第六話 共同生活二日目
「ふは」
翌朝、目が覚める。
隣に、男性が寝ていてリリーはびっくりした。
先日の記憶が遅れて脳にやってきた。
そうか、レノルド様か。そう、リリーは瞬時に理解した。
そう言えば、共同生活を始めてるんだったと。
(なんだか、あの時期を思い出すわね)
そう、不意に思う。
リリーは、昔、まだ仲が良かったころは、メルタイアと良く寝ていた。
思えばあれも、夫婦関係を円熟にさせようと言った狙いだったのかもしれない。
だが、あの頃は二人ともまだ幼かった。
結局は仲の良い姉妹関係としての側面が大きかった。
メルタイアが別の部屋で寝たいと言ったあの日、
あれが、メルタイアの心がリリーから離れているのが顕著に表れた日だったのかもしれない。そう、リリーはふと思った。
戻って確かめたい。でもできないのだ。
もう帝国内には入れない。
レのルドの付き添いとかでなければ。
「起こしたか」
隣を見る。するとレノルドがもう置きああっていた。
「おはようございます」
そう、レノルドに向かってリリーは答える。
「あの、昨日は何もなかったですよね」
リリーは問う。
仮にも男女が一緒にベッドに寝たのだ。
ワインなどのアルコールは取っていないとはいえ、男女で寝てたのだ。
もし夜にレノルドが手を出していたら、と思うと少し怖くなる。
「俺は手を出してない」
それを聞いて少し安心した。
だが、レノルドは少し顔を赤くしている。
「本当に何もしてませんよね」
「ああ。いや、髪の毛は軽く触った」
リリーのにらみの前にレノルドは白状した。
前日、欲情にまみれて、頭をなでたという事を。
「そうなのですね」リリーがそう言うと、「本当に少しだけだ」
そう、レノルドは焦ったかのように言う。
それを聞いて、リリーは少しおかしく思い、「ふふ」と思わず笑った。
「それよりも、何かここでの生活で不自由はなかったか?」
「ええ」
リリーはきょとんとして答える。
「ならよかった」
そしてしばらく二人で見つめ合う。
二人共会話のネタを探すも、見つからない。
その光景は傍目に見れば、明らか、初々しい男女そのものだった。
だが、気まずい空気は一変する。
ぐぎゅりゅりゅ
リリーのお腹が鳴ったのだ。
リリーは咄嗟に顔を赤くし、お腹をガードする。
リリーは昨日夕食を取っていないことに気が付いた。
それを見てレノルドが笑ったのが、リリーの恥ずかしさに拍車をかけた。
悪気はないのだろうが、乙女のお腹の音を聞いて笑うなんてひどいと、リリーは思う。
そして恥ずかしい空間から逃げるように、
「着替えます」
そう言ってリリーが走り去る。
その光景を見てレノルドがまた笑った。
(恥ずかしいところを見せてくれる。完璧なリリーもいいが、抜けているリリーもまたいいな)
その後ろ姿を見てレノルドはそう思った。
朝食。食べに行くと、でかいテーブルに三つの皿が並べられている。
そこにはすでに、父王ハルゲルトがいた。
リリーはそれを見て軽く礼をする。
「それで昨日はどうだった?」
ハルゲルドが訊く。
「ええ、昨日は仲良く暮らせました。私にはもったいないばかりの大きな部屋で、驚きました」
「一部屋くらい良い。我が国は別に金に困ってるわけじゃないからな」
今や、かなりの富が流れており、芸術や音楽にお金をかけられている街の様子を見たリリーにはその言葉は嘘偽りではないと思った。
「それで、レノルド。昨日は何事もなかったか?」
「何事も、とは?」
「いじめられなかったか?」
その言葉を聞いて、レノルドはかっとなった。
「だから父上、リリーは、いじめてなんてない」
昨日の光景からして、やはり彼女が悪行を犯す人とは思えない。
「それは、あくまでも主観的考えだろ。だが、ま、そんな悪女には見えないのはそうだがのう。今のは一種のギャクだ」
「父上!!」
「ほっほっほ」
リリーにとって、今のギャグ? はよく分からないが、少なくとも二人の光景を見てたら、暖かい家族の暖かい一面に見える。
リリーの家は違った。
常日頃から、娘にほとんど会わない父親と母親。
実質的に、リリーの育ての親は乳母だ。
しかも、メルタイアのもとに送られてからはまるで大人のように振る舞うことを強いられた。
王族という本来しがらみの強いもの。
しかし、他国に比べそんな物がほとんど無いように思える。
ああ、王族でもこんなに家族関係が上手く行くのだと。
そんな二人を見て、リリーは息を軽く吐いた。
「私は嵌められたのだと考えています」
「それは信じておる。昨日も言ったが、色々な側面から見て、いじめは行われてないと思っておるしな」
「すまないけど、何があったか詳しく教えてくれないか?」
そのレノルドの言葉にリリーの肩が跳ねる。
そしてリリーは少し顔を曇らせた。
「教えるのが難しいのか」
「いえ、ただちょっと説明するのが難しいので」
過去の自分とメルタイアとの関係を伝えなければならない。
それを話すに十分な心の回復はしていない。
もしかしたら泣いてしまうかもしれない。
泣き姿を見られるほどみっともないことはないのだ。
またあの庭園の時みたいな事にはなりたくはない。そう思うと話す勇気なんて出ない。
「分かった後にするよ」
「ありがとう」
リリーは頭を下げた。
「でも、少しだけ」
何も話さないというのも失礼に当たる。
「私とメルタイアの関係が完全に破綻したのは、リリシア嬢が現れたからです。あそこから人が変わったように、私から離れていきました。それでも、何も私を断罪する証拠がなければ、いいはずでした」
「そこに、リリシア嬢を虐めたという噂が広まったわけだな」
リリーは頷いた。
ああ、やっぱり涙が零れそうになる。
レノルドはその様子に気がついたのか、それ以上は何も言って来なかった。
「なるほど、相わかった。……参考になった」
続いてハルゲルトが口を開いた。
「それでとりあえず、ここからの話をしよう。わしはそろそろ引退しようとしている。そうなれば、王位につくのは、レノルドだ。今まではレのルドを支えられる女性、王妃候補がいなかったため。しかし、リリーさんがいれば十分だ」
(それが、六十台になっても、王を続けていた理由という事か、でも)
「私はまだ、レノルド様の妻になると決めたわけではありません」
勝手に決めないで欲しい。そう、リリーは思った。
「私はまだ了承したのは、一緒に暮らすというだけですから」
そう、リリーが言うと、ハルゲルドは軽くため息をついた。
「レノルドよ、落とす手はあるのか?」
「私がいる前でする話じゃないと思うのですけど」
そうリリーが言うと、ハルゲルトは大爆笑した。
(これだと気分が調子が狂う……)
リリーはそう思った。
「それで、今日は出かけないか?」
ハルゲルトの笑いが止まった後、レノルドがそう言った。
「私を落とすためですか?」
するとレノルドが黙り込んだ。
少し、嫌がらせをしようと思っただけなのに、まさかこんなに黙り込むなんて。
「冗談です。行きましょう」
リリーははっきり言った。それを聞いてレノルドが顔を明るくしたのは言うまでもない。
そして、朝食後、リリーとレのルドの二人は、町へと向かった。




