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ファウスト -Terminus Flores-  作者: Blackliszt
第2章Cerester
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──エリアAボス戦場──


 ドームを潜った先、目の前に広がるのは、ゆったりと流れる白い雲が印象的な晴れた空に、果てしなく続く芝の草原だ。


「ここがボス戦場……昼寝に良さそう」


 エリアAといいここといい、どうしてこうも昼寝に良さそうな環境なのか。

 昼食後である事がまた、安眠に誘惑される気持ちを一層助長させる。


「こんなところで昼寝したらスポーンしたボスたちに食ってくださいって言ってるようなものだ」

「圧倒されてたんだ」


 先頭の自分に続いて、転移してきたウォルターに笑われた。


「実際ここはあの広場程度の広さしかない。直径で100mちょっとといったところだ」

「そうだった、確か見えない壁があるんだった」

「ああ。ボスがスポーンすると薄く見えるようになるからな」


 この草原は走れば永遠にどこまでも続いているわけではない。


「ここで追いかけっこしたら永遠に終わらなさそう!」

「でも隠れんぼはできませんね」

「本当にすごいですね、アルフレッド様」

「ああ、この草原はどこまで続いているんだ?」

「スゥー、ハァー……すぅ」

「ティナ!? 寝ちゃダメよ!?」 


 後ろから、賑やかな声が次々に現れてくる。


「先頭のリアムが入ってそろそろ1分だ。もう魔法文字が浮かび上がってきてボスがスポーンすると思う。準備しろ」


 唯一のボス戦経験者であるウォルターは、緩んでいた気持ちを容易に警戒へと移す。


「おっ! 出たぞ?」


 ウォルターの言う通り、戦いの幕開けは直ぐだった。

 オレンジ色の魔力で、イチカに教えてもらった通り空中に文字が描き出される。


 ──Are you ready ?


「あれが魔法文字?」

「そうだな。博士持ちの学者が昔翻訳しようと試みても翻訳できなかった謎の魔法文字だってさ。今も誰も読解できないから、あれは解読できないほどずっと昔の古の時代にあった滅んだ言語か、はたまた神様たちが使っている言語だと言われてる」


 僕にはあれがはっきりと読めるんだけど……しかも英語だ。

 僕って神様だったのかぁー。


「ウォルター、もしかして帰還の転送陣を生む魔法文字は」

「くるぞ!みんなしっかり備えてろ!」


 時間は僕を待ってはくれなかった。

 到着がこれなら、帰りはどうなんだとウォルターに聞こうとした途端、空中にあった魔法文字が花火のように弾け、そこから散った魔力が地上に降り注ぐ。


「ゲコッ」

「グコッ」

「グゲッ」


 地に降り注いだ魔力は、十一匹の大きな影を大地から目覚めさせる。


「あれがこのエリアAのボス。異なる属性種のジャイアントトードたちの群れ“トードーズ”だ! 一匹一匹はランクD〜C程度のモンスターだが、なにせ数がいる。気をつけろよ!」


 ウォルターの呼びかけによって先ほどまでのほほんとしていたメンバーたちに気合が入る。

 戦闘態勢だ。


「ウォルター、あれの属性は右からどうだろう」

「火、水、雷、風、土、光、闇、空間、無、回復、そして毒だ。カラフルだからわかりやすいだろ?」


 確かにわかりやすい。

 例えば火は赤、水は青といった具合にトードたちはカラフルな色によって己が属性を警告していた。


『毒もいるのか。初めの10匹は魔力属性の10大基礎属性だからわかるけど、どうして毒も混じってるんだろ』


 ここで不思議なのが、初めの10属性トードに混じり、毒属性のトードがいること。

 毒属性はスクールではモンスターのみが持っている属性で死に繋がる恐ろしい属性とだけ習う、解明もそんなに進んでいない対処の難しい属性だ。


「ほらリアム。試してみたかったことがあるんだろ?」


 いつまでも悠長なことを考えてはいられない。

 初めの打ち合わせでみんなに ”戦闘前に” とお願いしていた実験を始めねば。


「すぐ終わらせるから、みんなはできるだけ離れてて」


 実験のために、皆をトード達からできるだけ離れさせる。


「ティナちゃん速! もうあんなところまで行ってるよ」


 ティナは今から使おうとしている技にいち早く反応し、後退する。

 なにせ彼女はこの技が大の苦手で、魔法を使わず闘気や精気といった特殊な力を使う獣人種は、魔法防御以上にこのシンプルな力の差に敏感らしい。

 万が一にも、昨日のゴロツキみたいに気絶したら大変だ。

 

「いいよリアムー! やっちゃって!」


 エリシアから、準備OKの合図が距離を置いて少し響いて届く。


「魔力を5千くらいに絞って……」


 コンテストの映像に映ってしまうことだけが気がかりだが、だからこそ、なにせ出てきたボス達の中には僕が特訓をしていたエリアCより先のDに出現するCランク級モンスターが複数いる。

 この実験は、実行するならば今回が一番ベストだと思っている。

 特に、事前調査の結果、ユニークな特徴を持っているとわかったトード達が相手ならば、得られる物も多い。


「「「ゲコッ?」」」


 一人だけ、自分たちに近づいてきた僕にトードーズが興味を見せる。

 これは今、僕がどのくらいの位置にいるかを確かめるための一石、測ればこれから先の攻略につながる。


外戚圧バースト


 この後の戦いのため気絶させないよう、沸騰させる魔力は抑えてやる。

 うん。

 ちゃんとCランク、そして、ボスの彼らにも外戚圧は通用したようだ。


「「「ゲコーッ!ゲコゲコゲゴッ!」」」


 トード達が僕の目の前から一目散に逃げ出し、戦闘エリアを囲む不可侵の壁に次々と激突していく。

 普通乗用車くらいの大きさの彼らが、脱兎の如く逃げて壁にぶつかる様は中々見ごたえがある。


『実験終了。結果、Cランクには威圧は通じるし、ボスだからといって特別な裏設定はなし』

『後の参考のために記憶しておきます』


 これまで着々と魔法を使ってきた結果、現在の保有魔力量は40万を超えた。

 だから約1/80の魔力を使っても、痛くも痒くもない。


「終わったよみんな。それじゃあ討伐を始めようか」


 実験が終わった軽い足取りで、トード達がへばりつく壁とは反対の壁付近にいたみんなの許へと帰った。


「それじゃあ今後、ホント〜……に!リアムをキレさせるようなことだけはなしで!」

「おう」

「キレたらカリナよりヤバイ」

「うん」

「よし」

「はい」

「わかりました」

「し、仕方ないわね」


 皆が丸まって円を作り、秘密の内緒話をしている。


「みんな、終わったよ?」


 魚の泳ぐ池にソッと餌にならないコンパクタベリーの実を投げ込むように、実験が終了したことを告げる。

 仮にもボス戦中だというのに、こんな隙だらけの格好をとるなんて。

 キレてないっすよ。


「あっうん。今みんなで改めて配置を確認してたところなの」

「そうとも。決してお前をキレさせてはならんという秘密の同盟を結成していたというわけではないから」

「この馬鹿!」

「アルフレッド様!」


 気の利いた嘘をついたエリシアと、それを見事に水の泡にしたアルフレッド、それを全力でミリアとフラジールが叩きにいく。

 今後の関係も考えて見ざる聞かざる言わざる、何もなかったことにして話を早く切り替えよう。


「トードーズを分断させた後はアタッカー/サポートの順で、ウォルター/アルフレッド── 」

「おう」

「よし」

「ラナ/エリシア──」

「よろしく〜」

「よ、よろしくお願いします」

「ティナ/レイアとフラジール──」

「よろしくお願いします」

「うん、回復は任せてね」

「私も一生懸命サポートします」

「そして僕とミリアの4班で各班行動、ティナ班は2匹、他3班は1班3匹がノルマだから」

「アタッカー交代してもいいのよ」

「後で話そうミリア」


 最後にもう一度、それぞれの役割を確認を終える。

 役割交代を願うミリアを一旦抑えて、一通りみんなの顔を見渡した。


「それじゃあ……」


 これから、人生初の緊張のボス戦を始めるための口火を切る──。


「ボスとの!」

「素揚げの!」


 ……素揚げ?


「戦闘開始?」


「「「材料調達!ウォォー!」」」


 この時、自分の言葉にみんながかぶせてきた言葉に対して疑問符を浮かべるも、既に勢いづいていたその掛け声を止めることは叶わず、間の抜けた”戦闘開始?“に対し、仲間たちは“材料調達”というとんでもない四字熟語を叫んで班ごとに飛び出して行ってしまった。


「えーっ」


 一人、草原に立ちすくむ。


「って! ミリアはサポートでしょ!!何で僕を置いて突っ走ってんの!」


 初の開戦を、サポートという役割を破ってトードに向かっていってしまったミリアを追いかけ飾る羽目となった。

 待ちなさい、素揚げの付け合わせをカリフラワーにされたくなかったら──チキショウ美味しそうじゃん!

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