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ファウスト -Terminus Flores-  作者: Blackliszt
第2章Cerester
60/71

60 閑話


──二日後、ダンジョン交換所──


 交換所の流れは、初めに小部屋で交換する品を交換・または引き出し選択し、次に別の広間にある交換品が転送される受取所へ移動してから品を受け取る。


『こんにちは。カードの提示をお願いします/《新規の方はこちら》』


 品物を選択したり、Dptを支払ったりするシステムがある小部屋は、白い壁で区分けされた6畳程の広さだった。

 システム入室すると唐突に浮かび上がる青く光る立体板にも似たスクリーンが現れる。


 あの魔法文字といいリヴァイブといい、この交換所の仕組み。

 どうにも身に覚えがありすぎる。

 魔力で構成されているだけでまるで機械仕掛け。

 ホロに近いからSFでよく見るあれだ。

 とはいえ、魔道具とか魔法陣とか魔法工学を突き詰めると行き着くところは、もしかするとここなのかも。


 これはもっと早く来るべきだった。


 僕はどちらかというと楽しみは後にとっておくタイプだ。

 そして手順もまた然り、できればしっかりと踏みたいタチである。

 これまで交換所には、己で許せる実績を達成するまで立ち寄らないと後に後にと訪問を先延ばしにしてきた。

 先日、キングトードを倒したことでそれが達成されたから今日、こうして初めて交換所に顔を出したわけだ。


 キング然り交換所然り、もっと情報を集めていてもよかったかもしれない。


 同時に後悔する。

 トードーズに挑戦するにあたってその特徴を捉えた資料に目を通したり情報収集はしたものの、他のパーティーが挑戦するエリアボス戦のコンテスト観戦もしてこなかった。

 単純に楽しみは自分で確かめたかったという好奇心と、自分のこれまでの成果を試したいという自己満足のためだった。

 もしもっと早くエリアボス戦のコンテスト観戦をしていれば、オブジェクトダンジョンの特異性をもう少し深く掘り下げていただろう。


 他にもヒントはあった。

 転生者の称号である。


「はっ?農作物が交換対象のメインだって聞いていたけど、こんなに……人参やきゅうりやキャベツ……カカオに砂糖まで!? 何この品数!!!」」


 スクリーンに表示された交換対象の品目に圧され、ピタリと動かしていた指を止める。

 交換対象に品はダンジョンごとに異なる。

 ケレステールでは、農作物や一度ダンジョン内で倒したことのあるモンスターの素材がポイントを消費することで交換できると聞いていた。

 チョコレートに花まで、これじゃあ農作物っていうより植物&加工品って感じじゃん。

 しかも、物価基準が前世水準。

 巷で溢れている麦とかに関しては割高だが、巷に溢れていない品についてはアホみたいに安い。

 転生者称号の交換所特典ってこれのことかぁ。


「おいリアム! 大丈夫か!?」

「ごめん! あと少し待ってて!」

「そうか……いや何、ずいぶん静かだから心配になっただけだ。ゆっくりでいい」

「なるべく急ぐよ、アルフレッド」


 一緒に交換所に出向いて外で待っていたアルフレッドが扉を叩いた。

 さて、再びスクリーンに面とむかって操作を再開する。


『受付完了。E-2番の交換場へどうぞ /《確認》』

「E-2、確認」


 交換量によっては大量の人員も必要になってくる。

 よく出来たシステムだと思う。

 もし、受取所のスペースが足りなかった場合はエラーとして処理されるという。

 ごく稀に、大商人が大量一括交換をしようとしてエラーが発生した事例が過去に数件あるらしい。


「これでこっちからもアクセスして品を預けられればもう完璧なんだけど」


 スクリーンに表示された『お疲れ様でした。ご利用ありがとうございました』という表記を見て、少しだけ不満が漏れた。


 ボスを倒すと光の粒子となって解体され、一旦、この交換所の引き出しシステムへと転送される。

 そしてその素材の引き出しは、討伐に参加したものならば誰でも行えるのだ。

 ただし、こちらからそのアイテム空間にアイテムを入れることはできない一方通行のシステムでもある。


「恩恵を享受している側からボヤいていてもしょうがないでしょう。それより今日は帰ってから例のあれですからね」

「例のあれ?」

「例のあれは例のアレです。素材の方はこちらの方ですでに交換品としてハッキ……申請しておいたので、交換場にそれもあるかと」

「今絶対ハッキングとか言おうとしてたよね! どういうこと!なんでイデアがそこまでこのシステムに干渉できる訳!?」

「別に特別なことはしていません。私はリアムの魔力を共有するものですから、システムも私がリアムのダンジョンポイントを使うことを了承したのでしょう。あとは正規ではないルートからそのアクセスを……ワタシワダレ、ココハドコ?」

「唐突であからさますぎやしませんかねイデアさん!逆に凄いよ……で、何交換したわけ? 言っとくけどモンスター素材ならここで交換するよりギルドで買ったほうが安いんだけど?」

「……はっ! それはいつもお世話になっているこのダンジョンに対する相応の礼を尽くしたまで。これまでその役目を果たしてこなかった不肖のリアムに代わって、ご挨拶がわりに私の方から多めに購入させていただいたかぎりです」

「何そのお母さんみたいな理由。それにそもそもダンジョンは人じゃないんだからそんな訳のわからない理由で」


 ちょっと待って、今この子「……はっ!」って言ったよね「……はっ!」って。


「もしかして何の考えもなしに勝手に素材の交換を──」

「それに経済を回し発展に貢献するのであれば、貯蓄してばかりではダメなのでしょう? 記憶の中にあった経済関連の本に書いてありました」

「でもダンジョンポイントってモンスターを討伐して得られる訳だからコストはほぼゼロと言ってもいいだろう? だったら別にその分消費しなくても、プラスにもならなくても、マイナスにもならないと存じるんですがイデアさん?」


 生産に費用のかかっている産業ならまだしも、ダンジョンポイントの発掘にかかる労力は己の肉体のみ、かかる装備代を除けば完全にノーコストといってもいいほどに、自主独立した生産であるといえる。


「よく考えてください。もし仮にこれまで討伐したモンスターを他の冒険者が狩れていればと。さすれば、リアムがモンスターを狩ってしまうことで、その冒険者たちのエンカウント率を確実に下げているといえます」

「そんなifは話にならない。現実に、そのモンスターは僕に狩られてしまっているのだから」

「ですがリアムがモンスターを倒しポイントを得ているのもまた事実です。はてさて、一概に全てがそうだと否定できますか?」


 ぐぬぬ……否定できない。


「それに結局、ダンジョンポイントは交換だけでなくこの国で第2の通貨として用いられ、相場もあります。更にカードを持つ者へポイントを与えることも可能ですから、生産に関わる生産者がこの輪の中に編入されている時点でその理論の盾は一気に薄く、脆く崩れるものであると()()します」


 あえて愚考という部分を強調して反論してきやがったりましたぜこんちくしょう。


「また、そのシステムによってそもそもの発展に寄与するはずの労働者の労力自体がこちらに流れているという見方もできる訳ですから、その冒険者たちが消費することはとても重要であり、未来の街の発展のために果たさなければならないいわば義務、そうそう、そもそもダンジョンを管理するギルドという組織がある時点でこれは……」


 本当によく、ここまで口が回るものである。

 もし彼女が僕の口から生まれたのだと言われれば、疑いの余地もないほどに、イデアは僕があえて視野を狭めて議論していた内容に、次々と要素を加えて話を膨らませていく。


「本当、もう勘弁してください。僕の負けです」


 普段からサポートしてもらっている僕からしてこの優秀さが憎らしいやら頼もしいやら、複雑である。


「であるからして、リアムの愚行を正すべく? 愚考しかできない脳しかない私が? 僭越ながら約束を覚えてもいない我がご主人のために気を利かせたというのにこのリアムは」

「謝ってるよね僕!それにそれはちょっと言い過ぎじゃないかな!」


 ここまでくると、ちょっと僕も涙目である。


「ふぅ、スッキリしました。ではリアムのその愚かさ全てを許すとしましょう」

「釈然としない」

「リアム大丈夫!? さっきから何やら大声で叫んでいるようだけど!」

「あゝごめん!!!もう終わったから今直ぐ出るよ!」


 グッドタイミングですエリシアさん!

 別に逃げたわけじゃない!

 これは、戦略的でも頭脳的でもない、ただの合流である。


──交換品受取所E-2──


「これは?」

「見ての通り、糸です」

「いやそれはわかるけど何で」

「糸です」


 田舎の公民館とかにありそうな体育館ほどの広いE-2スペースにどっさり置いてあるキングの素材諸々の隅っこに、ポツンと置いてあった糸について問うた。


「で、こっちは」

「布です」

「いやだからそれはわかるんだけど」

「布です」

「あのね、僕が聞きたいのはこれらが何か」

「布と糸です」

「ということじゃなくてね? これを何のために交換したかということで」


 ここまでくると流石に学習するというもので、スルースキルも少しずつ上がってくる。


「先日、私と交わした約束をお忘れですか?」

「いや先日交わした約束って……なんだっけ」

「リアムをおもちゃにでき……リアムのためにと思って提案したというのに、その暖かい隣人心を無情にも忘れ無下にするとはオヨヨ」

「隣人心って、それもはや他人だから」


 いつ何時とも一緒にいる心の中の隣人というような意味で言ったに違いないが。


「でも思い出したよ。これはつまり僕の新しい装備を作るための材料というわけだろ?」

「はい。ようやく思い出されましたかバ(カ)リアム」

「おいどうしてバとリの間のカをわざわざ略した。別に略す必要なんてないだろ」

「これもまた、打たれ弱く脆いリアムのために温かく慈悲深い私が直接的な表現を避けるためにとった隣人心(やさしさ)というヤツです。今これくらいの劣称で呼ばれるだけで済むのであれば、約束を破られた私の傷心を考えても安いものと考えるのですが?」

「ああはいそうですね。それじゃあ今だけはカリアムでもバリウムでもカリウムでも何とでも呼ばれてあげるよ」

「そうですか。ではリアム、さっさとそれら材料を亜空間にしまってください」

「……」


 怒りと恥ずかしさから強く拳が握り締まり、プルプルと腕が震う。


──帰宅後──


「リアムにはキングトードの厚皮と油を応用し、これから私監修のもと取り仕切られる新装備を作ってもらいます」


 イデアの監修のもと、自室で裁縫に追われている。


「くそぅ、まさかこんなことになるなんて」


 一人、寂しくせっせとその糸を通した針を持つ手を動かしていく。


「ほら、そろそろ油につけた糸を取り出していい頃合いですよ」


 イデアには体がない。

 今回の服はあくまでも装備、体を守るための対応策。

 そのため、外敵に解除できる可能性をミリでも孕む魔力による代用で陣を貼り付けるわけにもいかず、強度のある魔糸で自ら服に刺繍をせねばならない。

 そしてその刺繍をするのは一体誰なのか……本当に僕は馬鹿だった。


「も、もう指が……」

「そんなの疲れのうちに入りません。それに刺し傷なども回復魔法で直ぐに治癒できるでしょう。はいそこの継ぎ目をしっかりと結んでください」

「スパルタ!」


 装備はキングの油につけて乾燥させた布と糸を使ったフード付きのマントに、なめしたキングの皮とこれまたマントを作った時に余った布を応用して作った通常装備インナーだ。

 あの巨体に対し、手に入ったキングの油はあまりにも少なく、また今回の報酬はメンバー全員で山分け、手に入った素材をみんなで平等に分配した。

 そのため、長持ちするマントとインナーを作り、用途上一番消費が激しく汚れやすい半袖や長袖の服は今回は作成を見送りとした。


「マントは取り外しが簡単ですし、最悪マントを着用しておらずとも、肌着だけ残れば全裸になることはありませんから」


 これは報酬の量を見て即断したイデアの言葉、何とも殺伐としている。


「どれも魔力を流している間しか力を発揮しない代物、気をつけてください」

「でもつまりこれは魔力を流している間は使用者の魔法防御力を共有するんだろ? 僕に打ってつけの装備じゃん」


 この二つには織り込み隠れるように重ねられたイデア考案の魔法陣が刻み込まれている。

 Virusシリーズと同じような具合で、布に塗って乾かした油が自分の魔力質に傾くよう調整する魔法陣を糸で再現することで、通常断魔材となるトードの油を見事に体外にも魔力を循環させる潤滑油として代替させた。 


「そう思っているのであれば、もっと私を褒め崇め奉ってください。私はいかなる寄進も拒否しません」

「はいはいイデア神様。奉納は魔力千ほどでどうでしょうか?」

「しょうがありませんね。どうしてもというのであれば、もらってあげます」

「いったい! また刺さった!」

「適当にこなそうという考えが見え見えです。集中力を欠いてます。ほらあんまり強く針を引っ張ると布がぐちゃります」

「僕の心配は!? 普通女神といえばもっと慈悲の心に溢れた優しい聖女みたいなのが僕の理想で」

「慈悲とはすなわち甘やかすことではありません。私はそこもしっかりと悟った万能の隣神なのです」


 そうして僕は、この隣人の耳の痛い小言BGMにこの苦行を日が落つ月出づる時間まで、しばし囚われることとなった。

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