2-01【八重垣姉妹の異界探訪】眠りにつく前に。
◇眠りにつく前に。
現在午後7時12分
時計を見る為だけにスマホを起動するのは充電が勿体ないのだけれど。アリスちゃんに聞いたところこの星の時計は大きな街のユピー教会や砦、お城にしかないらしく。この難民集落では時間の区切りは朝、正午、夕刻、夜とかなり大雑把なので仕方ない。
何故貴重な電力を使ってまで時間が知りたかったか?。それはあちこちに意識を飛ばされておかしくなっている時間の感覚を取り戻したかったのと、今日中に出来る事がまだあるのでは?と思ったから。
ゆっくりと観光するつもりで来たけれど此処の現状を見てしまったら、まだまだ寝るには早い…、やれることがあるならやっておいた方がいいと思う。
でも折角起動したんだし、まずは四姉妹になった記念に写真を撮ることにした。
「はい、皆この黒くて四角いものを見てね、少し光るけれど目をつぶらないように頑張って」
「は、はい…、ユノお姉様は何をなさるおつもりなんですか?」
「えっと、なんて言えば良いのかな?、携帯カメラっていう見たままの物を撮る機械でみんなを記録するんだよ」
凪恋が何とか説明してみたもののアリスの顔には疑問符が張り付いたままだ。
「見たままをですか?、魔法の投影のようなものでしょうか?」
「ユピーもいっしょ?」
「勿論一緒ですよユピー、こちらへ来て一緒に並びましょう」
「うんっ!ユピーはありすおねいちゃのとなりぃ」
手を繋いだこともあってユピーちゃんはアリスに直ぐに懐いてくれた、アリスは『ちゃん』呼びがしっくりこなかったようで最終的に呼び捨てとなった、なんとなくだけれど会話だけ聞いていると親子っぽい感じになっている。
「それじゃぁ私もユピーちゃんの隣ね」
凪恋とアリスでユピーちゃんを挟み、私はアリスの後ろに立って自撮りモードの携帯を少し高く掲げた。
「はいみんな見てっ、光るよー、ハイっ!」
カシャ
「うん、アリスがちょっとびっくり顔だけど綺麗に取れたね」
「凄い光でした…」
ユピーちゃんの身長に合わせて下ろした携帯を皆で覗き見る。
「凄いですね、掲げられている時は手鏡かと思っていたのですが、この物体自体が発光しているのですね」
「今まで撮ったのも全部見れるんだよ」
写真をスライドさせていくと女子高時代の写真が幾つも表示された。
「どなたも御髪がお姉さま方と同じで黒いのですね、この星ではとても珍しい色ですのに」
「そうなの?、私の来たところは大体みんな黒か茶色だね」
「揃いの衣装をお召しになっているのは魔法学院のような所の制服なのでしょうか?」
「そう学校だよ、ただ私の世界には魔法がなくてね、この学校は色々な勉強をするところだよ」
「魔法が…ないのですか?」
「そう、そこが一番の違いなの。この世界の事で私達が分からない事の殆どは魔力絡みの事になると思うからアリスも気に留めておいてね。多分だけど私達の星には魔力自体がないんだよね」
「そうなのですか…、魔力がない世界…わたくしには想像できません」
「ティータははじめから魔力なしで星をつくってたんだよぉ」
「あぁ、やぱっり星そのものに魔力が無いんだねぇ」
星を作る時に魔力の有り無しを選べるのかぁ…ティータさんは何で魔力なしにしたんだろうか?、というか今ユピーちゃんが言ってたのって創世記な話だよね…。スケールの大きなことを粘土細工レベルに言うからちょっと怖くなるよ。
「でもまぁ…なければないで何とかなるもんだよ」
アリスはまだ魔力のない生活を想像しているようだったのでそう言って頭を撫でてあげた。
「そうなのでしょうか?、何ともしようにないように思えてしまって…」
「この携帯とかも魔力ゼロで作ってるしね、簡単に説明すると雷の力を魔力なしで制御して…その力で動く道具を使って生活してる…みたいな感じかな?」
「凄いのですね、ユノお姉様の世界は…」
「あはは、そのうち連れて行ってあげるね」
「わたくしもユノお姉様の世界に行けるのですか?」
「え?、地球に帰れるの?姉さん」
「あ、そういえば凪恋にまだ言ってなかったね、月一回地球に数日帰っても良いってティータさんと約束したんだよ、だからアリスも連れてってあげるね」
「はいっ、楽しみにしていますねっ」
「わぁ、陽菜ちゃんにまた会えるんだね」
「いきなり連れてこられちゃったから連絡取りたい人が沢山いるよねぇ…」
一月音沙汰無しじゃ音峯ちゃんは泣いてしまうかもしれないな…。小牧さんは目の前で二人消えてびっくりしたんじゃないだろうか…。
これから一ヵ月、私と連絡が取れない事で心配かけてしまいそうな相手が何人か頭の中に過ったけれど、それはもうどうしようもない。
…帰ってから沢山謝ろう…、今はここで出来る事を中心に考えよう…まず初めに。
「みんなちょっと外に付いてきて」
「どしたの、姉さん」
「まずはアリスの騎士を作ろうと思ってね、ここでやったら床が騎士型に抉れちゃうでしょ?」
「わたくしに騎士を授けてくださるのですか?、ユノお姉様」
「護衛は必要でしょう?」
「ありがとうございます…大切にしますね」
大切にするって何だろう…磨いてあげるとかかな?、…私もやらなきゃダメかな?
テントを出るともう外は真っ暗になっていた。あちこちのテントからこぼれ出た光以外の光源は月明りと私だけしかなく、仰ぎ見れば満天の星空を堪能できた。
「さっきよりすごい…、月明かりが無い時にじっくり見てみたいな」
ため息のように漏れ出た言葉と一緒に白い息が宙に舞った。
「うん、星を見てるだけで何時間でも過ごせそう…、でもやっぱり夜は寒いね」
私の外套を着て魄兵に端を持ってもらいながら、凪恋もテントから出てきて私の横に並んだ。
「もっとモコモコに着込んで暖かい飲み物と一緒に見ようね」
「うんっ」
二人で話していると後ろから新しい妹二人が何やら話しながらやってきた。ユピーちゃんはアリスに懐いて、撮影の時からずっと手を繋いでいて微笑ましい。
「ユピー、ユノお姉様はお優しい方ですから、お願いすれば必ず応えて下さいますよ」
「ホントぉ?」
「ええ、断られてしまったらわたくしも一緒にお願いして差し上げますから、勇気を持って貴女の思いをお姉様に伝えてください」
「う、うん…、ユピーがんばるね」
「ユノお姉様っ、ユピーからお願い事がるようなので聞いていただけますか?」
ユピーちゃんとアリスが改まって私に向き直る。二人の表情は真剣だ。
「ユピーちゃんなにかあったの?」
「ゆのおねいちゃ…、ユピーも…ユピーもねっ、騎士がほしいの…ダメ?」
ああ、なるほど…一緒が良いんだね、それはそうだよね、また気が付かなかった…反省。
「うん、わかった、…そうだったね、ユピーちゃんにも騎士が必要だね」
「ふわぁぁ、ありがとうゆのおねいちゃぁっ!…ありすおねいちゃもあいがとぉっ」
「よく頑張りましたね、ユピー」
「うんっ」
「それじゃぁ二人の騎士を作るね…『魄騎製造』!」
道に穴ぼこ作っちゃ悪いので少し外れたところで魄騎士を2体製造する。
「二人とも自分の騎士に名前を付けてあげてね」
「はいっ」
「うんっ」
元気の良いお返事が返って来た、
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魄兵製造 10/2972
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あ、臣民がまた増えてる、さっき集まってきた人たちは代表者だったから…。それぞれの集まりに帰って私の事を話したんだね。寝る前に臣民管理を見てみよう。そうだ…明日の晩御飯位からならマシな炊き出しを振舞えるんじゃないだろうか?
私を皇帝として慕ってくれている人に対して何らかのお礼ができるとしたらやはりご飯だろうと思う。
でも鹿…ソィルタだっけ?一頭狩ったとして何人分のご飯になるんだろうか?、この森は広いけれどあっという間に狩りつくしてしまわないだろうか?…うーん、そんなことないのかな?、その辺は明日ガリウスさんに聞いてみよう…。
いずれにせよ狩りで3千人の食料を確保し続けるのは無理がある。ギフトでもらった穀物だってその規模ならあっという間になくなってしまう。
やっぱり穀物類の大規模栽培が必要なんだよなぁ…。農業できる人どれくらいいるんだろう?。家畜も欲しいし…鶏みたいな卵産んでくれる鳥がいるのかも気になる。
疑問符ばかりが出てきてしまう、この世界の事を何も知らないのだから仕方ないとは言えやらなくてはいけない事、考えなくてはいけないことが山済みで途方もない。
…明日時間作ってガリウスさんに聞きに行こうかな、商業関係の長だって言ってたし家畜や穀物なんかには詳しそうだもんね。…っと脱線してしまった。
一旦臣民関係の思考はリセットして新たに立ち上がった2体の騎士に向き直る。
「貴女はアリスを守ってね、貴女はユピーちゃんをお願い」
「「了解シマシタ、陛下」」
「アリスティア様、私ハ貴女ヲ守ル剣デス、ドウゾヨロシクオ願イ致シマス」
「はい、頼りにしていますね…貴女の名前はアポロニアスというのはどうでしょうか?」
「私ノ名前ハ、アポロニアス…名ニ恥ジヌ働キデ、コノ素晴ラシキ名ヲ授ケテ頂イタ恩ニ報イマショウ」
「ユピー様一緒ニ楽シク遊ビマショウ」
「わぁい、ユピーの騎士だぁっ、えっと…えっと名前はぁ…えとね…アーちゃんっ」
(アリスの名づけを聞いて真似っこしたと思われる)
「私ハ、アーチャン、素敵ナ名前ヲアリガトウ、ユピー様」
あれ?…護衛対象によってこんなに対応違ったけ?、私や凪恋の時ってどうだったかな?。アリスをって言ったのにアリスティアって呼んでるのも不思議だね。
アリスの前に傅き手の甲にキスするアポロニアスとユピーちゃんを肩車して頭の鎧をパンパン叩かれているアーチャンを見て個体差に驚かされる。
やっぱり人格あるのかなぁ…なんか数え方『人』の方がいい気がしてきた。…まぁ今すぐ改める必要もないか…。
まずは寝る前にやっておきたいことから優先しよう。最初は寝る所の確保だね。
「アリスッ、貴女のテントに連れて行って欲しいんだけど」
「わたくしのテントにですかっ?」
「うん、ここ机と椅子しかないし…、なんかいろいろ五月蠅そうだから場所を変えたいの」
「わたくしのテントでは4人で寝るには少し狭いと思います、ユノお姉様…」
「広げるから大丈夫、これからは能力バンバン使っていくよ」
「広げるのですかっ?、わっ…わかりましたっ、こちらです…」
アリスの案内で夜道を歩く、ユピーちゃんとアリスはまた手を繋いで歩いていて、今私の横にはその二人をニコニコ顔で眺めている凪恋が歩いていた。
「ユピーちゃんとアリスちゃんが仲良しになれてよかったね」
私の視線に気が付いた凪恋がそう言って微笑むのを見て私も笑みがこぼれた。
「そうだね、さっきは危なかったけど…凪恋も良く気が付いたね」
下手をするとまたユピーちゃんが引き籠ってしまうところだった、これからも気を付けないといけない。
「いつの間にか私の側から離れてて…すぐ気が付けなくてごめんなさい」
「見えないんだもん…謝る事じゃないよ、これからもユピーちゃんの事は気を付けていこうね」
凪恋の頭をポンポンして「ネっ」と瞳を細めて元気づけると「うん」と返事を返してくれた。
ちなみに先頭にはアザレアがいて、その後ろに案内のアリスとユピーちゃん、私と凪恋が続いているのだけれど、それ以外の騎士や兵は全員私の後ろを付いてきている、騎士と兵士合わせて9体でもう水戸の黄門様より随伴が多くなってしまった。
騎士や兵士が沢山いてもおかしくないようにお城も早く建てたいなぁ…。
さっきからやりたいことが次々に湧いてくる。4姉妹で頑張っていくと決めた私の頭の中は早速実利を追及しはじめていた。まず今日の目標。
その1、寝る前に快適に寝れる所を確保する。
その2、晩御飯のやり直しと食材確保。
この二項目は絶対にやっておきたい。
まずは快適な睡眠の為にティータさんに貰った素材で衣服やベット、枕なんかを作ろう。コレは『物質収納』内の『物質製造』で過去に作られたものを再現できるみたいなので、快適睡眠の為に必要な物を全て揃えていきたい。
そして次に晩御飯のやり直し。
さっきのご飯は頑張って食べたけれど…、正直足りないし…パンケーキでも作ろうかと思う。ユピーちゃんが喜んでくれるといいなぁ…、まだ食べてないアリスと凪恋も足りなかったろうしね。
そして明日の朝食にはちゃんとお肉を用意するっ…調味料と穀物はあるけど、オカズも欲しいしね。だけどモイラはちょっとオカズの素材としては失格点だからなぁ…。どうにか美味しく食べる方法を探してみるのも良いかもしれないけれど、それはまた今度。
今回の食材確保には魄兵を投入して夜の間に狩りをさせてみようと思う。魄兵は兵隊以外の技能を星の記録から2人分覚えさせることができるみたいだから。夜間の狩りの達人の経験や、山菜とかキノコ、果物狩りの経験を覚えさせた個体を複数体製造して。…私の収納を利用できるっぽいから狩った獲物をそのまま収納してもらおう。
そして獲物を解体処理できる施設と解体できる技能を持った魄兵を作らなくてはいけない。収納内で素材として解体しようにも、私にはその知識がないので出来れば丸投げしたい部分だ…加工して再収納してもらう。食品加工はちょっとハードル高そうなんだよね。
解体処理施設は高速建築内の城下建築でなんとかなりそうだから後で実際作ってみようと思う。
「姉さん着いたみたいだよっ」
凪恋の声で現実に引き戻される、目の前には明かりの付いていない中型のテントがあって振り向いたアリスとユピーちゃん、凪恋が私を待っていた。
一章2節スタートですが、まだ一日経ってません。次投稿前に一章第1節の景観描写等をあちこちに加えたり、文章を読みやすくしたりするので少し遅れます。25日くらいになるかな?
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