1-07【姉妹】スキルを使ってみる。
◇スキルを使ってみる。
「うわっと」
景色が明るかった海岸から薄暗い洞窟にパッと切り替わる。明暗の落差に一瞬戸惑ったけれど、少し慣れてきたのかそれほど驚きはしなかった。
「ふぅ…帰ってきたんだね」
「どうしたの姉さん?」
「ティータに会ってきた?ゆのおねいちゃっ」
「うん会えたよ、ありがとうユピーちゃん、色々分かってスッキリした」
「えへへぇ」
嬉しそうに破顔するユピーちゃんの頭を撫でてあげながら凪恋に顔を向けた。
「凪恋に説明するのは難しいんだけど、ここと時間の流れの違うところで地球の神さま、ティータラフィスさんと会ってたの」
うーん、ちゃんと説明するのは難しいなぁ…。
「地球の神さま?、ユピーちゃんみたいな?」
「そう、ユピーちゃんと随分違って大人の神様だったからいろいろと教えてもらえたよ」
「なこおねいちゃっ、ティータはすごいんだよっ!」
「本当にユピーちゃんのお友達はすごいんだねっ、私達の星の神様だったなんて」
友達が褒められた上に凪恋からも撫でられて、ユピーちゃんはご機嫌だ。
「結構話し込んでたんだけど、こっちだとどのくらい時間たったのかなぁ?」
「どの位も何も姉さんが随分早いとかなんとか言ってる最中にうわっとって驚いてたよ」
「それじゃ1秒も経ってない?」
これが『思考加速』ってやつなのかな?…ちょっと検索かけてみよう
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『思考加速』
□『星の皇子』の無尽の思考領域と演算力を使用して周囲の時間が止まって見えるほどの高速思考が可能。
□加速速度は調整可能。
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あ…検索かけてる時も加速してるんだね、凪恋が止まってる。霊域と違ってこっちでは私の動きも止まってるし動けないのはちょっと気持ちが悪いけど、何かあった時に十分考えてから動けるのは便利だね。
加速している間は当然眼球さえ動かないので、視界が固定されていているのがドウにも歯痒い所だ。
えっと次は何するんだっけ?…そう魄騎士を試してみるんだった。っと、ますは『思考加速』を止めよう…、そう思えば止めれるのかな?
「姉さん?」
あ、動いてる、この感覚にも慣れないといけないね。
「凪恋っ…姉さん今を時間止めて考え事してたよ、コレは便利だけど…、私人間辞めちゃってるかもしれないね」
「よく分からないけど、それでも姉さんは姉さんなんでしょう?…それなら私は大丈夫だから」
「うん、ありがとう凪恋っ」
嬉しい言葉をくれた妹を守る為にも魄騎士とやらを作ってみよう。
「それじゃここを出る前に貰った力を使って、まずは私たちを守る騎士を作るね」
「騎士って作れるようなものなの?」
「できるみたい、私も初めてだから上手くできるかわからないけれどね」
えっと使う前に検索してみよう、ステータスで見た感じだと『魂騎製造』は『魄兵製造』の派生っぽいよね。
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『魂騎製造』
□『魄兵製造』の上位スキル。魄兵10体分の枠を使用し、『記憶転写』を併用することで過去の強者の戦闘経験を複数合わせた、英雄級の強さを持つ魔鉱製の騎士を製造する。
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やっぱり派生だね、『記憶転写』って星の記憶からだから、昔の強い人の記憶を混ぜ合わせるってこと?、それは倫理的にどうなんだろう…。
恐ろしい事をしようとしているのではないだろうか?、なんだか怖くなってきた。
でも戦闘経験って書いてあるから戦い方だけって事なのかな?、ウーンこれ…どうしよう?
思考加速を解除して凪恋の方を見てみると、興味深そうに瞳を輝かせて妹がこちらを見ていた。
仕方ない、まずは作ってみよう…とんでもなく人道に外れるようなのが出てきたらティータさん呼びつけて何とかしよう…来てくれるかな?、…くれるよね。
「出てきてっ『魂騎製造』!」
マニュアルと言いつつ、やり方などは特に書かれてないので、とりあえず手を前にかざして唱えてみると、手のひらと地面が薄桃に輝いて…、地面の石畳みが銀色の少し虹色がかったものに変化し、その後輝きながら人型になっていくと、光が収まってムクリと鎧が起き上がり、私たちの前で槍を立てて直立した。
「姉さん凄いっ!魔法だね!」
「強そうでカッコいいね、身長は私と同じくらいかな?」
「これティータがかんがえたんだよぉ」
「へぇ、あの人デザインとかするのかぁ」
ちょっと意外だ。悔しいけどなかなかかっこいい、少しお胸があるし、腰回りが細くてちょっとスカートっぽいから女性用の鎧だよね、兜はチューリップの花弁を2枚繋げたような見た目のフルフェイスで、ぽっかりと空いた双眸に桃色の光る瞳が浮かんでいた。武器は自身の身長より長い槍を持ち、腰にも剣を下げている。
「えっと、言う事聞いてくれるのかな?、…貴女には凪恋を守ってもらいたいんだけど、出来るかな?」
「了解シマシタ、陛下、ナコ様ヲ守リマス」
「わわっ、ビックリっ、喋れるのね貴女」
抑揚が無いとまでは言わないけれど、少しロボっぽい淡泊な話し方で、ユピーちゃんが大人になったらこんな声かなって感じだ。
あと私の事『陛下』って呼ぶんだね…。すっかり皇帝様になってしまっているようだ。臣民は一人だけど。
魄騎士はゆっくりと歩くと凪恋の横で待機する。
「よ、よろしくお願いします」
「ヨロシクオ願イシマス、ナコ様」
凪恋がチョット怯えながら挨拶すると魄騎士も挨拶を返した。
「えっと、なんて呼べばいいですか?」
「個体名称ハアリマセンノデ、ドウゾゴ自由ニ」
「どうしよう姉さん、名前付けてもいいのかな?」
ちょっとワクワクしているようだ、凪恋の声が上ずっているのを姉さんは聞き逃さないよ。
「凪恋の呼びやすい名前を付けてあげたら良いんじゃない?」
「わかった、ちょっと考えるねっ」
「それじゃぁ、もう一体自分用のも作っておくかな」
その前に気になってたことを調べてみよう…、ステータスの『魄兵製造』の項目を見ると
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魄兵製造 1/992
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あ、1001から992に減ってるね、10体を一体分にするから、一体作ると上限が9減るのか。
「それじゃぁもう一人、『魂騎製造』!」
さっきと同じように手をかざしてもう一人作り出す。また上限が少し減ってしまったけれど、護衛対象が増えた時には騎士のほうが良いよね。
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魄兵製造 2/983
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「うーんと名前はどうしよう…、アイウエオで順番につけていこうかな、貴女の名前はアザレアね」
「ハイ、私ノ名前ハ、アザレア」
「それじゃぁアザレアは私を守ってね」
「了解シマシタ、陛下」
「凪恋は名前決めた?」
「うん、この子の名前はシロにしたよ」
「そう…、可愛い名前にしたねぇ」
それって…、昔拾ってきた猫につけてた名前じゃなかったかな…。アレは確か凪恋が小学校二年生くらいだっけ?。アパートはペット禁止で、飼ってくれる人頑張って探したなぁ…、引き渡しの時に凪恋はボロボロ泣いて…、もしかして未だに引きずってるんだろうか?
「どうしたの姉さん?、今日はぼんやりしてばっかり」
「あはは、なんでもない、それじゃぁそろそろ此処を出ようか、ユピーちゃんも一緒に行こう」
ユピーちゃんに手を伸ばして誘ってみたけれど、ユピーちゃんは根っこに座ったままビクッと身を強張らせた。
なるほどこれは難関ですねティータさん…。お外が怖い原因は何だろう?
「ゆのおねいちゃ…ユピーね…、ユピーはここにいるの」
「あれれ?お外に出たくないの?」
「ぅん…あのね、ユピーねっ…ユピー『かんそくしゃ』とかがこわいの…だから…」
「ユピーちゃん、ユピーちゃんは透明になれるでしょう?もしかしてお空も飛べる?」
私も飛べるみたいだし、同じ『星煌』を扱える管理者なら簡単にできそうだ、そういえば名古屋駅で光がふよふよ浮いていたことを思い出す。多分あの時ユピーちゃんは飛んできたんだよね…。
「うん…きえれるしっ…とべるよぉ…」
「よかった、それなら消えた状態でお姉さんの後ろをついてくるのはどうかな?。怖い怖いって思ったらお姉さんに掴まってくれていいから。…お姉ちゃんね、ユピーちゃんも一緒じゃないと寂しいの」
「ゆのおねいちゃ…さびしいの?」
「うん、お姉さんユピーちゃんがいないと悲しくてエンエン泣いちゃうかもしれないの…、だから来てくれたら嬉しいなぁ」
「ゆのねぇちゃ…ないちゃダメェエェッ…、フグッ…ユピーも一緒にいぐからぁァァ…」
「ああ、泣かないで…ごめんなさい、ユピーちゃんは優しい良い子だね…。大丈夫、ユピーちゃんが一緒ならお姉さん絶対泣かないからね」
「それじゃ…ユピー、ゆのおねいちゃのうしろっ、…いるからねっ」
「うん、ありがとうユピーちゃん、一緒に頑張ろうね!」
「うんっ!」
「姉さん…、本当に呆れるほど子供の扱いが上手いね…」
一連のやり取りを見ていた凪恋が脱力したように呟くのが聞こえた。
そんな人誑しみたいに言わなくても…。自分でも少しズルい誘い方だとは思ったけど…ユピーちゃんを一人にはできないから仕方ないでしょう?
その後凪恋はユピーちゃんに歩み寄って手を繋いだ。
「ユピーちゃん私も頑張るね!」
「うん!ユピーといっしょにがんばろっ、なこおねいちゃっ!」
凪恋もなかなかのもんだと思うんだけどなぁ…、まあ仲良しなのは良い事だよね。
「じゃぁ此処から出るよ、…多分この辺りだよね」
この地下は長方形で、木の根に絡まれて分かりにくいけれど。一方には祭壇っぽい石の台座があるから、出口は反対サイドの土砂で埋もれている方ではないか?と少し当たりを付けて置いたのだ。
あちこちから伸びている木の根を避けて、土が盛り上がっている所を触れると、私は瞳を閉じて『物質収納』を起動した。
わぁすごい、テレビで見たCG画像みたいだ…。
手のふれた個所から自身を俯瞰で見るような視点の映像が思考の中に構築されて。土や石、根などの構成物質が、複雑ながらも理解できるように視覚化されて感じ取れた。
あ、石で出来た階段がある…、20メートルくらい登れば出口だね、この場所は土砂で埋まってたみたいだけど酸素残っててよかったぁ…。私はなんだかんだ生き残れてしまいそうだけど、凪恋は一般人だという事を神様連中はちゃんと判ってるのかな?、……あ、凪恋は聖女だっけか。
のほほんとしたティータさんのクスクス顔が頭に浮かぶ。
結構適当なところがあるっぽいから気を付けないとね…。
構造が解ったところで石段に埋もれた土砂と大きな石に意識を集中する。これらを収納してしまえば通れるようになるはずだ。
「『物質収納』!」
そう唱えると目の前の土砂が一瞬で消失し、その後ゴツゴツとした拳ほどの石とポタポタとなにかが落ちる音が……。
「ひっ…」
「キャっ!」
二人で小さな悲鳴を上げる、土の中にいたであろうかなりの量のミミズや小さな虫が地面をうねっていたからだ。
「そ、…そうか、生き物は収納できないんだったね」
「びっくりした、姉さん、土はどこにいっちゃったの?」
「私もよく分からないんだけど四次元ポケットみたいな所に入ってるみたいだよ」
「姉さんホントに魔法使いみたいだね、王子様みたいな格好してるけど」
「やれることが凄すぎてちょっと怖いね、まだまだ試してない能力沢山あるんだよなぁ…」
「怖くはないよっ、カッコいいと思うし…なんだか姉さんならどれもやりかねない感じするんだよね」
「私をなんだと思ってるのかなこの妹は、ふふふっ。…そうだ使ってない能力と言えば」
「何かあるの?」
『物質置換』…色々見たけど一番気になってたやつ。ちょっと試してみようかな。
「物を置換する能力があって…ちょっと試してみたい事があるんだ」
私はそこいらに落ちているソフトボールくらいの石を拾い上げると瞳を閉じて念じてみた。
「えいっ!『物質置換』!」
瞳を開けると…手の上に先程の石とまったく同じ形をしたピンクダイヤがあった…。
「わぁ…、凄い綺麗ッ!」
多分磨いたり形を整えたりする前の状態のダイヤの原石は、私から発せられる光を様々な角度から取り込んで反射し、キラキラと七色に輝いている。
本当にできてしまった…。
…重さは先程と大して変わらないのにズシリと重みを増したような気がした。
『キレイだねぇ、ゆのおねいちゃぁ』
「そうだ……、ねぇ」
姿なきユピーちゃんが話しかけてくれたけれど。余りに簡単に一財産ができてしまい、小市民な私は短く言葉を返すだけで精一杯だった。これを売ったら幾らくらいになるんだろうか?と頭の中で勝手に行われるソロバン弾きが止められない。
確かにそう願って能力を使ったのは私なんだけど…こんな事が出来てしまって良いんだろうか?、やってはいけない事だったりしないかな?
遂には罪悪感まで浮かんできてしまった。
よくわかんなくなってきたから今度ティータさんに会った時に正直に話してみよう…。
「なんか凄いことができることが分かったけど、とりあえず…仕舞っておこうか」
旅行鞄のチャックを開けるとそこにグイと押し込む。ティータさんに聞くまではあんまり考えないようにしよう。
「そうだね、でもびっくりしたぁ」
「ホントにね、姉さん目が釘付けになっちゃった…」
「あはははっ、姉さんのあんな顔初めて見たかもしれないよっ」
「ウゥ…恥ずかしい、でも仕方ないよあんなの出てきたら…宝石のことは後でティータさんに聞いてみる…。貰っちゃってよかったら、その時はお祝いしようっ」
「わーい、楽しみだねっ」
「だからそれまでは鞄の中に封印っ、今はまずは外に出てみようっ」
「うん!」
『うん!』
外から流れ込んできた新鮮で冷たい空気が頬を撫でた。私達は人間二人、神様一柱に、騎士二体で連れだってミミズを避けながら階段へと足を向けた。