1-16【姉妹】交渉とギフト。
◇交渉とギフト。
涙がとめどなく溢れてくるので親指の付け根で両目を押さえていたけれど、波の音、足元に寄せる波の感触で例の海岸に座っているのは分かった、…そして前に座っている人が誰かも判る。
「やって…、くれましたね…ティータさんっ…グスッ…ッ」
「ええ…でも知っておいて欲しかったのです、あなたにとっても大切な情報だったでしょう?」
「グスッ…ッ…アリスに出会って…、私が皇帝になる決意をするところまでシナリオ通りですか?…ッ…ゥぅ…」
「ええ、転輪聖王とはそういうものですから…、貴玉姫という己が望みを叶える事の殆ど無い儚い存在に出会えば、その為に皇帝になるであろうことは容易に想像できました」
「…殆ど、ないんですか?」
「ええ、9割方その時の為政者に奪われて…その後国を傾けて滅びますね」
「今回は…ッ、私が為政者なんでしょう?、…アリスは守りますよ、あの子の想い人が現れて添い遂げられる時まで保護します」
「何言ってるんですか?、想い人は貴女ですよ?」
「え?」
…アリスの想い人は…私?
「あ…、ぁあ…なるほど…、そう言われてみると…なるほどそう言う事だったんですね」
「あら?、思ったより動揺しませんね」
「いえ、なんかこう…、色々腑に落ちたというか…それが自然な事なんだという感じがして。…それにとても嬉しかったので」
『…その、心当たりはあるんですが…、うぅぅ…陛下っ、…これ以上は申し訳ありませんっ、…恥ずかしいので陛下に対してもう一つ秘密を持つことをお許しください』
アリスの心当たりっていうのはそういう事だったんだね、あの子の方がよほど大人だ…。
「クスクス、転輪聖王は7つの宝を得るとされます、恐らくあの子と妹の凪恋さんも得難き宝なのでしょう、祐乃さん…アリスティアさんを守るためにも皇帝頑張ってくださいね」
「わかりましたよ…、皇帝頑張りますよっ…ただし…!」
私は涙を拭って正面を見据える、ティータさんからはいつものふざけた雰囲気はない。
「金輪際っ、こういうのは無しにしてください…、自分の能力は自分の意志で使いますっ、これは皇帝になる最低条件です!」
「了解しました、貴女の能力は貴女だけ、管理者でも触れられないようにしますね。…他に何かありますか?、私もここまでしたのですから大抵の事は協力しますよ」
「私…なんでもやりますよ?、救う為ならどんな滅茶苦茶な事だってしますからね?」
「ええ、勿論、祐乃さんの思うままに能力を使ってください」
「後、月に一回、数日地球に帰らせてください」
「わかりました。月一でしたら大丈夫でしょう、でもどうして?」
「地球で連絡を取りたい人が何人もいる事と…知識と作物や生活用品を得たいので」
何かしたいと思ってもこの星の過去を調べる事しかできない私には限界がある、農業書みたいな物も欲しいし、なんならジャガイモやらサツマイモやらトウモロコシやら欲しい物全部持ち込んでしまいたい。
「なるほど、色々と考えてくれていたのですね」
「ええ…まぁ思いつく程度の事ですが…、『物質置換』で手に入れたものを地球で売って、資金を得て、お米や麦を大量買い付けとかしてもいいですよね?」
「ええ、その辺りも祐乃さんの思いのままに」
負い目があるからなのかなんでもOKしてくれので、もっといろいろ吹っ掛けてやろうかとも思ったけれどこれ以上は考え付かなかった。
「ハァ…もう泣き疲れましたよ……、それでギフトってなんですか?皇帝になると決めたら貰えるんですよね?」
「え?、えぇ…、でももっと勿体ぶってババーンと公表したかったんですが…」
「精神的にまだボロボロなんです…、なにか心が上向く物をくださいね」
ティータさんも察してくれてはいるみたいなんだけど、今の私にからかいに付き合うほどの余裕はなかった。
「うぅぅ…そうですか…、それでは仕方がありませんねぇ…。えっと…これが目録ですよ」
私の目の前に光る文字の羅列がグワーっと流れた。
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羽毛 50トン
綿 50トン
絹 白 生地幅100mx50km
白ベルベット 生地幅100mx50km
赤 生地幅100mx50km
赤ベルベット 生地幅100mx50km
紺 生地幅100mx50km
紺ベルベット 生地幅100mx50km
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黒 生地幅100mx50km
黒ベルベット 生地幅100mx50km
木綿 白 生地幅100mx50km
赤 生地幅100mx50km
紺 生地幅100mx50km
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黒 生地幅100mx50km
ゴム 50トン
檜 100本(加工済み平均300mm)
杉 100本(加工済み平均300mm)
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銀杏 100本(加工済み平均300mm)
大理石 300トン
花崗岩 300トン
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凝灰岩 300トン
米 50トン
麦 50トン
味噌 50トン
胡椒 50トン
砂糖 50トン
醤油 50トン
蜂蜜 50トン
菜種油 50トン
味醂 50トン
胡椒 50トン
カルダモン 50トン
クミン 50トン
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ベルガモット 50トン
緑茶 50トン
紅茶 50トン
コーヒー豆 50トン
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「うわぁ…なんですかこれ?」
どんぶり勘定も甚だしい雑な素材と重量がババット表示されていく。
「主に物質置換できない布や羽毛、お城を立てる時の建材、後ひと月の間、祐乃さんの生息域の人が無いと困りそうな食材や調味料を貴女の収納に入れておきました」
「何処からこんなに沢山の物持ってきたんですか?」
「主に貢物とか…後は地球の物をぱぱっとですね、ちゃんとこちらの世界でも不自由なく過ごせるよう頑張ったのですよっ」
ぱぱっとって表現がなんとも胡散臭い。でもそれ以上にこんなに沢山の物を持ってきてしまって大丈夫なんだろうか?
「地球の重量こんなに減っちゃて…その軌道とかそういうの大丈夫なんですか?」
「クスッ…、そんな心配ッ…クスクスッ、無用ですよぉ、ふふ…クスッ…クスクス」
なんか凄い馬鹿にされてしまった…、天体規模のことなんてよく分からないよ…。
「それでは祐乃さん、『思考霊域』を解除しますね。ちょっとオリフィアって人と共感しすぎてしまったみたいだから気を付けてください…。そうそう、言い忘れてましたけど私も祐乃さんのこと好きですよぉ」
オリフィアさんと…共感しすぎ?どゆこと?
微妙な顔をしていた私を置いてティータさんはふわりと浮かび、微妙な告白をしながら消えていった。
ちょっと短めです。明日投稿分で第一章の一節が終了して。その後は三、四日空き位の不定期投稿になります。
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