思い出の品
ロイドとグエスのはじめての出会いは10年程前にまで遡る。
当時20になったばかりのグエスは休日に行ったショッピングモールで銃乱射事件に巻き込まれていた。
当時、違法電子ドラッグが爆発的に広まっており街を歩けば挙動のおかしい者なんてのは頻繁に見かける事ができた。
違法電子ドラッグそのものはただのデータでしかなく、頭脳に埋め込まれたチップにそのデータをインストールするだけという入手法の簡単さから爆発的に広まり対処のしようが無かった。
そしてその違法電子ドラッグは半ば放置され世は荒れに荒れていた。
電子ドラッグのデータはネットワークを通じて拡散し続け、収拾がつかなくなってしまっていた。
効果は現実感の喪失や幻覚幻聴、自身の欲望の増大に加え脳に断続的に送られる幸福感だった。
少しの不満は大きい不満に、大きな不満は大量の事件や故意的な事故にそしてテロの誘発に繋がった。
「クソっ…痛ぇ…」
犯人は重装甲タイプの改造されたパワードスーツを身につけており民間の有志たちによる銃撃では太刀打ちができなかった。
おまけに新開発されたエネルギー駆動の銃をどこから手に入れたか知らないが手にしていた。
エネルギー駆動の銃はバッテリーから対応したエネルギーを送られる限りは撃ち続けられる事が出来る為リロードの隙がなかったし、何せ威力も高かった。
きかないとはいえ鬱陶しかったのか有志たちは真っ先に殺されてしまった。
そして武器を持ってないなく、戦闘に参加しなかった為、生き残った運が良かった買い物客は物陰に隠れて長い間付近を飛び交い続けているエネルギー弾から必死にこれ以上当たらないように身を小さく丸めていた。
そしてグエスはというと彼らに混ざりエネルギー弾を受けてしまっていた肩を押さえながら生き残る為に必死になっていた。
どれぐらいそうしていたかわからかったがふとグエスはこちらにエネルギー弾が飛んで来なくなったことに気がついた。
そしてエネルギー弾の銃声の中に実弾の銃声が紛れている事に気がついた。
恐る恐る顔を少し出し覗き見るとフロアの非常用階段付近の物陰と割れた窓付近に今まで自分達を撃っていた人達とは違う服装の人達が銃を構えていた。
それぞれ揃いの服装をした治安維持部隊の人達だった。
が、1人場違いな人物がその中に混ざっていた。
年は13から15ほどだろうか、黒いショートカットをした瞳が妙に怖い美少女がいた。
不思議な空気を纏っていた、まるで人間では無いかのような…作り物めいた雰囲気を。
そして軍で今新しいオートマトンが開発されている噂を聞いたことのあったグエスは彼女がそうだと予想した、彼女の事はまるで救世主のように見えた。
「いいかAT05G3、敵対勢力のエネルギー銃の動力チューブを狙うんだ、そうすりゃあ一発で敵の武器は子供のオモチャに成り下がる」
「はい、私の正式名称はAT05G3プロトタイプ実地試験型です、お間違えの無いようにお願いします」
「うるせぇ!こまけぇんだよ!」
そして場違いな30近くのおっさんがその少女と言い合いをしていたのが聞こえてきた。
「ロイドぉ!はよオートマトンの試作品だかなんだかわからんがとにかくそれでなんとかしやがれ!」
「うるせぇ!ノリス!こちとら試作品の動作確認しながらなんだ!文句は戦闘知識をインストールし忘れた整備班に言いやがれ!」
「あんだとテメェ!じゃあそいつは盾になる以外に何が出来るんだクソが!」
「だからやれる事はやってもらおうと渋々戦闘しながら俺の知ってる情報をインストールしてもらってるんだ!つか装甲がやわいライトタイプだから盾にもならねぇよ!後10秒まて!」
「まってられっか!2秒で何とかしろ!はよ!」
「あと5秒!」
ここは戦場だというのに口喧嘩まで聞こえてきたゲイトはそろそろ死ぬかもしれないと思った。
「ホルスターの銃を私へ、狙撃します」
インストールが済んだのか少女の凛とした、しかしまだ幼さを残す綺麗な声が銃声の響く室内の中ゲイトの方まで届いた。
「大事なものなんだ!二度とかさねぇからな!」
そして少女は渡された拳銃を一発撃った。
「やったか!?」
「いいえ、外しました、計算は完璧だった為銃が問題です、失礼ですがいささか旧式すぎるのではと思います」
「ふざけんなもういい返せ俺が撃つ!」
ゲイトはとてもとても不安になった、どれぐらい不安になったかと言うと先日暴走した列車に乗っていた時や、エレベーターが三階分急に落下した時くらい不安になった。
ちなみに怪我はしなかった、何気に悪運が強いゲイトだった。
そして銃声が二、三発と、また響いた。
今度は無事命中したらしくエネルギー弾の銃声がしなくなったのがわかった。
30になりかけと思われるロイドと呼ばれていた人物は無事標的を撃ち抜けたらしく得意げにしきりに彼の仲間に自慢しては制圧射撃をせがまれ自身のメイン武装を構えていた。
それからしばらく経った後、サブのエネルギー駆動の拳銃でしばらく対応していた犯人だったが装甲が限界を迎えたのか静かに命を散らしていった。
それからだ、プロトタイプで万全では無かったとは言え機械に出来なかった射撃を難なくこなしてしまったロイドに憧れて治安維持部隊に入隊したのは。
なんだかんだ悪態をつきながらも任務をこなしたロイドに強く惹かれた。
ああなりたいと、そう思ったグエスは今の仕事を辞め、死に物狂いで努力し治安維持部隊に入隊した。
そして入隊から役2年後、ついにロイドのいる部隊に入る事ができた。
当時一般隊員だったロイドは部隊長になっていた。
同じ隊になったロイドとグエスは他の仲間たちと共に色々な経験を新たに積み重ね、思い出も同じくらい積み重ねた。
そして仲間のAT05G3が除隊する事になった時、ロイドも共に辞めると言い出した時はまだ一緒に戦えると思っていたばかりに辛かった。
ロイド曰くある程度平和にもなったし好きな事をして生きてくのもまたいいと言っていた。
そのあとロイドと会う事があったときにふと酒が進み聞いてみたのだ、あの古い拳銃はなんであんなにも大切にしてるのかと。
「亡き大切な友のモノだ…」
そうロイドは呟いた、そして死んだとしても決して手元から離さないとも。
グエスはスライドをオープンし、弾が込められているのを確認する。
そして目の前の少女へとロイドにとって形見の拳銃を突きつけた。
「正直に言え、出ないとお前を撃たなければいけなくなる」
グエスの目は崩壊した世界によく似合うとても冷たい怒りと悲しみを含んだ目をしていた。




