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22.ゴールデンウィークは目前に


「ごおおおおおおおおおおるでんっ、ういいいいいいいいいいいいいいいいいっくっっっっっっっっ!!!」

「木谷くん、声が大きい……」



 入学から一ヶ月。


 山あり谷あり笑いあり涙ありの高校生活をスタートさせた俺たち新入生。格段に難しくなった勉強に何とかついて行く生活だ。

 そんな俺たちが待ちわびたゴールデンウィークが遂にやって来た。今年は完璧。九日間の大型連休だ。

 それに伴い課題もしっかりと提出されている。連休明け二週間で中間テストだ。勉強はしっかりしておこう。


 学校全体が休み前のテンションに当てられていた。事実、目の前の木谷くんは放課後になるや否や感情を爆発させていた。



「だってよ! 連休だぜ連休! うちは三泊四日で合宿だぜ合宿! もう楽しみで仕方ねぇよ!」

「いいじゃん合宿。バレー漬け生活、楽しんでね」

「おうっ! 黒澤くんはどうするんだ?」

「なーんにも決まってない」



 中学時代なら、それこそ友人たちと共にセッション漬けの生活だったのだろう。しかし、今はフリーの身。

 ギターの練習はずっと続けているが、身が入らないのも事実だった。しかし、予定も何も決まっていない。



「はぇー……後半だったら俺空いてるから、連絡くれればすっ飛んでくぜ!」

「それはありがたい。頼らせてもらうよ」



 とは言ったものの、予定を入れる予定はあるのだ。

 まず、最近遊んでやれてなかったしーとつーをたっぷり可愛がる。これは最重要課題だ。

 そして、隣の眼帯っ子だ。



「さて、と……それじゃあ信濃さん、帰ろっか?」

「ん」

「相変わらず仲良いなぁ……今日は赤嶺さんは?」

「なんか用事があるから二人で帰ってくれってさ」



 赤嶺さんの行動基準は未だに掴めていない。朝何故か俺の席に鎮座していて顔だけ見て帰って行ったり、三人で帰っていたのにいつの間にか消えていたり。

 気まぐれ、なのだろうおそらく。そういうことにしておかないと、説明ができないのだ。


 そんな赤嶺さんが、珍しく昼休みにきちんと伝えてきたのだ。多少面食らったが、追求する前にさっさと立ち去ってしまったので本意は聞けていない。



「じゃ、また遅くとも休み明けに」

「おーう。信濃さんもじゃーねー」

「……………………………………ん。また」



 最近、信濃さん自身に起こった変化。


 それは、木谷くんに対してリアクションを取るようになった事だ。

 言葉数は最底辺にも満たないほどだが、彼女がきちんと反応を示す数少ない人間に木谷くんは追加された。


 大きな変化だ。あわよくば、このまま最低限のコミュニケーションが取れるようになってくれることを祈ろう。木谷くんなら、信濃さんを傷付けることもないだろう。



「信濃さん。今日はどこか行くとこは?」

「無い」

「おっけ」



 信濃さんとの短い確認を済ませ、歩みを進める。さて、どこで切り出そうかと頭を捻る。

 毎週末、信濃さんとのデートを重ねる中でどうしても気がかりだったことが一つ。それを解決するためにも、ゴールデンウィークに彼女を誘って出かけたい訳だ。


 悩んでても仕方ないので、周りから人が居なくなったタイミング……校門から出て暫くした所で話しかけよう。



「黒澤くん。明日は用事ある?」

「へっ? な、無いけど……」

「じゃあ明日。黒澤くんの行きたい所に行こう」



 と思っていたのに、信濃さんがあっさりとそんな提案をしてきた。

 こちらを見上げる信濃さん。身長差があるから、首が痛そうだ。



「……いいの?」

「むしろ行きたい。私の行きたい所ばかり行ってるから」



 痛い所をつかれた。


 この三週間ほど、毎週彼女と出かけてこそいるものの、それは全て図書館だったり本屋だったりと、信濃さんが行きやすいところを中心に足を運んでいた。



「……じゃあ、そうだな……アウトレットがあったよね。あそこで信濃さんの私服を買おうか」



 だから、ずっと行きたかった場所を提示する。


 毎回デートの度に彼女は制服でやって来ていた。悪いとは言わないが、流石に持ってないのは不味いだろう。

 俺の発言に、珍しく表情を崩す信濃さん。眉をひそめて首を傾げる──疑問、だろうか。



「なんで? 制服でいい」

「俺が見たい」

「……本買う方が良い」

「俺が買う。誕生日プレゼントだとでも思っててよ……何日か知らないけど」

「申し訳なさすぎる。貰ってばかり」

「言ったでしょう? 幸せにするって……その一環だと思って、協力してほしいな」



 ダメかな? と屈みこんで笑いかける。ダメだと言われたら仕方ない、別のプランを考えよう。

 しばしそのまま見つめ合っていたが……やがて、信濃さんが静かに目を閉じた。



「分かった。明日、いつもの時間にロビーで」

「……! ありがとう、信濃さん!」

「構わない」



 それだけ言った信濃さんは、前を向き直る。

 無茶を押し通したのだ。明日はしっかりとコーディネートしなくちゃな、と気合いを入れ直す。しーのファッション誌を貸してもらおうと、頭の中の予定表にしかと書き込んだ。


 


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