表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファウスト -Terminus Flores-  作者: Blackliszt
第1章Neighborhood
43/71

43


── 1ヶ月後、夜──


「リゲスさんとの稽古スケジュールも受けにまわっているし、アルフレッドやフラジール、エリシアはそれぞれ自分の勉強があるし、レイアも放課後はビット先生のところで温室の手伝いを始めたし、そろそろ一人で潜れるようになりたい……」


 一人、自室で悩んでいた。


「リアムは友達が少ないですからね」


 訂正、一応二人だ。


「違うから! 授業をほとんど修了しちゃって暇を持て余してるだけだし!居場所なくて校舎内一人でブラついてることも多いけれど……」

 

 まだ習えていない魔法練習法や、履修できていない科目もあるにはあるのだが、そこはあれ、残りのスクールライフを楽しむためにストックしている。

 これまで習っただけの魔法でも、前世の知識を掛け合わせれば弄りがいある可能性の塊なわけだが、魔法の研究でも始めようならケイトに目をつけられ、四六時中拘束されこき使われるブラックな泥沼にハマるのは目に見えている。

 実際、彼女からは日常的に何度も勧誘を受けており、そのたびに断るのに結構苦労しているが、嫌よも嫌よも暇つぶし半分になっていることが否定できないのが物悲しい。

 技術知識を使って色々開発もしたいが、こちらは段階を踏んで緩やかにやっていくことが重要だ。


「一人は……不安だ」

「鴨がネギを背負っているようにしか見えません」

「そうなんだよ。ああ、誰か練習に付き合ってくれる人はいないものか」


 ロガリエの時は子供ばかりだったが、それでも複数人で動ければそれなりの抑止力になる。

 人数が増えるほど当てなければならない労力は増えるし、最悪死んでも蘇ることができるから、複数の同じ証言が揃えられるために冒険者狩りや追い剥ぎに遭う確率がグンと下がる。 


「魔法を使えば負ける気はしないけど、それじゃあ意味ないし」

「宝の持ち腐れというやつですね」

「そうだよ。言語の成長が順調なようで何よりだ」

「それほどでもあります」

「はぁー……」


 それにあの時は、ラナだけじゃなくて冒険者のウォルターも……って ──。


「そうだ!ウォルターがいた!!」

「個体名レイアとラナの兄ですね?」

「そうそう、って個体名ってのは止めろ!!」


 見えた、一筋の暁光。



──翌朝──


「難しい」

「お願い! 簡単な仕事に同行させてくれるだけでいいから!」

「だけどなぁ……」

「もちろん報酬はいらないし、なんなら講習代としてこっちからいくらか払ってもいい」

「ああ待ってくれ! そういう話じゃないんだ」

「お金とか手間の問題ではない?」

「まあ、そのな……ロガリエの出来事をきっかけに俺も色々学んだんだ。俺はお前たちといつでもパーティーを組むといったが、それはフリーの探索の話。だから休みの時はいつでも俺はお前たちに付き合ってやるが、仕事は別だ」


 ……マズい、手応えが悪い。


「第一に、依頼中に別依頼を並行してできる器がまだ俺に育っていない。それに、なんというかだ。強さに限って言えば、お前の方がよっぽど強いからな。これじゃあ俺が負んぶに抱っこ、お前に依存しちまいそうで……だから、すまん!」

「……そっか」


 彼は彼なりに自分で足掻き成長しようとしている。


「そういうことなら、時間があるときだけでもお願いできるかな」

「それだったらいつでも大歓迎だ……で、こう断って早々言いづらいんだが、そんなにダンジョンに潜りたいなら、奴隷でも雇ったらどうだ」

「スレーブのこと?」

「なんだ知ってたのか。なら話は早いな。仕事は探索・運搬が主だが、少し高い金を払えば戦闘できる奴隷を借りることもできる。俺もパーティーが組めない時はよく利用している」


 奴隷の身分保証として、本人の意思尊重を前提とし、労働の自由、体の自由、そして人権の自由と三つの段階から奴隷となる者は自分の身を置くレベルを選び、自由を売ることができる。


 労働の自由は労働力として自分の力を売ること。

 どちらかというと派遣の仕組みに近く、それらの権利を専門の商会が奴隷商より買取、労働力として貸し出すのが主流だ。


 体の自由はその名の通り、体をも売ること。

 身の自由が束縛され、ほとんどの命令に逆らえなくなる。時には体をも許し、かなりの束縛が伴う。

 ただし本人の同意なしに傷を負わせたり、虐待することは許されない。

 

 人権の自由は、その実は体の自由と束縛される内容はそうは変わらない。

 人権の自由レベルで身売りした奴隷の得られる金額は破格、一生仕えても到底貯蓄できるかわからないほどの金額で取引されるケースを指す。

 国による補償で、奴隷には一定金額以上の賃金を時間の経過ごとに支払わなければならない。

 奴隷はその賃金を自由に使うことが許され、生活費もそこから賄う。

 行く行くは金を貯め、身を売った時と同等の金額で権利を主人から買い戻すことで晴れて奴隷から解放される。

 金額の大きさが人権を売ると表現される所以らしい。


 自分の権利を自分の裁量によって質に入れることで一時金を得る。

 奴隷の多くはその借金を返すために働き、賃金をやりくりして主人から権利を買い戻す。

 主人側は期間が長くなるほど賃金を払う義務が発生し、余計な費用がかかるリスクはあるが、その分所有奴隷から買った自由を得ることができる。

 有権者は奴隷所有に際し国への報告義務が発生するが、犯罪を犯して奴隷に堕とされた犯罪奴隷なんかもいるにはいて、こちらは保護対象から外れていたりする。


「なんなら俺が利用しているスレーブの商会を紹介してやるよ。それだったら安心だろ」

「少しだけ考えていいかな?」

「もちろん」

「ありがとう」

 

 念の為他の意見も欲しい。

 ウィルあたりにまた、相談してみるのがいいだろう。



──帰宅後──


「スレーブか……いいんじゃないか?」

「でもまだ少しリアムには早いと思う。 一応監督責任もあるんだから」

「だがいずれは雇うことになるだろう? 俺だってたまに手伝ってもらってるんだ。リアムの提示する労働条件はだいぶ楽だし、変な反発を生むことは限りなくないと思う。最悪、奴隷紋もあるしな」


 奴隷紋は魔力契約の一種で、契約に背こうものなら注文者は請負人である奴隷に罰を行使できる。


「ウォルターの言ってたって商会はおそらく俺が前に連れてってやった所だ。信用はできる」

「なら、大丈夫かしら」

「それじゃあ!」

「でも一つだけ! スレーブは基本仕事を手伝ってもらうために利用するものです。スレーブを雇うお金は自分のお小遣いから出すこと、これだけは言っておきます!」

「リアムは既に小金持ちだ。その辺はわざわざ言わなくても」

「ウィルは黙ってて! こういうことは初めに言っておくことが大事なの!」

「……はい」

「キシシ!」


 怒声と同時にバルサを眼前に召喚され、慄いた。


「はい。責任を以て、スレーブの雇用を行います」

「よろしい。じゃあ、夕ご飯の続きをしましょうか♪」


 自分の責任を自覚させるために自分のお金を使うこと、管理し報酬を得る努力を惜しまないことを教訓として胸に刻み込む。



──週末、マザーエリア──


『浮気者』

「なんでだよ」

『私というスレーブが既にいると申告します』

「君に奴隷みたいに都合よく全てを強制する気は無いよ……てか、諦めた」

『冗談のつもりで言ったのですが、まさかの展開です。もちろん私はあなたのスキル、その命に逆らうことは限りなくあり得ないことです。これが恥じらいという感情ですか?』

「それは照れっていうんだよ。恥じらいはやめて。こんなに主人にグイグイボケをかます奴隷もいないと思う」

「お前何さっきから独り言言ってるんだ? 大丈夫か?」

「ああごめん。また口に出しちゃってた。ほら、この前話したイデアと話してたんだよ。彼女、頭の中に直接話しかけることができるから」

「急に一人喋り始めたからびっくりしたぜ」

『リアムは不器用なのです。こんにちはウォルター。私はイデア』

「うおッ!?ビックリした〜……なんか声が頭の中に聞こえてきたぞ?」


 嘘だろ……。


「他人の魔力にも干渉して会話できるの?」

『リアムの残量魔力より、魔法防御の低いものであれば簡単にリンクできます。リスク回避のためリンク作成にあたりスキャニングとフィルタリングによる対象の厳選が必要ですが、個体名ウォルターはこの審査を通過したことをお知らせします。パンパカパーン』


 自前のファンファーレを鳴らすなら、魔力干渉し声をモデリングしているのだから、そこは本物に近い楽器の音を鳴らせなかったものなのか。


「なんかすげー難しいこと言ってて殆ど理解できないが、なぜか親近感湧くユーモア溢れる奴だな」

「……でしょ」

「でしょうとも」


 一抹の不安に頭を抱えるよ。



──マクレランド商会──


「これはウォルターさん。今日もいつものスレーブでよろしいですか? 予約はなかったと存じますが、シフトは空いておりますよ?」

「マクレランドさんこんにちは。今日は付き添いできたんだ。この──」

「リアムです。マクレランドさんでよろしかったでしょうか?」

「はい。これはとても聡そうなぼっちゃまで。この奴隷商会を仕切っているマクレランドと申します。以後お見知り置きを」

「よろしくお願いします」


 表通りから外れた裏路地に少し入ったところに店はあった。

 裏路地に入り口を構えているということで、既に怪しさは漂っていたが、店の中は小綺麗で印象は悪くなかった。


「いらぬ争いを避けるために、ですか」

「はい。できれば周囲の変化に敏感で、そういう処世に長けていれば尚、いいんですが」

「ご要望承りました。では、条件に見合いそうな候補を何人か連れてまいります」

「ありがとうございます」


 当てはありそうなのか。

 期待して待とう。


「リアムさんの提示なされた条件だと、これらの奴隷たちが当てはまるかと」

「これは、皆、強そうですね」

「はい。元は傭兵をしていたものやそちら側の世界の身を置いていた強者ばかりです。戦闘用奴隷ばかりで少々貸出代の方が割高となっておりますが、リアムさんの条件ですと、どうしてもそういう勘に長けた実力者、経験者から選ぶことになるかと」


 応接室に連れてこられた奴隷たちは皆筋骨隆々、または犯罪性を匂わせる隠に精通してそうな強者ばかりだった。

 だから、彼女だけ周りからかなり浮いていた。


「この子は?」

「こちらは犬耳種キツネの獣人の子になります」

「なぜこの子を?」

「理由は複数です。まず獣人は共通して周囲の気配、変化に敏感な者が多い。犬耳種のこの子も例外ではありません」

「へぇ……」

「それに差し出がましいようですが、高額な傭兵とわかる者を供につければかえって目をつけられやすいかと。失礼ですがリアムさんはまだ幼い。不埒者の目には格好の的として映りましょうし、明らかに目立つ供をつけていれば、余計に危険な不躾者の選別ラインを超える材料となり、途端に脅威となります」


 目から鱗だ。

 こんな強そうな供をつけて僕みたいな子供が歩いていれば一定の小物は遠ざけられるだろうが、腕に自信のある犯罪者からは目をつけられてしまう可能性がグンと上がる。 

 それだと、まだ奴隷なんて雇わず、一人で歩いていた方がマシだ。


「言葉は?」

「この子は獣人の国ガルド出身ですが、あちらの王都ソアグローヴ近郊の出ですので、言葉は通じます。現地語も使えますが、同時にまだ第二言語が心もとないため、その分のお代は貸出代に含まれておりません」

「そうですか」

「リアム。値段は悪くないしシフトもガラ空きだ。いいんじゃないか?」

「何しろ先日配属したばかりでして」

「そうだね……」


 本当はもっと色々聞こうと思ったが、プロと友人の言葉に肖ろう。

 提示された貸出代は1日につき大銅貨たったの一枚というかなり良心的な値段であったし、ウィルも偶に利用しているらしいし。


「決めた。とりあえず今日1日借りてみても?」

「ええ、もちろんですとも。ではこちらの書類にサインと、入会金の銀貨5枚、貸出代の大銅貨1枚をお願いいたします」

「はい……っと、これでいいですか?」

「はい。ご成約ありがとうございます。これからあなた様と商会との間に良きご縁が続きますよう、お祈りさせていただきます」

「ありがとうございます。じゃあ早速」

「そうですね。来なさいティナ」

「はい……ティナと申します。本日はお選びいただきありがとうございます。よろしくお願いいたします」

「リアムです。こちらこそよろしく」


 ティナの挨拶は少し拙かった。

 だが、問題はないだろう。

 

「じゃあリアム。俺は仕事があるからこれで」

「ありがとうウォルター、とりあえず頑張ってみるよ」

「頑張れよ〜」


 店先で、この後に仕事が入っているウォルターとの別れを済ませる。


「それじゃあまた夕刻に」

「はい。よい1日を」

「「行ってきます」」


 ウォルターの背中が路地を出てから通りに消えるまで見届け、ティナと供に商会を後にする。


「その……ティナ……さんは武器とかは使わないんですか?」

「リアム様。どうか私のことはティナとでも呼び捨てクださい。こっちの言葉ではこのそちらの方が呼びやすいんと」

「わりました。ティナ……さん」

「さんはいらっしゃらない?」

「だったら無理してティナも敬語を使わなくて良いよ。まだ慣れてないんでしょ?」

「そうですか……」


 街を出て街道を行く道すがら、お互いのことをより知るために情報交換を始めていた。

 目的地はリゲスといつも訓練に使っている人気の少ないエリアBの一角。


「武器はこの手袋。獣人の間では普通な武器」

「殴り倒すの?」

「はい。獣人ノ体は強い。獣人のからだ強化を合わせればそれは強くなって、岩も砕く。口で聞いた?ケど、強いの戦士は湖を割ったトか小山を吹き飛ばしやったとか?」

「へぇ……」


 その逸話には少し尻込みしてしまうなぁ。

 だってそれって確実にやばいヤツだもん。


『50歩100歩』

『うるさい』


 バツが悪い気持ちになるのは、魔力やスキルでいえば僕も相当だし、魔法で簡単に再現できるからだ。


「拳でってところが重要だよね!ハハハハハッ」

「 そうですネ?」

『気持ち悪いです』

「ハハハッ……はぁ。なんか疲れた」

「大丈夫デスか? 休みますカ?」

「ああ、そうじゃなくて……ティナも疲れたら遠慮なく言ってね。こう、公の場で畏まるのは何ら構わないんだけど、一蓮托生なのに立場を気にして二人でギクシャクするのはなんか違うかと」

「そうでスか?」

「だから妙な気を使うのはやめます。では単刀直入に……これから話すことを含め僕の情報を口外しないよう奴隷紋で縛らせてもらいます。これだけはどんなに信頼を築こうと施そうと決めていたことだから」

「わかリました」

「じゃあ……イデア、僕の声がティナ以外に届かないようにできる?」

「余裕です」

「コレは!?」

「じゃあよろしく」


 奴隷紋による情報口外の拘束を彼女に施したので、それから、ざっくり少しだけ自分のことを説明した。

 魔力が多いということ、イデアのこと、それとスキルアップのために彼女とダンジョンに潜ることにしたという目的。

 後はわざわざ話す必要もないので今回は伏せた。



──エリアB──


「見極めて、躱して──」


 今の僕とゴブリンの背丈はあまり変わらない。


「棍棒を持った手を切り落とす」

「グギャーッ!?」

「そのまま切り落とした腕側に一瞬フェイントを入れて──」

「グゥゥゥッ!!」

「もう一本の腕を伸ばしてきたところでまた切り落とす」

「ギャァァァッ!!!」

「エラシコ」


 スポーツにおける技の概念は時に武術に応用でき、武術そのものがスポーツとなる場合もある。

 その後、サクッと両腕のなくなったゴブリンの頭を一閃で切り落とす。


「他の技のように別のネーミングはないのですか?」

「他は刀らしく日本語に基づいてネーミングしたけど、このフェイントだけはこれが咄嗟にでたというか……」

「語彙力の不足を警告します」 

「エッ!?良くない?……結構気に入ってたんだけど」

「統一性が必要です。提案、鏡花という名前でどうでしょうか?」

「あっ、それ良いね。もらい」

「世話の焼けるリアムです」


 討伐部位である左耳を切り落とし、軽く血振りした刀を拭いながらイデアと議論する。


「あ、あの……」

「どうしたのティナ?」

「血……」

「ああ。武器に魔力が纏えれば滅多につかないそうなんだけど、一回纏ってみたら刀が粉々になっちゃって。だからこうして紙で拭っているんだ」

「個体名ティナの言いたいことはそうじゃないかと」

「違うの?」

「その……血、怖くナイですか?」

「そういうこと……そういえば今は全くと言って良いほど生理的な拒否反応も起きない。ロガリエの時はもう少し色々と感じていたのに」

『リアムは元々血に慣れていました。前世では料理をよくなされていたようですし、あるいは、血を見ることが少なくなった世界でしょっちゅう血を見ていたからでしょう』

『家にいた時はよく料理してたし、自分の血やら輸血の血はしょっちゅう見てたけど、嫌悪感から来る身震いみたいなのがなかったわけじゃないからね。というか、何でそんなこと知ってんだ! そんなことを話した覚えはないぞ!?』

『私はリアムのスキルでありリアムの中で構成されました。基礎となった媒体情報は欠落していますが、私が構成される際にリアムの記憶と繋がりが生まれました』

『だから前世特有の言葉や言い回しも知ってたわけ。これでまたひとつ謎が解けた』

『墓穴を掘りました。折角リアムをおど……驚かすネタとして秘匿していましたが、まあ良しとしましょう』

『めっちゃ気になる詰まりだったんだけど?』

『また、リアムの価値観にスキル《魔族の血胤》の影響を確認。種族的な価値観の混同が起きています。おそらく生成した魔族魔力を保有し、新しい形態を習得したため、無意識下でリアムの生物的防衛機能が働いた結果だと推測します』

『誤魔化した……まあ良いや。つまり気づかないところで勝手に感情のセーブが起きてると。それってヤバくない?』

『セーブされているのは血に対するネガティブな感情のみです。これによって発生している物理的ストレスは皆無、リアムが自覚していれば問題ないと進言します。それに……』

『それに?』

『そろそろこの議論を引き上げて個体名ティナの応対を再開することをお勧めします。先ほどから不安、心配、そして恐れなどの感情が表情から見て取れます』

「ヤバッ! ごめんねティナ!」

「は、はい?」

「そのちょっと考え事していてね! ティナに言われてそのことに気づいたと言うか……だ、だからその! ありがとう!」


 僕はなぜこの時、咄嗟にお礼を言ったのだろうか。

 焦りすぎていたのだろうか。

 でも、ティナに指摘され大事なことに気づいたのは確かなのだ。


「どう、いたしました」

「本当ごめん、ありがとう」


 ティナの優しさに思わずグッときてしまいそうだ。


「帰りながら話そう。日も傾いてきたから、今日は引き上げる」

「は、はい」

「一先ず、ご苦労様」

「お、お疲れ様でした……???」


 終始ティナを混乱させてしまっていた。

 しかし、そろそろ帰らなければティナの返還期限もあるし、宣言通り説明は後回しに、黙々と身支度を進める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ