1-12【姉妹】貴族その2。
◇貴族その2。
「もう放していいよ」
私の声に反応して騎士たちが悪役さんから手を放し一歩後ろに下がると。
「ヒィィッ…ひえぇえええぇェッ!」
っと彼は声を上げて捨て台詞も無しにて走り去ってしまい、それを見て群衆がまたざわつきだした。
「あっ…、って、ねぇッ!、この人達どうするのぉォっ!?」
貴方の部下全員ここで寝てるんですけど…。ええっと…もしかして私が介抱しないといけないのかな?
「ハァ…」
思わずため息が漏れる、こんなに人疲れしたのは初めてかもしれない。
人疲れだけじゃないか…、一方的にやっつけちゃったけど私はさっき勝敗で人生が変わってしまうような戦いをしていたんだ。そしてその戦いには妹やアリスティアちゃんの人生も乗せていた。
「なるほど疲れるわけだね…ため息くらい出るよそれは」
でもひとまずは乗り越えることができた…、それでいいとしようかな。
「ふぅ…」
改めて今度は一息ついてから、気疲れした心に癒しを求めて妹たちに合流すべく振り返ると。アリスティアちゃんが両手を胸の前でぎゅっとした状態で俯き、頭から湯気が出そうなほど真っ赤になっていた。
「あれっ?アリスティアちゃんどうしたの?」
そう言うと妹が呆れた様子で割り込んできた。
「え?…姉さん…、今の無自覚だったの?」
「ムジカク?」
「うんわかった、アリスティアちゃんは私に任せて姉さんはほらっ、そこになんだか話したそうにしている人達がいるからお相手してきて」
と凪恋に追い払われてしまった。仕方がないので指示された方向を見ると先程とは少し構成が違うけれど恐らく貴族であろう一団がいて、傅いた状態で待っていた。
中央の貴族はヒラヒラの沢山ついた燕尾服のような上等な服をビシッと着こなしている中年男性で。右隣りには事務方なのかな?、やはり戦闘向きではない感じのヒラヒラ控えめの燕尾服を着た男性、左には護衛の全身鎧を着た男性がいて、先ほどと同じ統一された簡易鎧を着た兵士を8人連れていた。
私が視線を送ったことに気が付くと、彼らは更に頭を下げてこちらの反応を伺う姿勢で待機した。
「貴方達は?、そろそろもう暗くなってきているから今日は解散して明日にしたいのだけれど」
「慈悲深い幼神ユピティエル様に遣わされた新たな皇帝陛下…。遅参いたしましたことを深くお詫び申し上げます。わたくしはデュミスト・シノアモスと申します、アクィアクス帝国では子爵の位を戴いておりました。些事は明日にという陛下のご意向はごもっともにございますが、どうかわたくしめの問いに答えていただきたく参上した次第であります」
「回答によっては貴方がたも私を取り囲んで武力に訴えるのですか?」
「まさか…、私共は陛下の臣なれば、どのような回答が返って来たとしてもそれに従うつもりにございます」
それを聞いて私は『思考加速』し、『臣民管理』を起動する。
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『臣民管理』487
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あれ…臣民がまた増えてるね。…えっとデュミストさんデュミストさん…頭文字『デュ』だけ抽出してあいうえお順に…できるかな?
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214 デュアナ【カサナト村】 女性 24歳 【+】
024 デュアミス・アィロフィス 男性 32歳 【+】
151 デュオルド【イスカリテ】 男性 45歳 【+】
084 デュガスト【オオフェス村】 男性 40歳 【+】
190 デュケル【カイロス村】 男性 28歳 【+】
324 デューラ【マトス村】 男性 33歳 【+】
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村の名前が書かれてる人ってこれ苗字替わりなのかな?、カサナト村のデュアナみないな感じ?、まぁそれは良いとして…デュミストさんいないじゃん…。
時間を止めた視界の中で最敬礼しているデュミストさんを見遣る。
陛下の臣ねぇ…、名簿にも名前ないし名称を見ようとしても頭の上に表示されないね。色々駆け引きにも使えそうだけど暗くなってきちゃったし、早々に化けの皮を剥いでしまおうかな。
「うーん、神様たちに貰った力で見るに、貴方達まだ臣とやらになっていないようなんだけど?」
「なっ…、そっ…そのような力をお持ちでしたかっ…、これは陛下に一本取られてしまいましたな…、でっあればこそっ!、なればこそ問いに答えていただきたいのです」
仕方ない…そろそろ本当に人疲れしてきたんだけど、表情は真剣だし(演技かもだけど…)答えてあげようか…。
「わかりました…ですが貴族の流儀なのでしょうけれど、腹芸も遠回しの話術も嫌いなので、その真意も含めて率直に質問してくれると嬉しいですね」
「ハハァッ、畏まりましたっ…、率直に伺わせていただきます。先ほどパウルスク伯爵家嫡男とのやり取りを拝見いたしましたが…、陛下は新たな帝国にて貴族をどのように扱われるおつもりなのでしょうか?、回答次第でわたくしも今後の身の振り方を考えたく存じます」
なるほど、敵わないと見て私の陣営に付きたいけれど、自分の立ち位置はどうなるのか聞いておきたいって感じなのかな?
「その回答する前にこちらからも質問させてもらえますか?」
「はいっ、どのような事でもお答えいたします」
「ではまず初めに、伯爵と子爵ってどちらが位が上なんですか?」
「伯爵の方が上でございます、陛下」
「なるほど、現状貴方はパウルスク家に逆らえないという事ですね」
「はい、仰る通りでございます」
「それでパウルスク家と事を構えそうな私が妙に強かったので、どちらに付くのが正解か私と話してヒントを得ようという事ですか」
「…ッ、そこまでお見通しなのですね…、その通りにございます、貴族と言っても我が子爵家は村ひとつふたつをなんとか任されていたような弱小なれば、親族と領民の生存の為には強き者に付き従う他ありませんので…」
「ふぅむ、色々と苦労しているようですね」
貴族もピンキリってことなんだね、親族と同列に領民を語るところは嫌いじゃないけど…なかなか曲者みたいだし気を付けよう。
「労わっていただき有難うございます…」
「…ではもう一つ。これは素朴な疑問なんですが何故遅参したのですか?、アリスティアちゃんからの報せで各方面に人が走って行くのを参道から見ていましたけれど、この場に早い段階で随分集まっていたのに平民達が中心でした…。かなり遅れてきたテオストでしたっけ?あの人にしても当主ではないのでしょう?」
「これは手痛い問いでございますな…、その…」
「回答は簡潔に」
「ハハァッ!、本日はパウルスク家にて酒会が開かれておりましたので…、当主のダオレスト・パウルスク様は未だ酔いつぶれているからだと存じますっ、嫡男テオスト様が先に陛下の元に行かれたのは下戸な為に狩りに赴かれていたからだと思われます、陛下」
「貴方も酒会に参加していたのですか?」
「はいっ、参加しておりました、わたくしは酒に酔わない性質ですので、遅参ではありましたがなんとかこの場に馳せ参じることが叶いました」
「それでは最後にこの地に逃げ込んだ貴族はパウルスク家、クアティウス家、シノアモス家の他にいますか?」
「ディノケイド子爵家が逃げ込んでおります、当主のサーコウス様は先の酒会にて酔いつぶれておりました」
「なるほど、ありがとうございます。色々と察することができましたので貴方の質問に答えたい所なんですが…、貴族をどのように扱うかはまだ明確な指針はありません。ですから代わりに三つ…、貴方の選択を助ける事になるかもしれないヒントを教えましょう」
「ハッ、拝聴させていただきます」
「まず初めに、コレに関しては察しているようですが、私とアクィアクス帝国は全く関係ありません」
「第二に、私はこの世界の皇帝になるか、元の世界に帰還するかをまだ迷っている所ですが、アリスティアちゃんの為に大掃除だけは必ずしようと先程決めました」
「最後に、信じるかどうかは貴方次第ですが、私はまだこの子達と同レベルの強さの騎士を三桁は作れます。…どうでしょうか?、これらが貴方の行動の指針になるといいのですが」
「ありがとうございます、陛下のお考えを聞くことができたのは当家にとって望外の幸運でした…」
そう言って深く頭を下げる。
「陛下…どうかシノアモス家親族とその部下、そして部下たちの家族と領民を陛下の臣民として加わることをお許しください。アクィアクス帝国はすでに滅びたも同然なれば爵位に拘りはありませぬ」
その言葉を聞いてもう一度『臣民管理』を発動してみる。『デュミスト』で検索かけてみよう…
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臣民+11
『臣民管理』498
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488 デュミスト・シノアモス 男性 37歳
◇所持因子:なし
◇魔力操作 Lv2
スキル
初級炎魔法
初級水魔法
中級水魔法
初級風魔法
中級風魔法
初級土魔法
◇剣劇強化 Lv1
スキル
初級剣気
◇召喚魔法 Lv2
スキル
伝令鳥[トワイトス]
狩猟鳥[カイザルファイヒィ]
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名簿に載ってるね、今度は部下の人と一緒にホントに臣民になったみたい…。能力はアリスティアちゃんとあんまり変わらないみたいだけど…、これ位が貴族の平均なのかな?
「わかりました、貴方の部下達もそれで構いませんか?」
「ハッ…、我らはデュミスト様の決断に付き従います、これより我らはデュミスト様と共に皇帝陛下の御為に働く所存でございます」
代表して文官っぽい人が答えてくれた。
「そうですか、貴方がたの思いはわかりましたが私の方の準備がまだ整っていませんので、…そうですね、三日ほどパウルスク家派閥のスタンスを演じていてください」
「「「ハハァッ!」」」
「陛下、それではまず手始めにこの者達は私共が介抱致しましょう」
「それは助かりますね、正直どうしようか困っていたんですよ」
「早速陛下のお役に立てましたかな?」
「ええ、とても、それではよろしくお願いしますねデュミストさん」
「承知しましたっ!、サイクスト担架を用意してくれ、皆完全に伸びていて頬を叩いたくらいでは起きんぞ、オトルイズは少し人員を呼んできてくれ」
シノアモス家の人々が慌ただしく動き始めるのを横目に、私はいまだに傅いたままのガリウスさんに声をかけた。
「ガリウスさん、もう日が暮れました、じっとこのままは疲れたでしょう?、今日は解散させてください」
「陛下…わたくしの様な者を気遣われることなどありません、陛下が立ち去るまで傅くのは臣民ならば当たり前のことにございます」
「さっきの話を聞いていましたか?、私はアクィアクス帝国とは関係ありませんから、最低限の礼節で十分です」
「そう仰られましても…」
「なら今回で練習してみてください、皆に解散ですよと…。あっ、そうそう貴方がたも表立ってパウルスク家に盾突くようなことはしないでくださいね」
「しょ、承知いたしました…。で…では僭越ながら…、皆、陛下から解散のお許しが出た、帰って素晴らしき皇帝ユノ・ヤエガキ陛下のことを各々の家族に伝えるてくれっ、それからパウルスク家とは以前と同じように接するようにとのことだ、暫くは今まで通りに過ごすようにっ、よいな?」
「「「ハハァッ!」」」
またまた練習したかのような揃った声にビクッとなってしまった。もう完全に陽は落ちて月の明かりとあちこちの松明を頼りに、人々はそれぞれのテントに帰っていくけれど、未だに熱は冷めず「ユノ陛下万歳!」なんて声も上がっている。騎士たちに倒された兵士達はとっくに運び出され、最後にガリウスさんも遠慮がちに去っていった。
その背中を見送った後、私はいつの間にか空の低い位置に浮かんでいたやたら大きい満月一歩手前の月と、それに照らされても消えることのない星空を眺めていた。
まだ西の空は少し明るいのに凄い星だぁ、…真夜中はもっと綺麗なんだろうね。月も綺麗だなぁ…大きく見えるのは低い位置にあって錯覚なんだっけ?、…だからサイズは地球のと変わらないのかな?、…けれど、ああ…やっぱり模様が違うんだね。
鎧を着た兵士に、魔法やら召喚獣なんてモノも見てきたのに、今更ながらここが違う星なんだと理解した気がする。そういえば太陽が沈んだ方向は西で良いんだろうか…。
「ハァ…」
思わず大きなため息が漏れる…精神面の疲労がどっと出てきたみたいだ。
「姉…さん?」
そんな黄昏れた私を気遣ってか凪恋が遠慮がちに声をかけてくれた。外套持ちの魄兵と魄騎士シロが後ろについているのがなんだか可笑しい。
「見てっ凪恋、星が凄いね。校外学習で見た空よりも星の密度が濃いよ」
「ホントだね、これが見られただけでも来た価値あったかな?」
「ふふっ…そうだね、でも知ってる星座が一つもないや…」
「姉さん…」
「心配しないで、少し人疲れしただけ、まだまだ私も経験不足だね」
「無理しないでね、疲れたら私がギュッとしてあげるから」
「ふふふ、それじゃぁ…少しだけ甘えようかな?」
「うんっ、仕方ない姉さんなんだから…」
呆れたようなセリフをとても優し気に紡いで、凪恋が私にギュッと抱き着いた。
「ありがとう、凪恋がいてくれるだけで私は頑張れるよ」
「うん、私も…」
短い言葉に心底癒される。私はギュッと抱き返して妹成分をしばらくの間吸収し、その後何方ともなく体を離した。
「ほらっ、アリスティアちゃんが待ってるよ、真ん中の一番大きいテントを使っていいみたい」
「わかった、とにかく一度休みましょう、色々頭の中整理したいしね」
なんだかんだと色んな人の相手をしているうちに、私が光っていなければ顔の判別もできないくらいに暗くなってしまった。
「アリスティアちゃん、案内お願いね」
「はい…陛下、お疲れさまでした」
先程顔を真っ赤にして固まっていたアリスティアちゃんも回復したようだし、今日の所は休もうと騎士たちを連れ立ってテントに向かった。
祐乃さん少しお疲れです。明日は遅れて早朝になると思います。
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