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第十話 婚約発表パーティ

 

 その五日間。二人は少しずつ距離を縮めるために、協力して頑張って手を繫いだりハグをしてみたり。


 しかし、二人共初心であるため、なかなか距離は縮められていない。

 まだ、キスもしたことはないし、まだいちゃいちゃもしてない。

 本当の意味での一夜を共にするのもまだだ。


 しかし、少しづつ二人きりになっても話が弾むようになってきた。


 その傍らリリーは王宮の図書室で資料を借りて読むようになった。

 この国を知るためだ。


 おそらく婚約を発表した暁には、多数の人間から不平不満を言われるだろう。

 その時のために、アトランガル王国のことについて知らなければならない。

 勿論将来レノルドの奥様になった時のためにという側面もある。



 そんな中、下町では、話題になってることがある。


「王太子様がついに結婚するらしいぞ」

「相手は誰なんだ?」

「それが非公開らしいんだ」

「今まで、そんなことなかったから珍しいわね」

「まあでも、ハルゲルト様同様いい夫婦になって欲しいな」

「ハルゲルト様も早くに奥様を亡くしたからねえ」


 もはや、ゴシップネタ好きにとっては格好の餌だ。

 皆がその話に熱中するようになっている。


 とはいえ、全員に伝えられるわけではない。王族貴族が参加するパーティで伝えられ、そこからマスメディアに流布する流れとなる。

 恐らく、一般市民に情報が伝わるまで二日ほどかかるだろう。


「まあ、私には関係ないけどね」


 そう、道端で呟く少女がいた。

 ハルゲルトの統治は偉大で、国を豊かにしたが、それでも救い切れない人もいる。


 そのような人たちにとっては、王族よりも、自分の生活の方が大事なのだ。


「私のこの力があれば……」


 忘れ去られた少女はそう呟いた。




 その頃、リリーとレノルドは婚約パーティに向けて準備をしていた。


「リリー、どうしたんだ?」


 リリーは明らか暗い顔をしている。というよりも何かを恐れている。そんな雰囲気だった。

 流石に短い間とは言えリリーとは苦楽を共にした仲だ。流石に、苦しんでいる、その様子が分かる。



「分かっちゃった?」


 レノルドの問いに対して、リリーは弱弱しい声で言った。

 リリーにしてはやけに弱気だ。


「ああ、そりゃ」

「私ね、パーティに少しトラウマがあったんだ。私が婚約破棄されたの、パーティの最中だったから」




 あの日リリーは、メルタイア主催のパーティで、皇太子妃としてパーティに出席した。


 既に心が離れているとは思っていた。しかし、あのパーティ、リリーもちゃんと誘われ、ダンスも踊

 ったことで、ちゃんと自分のことも大事に思ってくれているかも、とまだ完全に心がルリエルに奪われていないと思った。


 その矢先にあんな事件が起きたのだが。

 あの時の周囲のくすくすと笑う声は忘れたことが無い。

 自分が醜いと思ってしまうようなものだった。

 だからあの時は碌な話もせずに、国を出たのだ。



 今恐れているのはリリーがリリーだと判明すること。

 そう、世間的に悪女と言われてしまっている自分がレノルドの婚約者だと示すことになるという事だ。そうなることによって、バッシングを受けてトラウマをほじくり返されるという事を


 今のリリーは傷つくことを恐れている。

 かつてのあの頃と状況は違うのに。


 が、心傷はそう易々と離れない物らしい。



 だが、分かっている。もう引き返すことなど出来やしないと。

 そう思い、リリーは、バチンと、自分の頬をはたいた。


「私はもう大丈夫」


 そう、レノルドに告げた。

 否、分かっている。まだ不安に尽きないことに。

 しかし、リリーはもう自分を強く偽らないと、気持ちが保てないのだ。

 不安な気持ちを忘れないと。



 パーティの前半は、レノルドとリリー抜きで行われ、途中からリリーたち二人は乱入する形になる。

 その時に、婚約者が判明するという流れだ。


 リリーは案の定というか、また心の中でおびえていた。


 罵られるのが怖い。



 ギュッと、しわがつかない程度の力で、ドレスの裾を掴む。

 でも、もう決めたのだ。この国で何と言われても関係ないと。


 リリーはレノルドの手をぎゅっとつかむ。


「守ってくださいね」


 リリーがレノルドにそう言うと、「ああ、絶対に守る」そう、レノルドは強く言い、リリーの手をギュッと逞しく握り返してくれた。


 そして二人で、会場に降り立った。


 本日のメインイベントだ。


 会場から歓声が沸く。

 リリーが出てきたからだろう。


 だが、その雰囲気は一瞬で変わり果てた。

 一部、悲鳴のような声も聞こえる。

 リリーの顔が視界に完全に収まり、レノルドの婚約者があの悪名高きリリー・ハーネストだという事が判明したからだ。


 よく見ればリリーの見知った顔が沢山見える。

 それぞれリリーが顔を見たことある人たちばかりなのだ。


 リリーは突如胸が苦しくなる。心臓の轟音が耳に届いてくる。

 苦しい。もうこの場から逃げ去りたい。そんな思いに襲われた。


 レノルドは優しく、そんなリリーに笑いかける。

 そして、唾をのみ、


「俺はこちらにいるリリー・ハーネストと婚約することに決めた」


 そう、大声で言った。

 その瞬間、ざわめきが起こる。

 内容は訊かなくても分かる。

 リリーという名は悪女として伝わってしまっているのだ。

 それと王太子が婚約したのだ。そりゃこういう騒ぎにもなる。


「そんな悪女と婚約するなんて。この国の将来を考えていないのか」


 そう声を大にして、一人の参加者が言う。



「っそんな馬鹿なことがあるか、他国から婚約破棄された人を連れてきて、ばかげている。王家の血に異物をねじ込む気か」


 もう一人の参加者が続く。

 このパーティの参加者は十分な実力者だ。

 リリーは咄嗟に耳に手で蓋をする。


 レノルドはそんなリリーの前に立つ。

 リリーの身を守るかのように。


「俺は、この子のやったことが本当だとは到底思えなかった。こんな心優しき彼女が本当に噂になってるようなことをしたのか? 俺は否と思う。俺はリリーを信用しているんだ」

「何を言う。事実と主観をはき違えないでくれ。その子は婚約破棄されている。悪女と噂になっている。実際に国費を動かした疑惑がある。ここまで聞けば、いくら擁護しようと、その子が悪なのは言うまでもない事実じゃないか」


 男は反論する。

 それを契機にパーティの参加者は口々にリリーへの悪辣を次々という。

 その光景を見て、リリーの肩が震える。

 息が上手く吸えない。腕も振るえ、今にでも吐き出しそうだ。


 頼みの綱のレノルドもあたふたしている。これじゃあ、レノルドは頼りにはならない。

 リリーは心細さに、目が水分で潤ってきた。

 だめ、泣いたらだめ。

 泣いたら完全なる負けだ。



「そんなことを言うな。これは私も賛成している」


 そう言ったのは父王だ。


「っ」

「それに、血筋としては名門の出だ。別に戦争状態の他国という訳ではない。たとえこれが政略結婚であったとしても、別に不足のない血筋だと思うがな」

「でも利用してるだけではないのか?」

「そんなことない!!」

「私は……、事実は婉曲されています。それも、虚言によって」


 周りがさらにざわつく。

 レノルドはせっかくの一言が、ほかならぬリリーにかき消され、気まずそうだ。


「私は追い出されたのです。私は不要だと判断されたから。だから私は、目立たぬように過ごそうと思ったのです。平民として細々と。しかし、そんな私を表舞台に送ってくれたのが、ここにいるレノルド様です。だから今日という日を迎えられたことを嬉しく思っているのです。これから、私は新しい人生を迎えられると」


 そうリリーが言うと、レノルドはリリーに目で合図をした。

 リリーは頷き、レノルドとリリーは前に出る。


 そして二人で華麗なダンスを披露した。

 いつかかけて、練習したダンスだ。


 元々二人はダンスがそれなりに踊れた。だから、この五日間に練習した事は、互いのダンスを合わせる練習だ。

 リリーにもレノルドにも不安などという感情はない。


 練習してきたのだ。


 見事なダンスは無事に終わり、会場から拍手が送られた。


「これが俺の婚約者の実力です。息ぴったりだったでしょ」


 そう、群衆に向け、レノルドは言った。

 拍手が飛んで来る。

 そして、レノルドは続けて言う。


「リリーが俺を利用している? そんなわけがないじゃないか。俺とリリーは相性ピッタリだと思っている。これを見て、リリーが悪いやつだという人は出てきてくれ」


 そう、レノルドは強く言う。


「私はここしばらく、ずっとこの国の歴史を調べてきました。そして今の現状も。私はレノルド様と本当の意味で夫婦となり、この国を治めたいのです」

「ああ、リリーはずっとこの国の歴史を勉強してきたからな」


 そして二人は見つめ合う。

 その光景は傍目から見たら、完全なる仲の良いカップルだ。



 その二人を見たらこれ以上は不平不満は言えないようで、「あまり、その女を信用しすぎないようにしてくださいよ」と吐き捨てた。


 そしてそれ以降は落ち着きを取り戻し、平穏のまま、パーティは終わりを向けた。


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