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魔の手


 「はぁっはぁっ!なんなの!?」


 エイミーは長い間走り続けて乱れた髪を乱暴に後ろで一つにまとめて悪態をついた。


 「彼らは最後まで愛しあっていたという事だよ、お子様のエイミーには多分理解できないかな」


 「お子様いうなバカ!」


 エイミーは背中にかけられた声に振り返り同じ距離を走ってきたのにも関わらず息が乱れていないジェイクを睨みつけた。


 エイミーはまだ12になったばかりでグループでは最年少だが故に子供扱いされるのが苦手だった。

 そして思わず反射的に言い返した先にいたジェイクがニヤニヤと興奮が思わず我慢できないとでもいうように顔にあらわにしているのを見て冷ややかな目線を送る。


 「いや、罵ってくれる誰かが居るのならば僕はいつまでも戦える、それはそうとアレは彼らにしかわからない愛を超えた感情だよ、僕にもそれしか分からない」


 ジェイクがアレと言ったのがなんなのかすぐに察したエイミーの脳裏には先程の光景がカムバックしてきた。


 それはクリスとクーパーの最後の光景。


 バリケードを設置し終えたのを横目に確認した2人は既に満身創痍でクーパーに至っては幻覚や幻聴まで聞こえていたのか目は虚ろだった。

 それでもゾンビをバリケードの向こうで首を跳ね飛ばし頭をかち割り続けて…


 最後に2人で息を合わせて。


 クーパーのナタがクリスの首を跳ね飛ばし。


 クリスの斧がクーパーの後頭部を砕いた。


 エイミーは見たのだ、バリケードの隙間から覗く2人の顔がその死ぬ最後まで、そして死んだ後も安らかな笑顔を浮かべていたのを。


 「2人は…幸せだったのでしょうか…」


 「んな事は奴らしか知らないだろうな、話に聞いただけの俺なら尚更」


 ひとまずのセーフエリアとしてエイミー達が怪我の治療を行っていた部屋へと入ってくる人物がいてそちらへとエイミーは目線を移して目を見開いた。


 「ロイド隊長!そっちの階段はどうなったんだ!?」


 エイミー達と共に階段を封鎖して撤退した仲間のまとめ役が手を切り落としたばかりだと言うのに詰め寄り必死の形相を入ってきた男へと向けていた。


 名前を呼ばれていた通り入ってきた男、ロイドは1人犠牲者が出たがなんとか封鎖したと簡潔に答えてため息を1つもらした。


 「あんな怪我でよく動き回るって顔してるね」


 「う、うん、だって彼さっき手切り落としてて…血だってまだ止まってないのに」


 今後の事を話し始めた彼らの邪魔にならないようこそっと耳打ちしてきたジェイクへとエイミーは同じく声を潜めて返す。

 目線の先にはエイミーの言った通りで手首から覗く生々しい切断面は紐で縛られて簡易的な止血はされているものの血が僅かに滴り落ちていた。


 「上に立つ者は誰だって下に立つ者の事を気にかけなくちゃいけないんだ、僕が以前いいところの家で使用人をしていたのは話したっけかな」


 「うん、でもそれとこれがなんの関係が…」


 「僕は使用人だった、それでこれは初めて話すかもしれないけど使用人をまとめる役目にいたんだ、そこで少しばかり多数の人の上に立つ時の心得を学んだからなんとなくわかるよ」


 そこまで言って言葉を止めたジェイクはほら、見てごらんと腕を切り落とした男の横顔を指差した。

 つられてエイミーが視線を動かすと男は時折歯を食いしばり目尻に浮かぶ涙を残った手で周囲に悟られないように拭き取っていた。


 「常に自信を持ち、少しでも良い道を探し、仲間の事を不安にさせないように自身の不安と辛さを隠す、最後のはバレバレだけど場合によれば今みたいに仲間が勇気づけられるというものだよ」


 だから彼は片方の階段を任された、と付け足したジェイクはそのまま彼らの話し合いに混ざるためエイミーの側から離れて行ってしまった。


 


 自分が子供で、どうしようもないくらい非力なのは自分でも理解している、だからせめて少しでもと彼らの役に立ちたいと行動しても緊急時には守られる立場になってしまう。

 命を代償に階段を食い止める2人の為にバリケードの素材を集める為に材料を探しに行った時も使えそうなものがあった場所を共に行動した人に教えるのが精一杯だった。

 身の回りの世話をよく手伝ってくれたクリスに最後誓いの言葉をかけることしか出来なかった。

 エイミーは自分1人の為にもし危険があったらとバリケードの材料を届ける彼らに一足遅れて護衛してくれたジェイクにも申し訳なさが凄まじかった。

 シティを彷徨っていた時拾ってくれたロイドに恩を返そうと奮闘しても自分が役に立たなくて申し訳なかった。


 だからエイミーは真剣に話し合う彼らを見ていて自分は今ここには必要ないんだとふと納得してしまった。


 どうせならとちょっとバリケードの調子はどうかなと見に行くことにしてエイミーは部屋から出るのだった。




 いま大多数の生存者がいるこの階層は普段は使われていない階層だった。

 あまり整理整頓が進んでおらず過去に皆んなに内緒で探索した者の数十分で捕まってしまった。

 ホテル暮らしのエイミーには数十分でもそれがすごく新鮮だったし楽しくてどこに何があるのかは未だに少し覚えていた。


 流石にこの緊急時に探索する事は流石に寸前で踏みとどまったものの視線をあちこちに向けながら歩いていたらつまづきそうになり慌てて踏みとどまった。


 そして足に当たった躓きかけた原因となったものは何かと思い下を向いて…


 「…っ!!!?」


 なんとか驚き出そうになった声を口を慌てて押さえる事で防いだエイミーの足元には人間の死体が転がっていた。


 それはバリケードを見張る為に残った2人のうち1人で頭を撃ち抜かれていた。


 自分でなんとかしようなんて事は微塵もエイミーの脳裏には浮かばなかった。

 何故なら意地を張らずにいついかなる時も仲間を頼らなければ死ぬとロイドに助けられたその日に強く念を押されたからだ。

 その言葉の通りに慌てて頼りになる大人達の元へ戻ろうとして…



 エイミーの口は勢いよく空いた近くのドアから出てきたガタイのいい男に抑えられたのだった。

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