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ファウスト -Terminus Flores-  作者: Blackliszt
第1章Neighborhood
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11 閑話 アイナのスクール処世術


 入学式が終わり、家族みんなが合流して家に帰り着いた後、それまで我慢していた3人から湯水の如く湧き出す質問攻めにあった。


「あれはどういうことなんだッ!父さんたち保護者の説明会中も気が気じゃなかったぞ!」

「そうよ!『あの子はどの家の子だったんだ?』『将来が楽しみな子でしたな』なんて、張り付いた笑顔で獲物を狙うように探って話している人たちがたくさんいたし!」


 顔にびっしり汗を浮かべながらも興奮も抑えきれず、今日、蓋をしていた我慢を一気に解き放つ勢いだ。

 しかし、「私も気が気じゃなかったわ!」といっているアイナはどこか少し嬉しそうで、その時の声真似をしてみせるくらいには余裕がありそうだった。

 「私みんなに自慢しちゃった!」なんて、一人方向性が違うズレたことを言ってるカリナもいたが。


「せ、説明するから」


 ・

 ・

 ・


「そうか……」

「災難だったわね」

「もし、また困ったことがあったら私に言ってね。氷漬けにしてやるから」


 入学式後のアルファード卿との出来事は、みんなに説明していない。

 然もないと、頭が追いつかないだろうし、変に混乱させるだけだから。

 それから、あの挨拶の内容は棄権となったアルフレッドのカンニングペーパーが壇上の見えないところに貼ってあったことにした。

 これくらいの嘘はいいよね。


「お前は明々後日からスクールに通うことになる。そして、これから先も今回のように同級生や先輩達に絡まれたりするかもしれない。その時、父さんたちがリアムのそばについていてやれることはまず、ないだろう……だから、まずは絡まれないように普段から礼儀を正すことだ。誠実さは大切だからな。 相手を無意味に挑発せず、無難な返事を返していればいい。もちろん、やりたくないことはしっかりと断ってな」


 これは……ウィルなりの処世術なのだろうか。

 なんか妙にリアリティがある。


「それでも相手が絡んでくる時はカリナや父さん達のところに戦略的撤退を──グヘッ!?」

「ウィルッ!そこは『戦ってこそ戦士だ!』とか、もっと反骨を説くものでしょ!始めはいいことをいってるな……って感心してたのに『反撃も一考せず直ぐに撤退しろ』だなんて!ダメよッ!」


 視線をテーブルに落とし、真剣に語っていたウィルの頭を押さえつけるように火精霊のバルサが乗っかった。


「『後悔のない反撃をしろ。それでお前がピンチになっても、父さん達はお前の味方だ!』とか、もっとリアムの成長に繋がる様なことを言ってよ!」

「し……しかし、リアムは他の子と比べて小さいし」


 消え入る様な声でアイナの猛論にウィルは反論する。

 すると、アイナはこちらを真っ直ぐ見据えて話の続きを始めた。


「私も、ずっとあなたの味方でいるつもり。けれどね、難しい話だけど、あなたもいずれは独り立ちをして生きていかなければならない。そして、スクールはそんなあなたとともに競い合ったり、時には協力しあったりする対等な友達を作っる絶好機会なの!そんな友達と過ごすことで得られる経験というのは、将来、とても大切なものになるのよ!」


 燃えている……!

 固くこぶしを握り、背景が燃えている様な幻覚を見せられるほどに、力強く語っている……!


「リアムは他の子より早くスクールに入った。でも、自分が他のみんなより年齢が低いからって(へりくだ)るだけじゃダメ。時には逃げることも大切だけれども、一度は自分自身の中で対抗して見なければダメ。もちろん、あなたが誰かを蔑む様なこともよ。だから、あなたは胸をはって堂々としていなさい!」

「……はいっ!」


 熱く緩急のついた激励に、気合の入った返事が出る。

 敬礼までしてしまいそうな勢いだ。


「よろしい!」


 そういって、腕組みの許可が下りる。


 僕とアイナとのやりとりを見たウィルとカリナが吹き出しそうになった笑いをこらえる音が聞こえてくる。

 つられて、組んでいた腕を解いたアイナと僕は口を手で押さえて笑いをこらえたが、我慢していた笑いが決壊し、みんなが大笑いする。

 発端となったアイナも口を押さえて楽しそうに笑い、その後はしばらく温かい笑いに包まれる団欒となった。

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