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1-17【姉妹】姉妹。

◇姉妹。

 

『思考霊域』が解かれてパッと視界が切り替わると、目の前に涙を貯めたアリス(・・・)がいて…。その姿を視界に収めた瞬間私は彼女を抱き締めていた。


「ひゃうぅっ…陛下っ!?」


「姉さんっ!?」


困惑の声を上げる涙目のままのアリスと凪恋、でももうそれどころじゃない、私の感情にはオリフィアさんと共感した別れの悲しみが未だ色濃く残っていて、どうしようもなく突き動かされてしまった。


「アリスッ…うぅ…くぅゥ…ヒッゥ…」


当然涙腺は決壊し、滝のように涙が溢れて止まらない。


「えっ?、姉さん泣いてるのっ?…なんでっ?」


「陛下っ…どうされたのですか?」


「ごめ…ん、後でっ、話すから…ちょっとだけお願いっ…ッうぅぅ…」


「初めて見た…姉さんがこんなに泣くの…」


「わかりました…何時まででも陛下のお気の済むまで、どうぞわたくしの肩をお使いください」


そう言って抱き返してくれたので、私の瞳はいよいよ遠慮なく涙がダダ漏れになる。


「ありっ…ガトッ…うぅうううぅ…」


優しく添えられた手にギュッと力が入るのを背中に感じ、異常事態を察した凪恋の暖かい手の感触も背に加わって、年下二人にあやされて私はしばらくの間安心して泣き続けた。


・・・


「落ち着かれましたか?」


「うん…肩を濡らしてしまってゴメンね。あぁぁぁ…泣いたぁぁっ…、ティータさんめぇ…」


ひとしきり泣いてこれでもかと涙を絞り出した後、私はアリスの肩から顔を上げたけれど、彼女を離す気にはなれなかった。


「姉さん、ティータさんに何かされたの?、あんなに泣くなんて私初めて見たよ」


私の気持ちが落ち着いたのを見て凪恋が心配そうに話しかけてきた。


「ティータラフィス様ですか?」


「そう…あの神様、時間を止めて私をアリスのお母さんの最期の記憶へ飛ばしたんだよ」


「お母さまのっ!?」


「アリスティアちゃんの?」


「うん、アリスのお母さんに会ってきたよ。一方的にだけどね…、オリフィアさんの感情や思いを共有してきたから、アリスを見たらもう気持ちが抑えられなくて…、いきなり抱き着いてしまってゴメンね」


そう言いながら私はアリスの存在を確認するように頬を手で撫でた。水盤のように涙を貯めた青碧の瞳が揺れる。


「素敵なお母さまだね、アリスの事を守るために一生懸命自分にできることをしていたよ」


「はい…、はい陛下…、この世界で一番素敵なお母さまですっ」


頬に添えられた手に暖かい水滴が伝う。


「うん、最後に子守歌を教えるのを忘れたって悔やんでいたから…、後で教えてあげるね」


そう言って私はアリスのオデコにキスをした。


「ねっ…姉さんっ!?」


すると凪恋がビックリして声を上げるのでこっちまでビックリしてしまった。


「え?、なに?」


 あ…あれ?、…私なにか変なことした?


凪恋の声には多分に驚きが含まれていたのだけれど、私はなにを驚かれたのかが分からない。


「へィ…ヵ……」


正面を見るとアリスの顔が茹蛸みたいに真っ赤になっていく…。


 …ん?…んんん?、なんでそんなに恥ずかしがっているのかな?


「私何かした?みたいな顔してるけど、今額にキスしたの覚えてる?」


「ぃェ…へぃヵにでしたら…、ぅれしぃ…でスっ」


そう言われて唇に感触があるのに気が付いた。


「えッ?、今キスしたの私?」


指摘されるまで全く気が付かなかった、急に恥ずかしくなって頭に血がのぼってくるのがわかる。


「あっ…あれ?、ご、ゴメンねいきなりっ…。多分オリフィアさんがしてたからっ…なんか自然にっ!」


「凪恋ッ、私何か変なのに…どう変なのかもよく分からないんだけど分かるっ?」


困った、さっきから行動が滅茶苦茶だという事は分かるんだけど、何がおかしいのかが自分で分からない、私はシドロモドロになって妹に助けを求めた。


「う、うん…そうだね、私は姉さんが額にキスするのなんて初めて見たし…アリスティアちゃんの事急にアリスって呼びだしたりして変だなとは思ってるけど…」


凪恋も両手で口に手を当てて、顔を赤くして答えてくれた。


「え!?…ホントにっ…!?」


 そうだ…、確かに…アリスティアちゃんって呼んでたはずなのに…、もうアリスって呼ぶことの方が自然な気がする。


「そ、そうかっ…そういえばアリスって呼び棄ててるっ…、ああぁ…ティータさんが共感しすぎてるって言ってたのはこういう事…」


「共感…ですか?」


アリスが小首をかしげながら見上げてくる、なんて愛らしい子なんだろうか…。


「そう、結構長い事オリフィアさんの意識と同調してたから気持ちが綯交(ないま)ぜになってさっきから滅茶苦茶なの」


そう言っている間にも私はアリスをギュッとして離さない、離したくないのだ。


「と、とにかくいったん落ち着いて椅子に座りましょう、アリスはここっ」


ずっと膝立のまま話をするのも疲れるので、まずは椅子に座ることにした。


「ひゃうぅっ、へ…陛下っ」


アリスは離したくないのでヒョイと持ち上げると膝の上に乗せて椅子に座り、凪恋は椅子を引きずって持ってくると対面に座った。


「チョット深呼吸するから待ってね…。ハァ…ふぅ…ハァ…ふぅ…」


「うんそうだね、まずは落ち着いて姉さん」


 アリスはここにいる…大丈夫…、落ち着け落ち着け…。そうだ!もっと安心する為の話をしようっ。


「よし、ちょっと実験っ」


私は意識の中にある、『異界言語』のスキルをオフにしてアリスに話しかけた。


『私がなんて言ってるのかわかる?』


「あの?…陛下?申し訳ありません…よく分かりませんでした」


いきなり私が不明な言語で話し始めたことにアリスティアちゃんは戸惑っているようだ。


「できてるね、凪恋っ、心の中で『異界言語』オフにしてアリスに話してみて」


「え?そんな事できるのかな?…ちょっと待ってね」


いきなりそんな事を言われて、スキル操作を一切したことが無い凪恋がうんうん唸りながら試行錯誤している。


「ンと…異界言語オフ…オフ…」


1分ほど唸った後、凪恋は試すようにアリスちゃんに話しかける。


『これで…できてるかな?、わかる?アリスティアちゃん』


「名前以外は聞き取れませんでした、ナコ様」


「できたみたいだね、それじゃちょっとだけ待っててねアリス、凪恋と大事な話…姉妹会議をしてくるから」


「姉妹会議…ですかっ?。はっ…はい、会議のお邪魔をしないように大人しくしていますね」


「ありがとう、何かあったら遠慮なく話しかけてね」


「はいっ、陛下」


 アリスは少し寂しそうだけど、ちょっと揉めるかもしれないからゴメンね…。


『よしっ、それじゃぁ姉妹会議をしますっ』


姉妹会議は八重垣姉妹の重要案件を、姉妹の上下なしに率直に意見を言い合って相談する会議。凪恋は少し意外そうな顔をした後に。


『うん、わかったよ』


となんだか悟ったような顔で会議を開くことを了承してくれた。


『議題は2つです、最初のはねっ…』


『最初の議題は…姉さんは残って皇帝をするって決めたことだよね?』


『えっ!?』


『ユピーちゃんのお話を聞いた時からそうなる事はわかってたよ、…だって姉さんだもん、此処を見てそのまま帰るなんて出来るわけないもんね』


『うぅっ……そんな事ないよ、凪恋の学校だってあるし、私は貴女を凛聖に進学させてあげたいのっ』


『だから姉さんはこっちに残ってお金を稼いで、私ひとり地球で暮らせる環境を作ろうって思ってるんでしょう?』


凪恋は私の考えていたことを正確に当てながら淡々と言葉を紡いでいく。


『…ッ、それは…』


 怖くなるくらい何もかもお見通しだ…。


『私は帰らないからね、姉さん』


『凪恋ォ…』


『姉さん短大進学諦める時言ったよね、2人で生活する為だって…。私は姉さんの高校のお話が大好きだったから短大にも行って欲しかった…。でもね…2人で生活する為なんだから仕方ないって思うようにしたんだよ』


『うん、そうだったね…』


『だからね、姉さんが残るなら私も残るの』


妹の決意は固いようで、静かに話してはいるけれど表情は真剣だ。


『でもね…それだと、凪恋は最終学歴小卒になっちゃうんだよっ?、私としてはちゃんと学校に通って経験を積んでもらいたいって思うんだけど』


『ふふっ』


そう言うと凪恋は突然表情を崩し、クスッと笑う。その表情に驚いていると更に驚くようなことを言い出した。


『それじゃぁ姉さんがこっちに中学校作ってよっ』


『え?』


『姉さん皇帝になるんでしょう?学校だって作るんじゃないの?』


 家の妹は天才かもしれない…、その手があったか。


『そうか、そうだね…、…わかった、それじゃぁ姉さん皇帝になって八重垣中学校造るよ』


『うん!、私は初年度の一年生になるからっ』


そう言うと安心したように凪恋は胸を撫で下ろした。


『はぁ…よかったっ。ずっと一緒だからね、姉さん』


『うん、約束』


私の『約束』という言葉を聞いた時の凪恋の安堵の表情を見ればそれが正解だとわかる。生活の基盤はまるで変ってしまうけれど、きっとこれがベストなんだろうと思った。


『もう一つの議題はなに?、こっちは分からないんだけど』


『もうひとつはね、まだ相手にも聞いてないからどうなるか分からないんだけど、まずは凪恋に許可を貰いたい事なの』


『なんの許可?、姉さんがしたい事なら許可とかいらないけど…』


『とても大切な事だから凪恋にもしっかり考えてから答えて欲しいの』


そう言ってから、こちらの様子を所在無げに伺っている膝の上のアリスの頭をポンポンする。


『私ね…、アリスを私たちの妹に…家族に迎えようと思うの』


『っ!?』


凪恋が目を見開き、手を口の前で合わせて両肩を寄せた。


『まだ本人にも話してないんだけどね、まずは凪恋に話さなくちゃと思って』


『ふわぁぁ…、私に妹ができるんだね』


夢見るように目を細めて喜ぶ凪恋の顔はとても愛らしい。


 こんなに嬉しそうな顔…もしかしたら初めて見たかもしれない。


『OK貰えるかは分からないけどねっ、これから提案してみるから凪恋も協力してね』


『わかったっ、この議題は全会一致で可決だね』


『ふふふっ、そうだね』


視線を合わせて微笑み『異界言語』をもう一度発動させた。


「待たせちゃってごめんね、アリス」


「いえ、お話はもう大丈夫ですか?」


「うん、相談して二つの事を決めました」


「二つの事ですか?」


「うん、まず一つ目…、私は皇帝になってこの星を救う事を決意をしました」


「…ッ!、決意してくださったのですね陛下っ!…ナコ様の(おっしゃ)っていたことは本当でしたっ!」


アリスが目を見開いて歓喜の声を上げる。


「え?凪恋が何か言ってたの?」


「はい…陛下が迷われていると仰った時に、ナコ様は陛下ならば必ずこの星を救う選択をすると教えてくださいました」


「ああ…あの時の…、内緒話かぁ…」


 本当に最初からお見通しだったわけだ…、凪恋には敵わないなぁ。


「それで…もう一つ決めた事というのは何だったのでしょうか?」


「それはね…、アリスに断られるととても悲しいから出来ればOKしてもらいたいんだけど…、大事なことだからじっくり考えてね」


私は凪恋に目配せしてからアリスを後ろからギュッと抱き締める、凪恋も椅子から腰を上げると私の膝先で屈んでアリスの手を握った。


「なっ…何をでしょうか陛下っ?、…ナコ様ッ?」


顔を真っ赤にしてアリスは背後と正面を交互に顔を向けた。


「あのね…アリスに私達の妹になってほしいの」


「アリスティアちゃん、私からもお願い」


「わたくしが…、陛下とナコ様の…妹に?」


アリスはボンヤリと言葉の意味を考えるように呟いた。


「そう、私達の家族になって欲しいの、…ダメかな?」


「だ…、ダメでは…ありません…。ですけれどっ…、わたくしが妹にだなんて…、本当によろしいのですか?」


瞳を閉じ、凪恋の手と私の腕をキュッと握りしめて問いかけたアリスの手に凪恋がもう一つの手を重ねた。


「あのね、私達のお母さんは私を生んで…その後すぐに死んでしまったの…。私はずっと妹が欲しいって思ってたんだけど絶対に叶わない願いだから諦めてた…、だからアリスティアちゃんみたいな素敵な子が妹になってくれたら本当に嬉しいのっ」


「ナコ様…わたくしには兄しかいませんでした…ですからナコ様みたいなお姉様がいてくださったらって…でも…」


「アリスにご両親はどうしているのかって聞いたでしょう?、私はね出会った時からアリスは一人なんじゃないかって思っていたの。私達も両親がいないから一緒に暮らせればって、…皇帝になる決意をする前は貴女を私たちの星に連れていけないか?なんて考えたりしてたんだよ」


そういって後ろから体重をかけてアリスをキュっと抱き締めた後、彼女の身体を左に45度ずらして右手を枕にして、キリストを(いだ)くマリア像のように抱くと直接瞳を見て話しかけた。


「だからね家族になって欲しいって思ったのはオリフィアさんの記憶を見たからじゃないの、健気に頑張る貴女が家族になってくれたらって心から願ってるんだよ」


「本当に…良いのですか…?、わたくしは何もできない子供で…きっと、…きっと陛下の足を引っ張ってしまうと思ますっ…」


私を見上げ、瞳を揺らしてキッと身を強張らせたアリスの前髪を梳くと、私はできるだけ優しく微笑んだ。


「それでいいのっ、…私達に貴女を守らせて欲しい」


凪恋も右手を両手で握り込んで優しくアリスに語り掛けた。


「アリスティアちゃん、私達と一緒に暮らそう?」


私たち二人の願いを聞いてから、しばらくそのままの姿勢で瞳を閉じていたアリスの瞼が開く。


「はい…」


左手で頭を支えた私の右手を頬に寄せるように握り、握られた凪恋の手を胸に寄せると絞り出すような小さな声でアリスは私たちを受け入れてくれた。


「…ナコ様っ、…陛下っ…わたくしをお二人の妹にしていただけますか?」


「もちろんっ、これからよろしくね」


「アリスティアちゃんっ、私たちの妹になってくれてありがとうっ」


凪恋も加わって3人でお互いの存在を確かめ合うように抱きしめ合う。


「わたくし…とても幸せです陛下、ナコ様っ」


目尻に涙を浮かべて微笑んでくれたアリスを見て私も泣いていた。


「もうナコ様でも陛下じゃないでしょう?」


 涙腺が緩くなってて困る…、姉さん泣き虫になってしまったかもしれない。


「そうでした…ユノお姉様、ナコお姉様…、末妹のアリスティアをよろしくお願いしますっ」


「うん、必ず幸せにしてみせるね」


「私もこれからはアリスちゃんて呼ぶね」


「はい、ナコお姉様っ」


「えっとこれからアリスの苗字はどうすればいいのかな?」


「母方の姓であるエミリウスは残したいので、アリスティア・エミリウス・ヤエガキと名乗ろうと思います、ユノお姉様」


「わかった、これからは姉妹で頑張ろうね」


「がんばりますっ」


「がんばろーっ」


3人の声がテントの中に木霊し、私達はふふっと微笑み合った。その後三人で手を重ねてお互いを見つめ合う…、そんなひと時の静寂の中に…。


『…ぃ…なァ』


針を落とした音よりもか細い小さな呟きが聞こえた。


「姉さんっ!」


「うんっわかってるっ!」


バッと顔を上げると凪恋も同じく驚いた様子で顔を上げて私と目が合った。


「ユピーちゃんっ離れちゃダメだよッ…私とてて繋ごう?」


妹があちこち探し始めているのを見ると近くにはいないらしい。


「ユピーちゃんっ、今いる所でじっとしててね、ユピーちゃんにとっても大事なお話があるから」


『……ッ、…ユピーに…ぉはなし?』


 よ…良かったぁっ、近くにいてくれたっ…。


でもやっぱり声に元気がない。風の音や布ズレの音が重なっただけでも聞こえないような小ささだったのに聞き逃さなくて本当に良かった。


「うん、すぐにユピーちゃんがニコニコできる事が起こるから少しだけ待っててね、少し待つのできるかな?」


『…ぅ、ぅん…ユピーできるよ、ホントに…ニコニコできる?』


「うん、必ずできるから少しだぁけ待っていてねっ?」


『……ぅん、…わかったぁ』


「ハァ…ホントに気づけて良かったぁァ…」


小さく凪恋がため息を漏らす。


「い、今お二人はもしかしてユピティエル様とお話しされていたのですか?」


アリスは何が起きているのか分からず私の膝の上でオロオロしていた。


「アリス、今から3人になって最初の姉妹会議をしますっ」


「は、はいっ!、わたくしも姉妹会議に参加できるのですねっ」


「勿論っ、議論はすっ飛ばして…『ユピーちゃんを4人目の妹にしても良いかどうか』の採決をしますっ」


『…ッ!?、…ゆの…ねえちゃ?』


「ユピティエル様をですかっ!?」


「まず私…賛成っ、はい次凪恋っ」


アリスちゃんの驚きはスルーして私は採決を強行した。


「勿論賛成しますっ…次はアリスちゃん!」


凪恋もそれに続き、賛成を出し終わった瞬間に二人で目配せすると、アリスは直ぐに察して頷いた。


「は、はいっ、わたくしも賛成いたしますっ」


「全会一致だね」


「うん、決まりだね、ユピーちゃん聞こえたかな?、ユピーちゃんに私達と姉妹になって欲しいの、…ね?」


『でも…ゆのねえちゃ…ユピーは…』


「大丈夫、アリスとも仲良くなれるよ、だってお姉さんなんだから、ね?アリス」


そう言ってアリスちゃんを膝の上から降ろして立たせると、私も椅子から立ち上がってアリスちゃんの横で膝立になる、凪恋も私とアリスを挟むようにして膝立ちで陣取った。


 どこにいるのか分からないので、出来るだけ広い方を向いてみたけれど…どうかなぁ。


「はい…仲良くなっていただけますか?」


『おねいちゃも…仲良くなって…くれゆの?』


どうやら勇気を振り絞ってアリスにも声をかけたようだ、アリスも声に気が付いて私を見たので、黙ってうなずいた。


「はい、姉として可愛がって差し上げたいのです…わたくしと仲良くしていただけるでしょうか?」


「ほんと…?、ほんとにほんと?」


心の中じゃない、肉声が聞こえてそちらを向くと、姿を現したユピーちゃんが机の脚に身体を隠してこちらを伺っていた。


「良かった、そこにいたのねユピーちゃん…、お姉さんのとこに来れる?」


「うんっ!、ゆのねえちゃぁあぁぁ~ん」


ぼふっとユピーちゃんが胸の中に飛び込んでくる。


「少し寂しかったね、ごめんね、ユピーちゃんもお姉さんの妹になってくれる?」


胸に顔を埋めたユピーちゃんの頭を撫でた、初めてできた人間の二人の友達が他の女の子と家族になっている所を見て寂しくなってしまったのだろう。


「ぐすっ…ゥえぇェェ…グスッ…うんっ、うんッ!…ユピーもねいちゃの妹になるのぉぉっ」


「この方が…ユピティエル様っ、…なんてお可愛い…」


「良かったぁ、姉妹になれたなら、これからはずっと一緒だね」


私はユピーちゃんを持ち上げて抱き締める。ユピーちゃんは首にしがみ付いて涙を流した。


「ほんとに?ずっといっしょにいてくれゆ?」


「うん、一緒にねんねんして、一緒にご飯食べて、一緒にお風呂にもザブンしようねぇ、あれぇ?そういえばユピーちゃんてご飯食べれるの?」


抱きかかえたユピーちゃんを小さく揺らしてあやしながらゆっくりと語りかけ、背中をさすってあげる。


「たべたことっ…あんまりないの…」


「食べることはできるんだね、それじゃぁお姉さん美味しいもの沢山作ってあげるからねっ」


「わぁぁ、ゆのねいちゃだいすきぃぃっ」


「ふふふっ、それじゃぁ新しいお姉ちゃんにもご挨拶できるかなぁ?」


ぎゅっと抱き着いてユピーちゃんがご機嫌になったところで、アリスと仲良くできないか持ちかけてみる。我ながら子供騙しで狡猾な気がしないでもないけれど、みんな仲良くする為だから仕方ない。


「う…うん…できるよ…」


そんな私の想いは知らないであろうユピーちゃんは耳元で小さく頷いてくれた。


「偉いねっユピーちゃん、はい、アリスお姉ちゃんにご挨拶して」


膝を曲げて床に正座し、ユピーちゃんをアリスの方に向ける。アリスはじっとユピーちゃんを待っていてくれた。


「ありすおねいちゃ…」


「はいっ、ゆぴー…ちゃん、わたくしの妹になってくださいますか?」


そう言ってアリスが手を差し出した。凪恋に手を繋ぐ事と『様』呼びは警戒されちゃいそうだからダメだとさっき耳打ちされていたけれど、その顔は少し顔が引きつっていた。


「うん…ありすおねいちゃ…」


ユピーちゃんはオズオズと小さな手を伸ばし、きゅうっとアリスの手を握り返した。


 ハァ…危なかった…、本当に危なかった…でもこれで一安心だ…、なんとかなってよかったぁ…。


「頑張ったねユピーちゃん、アリスもありがとう」


「えへへぇ、ねいちゃがいっぱいっ、うれしいなぁ」


「ユピーッ…ちゃんはずっとわたくし達の側にいらっしゃったのですか?」


「うん、大体私の背中にいたんだよねぇ」


「うんっなこねえちゃの背中にいたのぉ」


「時折ナコお姉様が独り言を仰っていたのは、ユピてぃえッ、…ユピーちゃんとお話しされていたからなのですね」


「え?気が付いてたの?、独り言喋ってる変な子だって思われてたんだ…恥ずかしいなぁ」


「ふふっ、さあ皆手を出して」


私が出した手に凪恋の手が重なり、その次にアリス、ユピーちゃんと続いた。


「これから私達八重垣4姉妹で頑張ってこの星を救うからね、みんなお互い遠慮しないで協力し合っていこうっ」


「がんばるっ!」


「はいっ!」


「うんっ!」


「おー!」


掛け声はバラバラだけど最後に重ねられた手を私の手でまとめて持ち上げ、八重垣家の心を一つにした。

 

 飛ばされて来たこの地で新しく家族が増えたのだから。この子達を守るために姉としては頑張らざるを得ないよね。異星人の姉妹に、神様一柱と貴族の少女、傍目には非戦闘員にしか見えないだろうけど、この4人で滅亡の運命に抗ってみよう。


「なこねいちゃだっこっ!」


ユピーちゃんが凪恋の腰辺りにセミのようにしがみ付く。


「わわっ、もうびっくりしたぁ…よいしょっと」


「ふふ…危ないですよ」


よじ登るユピーちゃんを凪恋が持ち上げ、アリスがそれを支えてあげている。こんなに朗らかな姿をこれからも見ることができるのだから、今はこの世界に来て良かったって心から思える。


 …完全にティータさんに担がれた形になっていて(しゃく)ではあるんだけど、きっとまぁ…それも含めて運命なんだろうと思う事にした。


第1章【戴冠】 ◇第1節【姉妹】 完。

一章一節終了、ここからは四姉妹で頑張っていきます。次回は3、4日後になります。

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