2-03【八重垣姉妹の異界探訪】魔力の彩光。
◇魔力の彩光。
「魔法適正は大体7割の人が持っていると言われていますのでお姉様方でしたら大丈夫だと思います」
魔法が使えないか?と聞かれたアリスは魔法適正なる資質があることを教えてくれた。
7割の人が使えるんだ…。魔法は意外とハードルが低そうだけれど、そうなると使えない3割の人はかなり肩身が狭い思いをしてそうだなぁ。
凪恋も同じ事を考えたみたいで、顔を見合わせて互いに苦笑いをした。
「出来ると良いねぇ」
「折角異世界に来たんだから魔法使えるといいなぁ」
「ユピーもつかいたいっ」
凪恋の言葉にユピーちゃんの元気な声が続いた。
「あれれ?、ユピーちゃんは使ったことないの?」
「う、うん…、ないの…」
ユピーちゃんは『当然使えるものだろうに使えないのか』といったニュアンスを感じてしまったのかションボリと唇を尖らせてしまったけれど。
「大丈夫、お姉ちゃんと一緒に頑張ろうね」
「うん、がんばるねっ」
お姉さんモードの凪恋がすかさずフォローしてくれた。
「それではまず魔力を扱う基礎の練習として。こちらを操作してみてください」
アリスは木箱の上にあったロウソクに火を灯すと、魔石のカンテラの光を消して私達の前に持ってきた。
「点ければ良いの?」
「ええ、ですが光を発する魔法は魔石に記録されていますので、点灯をイメージして少量の魔力を流すだけで大丈夫です。これは魔力の基礎中の基礎なので…灯すことが出来ない人は魔法資質がないと判断されてしまいます」
これが魔法適正の試験問題なのかな?、ちょっと緊張するね…。
「わかった、最初は私がやってみるね」
私は目を閉じ、まずはこの世界には当たり前に存在しているという魔力を感じ取ってみることにした。
あ…嘘っ…、こんな簡単に?、…もしかして魔力ってこっちに来てから近くにずっと在ったの?。どうして今まで気が付かなかったんだろう…。
これまで全く気が付かなかったけれど、魔力というモノに意識を向けた途端にその存在をアピールするように私の周囲がさざ波のように少し揺れたのが分かった。
これが…魔力なんだよね…?多分だけど。
目には見えないけれど空気みたいに何処にでも存在しているみたい…。あれ?この感じ…私の体の中にも沢山魔力があるね。
そう言えば私は無限に魔力が使えるって能力を持っていたね…それとも酸素のように知らない間に摂取していたのかな?。私の体の中心、鳩尾の下辺りに薄桃の魔力が渦巻いていた。
…あ、周囲の魔力も意識を向けたからかドンドン集まって…体の中に入って来るね。
気配だけで感じられた無色透明の魔力は身体の中に入ると薄桃色に変質して集中すれば目で見ることもできるようになった。
魔力は取り込んだ人の性質に変化してその人の物になるのかな?、星煌と同じ色になったね。
面白い事に薄桃に染まった私の魔力は右へ左へと思い描いた通りに動かすことができた。
「なるほど…それならこんな感じかな?」
私は魔力を指先に集めて点灯をイメージしながらカンテラ内に向けて放出してみる、すると当たり前のように魔石は眩く発光してくれた。
「うん、できちゃうね」
そのまま今度は消灯をイメージすると光は徐々に消えていく。
「姉さん凄い、どんな感じでやったの?」
「そうだね、なんとなくの説明になっちゃうんだけど。この世界にはそこら中に見えないけれど魔力が溢れていて。その魔力を身体に取り込むと自分のモノとして色々な命令を載せて操る事ができるみたいなんだよね」
「ユノお姉様は魔力の本質をおおよそ理解していらっしゃるのですね」
「ホント?合ってたんだ。それじゃあこうすれば…、ぅわぁ水が出たねっ」
近くにあった水瓶に水をイメージして魔力に呼びかけると。手の平から水が溢れてあっという間にいっぱいにしてしまった。そのロジックには疑問符が沢山つくけれど結果としては大成功だ。
「わぁ、ゆのねいちゃすごーい」
「素敵ですっ、ユノお姉様はもう初級魔術を習得されていますね」
「ユピーちゃん私達も頑張ろうっ」
「がんばろー」
「そ、それじゃ今度は私がやってみるねっ…」
今度は凪恋が恐る恐る指を魔石に伸ばしてみたけれど…。
「あ、あれ?、えっ、えいっ!、点いてっ…」
一生懸命念じているのに魔石には変化がない。凪恋は指を振ったり突いたりくるくる回してみたりと色々試した後に涙目でこちらを見上げてきた。
「うぅぅ…、姉さん点かないよぉ」
「つかないねぇ…」
「ナコお姉様には、その…適性がないのかもしれません…」
凪恋の悲しげな声に引っ張られてユピーちゃんの声もトーンが落ち、アリスがなんとも言い辛そうに結果を告げた。
「そんなぁ…、異世界に来て魔法が使えないなんて…」
狭いテントの中で私はガックリと肩を落とす凪恋の隣に寄り添い、まだ未練を残して伸ばされた人差し指を包むように握った。
「大丈夫、必ずできるからもう一度やってみよ?」
「でも姉さん、全然点いてくれないの」
ちょっと泣きそうなのをグッと我慢しながらそう言って、凪恋は私に身体を預けてきた。
さっきユピーちゃんに見せていたお姉さんらしさはスッカリ消えてしまったけれど、少しほっとしてしまうのはなんなんだろうか?
「安心して凪恋。やってみて解ったけどね、魔力操作に適性は無いと思うの」
「お姉様…、わたくしに魔法を教えてくださった講師は才能が全てだと仰っていたのですが…」
「そんな事ないよ、魔力は人を選んでいない。難しい指示を出せるかは才能かもしれないけどね」
「それではまだナコお姉様にも可能性はあるのでしょうか?」
「そうなの?」
少しだけ声を上擦らせる凪恋の肩に手を乗せて更に引き寄せると握り込んだ指にちょっとだけ力を入れた。
うん、凪恋の身体からも魔力が感じられるね…、やっぱり魔力は人を選んでいない。
魔力は一度認識さえしてまえば水や空気よりも扱いやすい。凪恋はまだ魔力を認識するコツを掴んでいないだけなのだ。
それにしてもキラキラ金色に輝いて…なんて綺麗な魔力だろう…。私がユピーちゃんと同じ色で光る様に聖女の性質を帯びているからかな?
凪恋が聖女であることはまだ本人にも伝えていない、変な人に攫われて生贄にでもされたら大変なのでティータさんが凪恋を守護してくれるまでは黙っていようと思ってる。
「うん、できるよ。凪恋の身体の中にも魔力が沢山入ってる。これはね…自転車や鉄棒の逆上がりみたいにコツを覚えれば誰でも扱える技術だから、順に覚えていこうね」
どちらも私が教えたんだよね…。凪恋はすぐに軽く泣きが入るけど、絶対に諦めないから今回も大丈夫。
「でも…それでも出来なかったら…」
そう言ってまだ不安そうな凪恋の袖を小さな手が引いた。
「なこねいちゃがんばって…」
木組の椅子に座ったまま凪恋以上に泣きそうな顔のユピーちゃんが心配そうにエールを贈る。
『この世界で一番お優しい神様』。オリフィアさんはそう言ってたけど、本当にその通りだと思う。
此方の人々がユピーちゃんの事をかなり正確に捉えてるのも魔法が絡んでいるのかもしれない。
今度どんな逸話や神話が伝わっているのかアリスに聞いてみよう。
「う…うん、頑張ってみるねユピーちゃん」
ユピーちゃんに応援されたなら、頑張らないとね…。
「凪恋、これから貴女の人差し指に魔力を通して指先から出し続けるから、その流れを感じとってみてね」
「わかった…、やってみて姉さん…」
「少しずつ流すね…、何かが指の中を通り抜けているの…分かるかな?」
「ひゃっ!、アッ…ナニか流れてるっ…姉さんっ、…コレが魔力なの?」
「感じたみたいだね、それじゃ今度は自分の中に在る魔力を感じ取ってみて…この辺りにあるからね」
お腹の少し上を手の平でクッと押して魔力が貯まっている場所を教えてあげると、凪恋はその手の上に自分の手を重ねて瞳を閉じた。
「あ…ホントだ…、魔力…私の中に最初からあったんだね…」
凪恋が瞳を閉じたままホッとしたような声をもらした、認識さえできれば自分の中に取り込んだ魔力は手足のように動かせるはずだからもう大丈夫だと思う。
「そこまで分かればもう出来たも同然だよ、そこにある魔力を指先まで移動させてみて」
「うん……、えっと…、こうかな?」
「あ…動いてるッ、姉さんは何にもしてないの?、これ私が動かしてるっ?」
「凪恋が動かしてるよ、私は何もしてないからね」
「なこねいちゃっできそう?」
「ナコお姉様頑張ってくださいっ」
「うんッ…頑張るっ…光って…お願いッ」
妹たちの応援を受けて、凪恋は眉毛をハの字にして一生懸命魔力操作を試みる、……すると。
「あ…光ったっ」
凪恋の指先が金色に輝き…光の玉になってフワリと浮き上がった。
「そ…そんなッ!金色の魔力だなんてッ…、それにナコお姉様っ…魔石ではなく直接光魔法を使っていますっ!」
「わぁ…しんりの光みたい…」
「そ、…そうだった魔石を操作するんだったねっ」
「いえ…魔石操作はもう大丈夫ですナコお姉様っ、光魔法を扱える方にテストは必要ありませんから…」
もしかして光の魔法って珍しいのかな?食い入るように光を見つめる二人からそんな雰囲気を感じたので聞いてみる。
「アリス、光の魔法って珍しいの?」
「これって凄い事なの?」
「はい、平民でも光の魔法が扱えれば専門職になれる位には貴重です。魔石の灯火の需要はいくらでもありますから…、ですがそれ以上にわたくしはナコお姉様の魔力の『サイコウ』に驚いています」
「さいこうって?」
「魔力が輝く時の彩りの事ですね、人によって色が変わりますが大体の人は白色です」
「なるほど『光』の『いろどり』で『彩光』ね」
異世界言語の翻訳ってどうなってるんだろう…ってこういう時考えちゃうなぁ。
「そう言えばさっきテオストさんと戦った時、人によって武器の光り方が違ったね、一般兵士の人達はみんな白かったっけ?、…アレは光魔法じゃないの?」
「はい、光魔法はこのように術者の手を離れても光を維持できていなくてはいけません。わたくしも練習しているのですが…ナコお姉様に先を越されてしまいました」
凪恋が放った浮遊する光を指差した後、少し恥ずかしそうにアリスは手の平の上に緋色の光を灯した。
「ふふ、頑張ってるアリスはとても素敵だよ、この綺麗な緋色がアリスの彩光なんだね」
「はい、この色がわたくしの魔力の光です」
頭を撫でてあげると少し恥ずかしそうに微笑んで私に寄り添い、暖かそうな魔力光を掲げて見せてくれた。
「ゆのねいちゃっ、ゆのねいちゃッ…ユピーの光もみてみてっ…んとんと…こう?」
そう言いながらユピーちゃんも真似っこして会話に入り込んできたかと思うと、薄桃の光球を5つふわりと浮かび上がらせた。
「…あ、ユピーちゃんも光魔法だねコレは」
「わぁ…星みたいっ、きれいきれいっゆのねいちゃァッ、ユピーもきらきらでたのぉッ」
ユピーちゃんは自分の出した光球ではしゃいでいる、流石神様と思う他ないのだけれど空中を漂う薄桃の光を見てアリスは…。
「ユピーにも先を越されてしまいましたね…」
とちょっと涙目になっていたので、アリスをぐっと引き寄せて慰めつつ、ユピーちゃんを撫でて褒めてあげることにした。
「大丈夫、アリスの努力は必ず報われるから…時間が出来たら一緒に練習しましょうね」
「はい…ユノお姉様…。わたくし頑張りますっ」
「ふふ、ユピーちゃん良くできましたぁ、ユピーちゃんは私とお揃いの色だねっ」
「わぁいっ、ゆのおねいちゃといっしょぉっ!」
撫でていた手を開いてアリスと同じ様に光らせて見せるとユピーちゃんは嬉しそうに破顔してくれた。なんとなくだけれど、私も光魔法出来てしまいそうなんだけど…空気を読んで試すのは止めておいた。
「クスッ、妹が増えたから姉さんは大変だねっ」
左を慰め右を褒める、私のそんな姿を凪恋がクスクス笑う。
「ふふふっ、なにも大変なことなんてないよ、私は凪恋もアリスもユピーちゃんも可愛くて仕方ないから。…今とても幸せだもの」
「わたくしもです、ユノお姉様とこうして過ごせていることがとても幸せです」
「ユピーもっ」
「それに凪恋もちゃんとユピーちゃんを見ていてくれる位大きくなってくれたしね、姉としては何の心配もないかな」
「もぅッ!姉さんは上手いんだからっ、でもそうだね…私ももっとお姉さんらしくなれるように頑張るっ」
「わっ…わたくしも甘えてばかりではありませんっ、ユピーの姉として妹を正しく導いていくつもりですっ」
「ゆっ!ユピーもがんばるよっ!」
「クスッ、ユピーちゃんは思いっきり甘えてくれて良いんだよ?」
「そうなの?」
「ええ、沢山甘えてくださいね、貴女にはお姉様が三人もいるのですから」
「うん…、くふふったくさんねえちゃ…うれしいねっ」
何か噛みしめるように独りごちたユピーちゃんを囲んで皆で微笑み合う。
私達は家族になったばかりだけれど、こういったやり取りを繰り返してもっと仲良くなっていきたいね。
アリスにギュッとしがみ付いたユピーちゃんを見ながら凪恋の隣に立って視線を交わすと、私は瞳を細めてそう思った。
「それでアリス…、話が逸れちゃったけど凪恋の彩光…金色は珍しい色なの?」
「この色って…そんなに変わってるの?」
「金色の彩光は珍しいというか…わたくしは一度も聞いたことがありません。神々しくて…見惚れてしまいますね」
「ありすねいちゃっ!、みとれちゃうのはこの光がしんりの光だからだよっ」
アリスにギューッとしていたユピーちゃんが顔を上げてそう言った。
「しんり…ってなに?」
「ユピー、しんりとはなんですか?」
ユピーちゃんが自分の発見したことを嬉しそうに知らせてくれたけれど、アリスと凪恋はピンと来ていないみたい。だけど私には思い当たる事があった。
しんりって真理だよね?、そういえばティータさんが聖女は真理に祝福された女性だって言っていた。
「ンと…んとぉ、ユピーやティータたちのおかぁさんかな?」
…ええっ!?、お母さん?、管理者を生み出した存在って事なのかな?、ティータさんも上司というか記録を集めるように命令した人がいるみたいなことを言っていたよね。
「神々のお母さまっ!?、どうしてナコお姉様がユピーのお母さまと同じ輝きをしているのですかっ?」
「ええっ?私ユピーちゃんのお母さんと何か関係があるのっ?」
「んぅー、ユピーもよくわかんない」
まずいまずい、凪恋の聖女な部分がドンドン溢れてきている。早い所ティータさんに凪恋を守ってもらわないと…。
「待って待って、それに関しては私に心当たりがあるんだけど…もう少しだけ秘密ってことにしていてくれないかな?」
「どういう事でしょうかユノお姉様?」
「言っちゃダメな事なの?」
「だめなのゆのねいちゃ?」
「クスッ…、凪恋にティータさんの守りが入ったら教えてあげるからそれまでは我慢して、お願いっ」
三人ピタリと揃えて首を傾けた様が可笑しくて吹き出してしまった。可愛すぎるねこの妹達は。
「ティータさんが?私に?」
「私と違って凪恋は戦えないからね、守ってもらえるようにお願いしておいたの」
「それと彩光が金色であることも関係しているのですね、それ程大事なのですか…?」
「とっても大事なの、そういうことだから…この話はコレでお終いね、いい?」
「はーい、後でちゃんと教えてね、姉さん」
「承知いたしました、お姉様」
「はーい」
凪恋は少し不満そうだけれど一応納得してくれたみたいで一安心。
その後、試してみたら風魔法も使えたので水魔法と合わせて、此方流にトイレを済ませてみることにした。
…ちょっと慣れがいるね。便座も小さかったし、改装してからにすればよかった…。
お城を作る時、トイレ部分には力を入れようと心に誓った。
投稿が遅くなりました。設定説明パートを会話を交えつつまとめるのが難しくて、展開だけ決めて先の方を書いていたら其処まで投稿が追い付いてしまいました。
それと副題を変更しました、1話投稿前まで悩んで決めたやつなんですが、今ひとつしっくりきていなかったので。
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