第二十一話 けじめ
ルリエルはその後近くの地下牢へと送られることとなった。
暗く暗い地下牢。
ルリエルは連れられる際、無言を貫いていた。
覚悟を決めた目だった。その前の言い訳がましいあの口調はどこへやらだ。
段々と階段を下っていく。暗い空間を松明の日を頼りにしながら進んでいる。
ルリエルの両の手は枷で覆われている。
そしてルリエルは地下深くの牢へと収監されることとなった。
その後、メルタイアとリリーは地下牢へと二人で向かって行った。
「ルリエル、訊きたいことがある」
メルタイアは訊く。
先ほどまでの会話はあくまで銭座、ここで尋問してすべての謎を解き明かそうという事だ。
それは国の崩落を願う者たちの正体のような国家的な質問と、メルタイア個人の気になっている質問だ。
「私に話せることは、何もありません」
ルリエルはか細い声で言った。
「早く、殺してください。私がすべて悪いんですから」
死を望むルリエル。それを見て、リリーは首を傾げた。
おかしい。あんな傲慢だった彼女がなぜこんなに謙虚に。
リリーの知っているルリエルならば、もっと強気な態度をとるはずだ。
まさかっ!
リリーは一つの可能性に気が付いた。
「まさかあなたは、自分の記憶さえも偽ってた?」
そう、傲慢になるように、自分の記憶をいじくり、無理やり強気な性格にした。
人が変わったと言っていたのもうなずける。
「まさか、私のあの言葉を今も気にしていたのか?」
メルタイアが叫ぶ。
リリーはメルタイアの方を見た。
「私は、あの日に言ったのだ。卑屈だとモテないと」
そう言えばそんな日があった、
学園の社交パーティの際、リリーは見たのだ。メルタイアと親密そうにしているルリエルを。
しかし今思い返してみるとあの時のルリエルは大人しめの子だった。
しかしその後、段々と傲慢な性格になって行った。
あのパーティの日にメルタイアに言われた言葉が原因ならそれもうなずけるのだ。
だから、卑屈な性格をつぶすために、自分に力を使ったのかもしれない。
「正解です……」
か細い声で言う。
「だから私は生きてちゃいけないんです。私はこの世で一番のクズですから」
有り体に言えば、自己嫌悪の末、自身を洗脳してもう一つの人格を生み出し、その人格が暴走したことによってもう一つの人格が生まれた。こういってしまえば簡単な話だ。
だけど、謎は残っている。
「ルリエルさんの家族はどんな人なの?」
ルリエルの家族がすべてを操っていた可能性も捨てきれない。
「家族は何も関係ありません。私が一人でやったことです」
そう言ってルリエルはただ一人頭を下げた。
結局ルリエルはほとんどの記憶を失っていた。
というのも、あの後すぐに全員の記憶が戻ったのだ。
その後家族への身辺操作が行われた。しかし、大した情報は見つからなかったことで、ルリエルの単独犯という事が判明した。
ルリエルの家族は貧しい農家の生まれだ。
そこで、ルリエルは近くの帝国図書館で本を借り、本を読む物静かな少女だった。
そんな彼女は段々と学力がついて行く。
そんなルリエルのために、お金を貯め、特例入学テストをうけさせたそうだ。
そのおかげで、多少生活は増しになった。というのも、メルタイアの婚約者になったことにより、援助金を貰えたからだ。
おかげで庶民にはふさわしくない程のお金が支給されたが、慎ましい生活を続けているらしかった。
ルリエルの今の状況を聞いた際に驚いていた。
「まさかあの子がそんなことをするなんて」と。
その後、「私どもの教育が間違っていました。償えることがあれば、何でも言ってください」と、真に申し訳なさげの口調で言った。
その勢いの良さは、その場にいた衛兵を軽く退かせるほどの勢いだ。
その驚き様を見れば、家族は何ら関わっていないと、そうメルタイアは結論付けた。
その後、メルタイアに対して責任問題が起こらないように、全てルリエルに騙された結果という事にした。
リリーもその方がいいと思った。
この生まれ育った祖国を血のにじむ革命国家にしないためにも。
「それで、俺はどうしたらいい?」
メルタイアがそうリリーに訊いた。
「今のあなたと再び婚姻関係になるつもりはありません」
が、しかし。
「最後に私とデートしてくれませんか」
もう自分がメルタイアと一生を共にすることはもうない。
彼女はもう、レノルドと一緒に過ごすと決めている。
それが、唯一にして今の最大の願いだ。
「それだけでいいのか?」
「はい」
リリーは頷く。
「私の心の傷はそれで埋まりますから」
「そうか」
そして二人は町に出ることに決まった。
その前にレノルドに許可を求めると、別に構わないという返事が返ってきた。
それを聞き、恐らくはリリーのことを心配していないという事だろう。
「なんだかまだ数が月しか離れてないのに、なんだか全てが前と違って、不思議な気分です」
リリーはそう呟く。
街はきれいだ。
この国に来てから街を歩いたことはなかった。
その景色をメルタイアと一緒に歩けている。
それだけで気持ちが高まるといったものだ。
「私は数か月前、婚約破棄を申し渡された時、とんでもなく悲しかったです」
「っそれは」
メルタイアが焦る表情を見せる。
「でも今は大丈夫です。レノルド様のおかげで乗り越えましたから「」
「……そうか」
メルタイアは言葉を飲み込んだ。
ルリエルの洗脳の力が消えた今。
ルリエルに対する思いはない。
そんな中でリリーに対して思う事は、もったいないという事だ。
逃した魚は大きいとはよく言うが、リリーはまさにそれだ。
自分はいつまでリリーに対して思いを持っていただろうか。
リリーのことを好いていたはずだ。
だが、その前にルリエルのことが好きになってしまった。
その思いで乗り換えられてしまった。
ルリエルは素晴らしい女性だ。
だけど、リリーに敵うほどかと言われればそうではない。
「どうしたんですか?」
リリーはこちらを向く。その笑顔を見てメルタイアは「何でもないと言った」
リリーとともに歩くこの景色。素晴らしいのだ。
リリーもまたこの景色は素晴らしいと捉えている。
今は気分よくこの景色が見られる。幸せな事だと思うのだ。
あの頃、メルタイアの婚約者だった時は、あまり回りが見えてなかった。
「これを見てくれませんか?」
リリーはメルタイアに言う。
そこにあったのは、大きなドームだ。帝国の歴史が置かれている。
「今日は最後にここに寄りたいんですけど、よろしいですか」
メルタイアはリリーのその発言に対して、頷いた。
「入りましょう」
そこには帝国の歴史が沢山飾ってあった。
帝国の歴史、そして帝国の様々な過去の遺物などなどが沢山ある。
リリーはメルタイアとここに来たかった。
「私たちは、沢山一緒に帝国の歴史について学びましたよね」
「……そうだな」
「私思うんです。この帝国は傾いて来てます。でも、こうして歴史を見たら素晴らしいって」
帝国には500年にわたる歴史が残っている。
500年とは簡単に言うが、人が8人は生き死にを繰り返すほどの年数だ。
それだけの歴史が詰まっている。この帝国、23代目皇帝になろうというのがメルタイアだ。
既に23人もの為政者がこの帝国を成り立たせるために頑張ってきている。
それって素晴らしい事だ。
「お前はこれを見せるために」
「いえ」リリーは首を振った。「私はただ見たかったんです。この国に価値があるって」
その価値を損ねるところだったのがメルタイアだ。魔法の力により、この国の歴史を終わらせるところだった。
「私はメルタイア様の后に戻るつもりはありません。しかし、これだけは覚えていてください」
その言葉にメルタイアは唾をのんだ。
「私は一時期嫌いになりかけましたが、この帝国は素晴らしいです。だからこの国を守り抜いてください。そのためには私もレノルド様も尽力を尽くしますから」
「ああ」
メルタイアは頷く。
「私は皇帝になる男。これくらいで野垂れているわけには行かないからな」
そう言ってメルタイアは笑い出す。それはリリーには空元気のように思えたが、またメルタイアに自負を付けられたならいい事だ。
そして、リリーには王国を守らなければならない使命もある。大変な事ばかりだ。
「私達で、守っていきましょう。互いの国を」
「ああ」
そして二人は軽く互いの手をタッチした。




