第25話 会談
その後、レノルドはひとまずリリーの元へと遣いを送った。
理由は単純、まだ全貌が見えていない二人を今のヘレンに会わせるわけには行かないのだ。
そう、ヘレンは魔法を扱える所謂切り札的な存在なのだから。
ここで、存在を明かすほどの悪手はない。
「リリー様」
即座にリリーのもとに使いの人が来る。
リリーとヘレンは見る。
そこで、兵士からの話を聞く。一部始終だ。
(ここにきて来訪者? しかもこの国が滅亡する予言? 全く意味が分からないわ)
リリーは脳内で思考を巡らせる。しかし時間はない。今すべきことはヘレンを守り抜くことだ。
「ヘレン、少し良いですか?」
リリーはヘレンに言う。
リリーは使いと部屋の片隅で話してたから、ヘレンには何一つ伝わってはいない。
ヘレンは「どうかしたの?」と、不思議そうな顔をしている。
そんなヘレンにリリーは事情を話した。
「分かったわ、私に隠れててほしいのね」と言って部屋から出ていった。
「これで、大丈夫です。レノルド様たちを呼んできてください」
リリーは使いの人を送り返す。
そして五分後、レノルドが来た。
会談の時間だ。
「リリー良いか」
「はい」
リリーは、ランディとルディオスをじっと見た。
話を聞いた時は驚いたものだ。
今のタイミングで謎の来訪者。
勿論ルディオスは有名な人物だ。何しろ、メルト王国の財政危機を立て直すほどの逸材だ。
当時メルト王国は産業が有名な国だった。
そのために、産業を広めようと、自由な貿易を推進した。
しかし、これがいけなかったのだ。
その後、安価な物資が国の中に入ってきたのだ。そのせいで、質も良く、値段も高い産業品は誰も買わなくなった。
有り体に言えば、他国の産業につぶされてしまったのだ。
そう、自国の産業を保護しなかったせいで――
だが、ルディオスが来た時、即座に言った。
関税を掛けなさいと。
そのおかげでメルト国の産業は消滅の危機を乗り越え、自身の産業への自信を持ち、国が終わることはなくなった。
その時は、国全体としても、税収の低下や、文化の破壊によって、財政的に最悪の状況に揺らぎかけていた。
しかし、ルディオスらが立て直した結果。
国の財が損なわれることもなく、財政危機を乗り越えたのだ。
いったん2人を席に着け、一旦席から立ちレノルドと二人密談をする。
「それでその人物が、この国の破滅を予言したと」
「ああ、大まか嘘だろうけどな」
「私は嘘とは思えません。どちらにしてもルーゲストがこの国を狙えば危機に陥ります。そのことを示唆している可能性もありますから」
「準備は整ったかあ??」
ランディがリリーを睨む。
足を机の上に置いている。
「兄さま、はしたないですよ」
「はしたないだあ? そんなの関係ねえよ。こそこそと密談するくらいならさっさと俺たちの話を聞いた方がいいぞ」
「兄さまの悪いところが出た」
そう、ルディオスはため息をつく。
とはいえこれ以上相談することもほとんどない。
いや、正確にはあるが、これ以上目に見えるところで密談をすれば失礼にあたるという物だろう。
早速席に着く。
リリーはランディの向かい側に座った。
金髪の如何にもやんちゃそうな見た目、嫌な感じがする。
「それで僕が見た予言の話がしたいんだけど、いいかな」
ルディオスが言う。それにリリーは頷く。
「僕の予言を見たらこの国を亡ぼすのは、リリー嬢、あなただよ」
その言葉にリリーは「私!?」と自身を指さす。
「えっと、それはどうしてですか?」
「僕にも詳細までは分からないよ。ただ、この国が亡ぶ原因にリリー嬢がかかわっているのは決定的だ」
「なら話は早えんだよ。ルディオス、やっぱいいだろ。まどろっこしい話をする必要はない」
そして、ランディが勢いリリーに襲い掛かってきた。
リリーは目をつぶる。
レノルドの行動も間に合ってはいない。そのままリリーがやられると思ったが、ランディの攻撃は直前で止まった。
「黙って欲しい。……ランディ」
ルディオスのにらみにより、ランディの動きは止まった。
「悪かった」
リリーは二人をじっと見る。
一睨みであんなに傍若無人だったランディを止められるルディオスとはいったい。
また希少なはずの魔法の使い手かと、リリーは頭を抱えた。
しかし今の問題はそれではない。
リリーがこの国を亡ぼすという予言だ。自分からこの国を滅ぼそうとするなんて、そんなことがあるわけがない。
何しろ、それはレノルドへの裏切り行為に値するからだ。
リリーは軽く唇をかむ。
そして、
「今取り乱すべき人は私じゃないですか? 私は今の一瞬に殺されそうになったのですよ」
「それはすまなかった。この天才ランディ様にも間違いはあったようだ」
「それよりも兄さま、今はなすべきことはそうじゃなくて」
「そうであったな」
せき込む。
「先ほどの行為は俺の独断だが、ルディオスはあくまでお前を生かしたままこの国の滅亡を阻止したいそうだ。滅亡する条件に心当たりはあるか?」
「心当たりですか」
今思い当たるのはヘレンの件と、ルーゲストの件だ。
後者の件はよく分かっていない。前者はそもそもヘレン自体が予言の相手になるわけなのだから。
そして、予言自体が嘘の可能性がある。
その場合は体よくルーゲストの活動をしてこの国を亡国にする可能性もある。
つまり実はこの国を亡ぼすのはリリーではなく、ルーゲスト、ランディという可能性も残っているのだ。
そのことを考えれば安易には行動が出来ない。
リリーはレノルドの方をちらっと見る。
レノルドはそれに頷く。
「心当たりはありません」
ルーゲストの名前を出すのは危険だ。むろん帝国の時のような惨事をまぬかないためにも。
「なら、ルーゲストという名前を知っていますか?」
向こうから来るとは思わなかった。
「ルーゲスト、知りませんね」
リリーはそう答える。
あくまで信用ならない相手、ここですべてを答えるわけには行かない。
「そうか、本当に知らないのか?」
切羽詰まっている様子のランディ。
やけに怒鳴りっぽい。
「俺たちは知ってるぜ。お前たちがルーゲストの存在を知っているという事は。むしろ知らなかったら残念だぜ。何しろ、こんな無能な王太子、いや実質的な王様がこんな軟弱物だとわかってなあ」
「貴方にそこまで言われる筋合いはないです。レノルド様を侮辱されてそう黙っているわけには行きません」
「そうですよ兄さま。ここに僕たちは話し合いに来たはずです。煽るのではなく、ちゃんと情報を提供しましょう。これだから兄さまは。今日の兄さまはおかしいです」
「そうだな、この完璧超人である俺が、こんなミスを犯すなんてな。さてと、俺たちが持っている情報を渡さなくてはな。俺たちはルーゲストという男たちの背後を追っているんだ。そりゃもう恐ろしいやつで、この俺様でも尻尾を掴めてねえ。だが、情報は得た、あいつがこの国を狙っているという事が。
……リリー様、心当たりはあるでしょ?」
「心当たりとは?」
「貴方が帝国の事件を解決に導いた。そのため、貴方を襲いにこの国に牙を向けている、という訳ですよ」
ルディオスが兄の説明に対して補足をする。
「貴方がルーゲストという言葉を知らないという事はあり得ないんです。ルリエル嬢の最期の言葉ですから」
どこまで知っているのかと、リリーは軽く身震いをした。
「教えてください、僕たちには時間がないんです」
その言葉を聞いて、リリーは少し悩む。
「少しだけお待ちしていただきませんか?」
「どうしたんだ?」
「二人で少し考えてきます」
「先ほども二人で話し合う時間を与えたはずでは?」
「いえ、二人にしか話せない話もあるのです」
「いいでしょう」
ルディオスが言う。
「存分に話し合って、結論を出してください。僕たちにとって快い返事であることを期待しています」
「分かった」
そして、二人は部屋に戻った。




