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第十二話 魔法


「っいた」


 リリーは両眼を閉じている。


 彼女は医務室にいる。


 結果的に、失明するほどの威力では無かったとは言え、目に壮大なダメージが残っている。

 しかも、精神的ダメージも甚だしい。


「なぜ無茶をしたんだ」


 そんなリリーを心配そうに見つめるレノルド。


 もはやリリーの体はぼろぼろだ。

 勿論あの炎の魔法で。

 実際リリーの体は炎の魔法をくらった時点でガタが来ていた。

 それをリリーは無理やり精神力で動かしていただけだ。


「私は、諦めたく無かったんです。このまま戦いが続けば、極刑は免れなかった。でも、このまま投降したら罪は軽くなるでしょう。だから……」

「っリリー」


 レノルドはリリーの頭をなでる。


「お前は馬鹿だよ。それに俺もだ」

「え?」

「なんでこんな無茶をさせてしまったんだ俺は」


 レノルドがそう言うので、リリーの罪悪感は震える。


(私はそう言うつもりじゃなかったのに……)


 レノルドを不安にさせるつもりじゃなかった。

 まさか倒れてしまうとは思ってなかった。

 踏ん張るしかなかったのに。


「ごめんなさい……」


 リリーは咄嗟に頭を下げる。

 もう少しレノルドとか他の人に頼ればよかったとは思う。

 わざわざ戦場に出て演説するような危険な真似をしなければよかったのだ。



「馬鹿だ。俺が守るべきだった」



 レノルドは再三言った。レノルドのその言葉は、自己嫌悪の気持ちが大きそうな感じがする。

 だが、その言葉はリリーにとってあたたかかった。

 レノルドにしっかりと思ってもらえているという事を感じ、嬉しくなったのだ。


「少しいいか?」


 そこに一人の男が来た。

 兵士の一人だ。


「この子が傷を治したいと」


 そこにいたのは先ほどの少女だった。


 レノルドは少女を見る。

 リリーも声のする方向に振り向いた。


「私は脅しと言う感じで魔法を飛ばしただけなの。まさか当たるなんて思わなかったの」



 脅しのだけのつもりだった。

 もしや、コントロールミスでも犯したのだろうか。

 そうリリーは思った。


 そして、


「だからごめんなさい。そして回復を施させていいですか?」


 そう言われ、「分かりました」と、リリーは顔を差し出す。すると、目の痛みが引いてくる。


 今リリーは目が見えない。そのため、何が起きているかは分からないが、レノルドには分かる。

 そこには緑色のオーラが出ており、リリーの目が段々と回復して行っている。


「これが魔法か」


 レノルドは呟いた。

 リリーも心の中でそう思っている。

 目の痛みがとんでもない速さで回復して行ったのだ。

 世界にほとんどない力。その分もの凄い力だ。

 流石は奇跡の力。


 これを利用しない手はない。


「これは脅しになるが」


 リリーの回復が完了した後、レノルドは提案を出す。


「この戦いに関わった人たちは皆捕縛されている。しかし、もしお前が魔法をこの国のために使うと約束してくれるなら、お前の拘束も解き、収監されているお前の仲間たちも開放してやろう」


 レノルドのその発言は衝撃に値するようなものだ。

 しかし、十分理解できる内容だ。


 魔法が必要なアトランガル王国と、恩赦が欲しい少女。


「分かった」


 少女はそう呟いた。


「あくまで少し牢に入ってもらう事にはなるが、できるだけ早く解放できるようにする」

「ありがとう」


 そう言って少女は牢獄へと連れ戻される。


「ふう」


 リリーは大きく息を吐く。


「なんだか疲れました」

「お前が一番頑張ってくれた。今はゆっくり休んでくれ」

「はい」


 そして、リリーは目をつぶり、そのまま眠りへといざなわれた。



 そして目が覚めた後、早速少女が収監されている牢に行くこととなった。

 兵士たちに護衛されながら牢へと向かって行く。


 リリーが今一番行きたい場所だ。

 そう、少女に会うために。



 牢に行くと、少女が牢獄のベッドで眠っている。

 だが、待遇はいいみたいで、ベッドは他の牢みたいに硬いものではなく、そこそこふわふわなものになっている。


「調子はどう?」

「普通ね」


 そう一言吐き捨てる。


「私はこの国を自分の手で変えたかった。でも分かってたの。わたしが蜂起したところで何も変わらないって。私の周りの人たちはみんな苦しんでるの。だから私が何とかしようって、変えようって。でも、何ともならなかった。リリーさん。あなたが来てくれて助かった。あのままやっててもどうせ負けてたってわかってるから」


 それは暴走を止めてくれた。

 内乱を止めるきっかけをくれたことへの感謝なのだろうか。


「自分で考えられるのは偉いと思うわ」


 リリーは少女を褒める。


 しかし、


 でもとリリーは続けた。


「利口とは言えないわね。だって、あなたの行為は結局独りよがりの行動。自分の主張を示すために国を襲うのは明らかにやり過ぎだと思います」


 そう、王宮を襲うなんて一歩間違えれば国力を落とし、その隙に敵国からの侵攻があればその時点で国が終わるような行為。決して許されざる行為。


「貴方が軽い罪で済みそうなのは、貴方が魔法なんて言うたぐいまれな力を持っているから、それでしかないです」


 だから、救われた。そうじゃなかったらただの犬死だ。


「私は、その選択を是とは言いたくありません」

「そんなこと分かってるよ」


 そう高く声を上げる少女。

 その言葉にリリーは一瞬びくっとなった。


「でも、私達貧民には言葉を伝える手段なんてない。じゃあ、どうしたらよかったの?」


 投げやりにそう吐き捨てる彼女。

 イライラとした様子が伝わってくる。


 誰のも言えずに困っていたのだろう。

 自分の不幸を自分自身で抱え込んでいたのだろう。

 リリーの立場としては、全てを肯定するわけには行かない。


 だが、ただ一言。リリーは「分かったわ」と言った。


 貧民層にも寄り添える政治を行わなければならないのだ。


「貴方の名前は何?」

「ヘレン」

「ヘレンね、分かりました」


 そう言ってリリーはヘレンを見送り、上へと戻った。




 そして上に戻った後、リリーはレノルドの待つ部屋に行った。


「レノルド様」


 リリーは弱弱しい声でレノルドに言う。


「私は、メル君に会う事ばかり考えていて、民のことをないがしろにしていた気がします。これから積み重なる責務を無視していた気がします」


 何しろ、リリーにとっては、初の国民の声だったのだ。


「不安になったのか?」


 リリーは頷いた。

 事実不安になったのだ。

 不安は止まらないのだ。そう、まさに勉強や国を知るだけでは完ぺきではない。

 そこから先は民の視点に立つことが大事なのだと、幾度も知らしめられた。


「リリー、忘れるな。お前はメルタイア皇太子に会いたくて俺と結婚しあtんだろ。もし、お前が嫌になったらいつでも俺を振ってくれたらいい。俺だってもう父上に変わって政治活動を開始している。だからこそ、お前の気持ちもよくわかっているんだ」

「ありがとうございます」


 リリーは頭を下げる。


「今日は、俺の胸の内でいくらでも泣いていいんだぞ」

「泣きたいわけじゃありません。それに、私達はこれから不安をゼロにすることが出来るのですから」


 不安を形にしない事。それが出来るのが今のリリーとレノルドだ。

 ヘレナみたいに、国を変えたくてもその力を持たない物は沢山いる。

 その人たちのためにも、リリーたちは頑張らなくてはならない。

 そのプレッシャーは激しいものだが、その代わりに権力を所有できる。

 なんていい事だろうか。


「私は絶対に民のために頑張る」

「そうだな。絶対に頑張ろうな」


 そして二人は互いに抱きしめ合った。


 そんな日々が過ぎ行き、ついにグランセン帝国に赴く日がやってきた。

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