1-03【姉妹】光源ひとつの暗闇。
◇夢のような宙空。
夢の中にいる…、なんとなく分かる。だって空?というか宇宙を飛んじゃってるし。…眼下には自身で発光してるのではって位青い地球が……あっ?、あれ?……なんか変…地球じゃないねこの星。こんな形の大陸見たことないよ…。でも地球そっくりだから酸素があって生き物とかもいるよね。パッと見で分かるくらい地球より緑が沢山あるし…知的生命体とかいるのかな?
やけに意識がしっかりしているのが気になりはするものの、夢だと思えばなかなか楽しい。
明晰夢ってやつなのかな?聞いたことはあったけど凄いリアルだなぁ…。
わぁ真っ白な雲が流氷みたいに見えて綺麗だぁ…。あっちの雲は稲妻が走って凄いし…、極点なのかな?オーロラがユラユラしていててこっちも綺麗…。
ふふふ…、オーロラを初めて見るのが地上より先に宇宙からだなんて私くらいかもね。
少し楽しくなってきたけれど、よく考えたら宇宙飛行士の人って大体そうなのでは?と思い至ってしまった。
地上から見れる人だってそんなにいないか…。
なんてどうでも良い事を考えながら青い惑星を天上から眺めていると、何処からか声が聞こえてきた。
「ありが………ティー………これで…………の…もう……ぶだよ」
「かくに……は?、まっ、まだだけど………、こんどは………がんば…よ…」
「へ?もぅ………とり?、だって…ててをつな…………たから………だもん…」
「う、うん…、ちゃんとごあいさつできるよっ…、……は女の人だもんっ」
断片的に聞こえてくる幼い声…。会話しているみたいだけれど電話でもしているのか相手の声は聞こえない。声の主は随分と気が小さいみたいで、ブツ切れで聞いていてもオドオドした子が、一生懸命話している雰囲気が感られて、全く知らない相手なのに応援したくなった。
『なんだかよくわからないけど…頑張れ!』
でも…なんだか聴いたことのある声だな…誰だっけ?、…幼稚舎の子かな?
ふふふ、夢なんだしいいかぁ…うん、これは夢だもんね…。
地球じゃない惑星を宇宙から眺めていたら気の小さい女の子の声が聞こえてきたので応援する夢。
変な……夢………だ、なぁ……夢診断の本…何処に……しまったっけ……?
まぁ……いい…かぁ……。そろそろ起きて凪恋の朝ごはん…作らないとね…。
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◇光源ひとつの暗闇。
「ないで…、ね……さん…」
また何処かから声がする…、最近こういうの多いなぁ…。なんだか音が反射してウワンワンしてるけど…、この声はぁ……凪恋?
「……さんっ…、姉さんっ…姉さんっ!」
待って…凪恋…、今起きるから……、凪恋に起こされるなんて初めてかも…。それにまだ目覚まし鳴ってなくない…?
「ぅ…んっ、……ん」
「姉さんっ、良かった……ぐすっ」
泣い……てるの?、凪恋?、なんで?、起き…なきゃ……、ッ……頭…滅茶苦茶痛いっ、ッッ…んっ、とにかく…起きよう……、起きるっ!
「ッ……凪恋、どうした……の?」
鈍痛鳴り響く頭を押さえてなんとか半身を起し。霞む視界の中になんとか凪恋の泣き顔を捉えると、頑張ってどうにか笑顔をつくって見せたのだけれど。相当酷い顔をしていたらしく泣き顔は更に崩れてしまった。
「ねえさっ…ぐすっ、頭…痛いの?、ごめんなさいっ…わたしっ、すんっ、わたしっ…」
「いいの、大丈夫っ、ね、ちょっとはマシに…なったから」
えっと…ここ何処だっけ?私何して?
薄暗い場所。でも薄桃にぼんやりと光っていて凪恋の泣き顔も良く見える。凪恋の後ろに視線を移して薄暗い周囲を見回してみると。どうやら洞窟?らしき場所で寝ていたらしい、声が響いているのはそのせいかな?
でもどうしてこんな所にいるんだろう…。
よく見るとこの洞窟、天井は結構高くて良く見えないけど土や岩ではなく木の根で出来ているみたいで、壁は石造で大分風化しているけれど何かしら文字や絵らしき物が彫られているっぽい。
遺跡みたいな所なのかな?、もっと良く観察したいけど……。
「此処は…洞窟?、灯りは?、なんかピンクに光ってるけど……」
「光ってるの…、姉さんだよ。私心配で……なんともない姉さん?」
「えっ?、……わたしっ!?」
パッと反射的に手を広げて見てみると、言われた通りにボンヤリと薄桃色に発光していた。
「ぅわっ、ホントだナニコレ?、光ってるねっ…私が…」
「うん…、姉さん何処か痛いとこない?、平気?」
「ん?、そういえば痛みが引いているみたい」
頭が痛くない、それにアレだけ熱かったお腹も…、服の上から摩りながら改めて自分の体をよく見ると、服の上からも光っている事に気が付いた。
私が発光してるっていうか光に包まれてる感じなのかな…、ってアレ?、アレレレッ?
「私制服着てたよね?、ナニこの服」
いつの間にか宝塚の王子さまみたいな服に着替えていた。男装かと言えばそうではなく、下はプリーツスカートとかぼちゃパンツ…ドロワーズだっけ?を履いていて、足回りはロングブーツに膝上まである白いニーソックス。服の色は暗くて渋めの紅紫ベースで襟やカフスが桃色と金色、外套はローズレッドに金糸で刺繍を施した豪華な作りで、確かサッシュとか言ったかな?コチラも金糸の刺繍が入った白い布がタスキ掛けされ、頭の上にはクリスタルの王冠、腰の革ベルトには白銀の鞘に収められた剣が小さな鎖で吊るされていた。
「私も知らないよぉ。駅で姉さんが突然光りだして…気がついたら此処にいて、姉さんがこの服を着て倒れてたんだから」
「駅……、そうだった…私達名古屋にいたんだよね…」
思い出した…、私名駅で全身に電撃走って走馬灯まで見たんだったよ。その後星を見て…アレ?夢だっけ?、で…今はぁ………なんともないね…、まだ光ってるけど…。
とにかく寝ていてもしょうがないから立ち上がってみる(腰の剣が多少邪魔で起き上がるのに苦労したけれど)。あちこち身体を擦ってみたけれど、あの激痛はなんだったのかという位に痛みは引いていた。
「姉さんっ、ホントにホントに大丈夫なの?」
「大丈夫、光ってる以外は平気だよ、光っちゃってはいるけどねー」
まだ不安気な凪恋の頭を撫でて少し戯けて見せる。何よりもまず妹の不安だけでも取り除きたかった。
「もぉ、姉さんっ、私ホントに心配してるんだからねっ」
「うん、わかってる、さっきは頭ガンガンしてたけど今は本当に平気だよ」
「そう、それならいいけど……、ふふっ」
「どしたの?」
「うん、姉さん王子様みたいだなって、かっこイイ」
「フフっ、確かにねっ」
妹の不安が少しだけでも上向いた事に安堵して私も笑う。
「なんなのかなこの衣装は。ふふふっ見て、マントまであるよ」
膝下まである刺繍が入ったローズレッドの外套をバッとカッコよく翻して見せると、凪恋がいつもの柔らかい笑顔を見せてくれたので安心したんだけれど……。
「王子様だもん、マントは……ッ、…必要……でしょ…ぅ」
スーっと涙の筋が薄桃の光を反射させながら頬をつたい…、その後は止めどなく溢れてくる涙をすくう様に凪恋は両手で顔を覆ってしまった。
「ぅう……ね…さん…っ、良かった…よぉ……うぅ…」
「凪恋……」
しゃくりあげる凪恋をそっと抱き寄せて、頭におでこをくっつける。
「心配かけてごめんね……、ごめん」
「ぅん……っ、安心したらっ……涙っ…、止まらなくて……っ」
「大丈夫…、……大丈夫だから……」
「大丈夫じゃ…っ、なかったの……っ、姉さんっ……、呼吸っ……止まってて…っ、どんどん冷たく……ぅぅ…っ」
「えッ?ホントにっ?」
私……どうやら本当に死にかけていたみたい…、凪恋にとんでもなく心許ない思いをさせてしまったみたいだ。
「ぅん……、学校で習った人工呼吸っ……真剣に見てっ……、練習して…ノートにもまとめたのにっ…全然上手く……できなくて……ううぅぅ…ッ」
「そんなことない……、きっと凪恋のお陰だからっ……、姉さん光っちゃうくらい元気になったから、ねっ、大丈夫だよ」
「ゆのねぇさん……置いてっ…いかないでよぉぉ……」
「うん、約束…、約束するよ」
きゅっと力を入れて震える凪恋の小さな身体を抱き寄せた。