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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第一章

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32/50

30――真奈たちと合流してスタジオへ

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


 他の社員さんは業務があるということでお礼を言って途中で別れて、僕と鳳さんのふたりで真奈たちが待つ休憩室へ移動する。


 いつもの歩き方だとスカートの揺れが気になるので、できるだけおしとやかな感じで歩いている。それがよりメイド感を高めているみたいで、すれ違った複数の社員さんたちが『なんでこんなところにメイドが?』みたいな感じに僕を二度見するのがちょっと面白かった。


 鳳さんが壁にある機械に社員証をピッと当てると、自動ドアだったのか勝手に扉がスライドする。先導されて中に入ると、ちょっとしたカフェと言っても通用するぐらいにおしゃれな椅子とテーブルがいくつもセッティングされていた。隅っこにはペットボトルの自販機とコーヒーを豆から挽いて淹れてくれる機械が置かれていて、その隣にはクッキーなどの軽く摘めるお菓子とかコーヒーに入れる砂糖やミルクなんかも併せて用意されている。至れり尽くせりだね。大きな窓からは外の景色が見れて、仕事の休憩にはもってこいの場所だろう。


 さて、3人はどこにいるのかな? グルっと休憩室の中を見回してみると、窓際の席に座っているのが見えた。長く待たせすぎてしまったのか、ちょっと待ちくたびれている雰囲気をひしひしと感じる。申し訳なく思いながらゆっくりと近づくと、最初に気づいたのは女子ふたりの会話に参加せずにボケーっと窓の外を眺めていた達也だった。窓に映った僕の姿を見たのか、すごくびっくりした様子で勢いよくこちらの方に振り向く。


「おまっ……なんでメイド服なんて着てるんだ!?」


 他にも人がいるからか、語気は強いものの常識的な声の大きさで達也が僕に聞いてくる。まぁそういう反応になっても仕方ないよね。僕も逆の立場で達也が急にメイド服を着て現れたら、同じようにびっくりして『一体何があったんだ』と問いただすだろうし。


 達也の声にふたりでおしゃべりしていた真奈と伊織さんも、僕の方に視線を向けた。それと同時にパァッと表情が明るくして、『新しいオモチャを見つけた』みたいな感じに真奈が笑った。


「えーっ、どうしたの優ちゃん!? すごい本格的なメイド服、かわいいー!!」


「すごくかわいい。似合ってるよ……優ちゃん」


 僕の服装を見てテンションがギュンギュン急上昇している真奈と、いつも通りのクールな感じだけど表情がちょっと楽しそうな伊織さん。さっき別れるまでは優希ちゃん呼びだったはずなんだけど、急に優ちゃんって呼ばれて思わず小首を傾げてしまった。ああ、なるほど。僕が歌い手のYOUって名乗っているから、不特定多数の人に本名バレしないように気遣ってくれたのだろう。


「えっと……これからも、優ちゃんって呼んでもいい?」


「はい、大丈夫です」


 続けての問いかけに僕が頷くと、緊張していたのか伊織さんの肩の力がスッと抜けたような気がする。別になんて呼んでくれてもいいのに。僕の周りで『優ちゃん』って呼ぶのは、同年代では真奈だけだからね。あとは達也と真奈のおじさんとおばさんぐらいかな?


「それで、優。なんでお前その、メイド服なんて着てるんだ?」


「ソレイユさんのリクエストなんだって」


 どこか照れくさそうにしながら僕を『優』と呼んで重ねて質問してきた達也に、僕は端的に答えた。というか、それ以外に答えようがない。


「ソレイユさんの? 確か彼女は今日ここには来ずに、自宅からリモートで参加するって話だっただろ?」


「うん、そうらしいよ。僕があのうさぎっ娘のアバターで動画に参加するのも間違いないって」


「どういうことなんだ? もしかしたら撮影の前にテレビ通話で、ちょっとした挨拶でもするのか? でもそれだけのために衣装を用意して着替えさせるはずは……」


 首をひねりながら推論を呟く達也が、答えを求めて僕の傍らにいる鳳さんに視線を向ける。すると彼女は小さく微笑んで、『最初に軽く挨拶と打ち合わせをすることになっている』と答えてくれた。なるほど、確かに今日の配信の流れとかの打ち合わせは必要だもんね。


「なるほど。しかし優……お前、それを着るのに抵抗感とかないのか?」


 達也が困った表情でそう尋ねてきたので自分の格好を改めて見直すと、たしかに一見するとフリルが多めで元男の僕が着るには可愛すぎるきらいがある。ただこのフリルのほとんどはエプロンのものなので、これとヘッドブリムさえ外してしまえばシックな黒ワンピースになることを教えてあげた。黒いレースで多少はフリルが付いているけど、白レースよりは全然主張しないし目立たないから僕としては全然アリだと思う。


 そんな僕の説明を聞いた達也が、『お、おう……』と小さな声で困惑したように漏らした。もしかしたら『元男の僕』がメイド服を着ることに抵抗感はないのかという意図からの質問だったのかもしれないけど、そんなの本当に今更な話だ。女子になってからもうずっと、下着も服も女性用なんだからね。よっぽどのキワモノデザイン以外なら、もう何を着てもほとんど動じなくなった僕なのだ。ごめん嘘、ちょっと恥ずかしいけど我慢できないほどではないに訂正させてほしい。


 真奈が生地の触り心地を確認しようと手を伸ばしてきたけど、さっきその手でクッキーを直掴みしてただろうに。『借り物だから汚したくない』と言って身をかわすと、真奈は汚いもの扱いに不満げな表情を浮かべつつもそれ以上は触ろうとしなくなった。後でフォローしておこう、別に僕としても真奈が汚いだなんて思ってないからね。粉とか油とかそういうのを避けただけなのに、誤解させるのはかわいそうだ。


 そんなやり取りをしていると、鳳さんが『そろそろ移動を』と促してきた。達也たちは『やっと移動か』みたいな雰囲気だけど、僕は全然休めてないしそもそも椅子に座ってもいない。もうちょっと休憩時間がほしいと鳳さんに遠回しにお願いしてみたけど、わざとらしくスマホの時計を見て『ちょっと時間が微妙なので』と申し訳なさそうに言った。


 どういう予定になっているのかは知らないけど、大人の人にそういう風に言われてしまえば僕としては従わざるを得ない。だって僕のわがままでソレイユさんに迷惑を掛けちゃったらと思うと、せっかくお招きしてもらったのに申し訳ないもんね。僕たちはほとんど見学ついでに遊びに来ているぐらいの感覚だけど、ソレイユさんや鳳さんにとってはお仕事なんだし。


 着替えやメイクで気疲れした体を『よいしょ』と気合で動かして、みんなで8階へと向かった。この階にはスタジオがあってフル3Dモデルを全身で動かす時に広い場所が必要とのことで、中会議室ぐらいの大きさのメインスタジオがひとつ。そして他のVtuberとのコラボなどで利用できる、ラジオブースぐらいの大きさのサブスタジオが4つあるらしい。


 パソコンとか機械への依存が高い仕事だから、不測の事態への備えはしておく必要があるんだって。普段の配信は自分の家のパソコンを使うルールなんだそうだけど、機材が故障したりした時に慌てた様子で会社に電話が掛かってきて、『スタジオと機材を貸してください』って連絡してくる所属タレントは意外と多いんだとか。


 今回はサブスタジオの一室を借りることになっているので、鳳さんの後に続いてスタジオの中に入る。中にはパソコンと2つのモニターやゴツいマイクなどが設置された机と、ちょっと高そうなゲーミングチェアがあった。


「優、迂闊にさわるなよ。あのマイクやモニターなんかも、最上級クラスではなくてもそれなりにお高いヤツだぞ」


「き、気をつける。他のはそれほど高くなさそう?」


「いや、あのwebカメラとかは4Kよりも上の解像度で撮影できる機種だ。PCもBTOで売ってる高価格帯のものだが、中のグラボがどれくらいの性能なのかで変わってくる。最低限のグラボじゃ積む意味がないだろうからそれなりの……」


 僕の質問に達也が何やら高速詠唱の如く呟いて答えてくれたけど、何がなにやら全然わからん。最低限グラボっていうのが映像に関する部品だって前に達也に教わったからわかるけど、それ以外は本当にさっぱり。基本的にすとりーむらいぶに所属するVtuberのアバターは2Dのものだから、過剰に高性能なパソコンは必要ないらしい。それでも大は小を兼ねるというか、性能に余裕がある方が突然パソコン自体がフリーズしたりアバターの表示が乱れたりする配信トラブルを未然に防げるそうだ。


「それに機材の世界は日進月歩で、半年もすればもっと高性能なアイテムがどんどん出てくるのよ。だから更新期間を伸ばすために、できるだけその時の最新か少し下のランクのアイテムを使ってるわ」


 サブスタジオの中でパソコンや機材の設定をしていた鳳さんが、どうやら作業が終わったみたいで振り返りながら僕にそう言った。なんか以前テレビでVtuberを特集していた番組を観た時に、自分の動きをアバターに反映するために頭や手にヘッドセットやコントローラーを着けていた記憶がある。でもさっきの鳳さんの言葉じゃないけど、今はそういうのを使わなくても表情とか動きをアバターに伝える方法があるらしくて僕はただそこに座って普通にリアクションすればいいそうだ。その動きをwebカメラが撮影して、パソコンのソフトが処理してくれるらしい。


 パソコンの画面上で微笑むうさぎっ娘のアバターを動かす練習を少しだけやった後、机の端でこちらに向かってちょこんと設置されていた小さめのノートパソコンを鳳さんが操作するとテレビ電話のソフトが起動する。カチカチと何度かクリック音が聞こえた後で、『ピンポーン』とまるで玄関の呼び出しチャイムみたいな音がスタジオ内に響いた。


 素早くゲーミングチェアから立ち上がった鳳さんに、今度は僕が座るようにジェスチャーで指示される。素直に僕が腰を下ろしたのと同時ぐらいに、小さなパソコンの画面にはひとりの女性が映っていた。白いブラウスに薄い水色のスカートを履いた女性が、立ち上がったまま画面を覗き込むようにしている。


『おーい、映ってますー?』


 カメラの前で笑顔で手をヒラヒラと振る女性。僕が答えていいのかな、視線で鳳さんに確認するとコクリと頷いたので僕が『ちゃんと映ってます』と答えた。


「わぁ、リアルYOUちゃんかわいい! しかもリクエストの衣装を着てくれて、すごく嬉しい!!」


 あちらの画面には僕の姿が映っているらしく、そんな風に派手に喜びながらちょっと興奮したように言った。このメイド服は、確かソレイユさんのリクエストだったはず。ということは、この人って……?


「はじめまして、今日はコラボしに来てくれてありがとう。私が日向ソレイユの中の人です」


他サイトですが、カクヨムコンの中間選考通りました。

ひとまずご報告まで。

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