表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

その2 どうしようもない旦那さん

 近代化が進むO阪の町には、洋風の建物が建ち並び、道行く人たちも洋服姿が目立って、まさに文明開化の花が咲いていたのだが、


 その町の治安は悪く、無法街となっていた。


 そんな無法街でも、そこに住む僕たちは、毎日を明るく、楽しく暮らしている。


 しかし、ある日、例の洋風旅館の旦那さんが、


「お蕎麦屋さん、ちょっと困ったことになりまして」


 と、僕に相談を持ちかけてきた。


 その相談事とは女性問題で、話によると、この旦那は浮気相手との別れ話が拗れて、法外な手切れ金を要求されているようだ。


 さらには、先日の、ならず者たちも介入してきたという。


「そんなこと僕に言われても、どうにもできませんよ」


「でも、あの、ならず者が出てきたんですよ」


 確かに、ならず者たちは乱暴な奴らだ。このままでは、旦那は何をされるか、わからない。


 結局、僕は、旦那と浮気相手との交渉の場に、同席することになった。



 その夜。女性側が指定してきた場所は、料亭の一室だ。そこへ向かう途中、手ぶらの僕を見て、旦那は、


「木刀とか警棒とか、そういった護身用具は持たないんですか?」


「そんな物を持って行ったら、よけいに話が、ややこしくなるでしょう」


 そして料亭の個室に入ると、そこには、色白で色気のある女性が待ち構えていて、傍らには、ならず者の大将格と手下が二人、控えていた。


 こちらは、旦那と僕の二人だ。とりあえず、座敷に向かい合わせに座ると、


「また、お前か。何をしにきた?」


 大将格が僕を睨んで凄む。奴は、これ見よがしに、持参した刀を引き寄せたが、


 僕は奴を無視して、その女性へ、


「旦那さんには、相場の手切れ金を払ってもらう。それでいいでしょう」


 と、言うと、旦那が、


「えっ、ヤッパリ払うの?」


 などと、トボけた事を言うので、


「当たり前でしょう、旦那さん」


 僕は、やや呆れたのだが、そのやり取りを見ていた大将格が、


「お前ら、ふざけるな!」


 怒鳴りながら立ち上がり、


「相場の金じゃ、俺たちの実入りがねえんだよ」


 持参した刀を、バッと抜いて、脅しをかけてきた。


 だが、これは僕にとっては、好都合だ。


 サッと立ち上がり僕は、大将格の刀を持つ手の手首を掴んで、スコンと、足払いで転倒させる。当然、刀も奪い取った。


「テメェ、アニキに何しやがる!」


 二人の手下が、懐から匕首を出したが、僕は転がる大将格の首筋に刀を突き立てて、


「お前ら、ここで、皆殺しだ」

「わ、わかった。止めてくれ」


 僕は、そのままの態勢で視線だけを女性に向ける。


「姐さんも、それでいいだろう」


 しかし、その女性は、ポッと、赤い顔をして、


「良い男だねえ。惚れたよ」


 と、妖艶な視線を僕に絡めてきた。


「や、止めて下さい。これでも僕には妻がいるんですよ」


 焦りながら僕が言うと、旦那が、すかさず、


「そう、怖〜い、奥様がね」


 この旦那は、こんな修羅場でも、お調子者のように冗談が言える。彼もO阪の町で洋風旅館を営んでいるだけあって、尋常ではない神経をしているのだろう。


 結局、この女性問題は、これで決着がついたのだが、後に旦那は、浮気が若女将にバレて、大変なことになったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ