第26話 詳細
「疲れました」
リリーはベッドに寝ころびながらそう呟く。
事件に次ぐ事件。まだ帰国してから一日しか経っていないはずだ。
それなのにまた精神をすり減らす事態が起きてしまった。
ヘレンを解放しに動いたと思ったら今度は来訪者で、そしてリリーがこの国を亡ぼすとまで言われたのだ。
しかも、まだ安全とは言えない人物に。
リリーにかかる心労は大きい物だ。
「お疲れ」
レノルドがそう言ってリリーの頭を優しく撫でる。
「でも、まだ終わってはいません。答えを出さなければ」
今は一時保留という選択肢を取っただけの事。
すぐに結論を出さなければならない。
いったんは寝転がったものの、すぐに結論を出さなければならない。
「そう言えばあの人たちって本物という確証は?」
「ある。奴の顔を見たことある人に一回訊いてみた。それによると彼の顔は本物らしい。それこそ変身をしてたら別だが」
「最近、魔法の使い手が沢山増えましたよね」
だから、まだ変身魔法の使い手である、という可能性を排除しきれていないのだ。
「そうだな」
頷く。
「貴重な力のはずなのに、みんながみんなバンバンと使ってるからな」
ヘレンにルリエル。そして今の二人だ。
「まあでも、目立つから多く感じるだけなんだろうさ」
そう、レノルドは言って立ち上がる。
「とりあえず、俺は受け入れようと思うが、リリーはどうしたい?」
「私もそれでいいと思います。警戒は必須ですが、様子を見るとただルーゲウトとしてはおかしい部分が沢山ありますし」
「ああ、だがもしあの二人がルーゲウトと仮定してだ、リリーがこの国を亡ぼすと言ったのはなぜだと思うか?」
「私はただ私のこの国での役割を奪おうとしていると考えます」
ルリエルの件と一緒だ。あの時リリーが消えたおかげで陰ながらの侵略がやりやすくなった。
今も同じだ。レノルドに婚約破棄をしてもらう狙いかもしれない。
それも、あの二人が本当にルーゲウトの一員だとしたらだが。
「私はこの国が好きです。だからあの二人がルーゲウトであったとしてもなかったとしても、私はこの国を守り続けます」
それこそが、この国を守る術になると信じて。
「分かった。なら、警戒しながらこの国に入れる、それでいいか?」
「ええ。ついでにルーゲウトの情報も引き出したいです」
「それは俺も一緒だ。情報が大いに越したことはないからな」
そして二人は真っ直ぐに会談の部屋へと戻る。
「話はまとまったか?」
ポケットに手を突っ込みながらランディが言う。
「ああ、とりあえずは君たちの要求を呑もうと思う」
「本当ですか?」
顔を明るかせるルディオス。
「だが、条件がある。ルーゲウトの話をもう少し詳しく聞かせてくれ」
そうじゃなければ次に打つ手が分からない。
「分かった。俺の知ってることなら何でも話してやる」
そして、レノルドとランディは互いに手を取り合った。
「さて、これからの話をしたい。俺たちはこの国を救いに来たと言っていたのは分かるよな」
ランディはそう言う。その隣ではルディオスが熟睡している。
「その前に、ルディオスさんは大丈夫ですか?」
「ああ、こいつは一日に十六時間寝るんだ」
「十六時間……」
リリーは毎日六時間しか寝ていない。となれば、リリーより十時間も長いことになる。
リリーの2.5倍以上だ。
でも、それもうなずける。何しろこのルディオスの能力の高さ。
それは16時間寝ないと発揮できないのだろう。
「それで、これからだが。ルーゲルトのことを知っているんだろ」
その言葉にリリーは頷いた。
「ルーゲルトは個人だ。だが、部下を大量に所持しているんだ。だからこそ、俺たちは戦力が必要なんだ」
「そのために取り入れるのがこの国だという事なのか」
「ああ」
「なぜルーゲルトに対して敵意を持っているかを教えていただきたい」
レノルドが言う。
ルーゲルトの詳細な話を聞きたい。
「ああ、良いだろう。話は俺の祖父の祖父の代から始まる」
「まて、祖父の代だと?」
「ああ、奴は不老不死だからな」
ここでまた新たな情報だ。リリーレノルド両名はつばを飲み込む。
「不老不死とは?」
「ああ。奴はかれこれ百五十年は生きている」
百五十年それならば、祖父の祖父の代からというのもうなずける。
「その時代からずっと活動しているのですか?」
「ああ」
それならば、なぜ暗躍し続けているのか。それまでなぜ表に立って活動してないのか。そもそもなぜほとんど名前が残っていないのか。分からない事ばかりだ。
「難しい顔をしなくていいぞ。実のところは俺もそこまでは知らんからな。そもそも本人にすら会ったことはないし」
「そうなんですか?」
「ああ、ルディオスは過去にあるそうだがな。それでルーゲルトは、そもそもの話、俺も良くは知らんが元々はそこまで野望を秘めていなかった。しかし、奴はある日思ったらしいのだ。そう、暗躍の面白さを。国を取るというよりも裏で暗躍するというのがメインらしいぜ」
「は?」
レノルドは思わずらしくない言葉を漏らす。
裏で暗躍すると言ったって、それを百五十年間も。
常人の所業とは思えない。
「奴は国が滅びゆく様を見るのが楽しいらしい。件のメルト王国の一件も奴の仕業だ。奴は顔も見せずに色々と起こしていく。この国も一度狙われたらしいが、その時は面白くないと辞めたらしいなあ」
その時にリリーは顔をしかめた。
いくらルーゲルトについてよく知っていたとしても、なぜ感情まで分かるのだろうか。
少し不可解だ。
「それで、この国は狙わないと決めたらしいが、リリー、貴様の躍動によってこの国も聞きに攫われたのだ」
「その件ですが、事件を解決に導いたのは私だけじゃなく、レノルド様ものはずですけど、私限定ですか?」
「ああ。俺が分かるのは奴はその場の情報を部下から聞き出し、リリーを警戒するように言ったらしい」
直近のことまで分かっている。
どういう事だろうか。
危険だか、踏み込むしかない。
「なぜ、そこまでの情報を知っているのですか?」
「さあな、全部ルディオスから聞いた話だ。しかし、ルディオスは密偵を送っているという情報を握っているぜ」
「情報を握っている?」
「ああ」
言い方が、気になる物ばかりだ。
「それで、この国がどう滅ぼされるかだが」
「ああ」
「この国が亡ぶ理由は単純だ。この国はリリーの手で滅ぼされると言っただろ? 俺はこう睨んでいる。……おめえが魔法を使えるようになることさ?」
ランディがリリーの手を掴む。
リリーは勢いでそれをはじき返す。
「どういうことですか?」
「説明が足りなかったな。奴は内なる魔法の力を目覚めさせられるんだ」
魔法の力を目覚めさせる。
だが確かにリリーにもそんな記憶がある。
ルリエルの力は生まれ持った力ではない。後発的に目覚めたものだ。それがルーゲウトに与えられたとしたら辻褄が見事に会う。
そう、彼女の力が完璧ではなかったという事も。
「その話詳しく聞かせてもらっても?」
「ああ、奴は様々な人物の魔法を目覚めさせ、混乱に陥らせているんだ」
「なるほどそういう事ですか」
それがこの国の場合、リリーなのだろう。
「つまり私がすべきことは、ルーゲウトの警戒および、魔法をもし付与されてしまっても暴走せずにいるという事、そうですよね」
「ああ。そういう事だ。くれぐれも注意して欲しい」
そしてその場は一度解散という事になった。




