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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第一章

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24/50

23――レッスンに通いたい

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


 今ふと思い出したんだけど、そう言えば歌ってみた動画のことを両親に話していなかった。別に絶対に話さなきゃいけないわけではないのかもしれないけど、学校に行くようになるまでは日中ヒマなので、もっと専門的な技術を得るためにボーカルレッスンに通えたらとか漠然と考えているんだよね。駅前に某有名楽器メーカーのお店があって音楽教室も併設されていて、この間実際にお店に行ってパンフレットをもらってきたんだけどちゃんとボーカルのレッスンもあると書いてあった。


 週に1回ぐらいだしお値段もそこまで高くなかったから、できれば通ってみたいんだよね。体験レッスンもあるから、合うか合わないかを本レッスンの前に確認できるのはありがたい。ただ僕の貯金からレッスン代を全額出すと他に何か活動する時に必要な物ができても支払えなくて詰んじゃうので、できれば両親に半分ぐらい資金援助してもらえたらと考えている。


 僕がひとりで色々と考えを巡らせていても話は全然進まないので、とりあえず両親に話をすることにした。会社から父が帰ってきて3人揃ってご飯を食べたあと、両親はお風呂までの時間をリビングでテレビを観ながら過ごすから、その時間を使わせてもらう。


「お父さん、お母さん。ちょっと話したいことがあるんだけど……」


 僕がそう切り出すと、父と母がちょっと警戒したように表情を硬くしたのがわかった。そうだよね、僕が女子になったり最近は色々とあったから両親が警戒するのも無理はないだろう。


「……どうした、優希?」


 最近話す時にちょっとぎこちない感じになる父が、僕にそう問い返してきた。母も居住まいを正して僕の返事を待っている感じなので、早速『ボーカルレッスンに通いたい』と直接的に言ってみた。


 僕が怪しい石に願うぐらい昔の声を取り返したかったこと、そしてその声で歌を歌いたがっていることを知っている両親だけど、『何故教室に通いたいのか』と当然の質問をしてきた。『ただ歌うだけなら教室になんて通わなくていいんじゃないか』『学校もそういうレッスンが出来るところに通う予定だし必要ないんじゃないか』と父が言う。


 確かに父の言葉は正論だと思う。母が父の後に続いて『それに優希はもう趣味レベルにしては必要以上に上手じゃない』と、父の言葉に同意する。素直に『いいよ』って言われるとは思ってなかったけど、やっぱりうちの両親は一筋縄ではいかない。お金も掛かる話だし、簡単に認められる話じゃないというのは僕も理解している。


 ここで『学校に行くまで昼間にヒマだから』とか天邪鬼なことを言っちゃうと、『だったら勉強しなさい』と返す刀でバッサリ斬り捨てられるのは火を見るより明らかだ。変に動画のことを隠しながら話を進めて、その後でバレたら『何でちゃんと言わなかったのか』とか『騙そうとしたのか』とかそういう話になって印象が悪くなるのは間違いない。


 だとしたら最初から正直に話すべきだろう。そう考えた僕は真奈の提案で自分の歌をインターネットで公開し始めたこと、この間は本格的なスタジオで歌を録音したこと。その時に現場にいたエンジニアさんに色々とアドバイスをもらったりコメントの中でも指摘されたこともあって、今の自分の歌には色々と足りない部分が多いと思い知ったことを真摯に話した。


「僕、もっと歌が上手になりたいんだ。独学だと技術的なことってなかなか身につかないし、変なクセがついたら後から矯正するのも大変だからレッスンを受けたい」


 言いたいことを言い切った僕の言葉を聞いて、母は『うーん』と唸りながらもどうするべきかと悩んでいるようだ。家計を握る母にとっては余計な出費だし、休みの日には色々なところに夫婦ふたりで遊びに行く両親にとってはお金はそっちに回したいという気持ちもあるのかもしれない。そのために共働きで頑張って稼いでいる側面もあるのだと、以前に冗談めかして話していた記憶がある。


 ふたりの子供である僕にとっては両親が不仲で離婚秒読み、みたいな状況とは程遠いので歓迎しているし特に不満もない。両親が頑張って稼いでいる給料で遊びに行っているのだから、それも当然のことだと思っている。僕としては生活の面倒も見てもらってるし、この間みたいに病院でたくさんの検査を受けた時も僕に小言もなしに費用を支払ってくれた。親としての義務は十分果たしているのだから、僕がお願いしていることは言うなればオプションの範囲に入るだろう。それを採用するかどうかは両親が決めることだ。でも、正直な気持ちを言えばできればお願いしたい。


「あの、お年玉とかこれまで貯めてきたお金もあるし。全額じゃなくて、ちょっとだけでも援助してもらえたら……」


 僕がそう言うと、母は『お金の問題じゃないんだけどね、ちなみに貯金はいくらぐらいあるの?』と聞いてきた。その態度から『いやいや、お母さんが問題にしてるのはお金じゃん』と内心思ったけど、それを口に出したら機嫌を損ねるのは目に見えているので余計なことは何も言わない。持ってきていた通帳を見せると、『頑張って貯めていたのね』と褒められた。別に意図的に貯金していた訳じゃなくて、声変わりしてから無気力な毎日を過ごしていたせいで貯まっただけなのでちょっと心苦しい。


 話の流れからお金が問題なんだと今の今までそう思っていたけど、でも母って僕が女の子になってすぐに服をたくさん買ってくれたし、美容院代も出してくれたよね。あれに掛かった金額と比較したら僕のレッスン代ってかなり安いと思うんだけど。さらにこないだ美容院に行った時も、結構なお値段がするトリートメントもしてきていいよって気軽に言っていた気がする。


 もしかしたらさっき母が言ったみたいに、反対の理由はお金ではないのかもしれない。だとしたら本当の理由はなんだろう、週に1回だから家族や友達以外の人と関わる練習にもちょうどいい頻度だと思うんだけど。


「……お母さんが反対する理由を聞いてもいい?」


 わからないことを自分ひとりで考えていても答えなんて出てこないので、思い切って母に質問してみた。すると返ってきた答えはふたつあって、ひとつは『学校で歌について習えるのに、その前に余所のレッスンに通うなんて必要性を感じない』というものだった。


「確かにお母さんが言うみたいに、絶対に通わないといけないっていうわけじゃないと思う。でも学校に通う前に基本ができていたら、先生が次の段階のレッスンを普段よりも早くしてくれるかもしれないよね。僕としては自分の歌を胸を張ってネットに公開できるぐらい、早く実力をつけたい」


 僕がそう言うと、母はちょっと考えた後で『確かにそうかもしれないわね』と納得したように呟いて小さく頷いた。正直なところこんな簡単な説得で納得してもらえるなんて思っていなかったから、何か他にも理由があるのかなと追加で尋ねてみる。すると今までまったく知らなかった母の事情を、思い掛けず聞くことになってしまった。


「優希、私はね……昔から自分が感じたり体験したことしか、理解できないのよ。今回のことも優希の歌を上手になりたいっていう気持ちは理解できるけど、わざわざ学校に入る前にレッスンを受けたいという気持ちがまったくもって理解できなかった。さっき説明してもらったから、優希がどういう考えでこんなことを言い出したのかはちゃんとわかったから大丈夫よ」


 それは精神的な病気とかそういうものなんだろうか。僕がちょっと躊躇いながら尋ねると、母が学生の頃に祖父母も病院に連れて行ったみたいなんだけど原因はわからなかったらしい。ただ自分が経験して感じたことがある事柄については普通に理解できるので、服を買ったり髪を整えたりするのは嬉しくて楽しいと識っている母は僕にも同じようにしてくれたそうだ。


「もしかして、お父さんとお母さんが毎週どこかに出かけているのって……?」


「……バレてしまっては仕方がない。今優希が考えた通りだよ、お母さんに色々な経験をさせてあげたくてね」


 僕が参考になるかと思って自分の動画を再生しながら手渡したスマホを凝視していた父が、苦笑しながら僕のつぶやきに答えてくれた。そこから話してくれた内容は、僕にとってはなにもかも初耳の話だった。両親の仲がいいのは本当のことだけど、毎週ふたりで出かけて行くのは母に様々な経験をさせるため。これは母の希望らしい。子を持つ親として自分の異常さを放置してしまったら、子の気持ちをないがしろにしてしまいそうで許せなかったんだって。


 でも僕には絶対に知られたくなかったから、夫婦で遊びに行くという言い訳をするようになったと。『優希を放置することになってしまって申し訳なかった』と両親に謝られてしまったけど、僕としては無理にお出かけに付き合わされることもなかったし全然気にしていない。家の事情で達也や真奈と遊べないということもほとんどなかったから、むしろ両親にはお礼を言いたいぐらいだ。


 僕のあっけらかんとした様子に両親はびっくりしていたけど、そういう事情があるって聞いた上で文句を言うほど冷たくはないよ。むしろ母が父とのお出かけで、色々な経験ができて少しでも気持ちが楽になったのならよかったと思う。いくつかの理由の中のひとつなんだろうけど、僕のためって言われたのも嬉しかったからね。


 ただ母のためとはいえ僕を放置していたということを父はずっと気に病んでいたらしく、結論としてはレッスンに通うことも許してくれて費用も父が出してくれることになった。最近僕に対してギクシャクした態度だった父だけど、こうしてスッパリと即決断してくれるところはすごく男らしいと思う。僕が嬉しくて満面の笑顔でお礼を言うと、いつもより目尻を下げて微笑んでくれた。


 でもその後で急に表情を引き締めると、『ところで優希、この動画なんだが……』と低い声で話し出した。父が言うには僕の歌をネット上で発表するのはいいけど、こんな風に派手な服を着たり顔を出したりするのはよくないと叱られた。


 再生していたのは達也がアップロードしてくれていた3本目の動画で、前もって達也が言っていたように僕の顔が短い時間だけど確かに映っている。


「お父さん、これは僕をリアルで特定されないようにするための工夫してるんだよ。メイクとか、いつもの僕と印象が全然違うでしょ?」


「それでも、こんなに可愛い優希を見たら変な虫が出てくる可能性がある。現に……ほら!」


 僕の説得に父はそう反論して、僕のスマホを操作すると目的の場面で一時停止して僕の方に画面を見せてきた。そこにはコメントで『えっちしたい』とか『付き合いたい』とか、そういうセクハラじみたコメントが表示されている。ネット上のノリでふざけてるだけだと思うんだけど、父にそれを理解しろっていうのは酷かもしれない。


「レッスンには通っていいけど、優希の顔や姿が映るなら動画投稿は禁止だ。いいな!?」


 父の強権で動画投稿が禁止になりそうだったけど母からの執り成しと、翌日に真奈と達也が一緒になって説得してくれた甲斐もあってなんとか禁止令が撤回されることになった。父は昔から真奈には甘い気がする、『ちゃんと自分たちが守りますから』とふたりと約束してとりあえず安心したらしい。


 それにしても父はどうしちゃったんだろう。僕が男子だった時はそんなに干渉してこなかったのに、女子になった途端にすごく過保護になった気がする。僕が真奈にちょっとだけ愚痴ると、真奈も『うちのパパもこんな感じだから仕方ないんじゃない?』と心底辟易した様子で答えた。『父親って面倒くさいね』とふたりで言い合って、顔を見合わせた後で揃って重たいため息をついたのだった。


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ドレミファソーラファミレド ソーファミソファミレ ソーファミソファミレ ドレミファソーラファミレド なぜか耳に残るあの宣伝。
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