1-09【姉妹】アリスティアという少女。
◇アリスティアという少女。
内緒話は気になるけれど、一度聞いてダメだった時は絶対に教えてくれないので諦めて先に進もう。
家の妹は結構頑固なんだよねぇ…。
妹の頑なさに嘆いていると…アリスティアちゃんが私と凪恋の顔を見比べながら、未だに申し訳なさそうな顔をしていることに気が付いた。
私と凪恋の要求に板挟みになっているのかな?
「大丈夫、秘密くらいで重荷に思わないでね、全然気にしてないから」
すっと頭を撫でてからそう言うと、アリスティアちゃんは顔を染めてぽ~と私を見上げた後。
「ユノ陛下…ありがとうございます…」
と手を前に組んで安堵した表情になってくれたので、そのまま撫でながら次の行動を尋ねてみた。
「ねえ、アリスティアちゃん、私達はこのまま下りて行けばいいのかな?」
「いえ、少しだけお待ちください陛下っ、陛下がこちらに降り立たれた時は下の解放軍本部に連絡をすることになっていますので」
そう言うとアリスティアちゃんは名残り惜しそうに私の手から離れると、下方の集落の方に向き両手を胸の前で水を救うような形にしてかざした。
解放軍ね…、どこかが占領されていないと解放なんて名称は付けないよなぁ。
「ヒースライヒィスッ…お願い」
緑色の小さな光が輝き、小さな手の中にさらに小さな小鳥が現れた。鶯色で目の周りが白くないこと以外はメジロそっくりでとても可愛い。
「可愛い、アリスティアちゃんの小鳥?」
「わぁ、ちっちゃいくて可愛いねー」
凪恋と私がマジマジと覗き込むと、アリスティアちゃんはまた顔を赤らめて私たち二人の顔を交互に見た。
「お二人は本当にこちらの世界の事をご存じないのですね…、この子は伝令鳥と言って遠方との短文のやり取りに使う風の眷属の召喚獣です」
「すごい召喚獣だって、姉さん」
「そうなの?私には『しょうかんじゅう』ってのがなんなんのか今一つ分からないんだけど…、確かによく懐いていて伝令まで送れるなんてアリスティアちゃんは凄いね」
そう言いながら私の手は自然と動いて再びアリスティアちゃんの頭を撫でていた。
なんだろう?すぐ撫でたくなる…というかそう思う前から手が吸い付くみたいに頭へと自然に動いていってしまう。嫌がられてなければいいけど…。
「あ、ありがとうございますっ…陛下っ、ナコ様」
耳まで朱に染めて絞り出すようにアリスティアちゃんがお礼を言う。
嫌がってはいないかな?…いないよね?
「そ…それでは伝令鳥を送ります…。リゥ…『星鳥が舞い降りました』…リゥ」
それを聞くと手の中の小鳥は輝きながら飛び立ち、中央のテントを目指して飛んで行った。
翻訳されてなかったけど、『リゥ』って言葉で挟んだ情報を伝えるのかな?
「わぁっ、すごいすごいっ、」
伝令鳥は小さいけれど光っているから、どの位進んでいるのかが良く分かるので何となく目で追っていると。輝きは中央のテントに飛び込んでいき、その後中から様々な方向に豆粒のように見える人々が走って行くのが見えた。
「アリスティアちゃんの小鳥、ちゃんとお仕事したみたいだね」
「はい陛下っ、それでは参りましょう」
「そうだね、暗くなる前に降りようか」
知らせが行ったなら大丈夫だろうという事で、先頭をアザレアにして私とアリスティアちゃんが並び、その後ろに凪恋が続く形で下りて行く。凪恋はどうやらまだユピーちゃんをおぶさっているみたいで、時折顔を後ろに向けてお話しているのを見かけた。
ユピーちゃん人が沢山いる所に行くみたいだけど大丈夫かな?
桜舞う参道を半分ほど降りてくると。頂上付近で見た時よりも集落の様子が良く分かる。恐らく私のせいなんだけど難民達は蜂の巣を突いた様な有様で、一か所に集合して話し合うものや、大急ぎで何処かに走って行く者など、とても目では追い切れないけれど、どうやら参道の終着地である巨石で作られたアーチに集合しているようだった。
結構な人数が集まりそうだね…。
今から自分達があそこに向かうのだと思うと少し憂鬱な気持ちになる。
何色にも染まりやすい桜の花びらが茜色に染まり、いよいよ日が落ち逝くのを感じながら、途中畳まれた簡易のテントを横目に通り過ぎていくと、視線を感じた。
あ…まただね。
実は初めてではない、途中何度も視線を感じていて、その度に横目で見るとアリスティアちゃんが食入る様に私を見ているのだ。私の視線に気が付く度にパッと正面を見て誤魔化していたけれど。確りと首をこちらに曲げてマジマジと見上げているのでバレバレだった。
「キャッ」
「っと、危ないっ!」
余所見をして歩くものだから遂には躓いてしまったアリスティアちゃんを私はそっと受け止めた。
「大丈夫?」
「平気?転ばなかった?」
後ろから凪恋も心配そうに覗き込んでくる。
「はっ…はい、大丈夫ですナコ様、陛下に助けていただきました。…申し訳ありません陛下」
恥ずかしそうに頬を染めたアリスティアちゃんを立たせてあげると、私は手を差し出した。
「危ないから手を繋ごうか」
「ッ…、気を掛けて頂きありがとうございます陛下、…とても、とても嬉しいです。そのっ…わたくしのせいで遅れてしまい申し訳ありませんでした…、さぁ、参りましょうっ」
差し出された手を戸惑いながら繋ぐと、アリスティアちゃんは耳まで真っ赤になった顔を誤魔化すように歩みを促した。
手を繋いで二人並んで歩く、キュッと握られた指の感触は緊張しているのか小さく震えているようだ。
「それで……、私の顔に何かついてたの?ジッと見てたけど」
「...ッ!!!」
図星を突かれ、こちらにバッと目を見開いて顔を向けるアリスティアちゃん。ビックリした表情も可愛いけれど、また少し躓いてしまいそうになって私の手に両手でしがみついた。
「大丈夫?」
「は、はい…、いえ…っ、その……何かついていたとかそう言う事ではなくて……、あのっ…わたくしは…、なっ、なんでもありませんっ」
「さっきのことは聞かないから、今度は教えて、…ね?アリスティアちゃん」
もの凄く気になるので先程の凪恋との秘密を交渉カードにして攻めてみることにした。
「あぅ…、ぅ…、…は、はい…、あのっ…お笑いにならないでくださいね…。そのっ…わたくしにもどうしていいかわからなくて…」
「うん、笑ったりなんてしないよ、約束する」
「本当ですよ?…あの…、あのっ…」
アリスティアちゃんはどう言ったものかと思案しながらポツポツと話し始めた。
「…わたくし先程から…その…、変なのです…。ユノ陛下からどうしても目を離せなくて…、その……とてもお綺麗で…、気が付くと吸い込まれるようにお顔を見てしまうんです」
その答えに私はドキッとしてしまう。と同時に約束をしていたのに笑みが漏れてしまった。
「ふふっ」
「へ、陛下ッあんまりですっ、…わたくし…恥ずかしいのを我慢して申しましたのにっ」
ぷんすか怒る姿も可愛くて更に笑みが溢れてしまう。
「ふふふっ、ごめんなさい、アリスティアちゃんの事を笑ったんじゃないの」
「どっ、どういう事でしょうかっ?」
「あのね、私も同じなの」
「同じ…、陛下もわたくしと同じ…なのですか?」
少女の声が震える。その声が気になって横を見ると、濡れて揺らめく瞳の奥にはなにか特別な熱が感じられて、私はグッとその瞳に惹き込まれてしまった。
「私も…ね、さっきからずっと変なだなぁって思っていたの、アリスティアちゃんは気付いてた?。私ね…さっきから貴女の頭を気が付くと撫でているの」
「わたくしの…頭を…ですか」
「ええ、今日初めて会ったのにね…どうしてかアリスティアちゃんが可愛くて可愛くて…、撫でたくて仕方がなくてね、理由さえあれば撫でていたの。嫌じゃなかったらいいのだけれど…」
そう言うとアリスティアちゃんの笑顔が薔薇のように花開き、涙を浮かべてこちらを見上げてきた。
「ッぁ…そんなっ、嫌だなんてことはありませんっ…、陛下に触れられるだけでとても温かい気持ちになれるんですっ、陛下にされて嫌な事なんてわたくしにはありませんからっ」
「ふふふ、良かったっ…。だからさっき笑ってしまったのはね、アリスティアちゃんが同じようなことで悩んでたものだから思わず嬉しくて…、約束したのに笑ってしまってごめんなさいね」
「いえ…わたくしこそ陛下の真意も伺わずに抗議してしまい申し訳ありませんでした」
「でも不思議だね?、なんでなんだろう」
「…その、心当たりはあるんですが…、うぅぅ…陛下っ、…これ以上は申し訳ありませんっ、…恥ずかしいので陛下に対してもう一つ秘密を持つことをお許しください」
「えええ?、そんなっ!、そこまで言って秘密なのぉ?」
「はいっ、秘密ですっ」
イタズラっぽく笑ってアリスティアちゃんは私の手を引いた。彼女の中で何が変わったのかは分からないけれど、心の内を明かしたことでかなり距離が縮まったようで。握った手のぎこちなさも無くなり、こちらを凝視して躓くようなことも無くなった。
さて困ったなコレは…どうしよう本当に困った。
こうなると私の中にこの子を助けたいという欲求が否応なしに湧いてくる。これだけ気持ちが通じ合ってしまったのだから仕方がない…。なにせ私はアリスティアちゃんの表情が少し柔らかくなってくれただけで、嬉しくて頬が緩んでしまうくらい気に入ってしまっているのだから。
・・・
その後仲良く手を繋いで、花の名前を聞いたりしながら参道をかなり降りてきた。頂上部の桜の巨木を見上げてみると、この位置からでは幹があまり見えないので満開の花が噴煙のようだ。花々も高知の物とは種類が変わり、足元には色味の強いタンポポのような花が、長距離を飛んできた冒険心溢れる桜の花びらと一緒に目を楽しませてくれた。
集落の慌ただしい様子は、当たり前だけれど上から見ていた時よりも情報量が多い。それぞれの小さな集まり、家族であったりグループであったりの中から、一人が参道の終着であるアーチに向かって行くのを下りて行く最中に何度か見かけた。恐らく各集団や家族の代表だけが出迎えにくるのだと思う。それでも2、いや300人位いるんじゃないだろうか。
3000人位いる凛聖小中高校集会と比べればこの位何とかなる…のかな?、全校集会で演説するのと、出待ちみたいな集団相手に挨拶するのはイコールでは結べないとは思うけど。
まぁ、なるようになれだね、やれるだけやってみよう…。
私は頭の中で簡単な挨拶を考えながら残り少ない石段を降りて行った。
アリスティアちゃんとイチャイチャしながら階段降りてるだけ。明日もこの位の時間予定。
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