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第十六話 対談

 そして、リリーはその後、メルタイアの元へと行く。

 対談だ。


「さて」


 メルタイアは、ベッドに座り、腕を組む。

 その目は静かにリリーを捉えている。

 そんなメルタイアを見て、リリーは椅子にちょこんと座っている。


 メルタイアの眼光は鋭く、この場に呼ばれた意味すらもよく分かっていない。

 話したいことがあるとはいえ、嫌っているはずの相手と護衛を付けずに二人きりになるなんて。


 とはいえ、リリーは恐れの心と共に、嬉しい気持ちも持っている。

 メルタイアと何年かぶりに二人きりに慣れたのだ。

 弟のように思い、実際に好いていた相手。


「懐かしいですね」


 メルタイアと共に過ごしていた日々を思い出しながらリリーは言う。



「私としては、許されない過去だ。今も消し去りたい。だが、私がここに君を呼んだのには理由がある」

「何ですか?」

「私は君がなぜ、ルリエルをいじめたか分からないのだ」


 結局それか、とため息をつく。


「結局は嫉妬だとは思っているが、私は君がそんなやつだったとは思わなかったのだ。結局お前は何が気に入らなかったんだ?」


 何を言ってるのか分からなかった。

 だってここには、冤罪を晴らす名目で来ているのだから。


「私はいじめてませんよ」

「嘘をつけ。口を開けばいつもそれだ。私は本当にお前には失望している」

「こちらがむしろ聞きたいです。いつからルリエルに惚れてたんですか?」


 メルタイアがルリエルに惚れ、あの事件が起こった。

 ルリエルは今、リリーという人材を追放し、国力を削ごうという戦力を国の中に入れた。

 国としてみれば最悪な人物だ。


「いつからか、彼女が貴族学院には行った時からだ。確かあの時に、ルリエルには惚れた。入学式の日に一目見てからな」

「という事は一目ぼれという事ですか?」

「ああ。あの時は一瞬で惚れたものだ。まさか私という人間がここまでの恋をするとは思ってはいなかった」

「という事は、私への関心にはその時にはすでに」

「まあ、そうだな。最初はただのお遊びのつもりだったが。まあそれはいい。私は今お前のことが許せない状態にある。そんな無意味な嫉妬心でルリエルを虐めたことが」


 結局メルタイアの言葉は支離滅裂だ。

 仮にも一刻を治める立場におらんとするものが、今のメルタイアのような人ならば、民は安心して暮らせない。

 話があると言って連れられてきたのに、話し合いが出来る状態にすらない今の状態では。


「あの噂があって、今更言い逃れできると思うなよ」


あの噂……

 ルリエルとメルタイアの通っていた貴族学院にはリリーも入っていた。一緒に勉学に励み、その中で絆を深めるという名目で共に入っていたのだ。しかし、入学時から段々とリリーから離れて行っていたのだ。


 そして、段々とリリーに対する悪いうわさが流れ始めていた。

 今思えばあれもルリエルが流していたものだろうが、その時のリリーは愚かにも放置してしまっていた。

 いつしか収まると思って。

 そしてその噂が、段々とリリーを突き刺していっていた。

 リリーはいつしか評判が悪くなっていたのだ。

 そしてその頃、リリーの元からメルタイアが離れていた。

 そのせいで、もはや、リリーは孤立していった。


 それでも愚かにもリリーはまだメルタイアの愛を信じていたのだ。

 そしていつしかこの悪評もなくなるだろうと。

 今思えば、いくらでもあの頃の失態は思いつく。

 全てにおいて悪手を指していた。


「あの噂も事実なのだろ?」

「私は、ずっとあなたのことを信じていました。あなたが私に再び振り向いてくださると」

「そんなわけがない。あの噂を聞けば、よほどの物好き以外はお前と婚約関係を解消したいと思うだろう。実際に、父上も、納得しておられたしな」

「なるほど……噂を本当だと思っていたのですね」


 全て嘘だ。真なわけがない。

 でも、それに騙されるほどこの国は衰退したのかと、リリーは軽くため息をついた。

 愛情を抜きに政治的に考えれば、メルタイアにそのまま嫁ぐよりも、レノルドの元へと行った今の方が勝ち組なんじゃないかとさえ思う。


 だが、それを抜きにして。


「私は今でも、貴方のことを想っていますよ」

「他の男の妻になるくせにか」


 吐き捨てるように、言う。


「それはそうですけど」


 それとこれは違う。

 そもそも先に裏切ったのは、メルタイアの方なのだ。


「私は、怒ってもいます」

「そうじゃないか。私に対してしっかりと憎悪を持ってるじゃないか」

「それとこれは違うのです。私は諦め切れない」

「それは無理だ。昔は好きだったが、昔と今は違うんだ。お姉ちゃんっ子だったメルはもういない。ここにいるのは、リリーという悪女を断罪するメルタイアだ」


 やはり、このメルタイアはもうあの可愛らしいメルには戻らないのか。そう思うと、少しだけ気分が悪くなった。

 なんだか疲れた。この先の見えない議論などいくらしても無駄だ。

 メルタイアは結局建設的な議論をするつもりはなく、リリーをただなじりたいだけだと判明したのだから。


「すみません、少し横になっもいいですか?」

「ああ、少し横になるといい」

「ありがとうございます」


 そしてリリーは少し横になる。

 分かっていること。そう何度も自分に言い聞かせるが、メルタイアから嫌われている。その事実はどうしても飲み込めない。


 しかし、久しぶりに見るメルタイアは顔が整っていて、ハンサムだ。

 レノルドとはまた違った雰囲気がする。

 レノルドは凛々しいという感じだが、メルタイアは、小動物系のハンサムだ。

 小動物系とは言っても、可愛いだけじゃなくしっかりと男らしさも兼ね備えているが。



「私は……」


 そしてリリーが部屋から出ようとするが、


「待て。しばらくここにいてもらう。必要な事だ」と言って通してくれない。

 話し合いというのは、建前で、結局はリリーをこの場に置いておくためだった。

レノルドと共に行動させないための。



 リリーはここで何ができるのだろうか。

 メルタイアに無実を訴えることもできない。しかし、この場から立ち去ることもできない。

 ただ、レノルドを待つのみでいいのか。疑問に思ってしまう。


 ここでできることは本当にないのだろうか。



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