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第十三話 祖国

 

 そして、あっという間に祖国、グランセン帝国へと赴く日となった。


 先日の事件で国内にも目を向けなければならないと知った。

 だけど、ひとまずはリリー自身の問題を解決せねばならない。

 それこそまさに、リリーにかけられた汚名を晴らすことだ。


 リリーにとってはいいことに決まっているし、国としてもリリーの冤罪が証明されれば、より強固なもので結ばれることとなる。

 そうなれば、幸せなことづくめだ。


「覚悟は決まってます」


 リリーは馬車に乗り込む瞬間、レノルドにそう言った。

 これは強がりではない。リリーにはもう逃げ道なんてない。

 もう決めた。

 レノルドとの婚約の瞬間に、メルタイアと話し合う覚悟なんて。



 その馬車はガタガタと音を立てながら、進んでいく。

 行きも感じたけれど、眠い。

 兎に角暇なのだ。


 そのようなことを言えば、馬車の運転手さんが一番大変なのだから、あまりそのようなことを想うべきではないと思っているが。


 到着までは数日間かかる。

 それまではただ馬車の中で揺られるという生活を続けることとなる。



「レノルド様」


 リリーはふと。レノルドへと話しかける。


「どうしたんだ?」


「今日、じゃない。これからのことですけど、国としては外交同盟を結ぶのですよね?」

「ああ」


 表向きは、外交のために来る。その際に国家の肝である、商品取引。

 アトランガル王国で取れる銀。その交換取引を申し込むためにやってきたのだ。


 主に商売は国内でやるのだが、銀取引に関しては民間で勝手に取引することを禁じ、国が買い取り、そこから取引する形となっている。

 他にも、様々な物がその貿易の対象となる。


 その詳細をグランセン帝国と話し合う。

 国王である父王はまだ引退していない。

 そんな彼の代理として行くのだ。


 と言っても、もうしばらくたてば引退してレノルドに王位を譲ると言っている。

 グランセン帝国も実権はメルが握っている。

 つまり実質的なトップ同士の会談になっている。

 他には護衛として、ラメルもつれてきている。


 だが、それはあくまでも表向きの話だ。実態は――


「私の話を本当に聞いてくださるのでしょうか」


 リリーはその馬車の中で不安になる。

 もしリリーが来たと知られ、グランセン帝国側が怒り、強引に取引を終了されてしまってはリリーの責任問題だ。

 勿論、この取引はアトランガル王国側が優位に立っているのだが。


 もしかしたら、また罵倒の言葉を大量に浴びせられるかもしれない。

 そこも、リリーの怖いと思っているポイントだ。


「まあ最初はきっと文句を言われるだろうな。だがその場合は俺が守ってやる」

「本題である外交が出来たら十分ですからね」

「違う。俺にとっての目的はリリーの冤罪を晴らすことだ。リリーのあんな顔はもう見たくない」

「そうですね、ありがとうございます」



 やはり、レノルドは優しい。聖人みたいだ。



「場合によっては、レノルド様の助けが必要かもしれません」


 自身で解決できるならしたいところだ。

 しかしそれが難しいのはリリー自身がよくわかっている。


「それは遠慮なく借りてくれ。というか、何も言われなくても助けを貸すつもりだ」


 そう言って朗らかに笑うレノルド。


 場合によってはルリエル。彼女と戦わなくてはならない。


 そして自分の両親にも。一番の勝利条件とは、ルリエルに、「自分の言っていたことは全てうそです」そう言わせることだ。


 そう言わせることさえできれば、今巷で広がっている悪評も収まっていき、親からの勘当も解かれるであろう。


 そうなれば、完全に目的が果たされることになる。

 そして、今更メル君と婚約することは無理だが、再び前の関係に戻りたいと思うのだ。

 普通に話す、あの関係に。


 そして一日目、二日目と、宿に泊まり、馬を走らせる日々を繰り返す。

 そして、ついに祖国へと帰ってきた。

 リリーにとっては、一か月ぶりのグランセン帝国だ。


 懐かしさを感じるが、実際はそこまで日は経っていない。

 二月(ふたつき)、この時間が濃厚過ぎたのだ。


 町の様子を見ると、懐かしい景色だ。

 アトランガル王国とは違い、発展している景色。

 そして、獣人など、あらゆる種族がいる街並み。

 全て懐かしい景色だ。


 時間があれば、この街並みを探索したいなと、思う。


 馬はそのまま走りゆき、宮殿へとついた。

 リリーはぞくっとする。


 この宮殿、やはりトラウマを感じる。

 この宮殿で自分は婚約破棄され、事実的な追放をされた。


 そのおかげでレノルドと会えたが、一時期は人生の終わりを感じるくらいに絶望したものだ。

 今考えると、まるで小説の主人公みたいだ。

 アトランガル王国に行く馬車で読んだあの小説。それに似た状況にいつの間にかいたのだとリリーは思った。

 婚約破棄された結果、隣国の王子と仲良くなれるなんて。


 とまあ、考え事して気を貼らせるのも今の内だ。

 もうすぐ宮殿の中に入る時間が来る。その時にはまさに決戦の時。

 自分の命運をかけた時だ。


 馬車から降り、レノルドの手を取る。


 震える心を静め、いざ参らんと、リリーは宮殿の中へと一歩一歩しっかりと踏みしめながら歩んでいく。


 そして、王宮内の人達は、リリーをそっと見てくる。

 嫌悪に満ちた視線を感じる。

 やはり、リリーが本当にあんな悪辣ないじめをしたと思っているとでもいうのか。


 そんな視線を無視してリリーはどんどんと上に上がって行く。


 レノルドを連れて。


 とは言っても、案内人の後について行くだけなのだが。

 そのリリーの足取りはしっかりとしたものだった。そう周りに感じられるものだ。

 そう、リリーがトラウマをまだ抱え込んでいるとは思わせないようなものだ。

 


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