表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

その7 新生白虎隊

 O阪の町で蕎麦屋を営んでいる僕だが、巡査部長の藤田五郎に頼まれて、週に何度か、警察署で剣術を指南することになった。


 僕が警察署に出向く日は、店の事は妻の綾花あやかに任せている。


 その日も警察署の道場で、剣術の指南をしていると、稽古着姿の藤田が、休憩の時に話しかけてきた。


「すまんな、無理を言ってしまって」

「いいんですよ。町のためですから」


 そして話題は、先日、逮捕した池田勝馬のことになる。藤田が語るところによると、


「池田勝馬は元々、黒駒勝蔵と名乗る侠客の親分だったんだが、維新の頃に、攘夷派の志士となったんだ。それで戊辰戦では官軍として戦ったんだが」


 しかし、その後、勝馬は明治政府の政策に異を唱え、政府の転覆を企てる高田源兵衛こうだげんべえの配下に加わったという。


 話のついでに、僕は気になっていたことを、藤田に質問してみた。


「勝馬は自らを高田一派の四天王と称していましたが、残りの三人は?」


「まずは、先日、お前さんの店で桜庭春花に撃ち殺された、拳銃使いの根津雁太ねずがんた。それに、四天王最強と呼ばれる大河城介たいがじょうすけ


「大河城介?」


「コイツは東京で道場破りをしていた奴だ。剛の剣の使い手らしい」


 そして最後の一人は、元会津藩・白虎隊の伊東悌次郎であると言う。藤田は、この悌次郎について、


「奴とは、会津戦争で一緒に戦った仲だったんだよ。その時、悌次郎は、まだ十五歳の少年だった」


 そんなことを語っていると、巡査が一人、道場に駆け込んできて、


「藤田巡査部長、町中で、新生白虎隊を名乗る連中が暴れています」


 それを聞いた藤田は、急に目つきが鋭くなって、


「噂をすれば、か。おそらく、その新生白虎隊とやらの頭は、伊東悌次郎だろう」


 そう言った後、部下たちに、


「急いで準備をしろ。出動だ」


 と、命じて、自らも制服に着替え、町へと駆け出した。僕も、とりあえず木刀片手に後に続く。


 町では、新生白虎隊の旗を掲げた十数人が、商店を打ち壊していた。


「オラァッ、西洋かぶれの堕落した俗物どもが!」


「逆らう奴は、叩き殺すぞ!」


「今日から、この町は、俺たちが支配する。わかったか!」


 狼藉者が暴れまわる町の中で、人々は、右往左往と逃げ惑っている。


 その現場に到着した藤田は、怒鳴り声をあげた。


「止めろ、悌次郎!」


 賊の一人が、その怒声を聞いて、藤田に歩み寄って来る。奴が伊東悌次郎なのか。


 新生白虎隊と警官隊が睨み合うなか、その賊は藤田に向かって、


「なんだ、その格好は。新選組三番隊・隊長が、敵対していた明治政府の警官に成り下がったのか」


「悌次郎、なぜ、罪もない町人の商店を打ち壊すんだ」


「腐りきった明治の世を壊して、理想郷を築くためだよ」


「理想郷だと。お前らは、ただの反逆者だ」


「フフフ、反逆者か。それもいいだろう。俺は明治政府を倒すためだけに、今日まで生きてきた」


「悌次郎……」


「俺は官軍への恨みを忘れない。会津戦争の時、劣勢の中を戦っていた俺たち白虎隊は、追い詰められ、最期は飯盛山で集団自決したんだ」


「だがな悌次郎。恨みは、恨みの連鎖しか生まない」

 

 藤田五郎は伊東悌次郎の目をジッと見据え、静かな声で、そう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ