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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第一章

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30/50

28――僕だけ別行動?

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


 4人で話しているとあっという間に時間が経っていて、いつの間にか降りる駅のすぐ近くまで電車が進んでいた。


 やっぱり東京は人が多くて、ひとりだけ身長が少し低い僕がまた人の波にのまれそうになったところで伊織さんが僕の手に自分の手のひらを重ねた。


「……はぐれたらいけないから、手を繋いでおく?」


「あ、ありがとうございます」


 お礼を言いながらも既にお互いの手は繋がれている状態だったんだけど、そんな細かいことはどうでもいいよね。とか思っていたら、そのすぐ後に僕と伊織さんの指がお互いの指の間に入る。これはもしや、恋人繋ぎというやつだろうか。


 真奈とは小学生の頃にこんな繋ぎ方をしたことが何回かあったけど、あんまり手を繋いだことがない人とこんな風に恋人繋ぎをするなんてちょっとドキドキするよね。


 ちなみに僕が男だった頃に、達也とは手を繋いだことはないと思う。男同士で手を繋ぐなんて、多分保育園の時のお遊戯が最後じゃないかな。一緒に遊びに行くこともあったし遠出もしたけど、お互い相手がはぐれたとしても慌てず焦らず絶対に合流できるって信じていたからね。女子ならひとりの時に変な男に絡まれたりナンパされたりが心配になるかもしれないけど、男だったら多少のことはなんとでもなるから。近くを探しても姿が見えなかったらメッセージを送って、次の目的地で合流する感じだった。


 変に立ち止まって他の人の迷惑になったらダメだから、伊織さんと一緒に人の流れに乗って改札の方に歩いていく。時々スリ、と伊織さんが指で僕の指を撫でるようにしてくるのでちょっとくすぐったい。真奈も手を繋ぐと同じようなことをしてくるんだけど、友達同士で手を繋ぐ時にはこうしろみたいな作法があるんだろうか。


「……優希ちゃん、指細いよね。ちゃんと食べてる?」


「普通に食べてますよ。あ、でもこの間体調を崩した時にあんまり食べられなかったので、その時にちょっと痩せたのかも」


 そんなことを話していると、僕たちがエスカレーターに乗る順番がすぐ前まで来ていた。このまま横並びのままだと他の人の邪魔になるので、手を離して伊織さんの後ろに移動しようとしたんだけど何故か伊織さんが繋いだ手を全然離してくれない。


 このまま進んで縦に並んだまま乗ることもできるけど、手を繋いでいると前に立つことになる伊織さんが右ななめ後ろに引っ張られる感じになったらよろけるかもしれないし危ないよね。でもガッチリと手を繋がれたままなのでどうやらこのまま離す気はないみたいだし、もしも伊織さんが後ろに倒れそうになったら僕が全力で支えよう。今の僕は男だった頃と比べるとすごく非力だからちゃんと押し戻せるか心配だけど、僕まで一緒に倒れちゃったらドミノ倒しになって後ろの人たちも怪我するかもしれないからね。


 『ふんす』と気合を入れてエスカレーターに乗り込んだけど、伊織さんはちゃんと空いているもう片方の手で手すりをしっかりと持っていたので、僕の心配を余所に危ないことは起こらなかった。そのまま上まで上り切ったエスカレーターから降りて改札まで歩き、邪魔にならない隅っこのところで待ってくれていた達也と真奈のふたりと合流する。


「あー、いおりんってば優ちゃんと手を繋いでる。私も繋ごうっと」


「……真奈、3人で横並びになると他の人の迷惑になる」


「だったら交代、いおりんはここまで繋いで来たんだからいいでしょ」


「……それを言うなら、真奈はこれまでずっと優希ちゃんと一緒にいたんだから今は私に譲るべき」


 ふたりのJKが言い合うのを通り過ぎていくサラリーマンたちが、不思議そうに眺めながら改札から出ていく。ふたりに挟まれている僕にも、ついでみたいにチラチラと視線が向けられていてすごく恥ずかしい。でもふたりは全然気にしてないみたいだ。多分普段から他人の視線にさらされているから、慣れちゃったのかもしれない。


 僕が言い合うふたりの間で何を言えばいいのかわからずあわあわとしていると、達也が呆れたようなため息をついてふたりの間に入ってくれた。


「真奈、伊織さんも。ここだと目立つし迷惑だから、とりあえず改札を出ようぜ。それに約束の時間まではまだ余裕があるけど、早めに到着しておいた方が優希に対するあちらの印象も良くなるんじゃないか?」


 達也がそんな風に真面目に言うと、真奈と伊織さんもただじゃれ合ってた部分もあったのかすぐに言い合いを止めて改札を出た。さすがに機械を通り抜けるところはひとりしか通れない幅なので、繋がれていた伊織さんと僕の手は離れている。このことからも察せられるように、あれは僕のことをネタにして友達同士のコミュニケーションをしていたんだろうね。なんか真面目にオロオロとしていた僕がバカみたいだ。


 ふたりにからかわれていたのがわかったので、改札の外に出た途端に僕を捕まえようとしていた真奈と伊織さんの手をすり抜けて達也の隣に避難する。


「後ろのふたりがお前を構いたそうにしてるけど、いいのか?」


「達也が僕の立場だったとしたら『はいそうですか』って構われに行く? またからかわれるだけだってわかってるのに?」


「……できれば遠慮したいな。真奈はともかく伊織さんとそんなことをしたら、周囲からめちゃくちゃ睨まれそうだ」


 きっと達也の頭の中には、最近のライトノベルなんかでよくある『目立たない男子と学校の中でトップレベルにかわいい女子が並んで歩く』みたいな光景が浮かんでいるのだろう。僕も達也もできれば平和に目立たず日々を過ごしたい陰キャ側の人間だから、もしそんなことになったらと考えるだけで背筋が震える。さっきまでの僕はまさにそんな状態だったから、ちょっとだけでも達也に僕の気持ちを味わってもらえて嬉しい。


 ここで後ろのふたりへの意趣返しとして達也に抱きつくように腕を組んで見せつけるのもいいのかもしれないけど、それをやると僕も達也をからかった側に回ってしまうのでやめておこう。自分がされてイヤだったことを他の人にはしない、これ常識。


 駅から10分ぐらい歩くと、目的のビルへと到着する。念のため何階にどこの会社が入っているのかが書かれている看板で確認すると、6~8階にすとりーむらいぶの名前があった。確かメールには最初に受付に向かうように書いてあったので、その指示どおりにまずはエレベーターで6階に向かう。


 エレベーターから降りると社名が書かれた看板と受付っぽいカウンターがあったんだけど、そこには誰もいなくて白い電話だけがポツンと置かれていた。その横には『御用の方はこちらからご連絡ください』と書かれた注意書きみたいなものがあったので、どうやらこれで社員さんを呼ぶらしいことがわかる。


 確かにずっとここに人を配置するよりも、会社に来たお客さんに呼び出してもらった方が効率いいよね。ひっきりなしにお客さんが来るような大企業ならいちいち呼び出される方が鬱陶しいから受付の人にずっと居てもらうのがいいかもしれないけど、そこまでするほど訪ねてくる人はいないのだろう。


 3人には付き添ってもらっているだけなので、ここは僕が電話するしかない。でもこんな風に電話で社員さんを呼び出すとか、当然だけど高校生の僕に経験があるわけもなくものすごく緊張する。


 僕が受話器に手を当てたままなかなか持ち上げないからか、真奈が『代わりに連絡しようか?』と言ってくれた。でもさすがにここで代わってもらうのはカッコ悪いので、『ううん、大丈夫』と言ってその勢いのまま受話器を持ち上げた。


 いつも普通に電話を掛ける時とは違って、少し高音の呼び出し音が何度か鳴ってからガチャリと電話がつながる音がした。


「ご来社いただき、誠にありがとうございます。『株式会社すとりーむらいぶ』です」


「あ、あの……今日鳳さんと約束してます、YOUというものなのですが」


 しまった、緊張のあまり声が上擦ってしまった。こういう時の言い回しなんて普通の高校生だった僕には縁遠かったので、 ぎこちない言葉遣いになってしまったのは仕方ないと思う。だから後ろでクスクスと笑わないで欲しい、特に真奈。


 『そちらでしばらくお待ちください』と言われたのでそのまま待っていると、奥に続くドアから鳳さんが現れて思わずホッとしてしまった。こういう全然知らないアウェーな場所だと、顔見知りで話したことがある人が来てくれるだけで安心しちゃうよね。


「YOUさん、今日は遠いところを来てくれてありがとう。お友達のみなさんもようこそ、私はすとりーむらいぶで日向ソレイユのマネージャーをしている鳳です」


 真奈たち3人がそれぞれ順番に名乗った後で声を揃えて『よろしくお願いします』と挨拶を返した後、鳳さんが持っていたネックストラップが付いたカードホルダーをひとりずつに渡された。中にはGUESTと大きく書かれたカードが入っている。


「それじゃあ、YOUさんはこちらへ。みなさんはこちらの者が奥の休憩室に案内しますので、そちらでお茶でも飲みながら少しお待ちいただけますか?」


「加藤と申します、それではご案内いたしますね」


 いつの間にか鳳さんの後ろに立っていた女の人が、笑顔で真奈たちにそう言った。『一緒にいなくて大丈夫?』と視線で問いかけてきたけど、さすがに会社の中で変なことに巻き込まれたりはしないだろうし。電車の中でも立ちっぱなしだったし、鳳さんのお言葉に甘えて3人には少し休憩しておいてもらおう。


 大丈夫だという意味をこめて頷くと、3人は素直に加藤さんと名乗った女の人の後ろを着いていった。僕はというと、何故かエレベーターの前に移動した鳳さんの後に続くと彼女に促されるまま乗り込む。さっきまでいたのが6階で、どうやらすぐ上の7階に用があるみたいだ。あっという間に到着を告げるピンポン音が鳴って扉が開いたのでエレベーターから降りて、鳳さんに案内されながら廊下を歩く。


 『ここまで道に迷わなかったか』とか『疲れていない?』とかの鳳さんからの質問に答えながら進むと、鳳さんが少し大きめな引き戸の前で足を止めた。


「……メイク室?」


 動画に出る時はあのウサギの子のアバターを使うはずだし、僕がメイクする必要はないはずだ。どういうことなんだろうと小首を傾げていると、鳳さんに促されたため深く考える暇もなく部屋の中に足を踏み入れた。


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