2-02【八重垣姉妹の異界探訪】■■■事情。
◇■■■事情。
「ユノお姉様、こちらです。少し待っていてくださいね」
アリスがユピーちゃんが手を繋いだまま中に入っていき。しばらくすると中に明かりが灯り、再び二人が入り口から出てきてその横に立った。
オリフィアさんの記憶と同じ3畳程度の広さのテント。その時は小さなテントだと思っていたんだけど周りのテントと比べるとちょっと大きい。
「お姉様、明かりを点けてまいりました」
「ありがとう、これから中も外も改造してみるけれど大丈夫?」
「はい、ユノお姉様の望みに合うように手を加えてください」
「うん、やってみるね」
っと気合いを入れると、凪恋に袖を引っ張られた。
「ん?どしたの凪恋?」
「あのね…その、おトイレ行きたいんだけど…」
「あートイレ、そういえば私も行っておきたいかな」
考えてなかったけど生活に直結する部分だよね…。しかし難民キャンプのトイレって…。
あまり良い想像は浮かばなかったけれど利用する他ない。アリスに聞いてみよう。
「アリスちゃんトイレってどこにあるのかな?」
「御不浄ですね。テントの中にあります、小さいので気を付けてください」
「え?この中にあるの?」
「はい、入って奥のカーテンの中にあります」
「わわ、わかったっ…それじゃあおトイレ借りるねっ」
っと凪恋が急いで外套を脱ぐと魄兵に渡し。かなり切羽詰まった様子でテントの中に飛び込んでいくのを見送ると、私はアリスにトイレの事を聞いてみることにした。
「アリス、おトイレも私の世界と随分違うみたいだから、どういう仕組みなのか教えて欲しいんだけど」
「そ、そうなのですか?」
恥ずかしそうに顔を赤らめるアリスだけれどこれは聞いておかないといけない。お城とか建てる時もその部分大事だしね。
「お願い、とても大事なことなの」
「お姉様がお聞きになりたいのは構造のことですか?」
「そう、どういう造りになってるのか知りたいの」
「わかりました…、お話ししますね。まず土魔法で直下に5リーク程掘ります」
「ストップ、アリスは身長何リーク?」
「わたくしは1リーク42シリルです」
1リークは大体1メートル、1シリルが1センチで問題なさそうかな?
「100シリルで1リークで合ってるかな?」
「はい、なるほど尺度を測る言葉も違うのですね…」
でもおかしいな?、記憶の中でオリフィアさんが5度って角度を言ってたんだよね、一応そのことを聞いておこうかな?
「アリス、この角度は何度?」
私は右腕を上に左手を横に時計の3時の角度にして聞いてみると。
「90度ですね、お姉様?これは何の質問なんですか?」
やっぱりちゃんと角度は翻訳されてる…、という事はリークやらシリルは微妙にメートル法とは違うのかもしれない?、一応覚えておこう。
「うん、大したことじゃないよ。ちょっと聞いておきたかっただけだから。説明遮っちゃってゴメンね、でもこれからも分からない所はちょくちょく聞いていくと思うから」
「はいお姉様っ、気になる事がございましたらいつでも聞いてくださいね」
こくりと頷いて聞く体制に戻るとアリスは説明を再開させた。
「直下に穴を掘った後は最深部を円形に土魔法で削りだしてから、同じく土魔法で穴を硬化させます」
土木機械無しに5メートルの穴掘り工事から最深部を加工して、更に硬化させることもできるんだ…、土魔法便利過ぎない?
「その後、川辺や池の辺でスライムの幼体を捕まえてその中に放ち、穴の開いた座席を設置すれば完成です」
また知らない生き物が出てきたね…。幼体って言うくらいだから生き物なんだよね?
「スライムっていうのはどんな生き物なの?」
「スライムは骨を持たない軟体の生き物で有機物はどんなものでも消化してしまいます。ですから生ゴミなどの処理にも利用されているのですが…。あの…お姉様の世界ではどの様にしてゴミや汚物を処理されているのですか…?」
「え?、コミの処理?、焼却施設に集めて高熱の炎で処理したり…浄化施設を通して川に流したりかな?」
「焼却に浄化の施設があるのですか?、聞けば聞くほど不思議な世界なのですね…」
「私から見たら此処の世界は不思議だらけなんだけど…、まぁお互い様だよね」
こっちの世界は色々と便利すぎる。改めて思い返してみると難民キャンプなのに衛生面がそこまで悪くなかったのは、スライムとやらが活躍しているからみたいだ。
「えっとつまり、この世界のトイレってゴミ捨て場でもあるってこと?」
「そうですね、皆様そうしています」
「そうなんだね…」
これはカルチャショックだ…、文化の違いってレベルじゃないね。気が付いてないだけでこれからも色々な事で驚きそうだ。
「アリスちゃん、ちょっと来てー」
生活様式の違いに驚いていると、テントの中から何だか情けない凪恋の呼び声が聞こえてきたのでみんなでテントの中に飛び込んだ。
そうか…ベットの横にあった布で仕切られた場所がトイレだったんだね。
中はオリフィアさんの記憶通りの配置で、思わず目頭が熱くなってしまったけれど気合いで耐えた。ここを本当に改造してしまって良いんだろうか?と一瞬だけ自問してしまったけれど。アリスも自由にと言っていたのだから大丈夫って事にしよう…。まずは凪恋の話しを聞かないとね。
「どうかなさいましたかっ?ナコお姉様っ」
「凪恋っ大丈夫なの?」
「なこねいちゃへいき?」
「わわっ!、なんで皆入って来ちゃったのぉ?アリスちゃんだけ呼んだのにぃー」
「ごめんね、でも何かあったんでしょう?。今アリスにトイレの構造とか色々聞いてたら、ちょっと地球と違いすぎてね。自分で城作る時問題になりそうな事は知って置きたかったの」
「そ、そんな大した事じゃっ…ないょぉ…」
この質問の大事さを持って説得を試みたのだけれど。それでも凪恋は恥ずかしさから回答をぼかす。
「ナコお姉様っ、些細な事でもかまいませんので、どうか仰ってください。わたくしはお姉様の事が心配なのです。」
「えぇ…、ぅ、うん。」
なんかアリスは少しズレてる気もするけど凪恋は話してくれるみたいたから良いかな。このまま私が問い詰めても答えてくれなかったかもだしね。
「本当に大した事じゃないからね…。あの…あのね…、ティッシュの…紙って穴に入れちゃって良いの?」
あー、なるほど…、凪恋はスライムがいる事を知らないから流して良い物か聞きたかったんだね。
「かっ!、紙を御不浄にながすのですかっ!?どうしてその様な事をなさるのですナコお姉様っ!?」
「だっ、ダメなの!?、それじゃあこれどうしたらっ」
私が納得していると隣から驚愕の声。見るとアリスは今まで見た中で一番驚いていた。これはまた常識の擦り合わせが必要みたい。
「待って凪恋。それは穴にポイして良いから、いったん出て来て」
「ユノお姉様っ?、本当によろしいのですかっ!?」
「アリス、ちょっと踏み込んだトイレ事情を聞かせて欲しいの。私達の世界だとね、トイレ終わった後はこういうのを…。ん?、…えっと…あれ?ティッシュが無いっ」
そうだ私今制服着てないんだった。私のポケットティッシュは何処に…。
「はい姉さん、これ」
内幕から出てきた顔真っ赤な凪恋がポケットティッシュを差し出した。犬のマスコットが交通安全キャンペーンを呼びかけるチラシが入った物で、恐らく駅中で配っていたものだと思う。
「ありがとうっ、服変わってたの忘れてたよっ」
「ふふっ、姉さんってば、時々抜けてるんだからっ」
「お姉様、コレはなんなのでしょうか?、透明な布の様な物に包まれていますね、絵画の印刷が色鮮やかで美麗ですね」
「このこかわいぃ…、この子はじゅうぞくさん?」
「えっとお巡りさんしてる犬さんだね、はいっ、ユピーちゃんにあげるねー」
とチラシだけ取り出して渡してあげた。『じゅうぞくさん』てなんだろうか?、従属?
「わーい。ありがとうゆのねいちゃぁ」
「よかったねぇ、ユピーちゃん」
椅子に座るとユピーちゃんは大事そうにマスコットの絵を眺め、その横に凪恋が寄り添った。
「犬のじゅうぞくさんがお巡りさんしてるねー」
「なこねいちゃ、おまわりさんってなぁに?」
「こうやってケイレイッてして。街を守ったり、困ってる人を助けたりするの」
「こう?」
凪恋が絵と同じポーズをとると、ユピーちゃんもぎこちなく真似る。
「そう、敬礼っ!」
「けいれーっ、くふふぅっ」
なんて二人で可愛らしく敬礼しあってる。凪恋は私とアリスが話しをしている間ユピーちゃんを一人にしない様にしているみたいだ。
凪恋…、もう立派なお姉さんになってる…。もう小学校も卒業したんだもんね。
妹の成長を感じて、また目頭が熱くなる。
私の涙腺、バルブが完全に壊れちゃってるね…。
「ユノお姉様っ…その…、貴重な絵画なのではありませんか?」
アリスが心配そうにその様子を眺めていたので頭を撫でて安心させてあげた。
「大丈夫、私達の世界ではありふれた物だから」
「そう…なのですね…。彩色も鮮やかで素晴らしい物でしたから傷でも付いたらどうしようかと思ってしまいました」
「見てアリスっ、例えばこの紙」
私はティッシュを一枚広げ、カンテラにかざして見せた。
「薄くて透き通るような紙ですね。ここまで薄いと筆記には向かないように思えます…」
ムムムっと可愛い顔で少し考えると、はっとアリスちゃんが顔をあげる。
「まさかっ…、その紙は使い捨てる事を前提に作られているのですか?」
「そう、そのまさかでコレは鼻をかんだり、汚れを拭いたりする使い捨ての紙なの。私達の世界では紙はそれ程高価な物じゃないから、トイレ専用みたいな紙もあるんだけど、凪恋はコレで代用した感じだね」
「驚きました、お姉様方の世界では紙が安価で手に入るのですね」
「うんまぁ、これは私達には普通の事だからね…、それで今度は逆に聞きたいんたけど。アリス達はトイレの後どうしてるの?」
「わっ、わたくし達のっ…ですか…?」
アリスは顔を真っ赤にして絶句してしまった。
『女児にトイレの始末の方法を聞く不審な女性の目撃証言』。うん…セクハラ超えて事案だね。生徒会にも注意喚起の報せが良くきたなぁ。
しかしこれはどうしても聞かないといけない。紙は物質錬金で作れるとは思うけれど、出来るだけこういった文化的差異は縮めておきたい。
でないと私もしくは凪恋が後で大恥かきそうな気がするんだよね…。
「恥ずかしい事を聞いてしまってごめんなさい。でもね、この世界初心者の私と凪恋がこっちで生活していく為にはとても大事なことなの…」
一歩踏み出してアリスの頭を撫でると…頬に触れてから顔をこちらに向けてから語り掛ける。
「それにこんな恥ずかしい事は家族にしか聞けないから…」
「そ、そうですね…。お姉様方に恥をかかせる訳にはまいりませんからねっ」
中々に悪辣な聞き方をしてしまったけれど教えてくれるようで助かった…。
「わたくし達が済ませた後は…、あっ…」
「ん、どうしたの?」
「ユノお姉様、わたくし達は水魔法で清めてから風魔法で乾燥させています…」
また魔法かぁ…本当に便利だなぁ。文化的差異の殆どに魔法が関係していそうだ。
「魔法でウォシュレットしてるんだねぇ」
ユピーちゃんとお話ししながらも聞いていたようで凪恋も話しに加わってきた。
「なるほど魔法でウォシュレットかぁ…。アリス…その魔法って私達にもできるかな?」
この世界の生活には魔法が欠かせないみたいだし、そろそろ教えてもらった方が良いかもしれない。




