第三十話 取引(再)
その場のみんなはその後をただ眺めるしかない。ルーゲストの消えた後を。
しかし、それでは作戦は成功したとは言えない。本拠地を突き止めなければならない。
その時まさに動き出していた人物が一人。ランディだ。
ランディは、消えたルーゲストを必死の必死で追いかけていく。
それもばれない様に。
ランディの名声が響かないのにはしっかりとした理由がある。
単にランディが無能という話ではない。その本当の理由は、ランディは密偵が得意なのだ。
それも目立たないようにこっそりと物事を探るのが大の得意なのだ。
(さあ、どこに行く? ルーゲストさんよ)
ランディは気配を消しながら追いかけていく。
既にかなりの時間尾行を続けてきた。
そろそろ一時間は経つ。もしや、別の移動方法があるのかもしれない。
ここで逃して、狂言革命軍の事に気づかれたら全てが終わるかもしれない。
そうなれば、全てが終わってしまう。
その瞬間、黒いオーラが感じ取れた気がした。
と、次の瞬間、ルーゲストは姿をくらませた。
「っち、逃げられたか」
そう、ランディは舌鼓を打った。
あそこからどうやって逃走したのか。謎は残る。
それに追尾に気づかれている様子も見えなかった。
という魔法で逃走したという事なのだろうか。
ランディは周りに気配がないことを確認して、その跡地を調べる。
そこには、軽く焦げた跡が残っている。
「まさか」
ランディは呟き、土を掘っていく。するとそこには小さな魔法陣のようなものが置いてあった。
陣を置き、そこから飛び移れる魔法。その存在をランディは知っていた。
何という事だ。
ああ、ルーゲストとかかわると、魔法が多くて嫌になる。元来希少な力であるはずなのに。
ランディはその跡地をしばらく見て、その場を後にした。
★★★★★
「という事だ」
ランディは戻るとすぐにリリーに報告をした。
「なるほど……」
リリーは考え込む。
(ああ、いやになるわ)
全てが思い通りに行かない。
力を持つもの。それ自体が多すぎる。
次に来るのは三日後。
独自の逃走ルートがあるのなら、本拠地をあぶりだしても無駄。
「となれば……」
直接捕らえに行くしかない。
三日後。全戦力を駆逐して、捕らえに行くしかない。
「これは、レノルド様にも伝えたほうがよさそうですね」
「そうだな。癪だが、ルディオスにもな」
そう二人で確認し合った。
★★★★★
「これは」
その頃レノルドは、調査報告書を見て絶句した。
想定以上の労働者が不当な労働条件で働かされていることが判明したのだ。
これが本当だとすると、この国の貧富の差はそりゃ当然広がるという物だ。
本来なら労働者が団結して騒動を起こすべきだろうが、国もこの数字を見て黙っているわけには行かない。
「早速準備するぞ」
レノルドはそう言い放った。準備とは会議のだ。
この件はリリーとランディがいる場で話したほうがいい。
何しろ頼れる男、ルディオスはあそこで寝ているからだ。
彼は正直今力にはならない。なぜなら今寝ているからだ。ルディオスの睡眠時間は不明確なのだ。
だから夜に起きることもあれば昼に起きてくることもある。とにかく一日に八時間程度しか動けないという事しかわかっていないのだ。
「ランディ、これをどう思う?」
レノルドはそう、書類をランディに手渡す。
「こりゃひでえな。労働者の人権守られてねえじゃねえか。なるほどなあ、この国の発展は労働者の酷使によって成り立ってたってわけか」
「そう、みたいだな」
不甲斐ない話だ。
「私も調べてきましたが、これには全く気付きませんでした。恐らくは巧妙に隠していたのでしょう。だからこそ、ここで労働者の救助を行わなくてはなりません」
それに二人は頷く。
「ルーゲスト確保と同時に労働者の地位も守りましょう」
リリーがそう言うと、二人はまた頷いた。
そして、即座に法改正が行われた。内容は単純だ。労働者の労働時間を一日最大八時間に決め、最低賃金を定めた。
更に、退職のしやすさなども急いで結論付けた。
恐らくはこの改正で少しは貧富の差が出にくくなるだろう。
そして続いて、ルーゲストの件だ。
ランディがそのことを伝えると、
「なるほど」とレノルドは顎を触る。
「分かった。奴を捕えるにはそれ相応の戦力が必要という事だな」
「ああ、そういう事だ」
「なら、こちらからも兵を出そう。ばれない様に革命軍アジトの近くに置いておく」
「ああ、助かる」
そしてその会議は終わりをつげた。
その後、彼は再びやってきた。
「約束通り30億円を持ってきましたわ」
しかし変わっていたのは、来たのは彼じゃなくて彼女だった。
つまり女だ。
(やっぱりルーゲストは複数名いるのね)
今回も恐らく影武者だろう。
あの帰還方法がある以上、ここで捕らえなければならない。
「そうか」
ランディは、そう言うとすぐに、手を上げた。すると、ヘレンが魔法を出した。雷だ。
雷とは言っても電圧で焼き斬ることはしない。ただ、痺れさせ、筋肉の動きを制限するだけだ。
その瞬間何かが爆発した。そして周りが煙に覆われる。
「逃がさないわ」
そう、ヘレンがいい、雷を巧みに操っていく。そして再び、人体の痺れる音が聞こえる。
ヘレンは今まで魔法の特訓をしてきた。これくらいおちゃのこさいさいだろう。
「うう」
その場にうずくまるルーゲスト(影武者)にランディは即座に駆け寄り、縄で後ろ手に縛った。
さあ、尋問だ。




