第五話 共同生活
そして二人は共同生活を強いられることとなった。
なんでこうなったんだろうと、リリーは思った。
別にレノルドのプロポーズの返事はしていないのに、あれよこれよという合間に一緒に住むことになった。
まだ、叔母には仕事をやめることを伝えられていない。
一応、特速便で、今の状況と退職する旨を書いた手紙を送ったのだが。
脳裏には二人の男性がいる。メルタイアと、レノルドだ。
もし仮に、リリーがメルタイアのことを完全に振り切っていれば、「レノルドと新たな恋を紡いでいくのもありだと思ったのだが、まだ脳裏にメルタイアの存在がある。
自分はどうしたらいいのだろうか。
これからの共同生活をどのような気持ちで過ごせばいいのか。
「戻った」
噂をすれば、だ。
レノルドが戻ってきた。
「おかえりなさい」
そう、リリーは優しく語り掛けると、レノルドは笑みを浮かべた。
リリーが看板娘としてやっていた時に、可愛いと思ってきたとは言っていたが、惚れた理由は果たしてそれだけだったのだろうか。
そしてレノルドはイスに座る。
その様子を見て、様になってると思った。
今二人の部屋はかなり広い様相となっている。
宮殿にいた時のリリーとメルタイアの部屋並みの大きさがある。
ベッドもダブルベッドになっており、色々な共同生活に必要な物資が備わっている。
もしかして今日ここに呼び出された時点で、共同生活をさせることを決めていたのかと、少し思う。
用意が早すぎるのだ。
「あの、レノルド様」
「どうしたんだ?」
リリーの問いにレのルドは朗らかな返事を見せる。
「看板娘だった時、私の正体には気づいてなかったのですよね」
「ああ、気づいてなかったよ。だからこそ、リリーだと知った時は驚いた」
「なら、私のことを追いかけまわしてた時は、平民だと思っていらっしゃったのですね」
「そんなところだ」
「私は驚きましたよ。あんなにすぐにプロポーズしてくる人は初めて見ましたから」
流石に速すぎた。
まだ出会って数日で、プロポーズするなんて。
惚れられたのは、嬉しい事ではあるのだが。
「俺は人に恋をするのが初めてだったんだ」
そう照れるように言うレノルドを見て、リリーはふふと笑った。
リリーは。人に恋したことがある。
とは言っても、その恋した相手に裏切られたわけなのだが。
リリーは、未だに婚約破棄された傷から完全に立ち直ったとは言えない状況だ。
好いており、彼のために頑張ろうと決めてきてたはずなのに、あんな悲惨な目にあったのだ。
リリーとしては、レノルドが、皇太子の代わりになってくれたなら、それほどいいことはない。
新たな恋を見つけたいのだ。
それも、自分を裏切らないような人との恋を。
正直、リリーは理解してる。
自分の心がそこまで強くはないという事を。
だからこそ、自信を守るために元気なふりをしているという側面もある。
「私には、分からないわ」
気が付けば、そう呟いていた。
「恋愛しても、裏切られるかもしれないじゃない。……私にはそんなの、分かりっこない」
結局いくら相手に尽くしたと手て、心が離れてしまっては全てが無駄になる。
男というのは難しいものだ。
恋愛に関して言えば、信用などほぼない。
男が実は愛人を持っていたなんて事沢山の例がある。
それに女性が愛人が持っていたらそうバッシングされるが、男はそんなことが無い。
完全なる男尊女卑。
それをリリーは身に以て体験している。
「俺は裏切らないさ」
「それは分かってるわ」
でも果たして、裏切らないと言えるか。
それこそ、四〇年後も愛してくれるという保証があるのか。
メルタイア、メル君も、最初はリリーのことを慕っていてくれていた。
四つ年上の私を昔から姉のように慕っていたのだ。
政略結婚だったとはいえ、あの時は愛があったのだろう。
それなのに、その愛を維持しきれなかったのだ。
「ごめんなさい。今気持ちが落ち込んでいるの」
「そんなこと分かってる。好きに悩めばいいんだ。あれだったらまた大泣きしてもいいぞ」
「そんなことは、しないわ」
そう言ってレノルドはリリーの頭を優しく撫でる。
また大泣きなんて恥ずかしいことはもうしない。
でも、レノルドが優しいのが、また、リリーの迷いを生んでしまう。
レノルドが職務へと戻った際、リリーは一人ベッドに寝転がる。
「今日もちゃんとふかふかね」
そう言って寝転がるリリー。
前髪を朝擦り、考える。
今日は色々なことがあり、疲れた。
昨日までおばさんの店で働いていたのがまるで嘘みたいだ。
レノルドを選ぶか、もう叶わないメル君への恋を選ぶか。
そして、また恋愛をするのか。
リリーには決めなければならないことが多い。
結局、疲れ切った彼女はそのまま眠りへと落ちた。
「かわいい」
その夜、レノルドが戻ると、熟睡しきったリリーがいた。
まだ、夜ご飯も食べていないはずなのに。
その可愛らしい寝顔がレノルドの心をくすぐる。
可愛すぎて、めちゃくちゃにしたい思いが出てくる。
だめだ、そんなことをしたら、リリーに嫌われてしまう。
心で思っても、実行するわけには行かない。
リリーに嫌われるわけには行かない。
迷った結果、レノルドは軽くリリの頭をなでた。
優しく触れば、リリーが可愛らしい声を出す。
夢の中で誰かに撫でられてもしてるのかなと思うと、またかわいいと思う。
今日はレノルドが班強引に連れてきた形となる。
一応リリーの同意は取ったとはいえ、あの状況でNOと言える人はほとんどいないだろう。
そう思うと、疲れるのも当然だ。
翌日の朝、またリリーに謝罪と再確認をしなければ。
レノルドはそんなリリーを置いて、ご飯を食べに行った。
起こすのは申し訳ないくらいの可愛らしい寝姿だったのだから。
レノルドが食事をとって、戻ってもまだリリーは寝ていた。
レノルドはその姿を見て府府と笑ってから、寝巻に着替え、ベッドにもぐる。
リリーの隣だ。
まさか本当にダブルベッドで寝られるなんて。
そしてレノルドは可愛らしいリリーの隣で眠りに落ちた。




