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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第一章

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25/50

24――真奈とのじゃれあい

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


 幼なじみたちに協力してもらって父を説得した翌日、ようやく落ち着いて動画のコメントを確認できる余裕ができた。


 レッスンの申し込み用紙はこの間もらってきたパンフレットに挟まれていたので、それに僕が記入して保護者のサインとハンコを最後にしてもらえば提出できる。いつ持っていこうかなと考えつつ、達也がメールで送ってくれていた新しいコメントファイルを開いた。通算3本目、スタジオ録音の動画としては2本目の動画は1本目ではフードに隠れていた僕の顔がはっきりと映ってしまっているからか、セクハラコメントみたいなのがものすごく増えている。


 ネットの風物詩みたいなものだからみんな本気じゃないんだけど、読んだ人の中で父みたいに本気に取っちゃう人もいるからできれば控えてほしい。父が特に問題にしていた『えっちしたい』とか、多分男性が書いているだろうから僕としてはゾッとして鳥肌が立ちそうになる。元男で女の子初心者の僕にとって、こういう性的な下ネタは結構キツい。書いた人のIDは片っ端からブロックリストに放り込んでやった。


 コメントの管理者権限を達也と真奈のアカウントにも与えているので、ふたりも見掛けたら即ブロックしてくれてるんだけど減らないなぁ。女子っぽいユーザーIDの人たちからは『かわいい』とか『メイクしたい』とか『着せ替えしたい』とか、そういうコメントを多くもらっている。この2種類のコメントは歌そのものへのコメントよりも多いから困りものだ。


 ちなみに歌へのコメントは『上手』とか『ノッて来ると音程がブレるね』とか『オレと一緒に腹筋を鍛えないか?』なんてコメントをもらった。やっぱり歌うのにも腹筋が大事なんだなぁ、僕も奏さんに初心者用のメニューをもらってちょっとずつ腹筋を鍛えている。ただいきなり筋肉がつくわけじゃないし、筋肉痛が結構辛い。だけど歌を上手く歌うためには頑張らないとね。


 ちなみに僕の顔が映った原因は、『気分がノッてくるとピョンピョン跳ねる』という悪癖のせいである。落ち着いていた時は僕の顔をほぼ完璧に隠してくれていたフードが、僕が跳ねたせいでズレたり戻ったりしてその際にはっきりと顔が映ってしまったのだ。まぁそういうことが起こる可能性を考えて、印象を変えるためのメイクもしてもらってたんだけどね。


「それにしても、優ちゃんすごい人気だねぇ」


「……人気というか、これってネットの人たちみんなで僕をからかってるだけじゃない?」


「興味の無い人に絡んだりしないでしょ、みんな優ちゃんのことが気になってるんだよ」


 後ろから聞こえてくる真奈の声に僕が答えると、内容が気に食わなかったのか真奈がため息をついた。どうでもいいけどその吐息が首筋に掛かってくすぐったいし、肩のすぐ下あたりに真奈の胸が押し付けられてて動くたびに柔らかいのが押し付けられるのが気になる。


「ねぇ、やっぱりこの体勢おかしくない?」


 パソコンチェアにまず真奈が座って、その膝の上に僕が座っているこの状況。うん、よく考えなくてもおかしいよね。しかもお腹のあたりに真奈の両手が回っていて、まるでシートベルトみたいになってるし。


「えぇ~、ふたりで同じ画面を見るんだからこの方が効率いいでしょ。それとも優ちゃん、もしかして恥ずかしがってる?」


 からかい成分が多分に混じった声で真奈がそう言ったけど、残念ながらそんなことはない。ただ真奈の羞恥心の足りなさが心配なだけだ、もしも他の男子にこんなことをしていたら大変なことになるでしょ。それこそ娘バカな真奈のおじさんが暴れ出すのが目に見える。それを振り向きながら伝えると真奈がきょとんとして、小首を傾げているのが視界の端に見えた。


「優ちゃんは女の子でしょ、男の子相手だったらこんなことしないってば。優ちゃんが優くんだった時も、してなかったでしょ?」


「うん……うん? そうだったっけ?」


 言われて思い返してみたけど、真奈は普通に抱きついてきたりしていたような記憶しかない。ま、まぁいいや。達也や僕みたいな安全な相手にしかしないって本人が言ってるんだから、それを信じよう。それに真奈にだっていつかは彼氏ができるだろうし、相手とどんなコミュニケーションを取るかは彼女の自由だもんね。もちろん変な相手だとわかったら、幼なじみとして全力で止める所存ではあるけども。


「それよりも私の胸、結構育ったと思わない?」


「……真奈は僕に何を言わせたいの?」


 気まずい質問に僕が逆にそう尋ねると、真奈はきっぱりと『恥ずかしがる優ちゃんを愛でたい』と言い切った。真奈の上に座ってるんだから彼女の胸が僕の背中に押し付けられるのは必然のことだけど、さっきからその頻度が高すぎる。おそらくそんなしょうもないことを考えているんだろうなとは予想していた。


 さっきみたいに小言を言おうとしたけど、どう思うのかとさっきの質問についての答えを催促されたので素直に『大きくなったと思うよ』と答えると真奈が嬉しそうに歓声を上げた。そう言えば真奈のお母さんも、たしか胸の大きい人だったなぁと昔の記憶をふと思い出す。でも前に同じクラスの男子たちが話してた内容によると、胸の大きさはお母さんよりもお父さん側の遺伝子で決まるとか話してた記憶がある。本当はどうなのかはわからないけど、もしかしたら真奈のお母さんや真奈が巨乳なのはお祖父さんとかひいお祖父さんからの遺伝なのかもしれないね。


 そんなつまらないことを考えていたら、いつの間にか僕の胸を真奈が楽しそうに揉んでいた。僕の肉体年齢にしては膨らんでいるらしい胸は、真奈と比べると慎ましやかだと思う。


「こうやって触られた感じって、男の子だった時と比べて感覚の違いってあるの?」


 純粋な興味で聞いているのは、真奈の声音でわかる。まぁ僕も女子になったのが自分じゃなくて、達也ぐらい仲良しな相手ならこんな質問をしていたかもしれない。だってこんな不思議な体験をする確率って、砂漠で落とした小さな宝石を探すぐらいありえないことだから好奇心が疼くのも仕方がないと思う。普通なら答えないけど、他ならぬ真奈の質問だから素直に答えることにした。


「うーん、あんまり変わらないけど。でも女子になってからの方が、ちょっと感じ方が鈍くなった気がする」


「触られてるかどうかがわからないっていうこと?」


「ううん、それはちゃんとわかるよ。でも前は筋肉の感触が直で指に届いていたのに、今は指と筋肉の間に柔らかいクッションみたいな脂肪が挟まっている感覚かな」


 ただ触り心地は柔らかくてフカフカしているから、女子になってからの方が断然いいと思う。だけど体を洗ったり下着を着る時ぐらいしか触らないから、こんな風に聞かれないと以前とどう違うかなんて考えなかったんじゃないかな。微妙な感覚の話だから、言葉にするのはすごく難しい。


「それはそうだよね、私だって自分の胸の感覚なんて説明できないもん」


「……自分でも難しいことを、僕に要求しないでほしいんだけど」


 真奈はたまに僕の扱いがものすごく適当になる気がする。そのことに頬を膨らませながら抗議すると、後ろからワシャワシャと大型犬を構うみたいに頭を雑に撫で回された。真奈がこんな風にボディタッチが多めになるのは、経験上なにか嫌なことがあった時かその逆ですごく嬉しい出来事があった場合だ。でも今日の真奈からはそんなに嬉しそうな感じはしないし、学校で嫌なことがあったのかな?


 仕方ない、大事な幼なじみを励ますためにもここは真奈のおもちゃになろうじゃないか。そんな風に達観した気持ちで、僕は自分をもみくちゃにしてくる真奈の両手を受け入れるのだった。たまに首筋に少し湿っていて柔らかい感触が何度か触れた気にするが、気にしない。気持ちを無にするのだ。


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