言の葉集め3
*** 嫉妬(八章第46話、縁切神社の異空間にて) ***
賀援『じゃあ、みんなを現実世界に戻すね』
千草『お待ちください。女人の服は煤や血の汚れが酷くて外套もありません。黒い方は外套の背中部分に穴が開いてますから、このまま帰すのは目立つかと』
俐都「日和は俺のコートを使えよ。服の汚れも隠せるだろう?」
日和「え? でも、俐都君が寒いでしょう?」
俐都「平気だから着ておけ」
日和「ありがとう」
碧真「………サイズが丁度いいな」
俐都「何が言いたいんだ? クソガキ」
碧真「別に?」
俐都「なんかムカつく笑み浮かべやがって」
日和「でも、私には大きいよ? ほら、ブカブカで手が隠れちゃうし」
篤那「よかったな、俐都。身長は小さいが、肩幅は日和より大きいぞ」
俐都「フォローになってねえんだよ。バカ篤那」
篤那「ツンデレ君には俺のコートを貸そう!」
碧真「いらねえよ」
篤那「意地を張るな。ほら、これで寒くない」
※篤那が背後から碧真にコートを羽織らせ、両肩に手を添えて耳元に低音で囁く。
碧真「っ! 何だよ!? 気色悪い!」
篤那「俺のお気に入りの少女漫画に似たシーンがあったから真似してみた。ときめいただろう?」
碧真「怖気しかねえよ。ふざけるな」
篤那「何故だ? 漫画ではヒロインが顔を真っ赤にして胸を高鳴らせているというのに」
日和「碧真君にヒロイン要素を求めるのは無理があると思う」
篤那「おかしいな。ツンデレ君がデレデレになると思ったが」
碧真「なるか!」
篤那「ツンデレ君が異性愛者だから効かないのかもな。日和に試してみよう」
碧真「気安く触るな」
篤那「何故ツンデレ君が止めるんだ? まさか、嫉妬か?」
碧真「……」
篤那「やはり、俺の少女漫画直伝技にときめいていたか。大丈夫だ。ツンデレ君。この技は君にしか使わない事にする。だから、嫉妬は無用だ」
碧真「おい。このヤバい奴をどうにかしろ」
俐都「どうにか出来るなら、六年も怒鳴り散らしてねえよ」
日和(俐都君の苦労が滲み出てる)
*** 篤那の料理(八章第46話、壮太郎の家にて) ***
俐 都「おい、篤那。何でお前までキッチンに来てんだよ」
篤 那「日和のご飯、俺も作るぞ。沢山作るなら、人手が多い方がいいだろう?」
俐 都「人手がいくらあっても、戦力的にマイナスだと意味ねえんだよ」
唐獅子『まあまあ、俐都さん。折角ですし、篤那さんにも手伝ってもらいましょう』
俐 都「本気ですか!? こいつに料理させたら、食材もキッチンも悲惨な事になるんですよ!?」
唐獅子『そんな大袈裟な。普段料理しないウチの主人でも、魚を捌くのは上手に出来ますし。野菜の皮を剥くなどの簡単なことをやってもらえば……って、んなああー!? 篤那さん! 何やっているんですか!? 何でボウルに大量のお酢を注いでいるんですか!?』
篤 那「健康にいいと言えば、お酢だろう。日和に元気になってもらおうと思ってな」
唐獅子『健康どころか害を及ぼすレベルですよ!』
篤 那「何故だ? まだ大さじ一しか入れていないぞ?」
唐獅子『まさか、ボウル一杯が大さじ一だと思ってませんよね!?』
篤 那「大丈夫だ。ここに、ご飯を入れるから」
唐獅子『何が大丈夫なんですか!? いにゃあああー! 本当に何をしたいんですかあああ!』
篤 那「寿司飯だ。寿司は世界に通ずる日本代表料理だからな。……何故か米が酢の中にバラバラに沈んでいくんだが? この米達は集団行動が苦手なのか? 個性を大事にしているんだな。個人競技で自由に伸び伸びと世界に羽ばたくんだぞ」
唐獅子『それは、ご飯に対して酢の量が多すぎるからです! 普通は』
篤 那「なるほど。それなら、ご飯を追加して」
唐獅子『何で悪い方に合わせるんですか!? ああ、お酢が床にまで溢れてるじゃないですか!!』
篤 那「ここに隠し味で追いバルサミコ酢を入れたら完璧に……」
俐 都「篤那! もうやめろ。お前はキッチン出入り禁止だ!」
篤 那「何故だ? これから桃源郷が見える絶品料理を作り上げるというのに!」
俐 都「阿鼻叫喚の地獄絵図しか見えねえんだよ!!」
*** 見ていて知ったこと(八章第47話、水族館にて) ***
日和(碧真君は水族館が好きなイメージないけど、楽しめてるのかな? 私だけが楽しんでいたら申し訳ないし、少しは碧真君も楽しんでくれるといいんだけど……)
碧真「なんか人が多いな」
日和「本当だね。あ、ラッコの餌やりだって! せっかくだし、見に行こうよ!」
〜餌やりを見学後〜
日和(ラッコ可愛いかった〜。って、碧真君の事忘れてた! 碧真君は……)
碧真「……」
日和(え。めっちゃ見てる。ラッコの挙動ガン見してる。可愛い生き物を見てるとは思えない顰めっ面だけど。……もしかして、ラッコ好きなのかな?)
日和「そういえば、ラッコって仲間同士で手を繋いで寝る事があるらしいけど、碧真君は見た事ある?」
碧真「いや、ないが」
日和「結構可愛いんだよ。ちょっと待ってね。携帯で画像を……ほら、これ。可愛くない?」
碧真「……」
日和(やばい。無表情だけど、めっちゃ見てる。携帯少し動かしても目で追ってる。やっぱり、ラッコ好きなんだ。これは碧真君の事を更に知る機会かも……。ちょっと、生き物と一緒に碧真君の反応を見てみよう)
〜水族館を回り中〜
日和(クラゲとか魚系は全部微妙そうだったな。ペンギンは結構見てた。可愛い生き物が好きなのかなって思ったけど、イルカはそこまでじゃない感じだったし。何が基準なんだろう? ……あれ何だろう? ミニ広場みたいな……あ!)
日和「碧真君。あれ見て。実物大のペンギンのぬいぐるみだって。触れるし、写真も撮れるみたい! 寄って行こうよ」
碧真「いらないだろう」
日和「まあまあ、せっかくだから。ちょうど他に人もいないし! うわ。可愛い。けど、思ってたより大きいかも。碧真君も抱っこしてみなよ」
碧真「おい。押し付けてくるな」
日和(と言いつつも、払い除けずに抱っこしてるし。やっぱり、ペンギン好きなのかな。てか、碧真君がペンギンのぬいぐるみを抱っこしてるのって、なかなか……)
碧真「何笑ってんだよ」
日和「いや、ペンギンのぬいぐるみを抱っこしてる碧真君が可愛いなって思って。普段は可愛げの欠片も無いのに、ペンギンマジックって凄い……って、わ! ちょっと! 人の顔にぬいぐるみを押し付けないでよ!」
碧真「もういいだろう。早く次見に行くぞ」
日和(……ん? 次も見たいってことは、楽しんでくれてるってことだよね。良かった)
*** 水族館のふれあいコーナー ***
日和「あ! 『海の生き物のふれあいコーナー』だって。ヒトデ懐かし〜。ほら、碧真君も触ってみなよ」
碧真「躊躇いなく掴むなよ」
日和「え? 見た目は毒々しいけど、毒持っているわけじゃないし、大丈夫でしょ?」
碧真「毒とかいう話じゃない。普通、触るの躊躇わないか?」
日和「ふれあいコーナーがあったら、とりあえず触っておくかってならない? ちょっと触ってみて。うにょんとしてるよ」
碧真「何だよ。うにょんって」
日和「触ってみたらわかるから! ほら」
碧真「やめろ。近づけてくるな」
日和「ほら、そんなこと言わずに〜。うにょんを一緒に体感してみようよ〜」
碧真「キショい」
日和「ヒトデだって生きてるんだよ。そんなことを言ったら悲しむよ」
碧真「ヒトデじゃなくて、日和がキショい」
日和「ちょっと! キショいって言われるのは結構傷つくからやめてよ!」
碧真「変質者と呼んでもいいレベルなのに、自覚がないのか?」
日和「変質者にまで格上げするのはやめて! まあ、もういいや。ヒトデさんを乾燥させちゃったら悪いし。ヒトデさんありがとう。さあ、海にお帰り」
碧真「海じゃなくて水槽だろう」
*** アザラシ ***
日和「え? 待って! アザラシいるって! めっちゃ見たい!!」
碧真「アザラシが好きなのか?」
日和「うん! 小さい頃に観てたアニメに出てたの! 白くて可愛い天使を生で見られるなんて最高!」
〜アザラシの水槽前〜
日和「……あれ? アザラシ白くないよ?? 何故に??」
碧真「知らねえよ。種類とか環境によって違うんだろう」
日和「そっかあ〜。ちょっと残念……でも、つるっぱげなアザラシも可愛い!」
碧真「つるっぱげ言うな」
*** 日和の食い意地 ***
日和「チンアナゴって、穴子みたいな味がするのかな?」
碧真「食う前提で水族館の生き物を見るな」
日和「いや、純粋な疑問と好奇心だけだから。食べるなら唐揚げかなー?」
碧真「調理法まで考えている時点で、食い意地が好奇心を通過してるだろうが」
日和「公園の池にいる丸々とした鴨を見て、美味しそうとか思うでしょう?」
碧真「思わない。どんだけ食い意地張ってるんだよ」
日和「え!? 何で!?」
碧真「こっちの台詞だ。つうか、鰯の群れ見て『美味しそう』とか言うなよ」
日和「鰯は美味しい物だって知ってるから大丈夫。どっちかというと、ジンベイザメを食べてみたい。この水族館にはいないみたいだけど」
碧真「予想の斜め上に突き抜けるな」
*** 繋いだ手の温度(冬の日、碧真と日和お出かけ中) ***
碧真「ほら、早く行くぞ……、っ!」
日和「え? 碧真君、どうしたの?」
碧真「日和の手が冷たすぎんだよ」
日和「末端冷え性だからね。室内にいても、冬はしもやけになったりするし」
碧真「血が通っていない人間だな」
日和「別の意味になる言葉だし、碧真君にだけは言われたくない。碧真君の手は心とは正反対に温かいよね。お子ちゃまな所があるから、子供体温なのかな?」
碧真「……そこに丁度よく氷柱があるな」
日和「待って! 氷柱を何に使う気なの!?」
碧真「服の中に入れたり、子供の悪戯程度の事に使える」
日和「やめてよ! それ悪戯っていうより、拷問だから!」
碧真「拷問なら、もっと別の使い道がある。例えば、口の中に」
日和「怖いから言わなくていいよ! ちょ、ダメ! 氷柱の方へ引っ張って行かないで! ごめんなさいぃっ!!」
*** 今年一年(十二月下旬、本屋にて)***
総一郎(良かった。欲しかった本がまだ置いてあった。今年は本当に色々大変な事があって、本を読む時間が減っていましたからね。おや? あそこにいるのは……)
総一郎「碧真君。奇遇ですね」
碧 真「げっ」
総一郎「げっ、とは傷付きますね」
碧 真「何でここにいるんです? 総一郎」
総一郎「買い物ですよ。碧真君こそ、書店にいるなど珍しいですね。旅行雑誌を見ていたようですが、何処かへ旅行に行かれるんですか?」
碧 真「総一郎には関係ないでしょう」
総一郎「大いに関係ありますよ。日和さんとの仲を深める為に、日帰り旅行へ行く気なのでしょう?」
碧 真「……何をアホな事を言っているんですか?」
総一郎「碧真君が先程まで手にしていたのは、近場の神社特集の本でしたからね。日和さんは神社が好きだと言っていましたし、年明け辺りにお出かけに誘うには、もってこいでしょう。日和さんは車を持っていませんから、誘う口実も十分ですし。どうです? 当たりでしょう?」
碧 真「……違いますから。なんとなく手に取っただけです」
総一郎(これは図星ですね。碧真君も日和さんと随分と仲良くなってくれましたね)
碧 真「総一郎。ニヤニヤしてると、不審者として通報されますよ」
総一郎「朗らかに笑っているだけですよ。それにしても、碧真君。いつも黒い物ばかり身に着けているのに、青いマフラーとは珍しいですね」
碧 真「総一郎には関係ないでしょう」
総一郎「……あ! もしかして、日和さんから貰った物ですか?」
碧 真「……」
総一郎「やはり! そうなんですね!? 日和さんが選びそうな綺麗な色ですし。あ! 碧真君! 待ってください! 詳しく話を」
碧 真「話す事は無いですから! 失礼します」
総一郎(行ってしまいましたね。それにしても、碧真君が日和さんからの贈り物を身に着けているとは。……今年は色々大変な事がありましたけど、良い事もありましたね。来年が楽しみです)
*** おみくじ(一月上旬。神社で)***
日和「あ! おみくじ! 碧真君、一緒に引いてみない?」
碧真「どうせ当たらないから意味無いだろう」
日和「情緒無さすぎない? 別に当たらなくても、その時に楽しめればいいんだよ。大体、内容なんて十分後には忘れてるし」
碧真「情緒ないのはどっちだよ」
日和「じゃあ、私だけ引こうかな。……わ。大吉だ! えっと、全体運は望みが叶う! 仕事運は順調! 良かった。金運も問題なし。恋愛運……モテ期到来!? ついに私の色気が開花時期を迎えたって事!?」
碧真「何で恋愛と色気を結びつけてんだよ?」
日和「だって、モテるってことは、人を惹きつけるフェロモンがあるからでしょう!? 嬉しい!」
碧真「モテ期なんて日和には一生来ないから、期待しない方がいいな」
日和「ちょっと! 酷すぎない!?」
碧真「今までモテた事あるのかよ?」
日和「……………ま、まあ、これから来るかもじゃん。お互いに良い人だって思える相手と出会うかも……あ! 碧真君! あそこ見て!」
碧真「何だよ? ……はあ? あの男がどうしたんだ?」
日和「え? 碧真君、なんか顔怖い……。あそこに鯛焼き屋さんがあるから、一緒に食べないかって聞こうとしたんだけど……」
碧真「……紛らわしいんだよ」
日和「え? 出店が沢山あるから、碧真君と半分こすれば色んな物を食べれていいなって思ってさ。嫌なら大丈夫だよ。ごめん」
碧真「別に嫌とは言ってない」
日和「本当!? 良かった!」
碧真「はしゃいで食い過ぎるなよ」
日和「確かに気をつけないと。おみくじの健康運の所に『食べ過ぎ注意』って書いてあるしね」
碧真「それだけは確実に当たるだろうな」
日和「どういう意味!?」
碧真「そのままの意味だ。ほら、よそ見するな。行くぞ」
日和「うん!」
*** 思いのすれ違い ***
日和「神社満喫した! 碧真君。連れてきてくれて、本当にありがとう!」
碧真「暇だったからな」
日和「碧真君は神社に興味なさそうなのに。わざわざ私の為に連れてきてくれたんでしょう?」
碧真「……まあな」
日和「やっぱり! 厄除けで連れてきてくれたんだね!」
碧真「……は?」
日和「去年は、本当に何度命の危機に遭った事か! この神社は厄除けのご利益があるから、本当にあやかりたい。今年は、いや、末長く平和に生きていたい。……って、どうしたの? 深い溜め息吐いて」
碧真「馬鹿の相手は疲れる。頭が良くなる神社があるなら、速攻で日和をぶち込んでやるのにな」
日和「お礼言ってるのに、何で喧嘩売られてるの私!?」
*** 体重の悩み(日和と碧真お出かけ中。焼肉食べ放題のお店にて) ***
日和「体重って、どうして増えるのは早いんだろう……」
碧真「何だよ急に」
日和「せっかく減ってた体重が、もう戻りそうなんだよ。出来れば、元の体重から四キロ減ってる今のままがいいなって」
碧真「前の方がいいだろう」
日和「ダメ! 腰回りの謎の贅肉が戻ってくるとか悪夢だよ! 永遠にさよならグッバイしてたい! 今からセーブしておかないと」
碧真「ほら、肉焼けたぞ」
日和「わーい。ありがとう。……うん! 美味しい!」
〜一時間後〜
日和「って、ダメじゃん! 食べ放題だからって、ここぞとばかりにいっぱい食べちゃってたよ!」
碧真「気づくの遅すぎだろう」
日和「てか、碧真君は何で太らないの!? 一緒に外食してるのに!」
碧真「知らねえよ」
日和「え? 何で怒ってるの? 私、何か嫌なこと言った?」
碧真「……昔から、食べても太れない体質なんだよ」
日和「え。羨ましい」
碧真「何処がだよ」
日和(碧真君、すごく嫌そうな顔してる。そういえば、ヒョロいとか言うと怒るし。もしかして、痩せている事を気にしているのかな?)
碧真「カロリー高いもの食っても意味がない。ちゃんと飯食ってるのかと会う度に言われる。モヤシだの爪楊枝だの、ふざけた事を抜かす奴もいる。体重増やしたいと言えば嫌味に捉えられる。心底うんざりだ」
日和(うわ〜。相当鬱憤が溜まっていらっしゃる。碧真君も体型の事で悩むんだな……)
*** 不機嫌な理由(一月中旬、鬼降魔の本家) ***
丈 「碧真。何かあったのか?」
碧真「は? 何がです?」
丈 「いや、随分と機嫌が悪そうに見えたからな」
碧真「別に。何でもありません」
丈 「……そうか。ところで、赤間さんは元気か?」
碧真「……何で俺に聞くんです? 本人に聞けばいいでしょう?」
丈 「俺が聞いても、赤間さんは気を遣って体調の悪さを隠す可能性がある。碧真に聞くのが確実だと思ってな」
碧真「知りませんよ」
丈 (赤間さんの話になった途端、さらに機嫌が悪くなったな)
「碧真。もしかして、赤間さんと喧嘩でもしたのか?」
碧真「……別に。喧嘩はしてませんけど」
丈 「本当か?」
碧真「本当です。ただ、昨日食事に誘った時に、日和が断ったんでムカついただけです」
丈 「赤間さんにも予定があるだろう? それで腹を立てるのはどうかと思うが?」
碧真「予定は空いてるのに、金が無いと言ってきたんです。こっちが払うと言ったのに、年下に奢られたくないとか、ふざけた事を言い出して。俺より収入低いくせに、頑なに拒否するとか理解出来ません。アホというか生意気というか。底なしの馬鹿」
丈 「碧真。その発言は色々と問題あるぞ」
碧真「とにかく、俺に聞かないでください」
丈 (完全に拗ねてるな)
*** 恋のキューピッド ***
篠「丈さん。本家で何かありましたか? まさか、また出張の仕事を任されたとか言いませんよね?」
丈「いや、今回は挨拶程度で終わったからな」
篠「それなら良いのですが……。でも、何か悩んでいらっしゃいますよね?」
丈「いや、碧真の事が少し気になっていただけだ」
篠「碧真君の事? 一体、どうしたのですか?」
丈「赤間さんを食事に誘ったら、金銭的に厳しいと断られてしまったらしくてな」
篠「え? 何故、赤間さんがお金を出す必要があるのですか? 碧真君が出せば良いのでは?」
丈「碧真が食事代を出すと言ったが、赤間さんは年下に奢られる事に対して抵抗があるらしい」
篠「赤間さんは不思議な思考をお持ちなのですね。食事に誘うのは口実で、ただ会いたいだけなのでしょう? 素直に甘えてしまえば、碧真君にとっても、幸せな事ですのに。……あ! もしかすると、赤間さんの作戦かもしれませんね」
丈「作戦?」
篠「ええ。『男性の誘いに毎回乗っては、都合の良い女性扱いをされてしまうから、適度に断るべし』と、お姉様が仰っていましたから。赤間さんは駆け引きでお断りしている可能性があります」
丈「それは無いな。赤間さんは、駆け引きという考えすらなさそうだ。というより、恋愛感情が備わっているかもわからない」
篠(丈さんにそこまで言われるなんて、一体どんな女性なのかしら? お兄様と同じタイプ?)
丈「赤間さんが碧真と一緒に食事に行ってくれたらいいが、俺が説得するのも出過ぎた真似だからな。仕方ないだろう」
篠「丈さん。それは出過ぎた真似とは言いませんわ。二人の仲を良くする為にアシストするのは素晴らしい事です! 是非とも赤間さんを説得しましょう! 丈さんが恋のキューピッドになるのです!」
丈「いや、こういう事は本人達に任せて」
篠「恋愛下手な方達に任せたままだと、拗れるだけで碌な事になりません! 誰かが間に入った方がいいのです!」
丈「篠。面白がっているだろう? こういう事は真剣に考えなければ」
篠「真剣に面白がっているので大丈夫です! さあ、早く連絡しましょう!」
丈(俺の嫁の圧が凄い)
明日は、番外編『文集め』を投稿します。