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“僕は君を夢見てる”  作者: 秋乃 しん
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幽霊を信じるって素敵じゃないですか?3


 幽霊になれる!


 君で悩む僕。どうして君だけの本心を読み取れないのか、気になって仕方がない。

 クラス座席、教卓から見て窓側の一番後ろ。教室の隅に座っている僕に対して、君は一つ右斜め前に座っている。そのせいもあって、切り替えたつもりの頭の中は君が目に入る度に考え込んでしまう。そうして、小さな独り言と溜息を一日に何回も繰り返してる。

でも問題はない。僕の席の隣はクラスの人数的な理由で空席になっている。だから小声で呟くくらいには誰にも聞こえない。


そう思ってたんだ。


 授業4時限目が終わった昼休み、母親に作ってもらった弁当をひらくと、別に特別な弁当でもなければ、見た目の悪い弁当でもなくて、至って普通の弁当。そんな毎日見る弁当になにを思うこともなく「頂きます」と口にする。

 美味しそうなお米を口に入れて噛み始める。まだ米粒の形状が残っているがそれを喉に通す。

それは同時のことだった。


「ねぇー!」


「ゔぅ?!」


死角から現れた人影。その勢いにお米が喉に詰まる。


「あ、大丈夫?」


 詰まった物を無理矢理唾で押し流して、人影の正体である顔を見た。

目の前で、一応は心配そうな表情でこちらを見ている君が居た。


 君とは月乃光のことだ。


君と言う呼び方には、別に特別な意味とかはない。


「大丈夫じゃない」


「あはは、面白いね、あ!そんなことよりさぁ!」


「そんなこと?」


嫌味を返したのにも関わらず、本当はどうでも良かったらしい僕への心配を飛ばした君は、ダンッ!と、僕の弁当が乗っている机に両手を強くついた。その衝撃に机上の弁当がガシャっと少し跳ねた。一緒になって、ビクッと身体を反応させてしまう僕。


「幽霊を ‘’信じる,, って素敵じゃないですか!」


人を殺めそうになった奴が、次には頭のおかしなことを言い出したので、発言を無視してお米をまた一口入れて噛みはじめる。僕はその時もずっと、細目で君の顔をじっと見たままで、でもやっぱり君の本心は見えない。


「なんだ思わないかぁ。秋野くんならわかると思ったのにー」


態とらしく落ち込む君に対して、僕は口に入っていたお米を飲み込む。次は、無事に喉を通過していることに安堵する。そして口を開く。


「なんにも言ってないじゃん」


瞬間、そんなことを言ってしまった自分に後悔すると同時、思いもしていなかったことが君の口から勢いよく飛び出した。


「え?信じるてるの!?やっぱり!」


先程の表情から一変させてた君。僕に顔をはっきりと見せてきた。


「やっぱり?」


「秋野くん偶に独りでしゃべってるじゃん!それってさあ!!」


「ちょっと、近いんだけど」


 焦る。


まさか授業中の独り言が君に聞こえていたのか。それに君の声のせいでクラスメイトからは注目を浴びている。僕みたいな奴が、クラスの人気者と楽しそうに話しているのだから無理もない。


「ねぇ!幽霊見れるでしょ?」


「な、なんのこと?」


細目のまま、必死に平常心を保つ。

そして、僕の独り言が月乃光の空耳だったことを上手く本人に伝えながら、僕らに注目しているクラスの人達にも君の勘違いだったと言う旨をさり気なく演出してみた。

すると、僕の作戦が上手くいったのか、「なんだ、光の勘違いかよ」と、小馬鹿にしながら僕らの話を流していった。そんな状況下で、焦りと不安で気が上がっていた僕の緊張も徐々に、下に流れていった。

 クラスの人から引かれるところだった。

いや、もう既に引かれていると思う。

僕にはわかるんだ、今の様に人の本当を知ると人はその人や感情を嫌いになる。これは僕がそうだからそう思うことであって、人の本心が見えるこの僕がそう解釈するんだから、そこに間違えはないはずだ。

そんなことは前から理解していることの一つだ。本当に、人の本心を読み取れる能力を持っている人間が自分だけでよかった。現状、そう安心できているまでは良かった。

目の前にいる君はと言うと、また態とらしく落ち込んでいた。

そんなくだらないことに少しだけ。

本当に少しだけ罪悪感を覚えた。

こんなことで、せっかくのお弁当の味が落ちてしまうのは理に適っていない。

だから僕は。君の話に乗ってあげることにする。

僕はこう見えて優しい。


「君は信じてるの?」


そんなことは聞くまでもなくて、答えは分かっている。君は幽霊って奴を信じているんだろう。だから僕に聞いて共感者を探していた。そのくらいは本心が読めなくても…。


「別に信じてないけど?」


「はぁ?」


予想外な君の答えに面食らう。

いやいや、君から聞いてきたんだよな?

必死に、君が作った矛盾を理解しようとしていたのに、口を挟まれる。


「秋野くんが信じないなら意味ないもん」


唇を尖らせて、態とらしく怒り出す。


「な、なんで?」


「ふーーん」


意味を聞いたけど、唇を尖らせたまま話を聞こうとしてくれない。そんな君に腹が立った。だけど、ここで僕が怒鳴り散らかしたり、無視したりしても土俵が同じになってしまうだけだ。だから、大人である僕は紳士に君の話を聞くことにしてあげる。


「僕、信じないなんていってないよ?」


そう言い直すと、まるでそんな僕の言葉だけを待っていたかのように、君はまた、一変した。

それも、その時は僕がいつも見ている君の笑顔よりも、大きな瞳。嬉しそうに笑っていた。

そしてまた、クラス中に響く君の声。


「ほんとぉですかぁ!」


敬語を混じらせた理由はわからないけど、恐らく興奮してる。

ダンッと机に手を当ててくる。運良くクラスの人はこちらを見なかった。そんな中「信じるとも言ってない」とも思いながら、そう言ってしまうとまた面倒にもなりそうなので頷いた。


「うん」


 少しの間、君に顔を眺められる。

それはまるで、何か企んでいるような顔つき。

本心が見えない状況に焦りを感じて、目を逸らす。すると君は僕の耳元まで近づいたんだ。そして、先程までの大声に変わって、クラスで僕にしか聞こえない声。君はまた、馬鹿みたいなことを口にした。


「今日、家に来ない?」


「はぁ?」


頭の中の整理なんてできてない。それでも、なんとか君を見ている。君はまっすぐ僕を見ている。綺麗に並んだ白い歯を見せる存在は、やはり何か企んでいるに違いない。

だけど、こんな時も。


やっぱりだ。


君の本心は見えなかった。



よろしくお願いします!

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