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冤罪で追放された少女、隣国の王太子様に溺愛される  作者: 有原優


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第三話 庭園

「こんにちは」


 リリーは待っていたレノルドに対し、頭を下げた。


「来てくれたんだな」

「ええ」


 約束を反故にするわけには行かない。


「俺は、クライという」


 そう、偽名をレノルドは出した

 ここで、レノルドと言ってしまっては、リリーの心が図れなくなる。


「ええ、クライさん。えっと、知ってると思いますけど、私はレナです。よろしくお願いします」


 名乗られたら名乗り返すのがマナーだ。

 たとえ相手が、自分の名前を名札を見て知ってるとしても。


「ああ、よろしく」


 レノルドは頭を下げた。


「それで、ちょっと行きたいところがあるんだけど、いいか?」

「ええ」


 リリーは首を縦にふる。

 ここには元々そう言う約束で来たのだ。


 そして二人は歩き始める。しかし、会話がない。

 まさに、気まずい二人だ。



「まず俺の話がしたい。分かってると思うが、俺は君に気がある」


 暫く歩いた時点で、レノルドが静寂を破るように口を開いた。


「それは好きになってるっていう事ですか?」

「ああ」


 そう言ってレノルドは頷いた。


「あの、私に好きになる要素なんてないと思いますけど」

「いや、あるさ。君はまず可愛い。そして真面目だ。仕事の手際を見て思った。君は絶対に他の人ならサボるような状況でも、真面目に働く、そんな印象があるんだ」


 確かにリリーは、ずっと真面目に働いてきた。でも、それは行き場のない自分を拾ってくれた叔母に対する感謝心から来たようなものだ。別に褒められるようなことはない。



「俺はそう言うところが好きになったんだ」

「そ、そうですか」


 とはいえ、褒められるのはうれしい。特に今皆に悪口を言われすぎて心が沈んでいた自分からしたら、特定の個人に褒めちぎられるほどの嬉しいことはないのだ。

 でも、自分はこの人に自身の正体を言っていない。

 帝国で噂になっている悪女リリーだという事を。


 それに関しては完全なる冤罪なのだが、それでも、その事実を知ってどんな反応をするのか。

 怖いものもあった。


「俺は、君のことをもっと知りたい」


 畳みかけるようにレノルドが言うので、リリーは思わずびくっと肩を揺らしてしまう。


「私は、クライさんが思うような人間じゃないと思いますけど」

「それは当たり前だ。俺だって、書く仕事ばかりだ」

「私と一緒ですね」


 そして二人で笑った。


 そしてレノルドの言った目的地へとついた。

 そこは、広い庭園だった。


「ここが連れて来たかった場所、ですか?」

「ああ。昔からここがお気に入りなんだ。疲れた時には結構来る」

「なるほど」


 確かにきれいな花々が沢山あり、素敵だと思える。


 そして男女で来るにはいい場所なのだろう。


「失礼を承知で言う」

「何ですか?」


 正体がばれてしまったのではないかと、リリーはびくっとする。


「俺が思うに、君は落ち込んでないか?」

「え?」


 そう言われ、リリーは呆然とした。

 ある意味で、「リリーじゃないのか?」などと言われるよりも衝撃的なワードだ。


 この人は自分の全てを知ってるのではないか、とさえ思ってしまう。

 リリーは確かに落ち込んでいる。

 あれだけの仕打ち。

 回復しつつはあるが、まだまだ心の傷は深い。


「君は真面目だと言ったけど、理由があるんだな。君はしんどい気持ちを振り払うように仕事に熱心に取り組んでいたんだね」


 なんだか、その言葉に心なしか癒されたという感覚を覚える。

 何でも分かってくれている。

 リリーの涙腺はうるみだす。


「いいんだ。泣いても」

「ええ」


 そしてリリーは数日ぶりかの涙を浮かべた。



「私は、あんなこと一切していないのになんで」


 リリーの口から言葉が漏れ出す。


「私よりも、あの子のことを信じるの?」


 レノルドの前でわんわんと泣いてしまった。


 出来るだけ自分の正体がリリーであることがばれない様に。


 そしてしばらく泣いた後、リリーは落ち着いた。


「大丈夫か?」

「ええ」


 もう大丈夫。そう、リリーは思う。


「それで、貴方は普段何をしているのですか?」


 純粋な疑問だ。

 リリーはレノルドのことを何も知らない。なに一つだって知らない。普段何をして、そして、生活しているのか。

 リリーの知る限り、レノルドは毎日来ている。

 仕事についていればそんなことできない。

 となれば、いいとこの家か、不良息子だろう。


「俺は普段」


 そこで、レノルドの言葉が詰まったのをリリーは感じた。


「普段?」


 なんて言ったのかわからない。


「俺の家が太いから歩き回ってるというよりも親がうるさいんだ。結婚相手を決めろって」

「結婚相手……」

「ああ」


 そう言ってレノルドは頷く。


「それで、私に恋したから、店に毎日来てたんだ」


 その言葉に、レノルドはただ頷いた。


「なるほどね」


 リリーは思う。自分はどうしたいのだろう。

 この人について行った方がいいのか。


 いい人だとは思う。でも、好きかどうかは全くわかってはいない。


「俺は、これからもアプローチをするつもりだ。でも、俺と付き合うかどうかは自分で決めて欲しい」

「ええ、分かった」


 あくまで自分の意思を尊重してくれる。そんなレノルドの言葉に、リリーは暖かみを感じた。



 ★★★★★


「父上」


 レノルドはハルゲルトに話しかける。


「レノルドか、どうしたんだ?」

「実は。好きな相手がいます」


 そうレノルドがシンプルな口調で言うと、ハルゲルトは即座に顔をあげた。

 悦びの表情だ。


「連れてきなさい。今すぐに」


 ハルゲルトのテンションが上がっている。


「実は、好きとは言いましたが、俺が王太子とは言っていないのです」

「うむ、構わんだろ。言ってここに連れて来ればいい。女性というのは、多少強引な方がいいのだ。わしも今や亡きお前の母親と結婚した時も、わしはやや強引なプロポーズをしたものだ。お前も早く彼女を連れてこい」


 そう言って豪快に笑うハルゲルト。

 仕方ない、そうレノルドは思った。


 翌日、リリーを連れて来るしかないと。


 ★★★★★


 リリーは、ベッドで考え込む。勿論レノルドのことだ。

 彼は猛烈なアプローチをしてくれる。

 勿論新しい恋をするのもありだ。

 まだ好きかどうかは分からないが。


 だけど、裏切られてもなお、メルタイアのことが脳から離れない。

 間抜けなことにリリーは今もメルタイアのことが好きなのだ。


 メルタイアと再び復縁することなど不可能だ。

 思えば、あの時は口答えもせずに宮殿を離れてしまった。


 再びメルタイアと会いたいという気持ちも強い。


「私で、私のことが分からない」


 自分は何を選択すればいいのか。


 そして、翌日の朝を迎える。


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