第二十話 犯人
「ルリエル」
メルタイアが言う。
「あれはどういう事だ?」
厳しい声だ。
「メルタイア様は私のことを信じてくれないのですか」
ルリエルは泣きそうな顔で行ってくる。
その言葉を聞き、メルタイアは考える。
「俺はただ、お前のことが心配なんだ。お前の罪を晴らしたいんだから」
その言葉はメルタイアの真意ではないかもしれない。
しかし、ルリエルを信じたいのは本心だ。
「そんなことを言って私を追い詰めたいだけでしょ」
そう、ルリエルは吐き捨てだ。
メルタイアにはそのルリエルの言葉は焦っているように思えた、
その言葉を聞いて信用なんて、出来るわけがない。
ルリエルは本当に黒だったのか、そう悩んでしまう。
ルリエルが真っ白だという可能性は自分の脳内には浮かばない。
信用してあげたいのだが、それはもはや不可能だ。
もう裏切られたという感情は、信用という感情では拭えないほどでかい物なのだ。
その場でメルタイアは考え込む。
暗い暗い部屋の中で。
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「それでリリー」
「はい。彼女はもう追い詰められています。記憶操作をするなら今です。しかし、今日は流石に襲ってこないと思います。ここから数日時間を置きましょう。その後襲ってきたときに証拠をつかむのです。それこそ絶対的な物になる証拠を」
そうだ。半端なものではだめだ。
絶対的な証拠でなければ。
そこから、相手側の、そうレイのような人だ。
ただレイではだめだ。
レイの心情的にこちら側に着いている。
完全なる中立の人間でなくてはならない。
その場合メルタイアが好ましい。
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「大臣」
ルリエルは、ラウドに対して詰めかける。
「記憶操作、見破られないんじゃなかったの?」
記憶操作は見破られない。証拠もつかませることなく、その通りに改竄できる。
そうなれば元の記憶は持たない。
はずだったのにだ。
「私の記憶改竄能力の知識が間違ってたのでしょうね」
「ふざけないで!!」
ルリエルは咄嗟にラウドの服の裾を掴む。
「貴方に頼るのが馬鹿だった、私一人で何とかします」
そう高らかに宣言するルリエル。
「私に、メルタイア様の愛を復活させますわよ」
そしてルリエルは歩き出す。
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リリーはルリエルの襲撃に備えなくてはならない。
しかしだ、すでに暗殺者が捕らえられている。
そんな中馬鹿じゃないのだからそう、素直にはやってこないだろう。
待つ必要がある。ルリエルの襲撃まで。
ルリエルがしびれを切らし、行動を起こすまで。
しかし、それが遅ければその前に帰国することになってしまう。
タイムリミットは三日後。それまでに証拠をつかまなくてはならない。
レノルドにはああはいったが、本当にいつ襲い掛かってくるのかすら分からない。
一人で歩いている今この瞬間にも。
ルリエルは相当焦っているはずなのだから。
その時だった。
爆発音がした。
「何事?」
その音を聞き、リリーは走り出す。
その轟音はまさに皇宮が破壊されたかのような音だ。
そして、煙が舞っている。リリーは窓を見つけ、そこから首を出す。その先では宮殿の一角が炎で焼けただれているのだ。
まさに崩れ落ちようとしている。こちらにまで被害が生じることはないが、まさかこのタイミングで事を起こすなんて。
思っていたよりもルリエルは愚かだったという事なのだろうか。
「っ頭が」
頭が痛む。
何事だろうか。
まさか、この爆発はカモフラージュ。そしてリリーの頭を……。
その時にはもう遅かった。リリーの頭に暗示がかけられ。
リリーの記憶は混濁していく――
記憶をかき混ぜられるその痛み。
かなりの苦痛だ。
もしや、今までの被害者たちもこの痛みと戦ってきたのか。
このまま記憶が消え、ルリエルの盲信者になる。
嫌だ。でもどうしようもない。後はレノルドに頼むしかない。
「やめるんだ!!」
その声を聞いた瞬間、痛みが治まり、リリーの頭の中が透き通った。
後ろを振り返るとレノルドがルリエルの手を掴んでいた。
その横にはメルタイアがいる。
まさか来てくれたの?
「ありがとうございます」
そしてレノルドが差し出す手をリリーは取り、立ち上がる。
「さて」
メルタイアがルリエルを睨む。
「ルリエル、これはどういう事か説明してもらおうか」
「えっと、その」
ルリエルは言いよどむ。
メルタイアの目の前でリリーに襲い掛かった。
その事実はどうあがいても消えることはない。
「魔法ですよね」
リリーが強い口調でそう言うと、ルリエルはただ頷いた。
「まさか俺の記憶もいじくってたのか? 本当にいじめなど無かったとでも言うのか?」
厳しい口調で言い詰める。
ルリエルは今にも泣きそうだ。
むろん今ここで泣いて許してくれる人などこの中にはいないが。
「私は記憶の改竄なんて、してません」
「今になってもまだ言い逃れをしようとしているのか」
そのメルタイアの顔は苦しそうだった。
ただでさえ今の自分の記憶がルリエルによって作られたものである可能性が高い。
今、メルタイアだって苦しいのだ。
ルリエルの見苦しい姿を見ると情けなくなってくるのだ。
自分はこんな女に惚れていたのかと。
「私のことを信用してくださらないのですか?」
「いや、信用とかの問題じゃない。私の感情はお前に作られたものかもしれない。……それに現実問題、私の君に対する信用はゼロだ」
「そんな……」
ルリエルはその場で倒れた。
まるで力を使い果たしたかのように。
そのルリエルの姿は弱々しいものだった。
しなしなで、力が抜けている。
「私は、ルリエル様がやったことは恐ろしいことだと思います」
リリーはそう静かに言う。
「なんだか憎めない。そんな感じがするのです」
嵌められたことは事実だ。しかし、リリーには見えるのだ。
ルリエルの後ろにいる権力者が。
それは大臣もそうだし、もしかしたらそれよりももっとすごい勢力がいるかもしれない。
リリーにはルリエルは国家転覆を謀る人たちに利用されていた。そう感じるのだ。
そして、駆け付けた兵たちの手によってルリエルは連行された。
兵士たちの話によると、宮殿の柱に爆撃を仕掛けた犯人はラウドらしく、同じく捕まったらしい。
「リリー、すまなかった」
メルタイアが頭を下げる。
「お前の罪は全て嘘で作られたものだった。リリーお前はいじめなどしていなかった」
「当然です。そのような行為など、しようとも思ったことがありませんから」
リリーが、真面目な顔でそう告げると、メルタイアは「そうか」と呟いた。
「私は弱いな。自分が恥ずかしく感じてくるよ」
そう、笑うメルタイア。だが、次の瞬間。
「私はこの国を引き継ぐのにふさわしくないのかもしれん」
そう自嘲めいた笑みを浮かべるメルタイア。
「確かにそうだな」
レノルドは頷く。それを見て、メルタイアはがっくりと肩を落とす。
しかし、とレノルドは続ける。
「今まだ国難は去っていない。それに詳しい話もルリエルから聞けていない。その状況で落ち込むよりかは、全てを解決させた方がいいと俺は思う。メルタイア、お前が招いたことだからな。それに、若い俺が言うのは違うかもしれないが、若いからまだやり直せるさ。この国を立て直し、自分の愚かな過去を払拭するのが一番いいんじゃないのか?」
レノルドがそう言うと、メルタイアは唇を軽く噛み。「ああ」と言った。




