勇者の仲間、売ります
「追放だ、サン! 出ていけ!」
「……なんだって?」
「もう一度言う。僕のパーティから出ていってくれ」
勇者パーティに加入して半年、俺は戦力外通告を受けた。
このままでは連携に乱れが生じ、魔王を倒せないからだという。
「待ってくれ……俺たち仲間だろ」
「サン、お前はゴミみたいなスキルしかないし、どのみち魔王に殺されるだろう」
ひでぇ言われようだ。
こんな勇者だとは思わなかった。
「そこまで言わなくていいだろ!」
「黙れ無能。いいか、僕が勇者なんだ。従ってもらう。命令が聞けないなら、ここで僕が処刑してやってもいいんだぞ」
「……分かった分かった。じゃあな」
元仲間の五人にも別れを告げ、俺は立ち去った。
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幸い、近くに『ギンヌンガガプ』という闇の街がある。そこへ向かった。
俺はひとりトボトボトと歩き回った。
……どうしよう、宿代すらないや。
このままでは野垂れ死にだ。
なんとかして金を作らないと……クエストでもするか。いや、そんな気力も湧かないし、レベルも低いから厳しそうだ。
歩いていると、あるお店の前に張り紙があった。
『勇者の情報、買います』
「……え? これってあの勇者パーティのことだよな」
だとしたら、いろんな情報を持ってるぞ、俺。
どしようか考えているとお店の中から人が出てきた。
「そこのアナタ、もしかして勇者パーティの方では?」
「あんた、だれ?」
「これは失礼を。私の名はヌンといいます。魔王軍の大幹部です」
「へ!? なんでこんなところにいるんだよ!!」
「そりゃ、情報収集は基本中の基本ですからね。勇者の弱点とか探しています。そういう情報、高く買いますよ?」
「マジかよ! いいよ、俺はどうせ追放された身だし、情報を売る」
「ほぉ! それは素晴らしい。ではお店の中へどうぞ」
お店の中へ案内され、魔王軍の大幹部の男についていく。正直、世界の平和を考えたら、こんなことは許されないが――もう関係ない!
勇者が俺を追放したせいだ。
「なんだか凄いお店ですね」
「いえいえ、どうぞお掛けになって」
椅子に座り、俺は一息つく。
「で、どんな情報が欲しいんだ?」
「そりゃ、もちろん勇者の弱点です。仲間の情報も欲しい」
「ちなみに、勇者の弱点はいくらだ?」
「そうですね、大変貴重な情報になるので……三億ティアマトでいかがですか」
「さ、さんおく!? 一生遊んで暮らせる額だ!」
「いかがです?」
「分かった、情報を売ろう」
「ありがとうございます!」
俺は勇者の弱点やパーティ情報を売った。
これで三億ティアマトを入手した。
一気に大金持ちだ!!
「じゃあ、俺はもう行く」
「また何かあったらお願いします」
もう会うこともないだろう。
この時はそう思っていた。
――二週間後――
酒屋でくつろいでいると、突然周囲が騒然となった。
「おい、勇者パーティが壊滅したってさ!」「マジかよ!!」「魔王軍にやられちまったらしい」「勇者の弱点が漏れていたらしいぞ」「仲間の情報も知られていたらしい」「なんか、やばくね!」「世界の終わりだぁ……」
そうか、勇者パーティは壊滅したか。
酒屋を出ると、外には勇者パーティの元仲間がいた。
「お前達、生きていたのか」
「サン、お前のせいだぞ!! この裏切者!!」「勇者殿は死に、残りはたった三人になっちまった!!」「どうすんだよ、世界がやばいんだぞ!!」
「ピーピーうるさいな。お前達三人、生け捕りにして売り飛ばしてやる!」
俺はあれ以来、考えていた。
勇者パーティの生き残りが必ず俺の前に現れるだろうと。だから、拘束できるように対策を練っていた。
予め用意していた鎖を魔法スキルで操り、三人を捕縛する。
「きゃ!!」「う、うそだろ」「サンにこんな力なかったはずだ」
前はな。あの魔王軍幹部の男が力貸してくれたんだ。そんなことを馬鹿正直には言えないが。
「女であるリンドは高く売れそうだな。ま、残りも10万ティアマトくらいにはなるだろ」
こうして俺は元勇者の仲間を売った。
金持ちになったら俺は、新たに現れる勇者を狩るための組織を立ち上げた。
これは言うなれば傭兵みたいなものだが、魔王に気に入って貰えた。
俺はこれからも勇者のパーティに入り、壊滅させていく。