第四話 王宮
翌日。再びレノルドがやってきた。
「いらっしゃいませ」
リリーはそう頭を下げる。するとすぐに、レノルドが「今日も仕事終わりに来てもらいたいところがあるんだ」と言った。
一体何なのだろうと、リリーは軽く考える。しかも今のレノルドはかなり焦燥している感じがするのだ。
そして店じまいの後、レノルドの元へと言った。
彼は律儀に待っていた。
「今日も例の庭園ですか?」
「それもいいな。だけど今日は違うんだ」
やはり今日は大事な予定があってきたようだ。
告白は機能された。だけど、返事はゆっくりと待つと言われた。
なら、一体何なのだろうか。
「とりあえず来てくれ」
そう、手を引かれる。
いきなり手を引っ張られたので驚いた。
リリーはレノルドに行先を訪ねるも、
「着いてからのお楽しみだ」
そう言ってレノルドはごまかしてくる。
本当にどこに連れて行くつもりなのだろうか。
不審に思いながらリリーが着いて行くこと二十分。あることに気が付いた。
段々と王都の方に向かって行ってる。
王都に何かレノルドの連れて行きたいところがあるのだろうか。
しかし、目的地も言えないなんて怪しすぎる。
「え、ここは?」
最終的についたのは、王城の前だった。それを見て、リリーは数秒間考え込む。
(まさか……王太子ってことはないよね?)
王太子、つまり王位継承権一位。この国の全権をのちに次ぐ人物だ。
だが、そんなことはないと、すぐに否定した。
そんなのまるでシンデレラストーリーだ。
それに、リリーはもう政の場に入るのはしんどいという思いがある。
これでは、話が変わってきてしまう。
「さあ、入るぞ」
「え?」
リリーが考え事をしている間に、レノルドはどんどんと王宮の中へと入っていく。
その中にいる執事やメイドらしき人物や、兵士らしき人たちが頭を下げる。
「レノルド様、お帰りなさい」
そう頭を下げる人たち。
レノルドとは有名な名前だ。何しろこの国の王太子なのだから。
(これで確定したわね。この人は王太子様。クライというのは偽名で、身分を偽っておばさまの店に来てたのね)
そう、リリーは思った。
「とりあえずここで待ってくれ」
「はい……」
豪華な椅子だ。
少し硬いが、座り込ごちはいい。
それに椅子の見栄えも抜群だ。
そして極めつけは目の前にある机。直径20メートルはあるだろうか、中々の良い机という感じがする。
ここで待っててほしいとは言われたが、この後に来るのはいったい誰なのだろうか。
いや、彼が王太子という事は、きっとここに来るのは、王族。
つまり国王陛下の可能性が高い。
なんだか緊張する。
もしかしたら罵倒されるかもしれない。
ここに連れてきたという事は十中八九正体がばれているという事なのだから。
リリーが、手をぎゅっと握りしめていると、「レナ、そんなに緊張しなくてもいい」と、レノルドが言った。
この人は、リリーの正体に気づいているのだろうか、そう、リリーは思った。
「お待たせ」
リリーは即座に顔をあげた。
そこにはひげを生やした厳格そうなイメージのある男性が立っている。
彼はこの国にいる人ならだれでも知っているような人。
そう、この国の王。ハルゲルト・アトランガルだ。
彼の功績は多岐にわたる。
彼はこの国に蓄積していた赤字をなくそうと、様々な国と商業的同盟を結び、国家的な事業を推し進め、横領していた大臣を見事に捕らえあげ、腐敗を止めた偉人のような人物だ。
元来英雄と称される王は、戦時に領土を増やすなどの業績を打ち立てた者に与えられる。だが、最も尊敬に値するのは、平時に国力の強化にいそしんだ人物だ。
説明がくどくなったが、今リリーの目の前にいるのは、偉大な人物だという事だ。
リリーは唾を飲む。
王太子となるレナルドに案内されここにやって来た。だが、ここから先のことは何もわかっていない。会話の内容的に、今からプロポーズのようなことをされるのだとは思っている。
もしくは、リリ-のやったとされる悪行をとがめられるのか。
頼むから前者であってくれ、とリリーは思う。
「レノルドは、今まで数々の縁談を打ち切って来た」
ハルゲルトが話をし始める。
「あいつは、決して人のことを好きになるような男ではなかった。だが、最近は明るくなった。
聞けば、業務の息抜きに来ている店で、良い人を見つけたという事ではないか。だ。
が、仮にも次の王を継ぐ息子をどこの馬の骨か分からない女性にやるわけには行かない。だからこそ、今は驚いている。まさか悪名高き、リリーだったとは」
睨みを聞かされる。正体がばれている。
リリーはびくっとした。
バレていたか。そうリリーは思った。
あの件に関しては、リリーが悪いと伝わっているのだ。弁明しても無駄かもしれない。
「父上、それはどういう」
レノルドはハルゲルトに訊く。
「レノルド知らんかったか」
ハルゲルトはため息をつく。
リリーは髪の色を地味目な色に染めなおしている。
さらにメイクもメルタイアと婚約していた時に比べ、薄くしている。
レノルドに事前情報なしで築けなんて言うのも無理な話だ。
リリーはこの国、アトランガル王国でもしっかりとその悪評が伝わっている。
嫉妬心から、ルリエルを虐めていたと。
レノルドはリリーをじっと見る。
リリーはおびえる。
恐怖のあまり、爪を自分の指に立てる。
ここで、拒絶されれば、もう生きていけないのではないか?
そんな思いが出てしまう。
「知らなかった」
レノルドが口を開く。
「知らなかったが、そのくらい関係ない。昨日のレナの、いやリリーの涙を見れば、リリーが本当にそんなことをしたとは思えない」
リリーはレノルドの目を見る。
良かった。リリーと知っても、こちらを見てくれている。
その時、ハルゲルトがせき込みをする。
その音を聞き、二人はハルゲルトを見た。
レノルドがリリーのことを認めてくれても、ハルゲルトが認めてくれなければ、リリーがレノルドの妻になることはない。
そもそも、レノルドのプロポーズにはまだ返事を出してなどいないが。
「よし。二人の婚約を認めよう。レノルドがいい人だと思うのなら、それは聖人だろう。認めん理由がないわい」
そう言ってハルゲルトは笑った。それも豪快に。
「リリーすまない。父上は、こういう人なんだ」
「そ、そう」
「それで、君がレノルドにふさわしいかどうかチェックさせてもらおう」
「チェックですか?」
一体何をやらせられるのだろう。
「君は、本当はルリエルをいじめてないのだろう」
その言葉にドキッとした。
「あの男、メルタイアには悪いうわさが沢山ある。大まか君も理由をつけられ、婚約破棄されたというおちだろう。だが、それで正解だった。君がいなくなったという事で、あの国はが害するだろう」
確かに、リリーは、グランセン帝国において、大使のような役割を負っていた。
周りの国に出向き、愛想を振る舞うという仕事を。
それはあくまでも、リリーが自主的にやっていた事だ。
だが、それはあの国の助けになっていた。
だが、その一方メルタイアは他国との会合の場にはあまり顔を出してはいなかった。そのため他国からはあまり好かれてなかった。
それを、リリーの力で何とかしてただけだ。ルリエルに力があるかどうかは、定かではないが、少なくともリリーよりは落ちるだろう。
リリーの愛想のよさ。それがメルタイアが皇太子としてふるまうことのできた唯一の理由だから。
「だが、君は理由がどうであれ、婚約破棄された過去を持っているという事は問題だ。これからの障害になってしまう。だからこそ、ここで君の無罪を証明しなくてはならない」
「だからこそ、私をチェックするの?」
「ああ」
「私がこの婚約に乗り気じゃないと言っても?」
「ああ」
やれやれ。ここで、リリーに残された選択肢は複数個ある。
そもそも連れてこられただけなのだ。
とは言っても、あくまでも完全に否定的じゃない。
リリーにとってストーカー客であり、距離を強引に知事めて来る。
底が少し苦手だった。だからと言って完全に無しかと言われたらそれは違う。
立場とかの問題じゃない。ただ、父王が自分がいじめていないと理解しているのだ。
そしてそれはレノルドだって同じだろう・
「私は、今はレノルド様の事が好きではありません。だって、レノルド様が好きかどうかは分かりません」
「うっ」
レノルドは、少しショックそうな感じを見せる。
「でも、あくまでも今はです。まだ一緒に何かをしたわけでは無いのに、今もう結論を出すのは早いと思いますから」
「ああ、それで頼む」
「それで、チェックとは?」
「それはシンプルなものだ。レノルドと二人で住んでもらう」
「……は?」
それだけ?とでも言いたげに、父王を見るリリー。
「それだけと思っただろう? でも、それが出来なかったらもうその時点で君はギルティだからな」
「わかり……ました」
その程度の条件なら構わない。そう思いリリーはただ頷いた。
おそらく、共同生活をしてみないと、その人の本性が分からないからなのだろう。




