命令書という名の死の宣告
「アレはなんなんだろうね、おっかないったらありゃしないから絶対近寄らないよ?半人間が突撃したらついてかなきゃなんだから絶対やめてね?」
「私をなんだと思ってるんですか、命令なら行かなきゃですけど私だって嫌ですよ」
ジェイクの姿を見てから数日後、ガロスとエイミーはビルの隙間を練って移動する大群を眺めていた。
あの大群は気がついたら近くまで来たかと思えばまた遠くに離れてを繰り返して周囲のゾンビを吸収しその数を増やしながら大移動を繰り返していた。
「明らかに効率よく吸収しながら移動しているのが見てわかりますから、誰かがあの大群コントロールしてるんですよ、寝ずにただひたすらに」
「ところで気のせいかどうかしらないがな、例の傘下のコミュニティに徐々に進んで行ってる気がするんだ」
「気のせいという事にしておきません?私あのクズの為に戦うの嫌です」
「俺もそうしたかったんだがなぁ…ほらコレ」
自分をさらったコミュニティの蛮族具合が心底苦手なエイミーは滅んでしまえばいいのにと心の中で悪態をつく。
嫌な予感がするもののガロスから渡されたタブレット型通信端末を受け取って表示された画面を一通り流し読むとエイミーは盛大に顔を顰めた。
「最悪です、この命令を出した人正気なんでしょうか」
「俺らは捨て駒みたいなもんだからな、でも以前も勝てたんだから無理ってわけでもない……多分」
「多分って…なんか不安になるから嫌な言葉ね、さっさと支度して行こ、あれ用意しておいて…ええとたしかこういう時は殲滅型でいいのよね」
「多分な、それにしても人使いの荒い半人間だこと」
「うっさい」
「それにしても酷い命令だなまったく…」
エイミーは着替える為監視場を退出し同じく自動監視モードを起動したガロスもエイミーに言われた装備を取りに行く為退出する。
部屋の中には画面を表示したままのタブレット型通信端末が放置されていた。
命令書
第三監視班所属する半人間型オートマトン試作八号及びガロス・ジャクソン班長に以下の任務を与える。
第三ブロックから接近中の大群およそ二千を殲滅せよ。
なお本作戦においてガロス・ジャクソンに関しては試作八号の戦闘データを手段は問わず持ち帰る事を最優先とする。
「命は二の次って所が暗に毎回強調されて書かれてるのが嫌になっちゃうよ…」
ピッチリとした身体に張り付きボディラインがコレでもかと強調される噛みつき対策の防刃の衣装を見に纏い四肢の調子を確かめながらエイミーは小さく呟いた。
そもそも前回の作戦まではあと四人ほど仲間がいたものの今となってはガロスとエイミーだけになってしまった。
先日エイミーが手に取った狙撃銃も元は仲間の一人が使っていたもので元々エイミーは狙撃をする事は無かったはずなのだ。
どれもこれも命令はろくでもない使い捨てにする気満々の物しか送られて来た事はなかったのだ。
そろそろ次が最後かなとエイミーはため息を吐き憂鬱な気分になっているとドアをノックする音が聞こえて来て慌てて残りの装甲をつけ始めたのだった。
「も、もういいよ!ごめんね待たせちゃった!」
「いや気にすんな、女の出かける為の用意は長いのは知ってるからな、んでコレ持って来たぞ」
重いんだから早く受け取れと言わんばかりに渡された武器をエイミーは片手ですんなりとキャッチすると具合を試すように数回振るう。
「うんうん、これなら残弾の心配がいらないからね、長く戦えるよ、これ…整備してくれてありがと!」
「俺の生存率が上がるからな、当たり前だ」
そっぽを向いてガロスが返した言葉にエイミーは微笑んだ。
なんだかんだ言ってガロスはいい奴だとエイミーは共に戦って、過ごして、話を交わして知っているのだ。
「それにしたってよくもてるよなそれ、パワードスーツ着てもきちいぞ?」
「まぁ、腕も足も、身体の中身も特別だから」
「そうかい…」
巨大な身の丈程ある大剣のグリップを強く握り自分の身体をチラ見してため息を吐くと背中のジョイントに大剣を下げた。
「んじゃ、行くか」
「おっけー、命令書の通りガロスは死んじゃダメだからね?生きないと命令違反だよ?」
「データ抜いてる余裕なんてないだろうけど出来るだけやってみるさ」
「うんうん、がんばれ!」
ぽんぽんとガロスの肩を叩きながらエイミーはなんとしてでも最後の仲間であるガロスを守り切ると決意を固める。
もし生き残ったとしてもひとりぼっちであの静かな廃墟で周囲の警戒だけはやりたくなかったからと言う理由もあるがそれ以上にもう親しくなった人を失いたくなかった。
それにもしガロスが死ねば人材不足なこの組織は運用不可能になった半人間型オートマトンなんてものはデータを回収次第破棄するのは目に見えていた。
両親やワイズエッジホテルの仲間に第三監視班の仲間達も失ったエイミーには、自分の命の為にも、小さな監視場であるこの場所でのガロスとのたわいもない会話という小さな安息の為にも、なんとしてでも生き残らなければいけなかった。
「どこか遠くへ逃げてしまいたいのに…」
そんな事をすればすぐに殺されるのは目に見えていたもののそれでもエイミーは呟かずにはいられなかったのだった。




