程度覚えてもらう感じで。もちろん歌詞カードも用意するから」


「はい、大丈夫です。むしろソレイユさんの持ち歌を歌わせてもらえるなんて、すごく光栄です」


「イヤだったらいいんだけど、私も一緒に歌ってもいい?」


「全然大丈夫です、ソレイユさんと一緒に歌えるの嬉しい」


 ソレイユさんにおずおずとそう聞かれたんだけど、別にひとりで歌うことにこだわりはないのでそう返事をした。誰かといっしょに歌うのも楽しいよね、真奈と達也はいつからか一緒に歌ってくれなくなっちゃったけど。また今度誘ってみようかな。カラオケでも順番を譲ってくれるから僕ばっかり歌ってるけど、それを聞いているだけだと退屈だと思うし。


「YOUちゃん、本当にかわいいなぁ。今度一緒にカラオケしに行こう。お姉さん、おごっちゃう!」


「はいはい、まだそこまで親しくないのに直接会おうとしないの」


 現実で直接会うのってこの業界ではオフコラボって言うんだよね、今日のために色々と専門用語をネットで調べておいたからわかる。そんな風に専門用語に変換できたことを内心でドヤ顔していたら、鳳さんがいつの間にか隣にいてカメラに向かって呆れたようにそう言った。


「なんでー? いいじゃん、女の子同士なんだし」


「最近は同性同士でもファンの目は厳しいのよ。ソレイユが燃えるのは自業自得だけど、事務所まで延焼したらどうしてくれるの?」


 あ、これもわかる。炎上って言うんだよね、VTuberだけじゃなくてSNSでも不用意な発言でみんなに注目されてるっていう話をよく聞く気がする。僕もネット上に動画をアップしている身、発言とかには気をつけよう。


 まるで姉妹みたいにポンポンと軽い感じで言い合うソレイユさんと鳳さんの会話を聞きながら、僕は心の中で改めてそう決意した。ふたりのじゃれ合いが終わると、いよいよ収録が始まるみたいだ。準備をして鳳さんが配信用のアプリを立ち上げると、ラジオブースみたいな背景とソレイユさんとウサ娘のアバターが表示された。


「それじゃあ、5秒前。よん、さん、にー」


 自分の席に座った鳳さんがカウントダウンを始めたのを聞きつつ、目の前のwebカメラを見つめる。あれ? カウントダウンが途中で止まったけど何か問題なのかなと思っていたら、突然ソレイユさんが話しだした。後で聞いたら、カウントダウンの音声が収録した映像に入らないようにする配慮なんだって。テレビ番組とかでも使われているテクニックだそうだ。


「みんなー、こんひな! 日向ソレイユだよ。今日はリアルタイム配信じゃなくて、動画での配信です。コメント欄にリアクションとか感想を残しておいてもらえると嬉しいな」


 詰まることもなく話し出すソレイユさん、僕だったら絶対何回か噛んでそう。僕の緊張した表情がウサ娘のアバターにも反映されているみたいで、無表情で固まっていた。僕がほっぺをむにむにと撫でるように揉むと、アバターもまったく同じ動作をした後にっこりとかわいく笑う。結局は僕自身の動作なんだけど、なんだか励まされたような気がして緊張が少しほぐれた気がした。


「隣でかわいい仕草をしてくれているのは、本日のゲスト。にっこり動画にて歌ってみた動画で活動している歌い手、YOUちゃんでーす」


「みなさんはじめまして、YOUです。よろしくお願いします」


「えへへへへ。YOUちゃんのアバター、めちゃくちゃかわいいでしょ? 運営さんがゲスト用に作っていたらしいんだけど、長らく放置してたみたい」


「私が最初に使っちゃってごめんなさい」


 ソレイユさんが事情を説明してくれたので、僕も一応ペコリと頭を下げて謝っておく。


「リアルのYOUちゃんもかわいい。すごくおしゃれしてるね、その格好で家から来たの?」


「スタッフの人たちがメイクして着せてくれたんですけど、変ですか?」


「ううん、全然! YOUちゃんの着せ替え、私も参加したかった!!」


 大きな声でニコニコしながらそんなことを言うソレイユさん、というかこの格好はソレイユさんのリクエストだったのに。いくらクラシック調でシックな感じとはいえ、メイド服でウチからここまで来る勇気は当然ながら僕にはないです。


 もしかしたらツッコんだ方がよかったのかな、『これソレイユさんのリクエストじゃないですかー』とか。まぁ反省会は後にしよう、気がそぞろだともっと変な失敗しそうだし。


 その後は僕が歌を歌い始めたきっかけとか、にっこり動画に自分の歌声をアップしはじめた理由とかインタビューみたいな感じで話が進んでいく。幼なじみのお兄ちゃんとお姉ちゃんに勧められたことを言ったところで、背後で真奈と達也が身じろぎした気配を感じた。どちらかというと達也は巻き込まれただけで、真奈がきっかけだった気がしないでもないけど。


 僕の視線の動きとかもアバターにそのままトレースされちゃうので、あんまりよそ見とかもできない。ただソレイユさんのアバターはすごいニッコニコ笑顔なので、うまくできていると思うことにしよう。


 趣味とか好きなものとかまるでお見合いみたいな話題で雑談をした後、一緒にゲームをしようと誘われてスムーズな流れでゲームコーナーへ移行した。遊ぶのは僕が生まれるもっと前からシリーズが続いている、『マーリオット・ゴーカート』というレースゲームだ。マーリオットはゲーム機を作っている六天堂りくてんどうというメーカーの色々なゲームに出演している、いわゆる看板キャラクターだったりする。


 他にもよく拐われて囚われてしまうペチコート姫とか、マーリオットの弟のルートジジや仲間のエノキットなど様々なキャラクターが登場して自分が操作するキャラとして選べる。僕はあんまりゲームをしないんだけど、小学生の頃に真奈や達也といっしょにこのゲームの何作か前のバージョンを遊んだことがある。だから操作方法はわかっているし、勘さえ取り戻せば勝てる可能性だってありそうだ……そんな甘いことを考えていた時期が僕にもありました。


「ひゃっ!?」


「フヒヒ、YOUちゃんの悲鳴かーわいい」


 赤い亀の甲羅が全然考えていない方向から飛んできて、思わず僕は悲鳴をあげた。どうやらその亀を投げたらしいソレイユさんが、変な笑い方をしながら僕をあっという間に追い抜いていく。


「ぐぬぬ、煽り運転はんたーい!」


「あ、YOUちゃん。そこ落とし穴あるよー」


 同じラインを走っていたはずなのに、何故かソレイユさんが通り過ぎた後でポッカリ地面に穴があいた。なんて初見殺し、穴に落ちて行く僕のマシンを見ながらソレイユさんはまた声を抑えずに爆笑していた。まぁ色々あったけど、結局ソレイユさんにはボロ負けだったよ。ソレイユさんは1位で僕は6位、悲しいかな壁にぶつかったりコースアウトしたり散々だったからこの結果も仕方がない。またこのゲームをプレイする機会もあるかもしれないし、暇な時に練習しておこうっと。


 ゲームコーナーが終わったところで休憩になったので、お手洗いと水分補給を済ませてスタジオに戻る。鳳さんからソレイユさんの持ち歌である『ひまわりスマイル』の音源を渡されたので、イヤホンを耳に入れて曲を何度か聞く。ポップなアニソンみたいな感じなので、僕としても馴染みやすい。歌詞カードも一緒に渡されたので、目で文字を追いながら耳から聞こえてくる歌声に集中する。


 3周して大体曲の流れはわかったので、『試しにちょっと歌ってみてもいいですか?』と鳳さんに確認。こくりと頷いてくれたので、ソレイユさんの歌声に合わせて歌ってみた。本当なら立ってリズムを取りながら歌うのが好きなんだけど、今日はソレイユさんとのデュエットだし僕だけが目立てばいいというものではないからね。


 歌い終わると鳳さんも含めた全員が拍手してくれた、どうやら合格点をもらえたみたいだ。お手洗いで席を外していたソレイユさんが戻ってきてからパート分けを決めて、歌パートの収録を始める。


 ソレイユさんも楽しそうに歌っていて、すごく楽しかった。動画を見てくれたみんなも気に入ってくれたらいいな。


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